124話 守護団会議
「多分、ここか」
「みたいね」
悪魔を脅してから移動を開始して数分後、俺達は1つの部屋の入り口にたどり着いた。
部屋の中から漂ってくる気配が濃密なので、強い奴らが集まってるってことだろう。
つまり、ここが会議室ってわけだ。
「こっからどうしよう」
肩に乗っかるプラムに聞いてみる。
ここで待つのか・・・いや、待つしかないだろ。
隠れながら、バラけるのをひたすら待つしかない。
「ねぇ?」
「なんだよ」
「会議で何を話しているのか、聞いてみたくない?」
「・・・聞いてみたいな」
意外な言葉が返ってきたな。
俺の発想にそんなのはなかった。
確かに、聞けるものなら聞いてみたい。
「じゃあ、私が聞いてきてあげる」
「お前が?」
「ええ、私ならばれないわ」
お前ならそれが出来るんだろうが・・・
「あまり離れると、俺との繋がりが切れるんだけど」
「何メートルぐらいなら大丈夫?」
「ん・・・2メートル?」
多分、そのくらいだ。
多分な。
「すぐ扉の向こうだもの。それに貴方から一切私は離れないわ」
「なら、いいんじゃないのか?」
俺自身の強化さえ出来ていれば・・・
「それじゃあやるわよ?」
肩から異質な力を放出するプラム。
凄い違和感があるが、結界内だから外には漏れていない・・・よな?
彼女の小さな体から、白くて薄い煙のようなものが出てくる。
それは徐々に形を成していき、最終的にはある形状に仕上がった。
「これ、初めて見るな」
「テレパシーの延長線上にある、知識付与辺りを応用した技よ」
目の前には、プラムの姿を模した半透明の霧が出現していた。
まるで、幻を見ている気分にさせられる。
「どういう能力だよ」
「知識付与を行う時、自分の意識を相手の脳にダイブさせる感覚で行うの。それを何もない空間にダイブさせて固定しただけよ」
「へぇ・・・」
そんなことも出来るんだな。
「貴方の世界で言えば、超高性能なラジコン、とでも言えばいいかしら。」
「じゃあ動かせるんだ?」
「ええ」
プラムの形を模した霧は、トコトコ扉の前へ進んでいく。
すると、閉められた扉の隙間へ、体を砂のように変化させて中に入ってしまった。
「物質じゃないから、こうやって入ることが出来る。あの私の投影は感覚で繋がってるから、見ることも聞くことも出来る」
「潜入にうってつけの能力だな。透明なボディのカメラ付きラジコンってことだろ?」
「でも、ちゃんとデメリットもあるわよ?物質ではないが故に、何も干渉することが出来ない。見るか、聞くだけなのよ」
そっか。
悪魔の世界で、潜入なんて機会は滅多にあるものじゃない。
だから彼女には悪いが、普通は使えない能力として認知されるはずだ。
「・・・聞こえて来たわね」
「あの霧、見えるんじゃないのか?結界で気配は消せても、視覚までは・・・」
「大丈夫。本来あんな霧なんて出ない技だから」
「えっ?」
「貴方に分かりやすくするために、わざわざ形を見せてあげただけよ?」
・・・ご配慮どうもありがとうございます。
「で、貴方には通常の知識付与で、私の投影の感覚を共有してあげる」
「・・・なるほどね」
俺が納得したと同時に、俺の視界が半分別の視点に切り替わった。
片目が俺ので、もう片方がプラムの投影の視界だ。
なんていうか、不思議な感覚だ。
「お、中がくっきり見えるぞ」
「当然よ」
そこには、総勢5名の悪魔達が円卓を囲って何かを話し合っていた。
俺はその様子を静かに清聴する。
「副団長の失踪が、3年前からこれで3名・・・いったいどうなってるんだ?」
「レンド山脈へ行ったエムズル副団長は行方不明。2年前のドマーク洞窟で発見されたカコムス副団長と、その他団員の行方も不明。で、昨日はクルト古道にてランクス副団長が消えたと・・・」
「ありえない・・・何で・・・」
何やら深刻そうな話をしてるな。
「それだけじゃないぞ?各地で強力な魔王様達の部下が消えているらしい。それも前触れなく。今年に入って、その勢いは倍増だ」
「最初の失踪は、人間が出現したのと結構時期が被るよな」
「じゃあ、人間が殺して回ってるのか?」
ん、今のは聞き捨てならないな。
悪魔を殺したのは、俺が目覚めてから今日が初めてだ。
断じて俺じゃない。
・・・まあ、今日殺してる時点で、そんなに罪は変わんないと思うけど。
「いや、人間はもう死んだって俺は聞いたぞ」
「人間以外の可能性として1番大きいのは・・・72柱か」
「3年前から、そわそわ動き出す奴も多くなってきてるしな」
「でも、常時こちらが管轄している72柱の報告では、何も変化を起こしていないと・・・」
「化け物達なんだぞ?抜け穴ぐらい用意してないか?」
「・・・そもそも、72柱の監視を指揮していたマリア様をサタン様が殺せと命じたから、こんなパニックが起きたんじゃないのか」
「・・・」
一同が黙りこくる。
そんなことは分かってる、って雰囲気だ。
確かにマリアさん、生前は色んなことに手を出していたらしい。
この世界に影響を及ぼした悪魔の中では、断トツの1位だろう。
マリアさんは、俺の恩人でもある。
俺の中でも、大切な存在だ・・・
・・・駄目だな。
思い出したら、ダメになってしまいそうで。
「しっかりなさい」
「ん」
プラムが横から直接声をかけてくれる。
・・・いつも支えてもらってるな、彼女には。
「・・・マリア様以外で、他の72柱の暴走を止められるのは、ラースの2人だけだろうな」
「決起のために、72柱は封印中の第1位と2位の居場所を特定するとかって噂が流れてるぞ」
「・・・あの化け物達が?」
「そう。安寧の時間はもう少しで終わりそうだなって、ここの守護を任せてるあのクソバカ化け物が思ってたんだよ」
「本当に最近は嫌な情報ばかりが耳に届くな」
「・・・」
で、一同また黙りこくる。
これは・・・あれだな。
不毛な会議って奴だな。
生産性の欠片もないような会議だ。
「とにかく、副団長の捜索は続行ということでいいな」
「もちろんだ。生死確認だけでもしなくちゃならない。このまま、って訳にもいかないだろ」
「まさか、咎落ちはないと思うがな・・・」
「俺らはあの3人をよく知ってる。魔王様を裏切ることは絶対にしない。お互い何年間心を1つにしてきたんだと思ってるんだ?」
「・・・だよな」
そうか・・・
今、この領土もそれなりに混乱が続いてる訳か。
「・・・奇妙な情報が聞けたわね」
「奇妙・・・だな」
「普通、悪魔が失踪なんてことはありえない。ましてや行方不明なんて、もってのほかよ」
「魔物にやられたとかは?」
「副団長が、そこら辺の魔物に殺されると思う?」
そんなんじゃあ、副団長は務められないよな・・・
「ドマーク洞窟と、クルト古道は邪悪種みたいな怪物のいる地域ではないし、むしろ安全な場所ね」
「殺害されるとしたら、誰かの意思に他ならないってか?」
「会議で話していたのは、この失踪原因の可能性が72柱か貴方にあるんじゃないか、ってことね」
「うわぁ・・・言われもない誤解だよ」
「3年前は結構ドンパチしてたじゃない?」
「正当防衛だ」
俺は今でも当時のことをそう思っている。
あれは俺は悪くない。
いや、責任転嫁とかじゃなくてさ。
「失踪した3か所とも、安全地帯ではあるがそれぞれ副団長と手練れ数名を派遣する。他領土からも、何人か召喚して現地へ向かわせよう」
「・・・それで、また失踪したら?」
「・・・では、もう生死の確認は諦めると?」
「これ以上の犠牲が出る可能性は無視かよ」
「じゃあどうしろと言うんだ?」
「転移の陣が設置された安全地帯以外、今後は悪魔を派遣しない方がいいと思うが?」
「・・・無理だ。お前だって分かるだろう?そんなことが許可されれば、周辺の魔物の討伐すらもままならなくなる。暴走した魔物を討伐出来る奴も、今は少なくなってきた。72柱の連中も、ここを動いたりはしないだろう。現状、私達が動くしかないんだ」
「・・・」
3度目の沈黙。
また辛気臭い空気だな。
暗い雰囲気が心を読めない俺ですら分かる。
「ここを守護してる72柱って誰だっけ?」
「変幻のオセ・アム。変身能力を得意とする、女悪魔ね」
プラムは間を置かずに即答してくれた。
「・・・聞いたことがある名前だな」
どこで聞いたんだっけ・・・
「餌を条件に街を守護してる72柱は、基本街のどこにでもいていい条件だったはず。ましてや心を読まれずに移動するなんて、朝飯前でしょうね」
「やっぱ化け物クラスだもんな・・・」
この1年間で、俺が関わってきた72柱達が、どれだけこの世界の常識から外れているのかがよく分かった。
だから、彼らはその世界のルールとして新たに組み込まれるか、除外されるかしか運命がなかった。
そういう点で、極端な存在と言える。
その除外されていた悪魔を街に再度向かい入れるこの状況が、どんなに異常なのかも理解しているつもりだ。
「そういえば、団長は最近姿を全く見せないな」
「あれだろ、大魔石がある守護の間に魔王様といるんだろ」
「あそこは結界で断絶されているから、何をしているかの検討もつかない」
「いい加減、戻られないと俺らだけじゃあ対処が厳しいな」
「ガーム、お前、また守護部屋の様子を見て来いよ。俺らはここで団員の定時報告だけしておくからさ」
「分かった」
そう言って、副団長と思わしき悪魔が1人退室していく。
ドアを開け放って、そのまま奥へ。
物陰から中の様子を見ていた俺達のことは気付いていないみたいだった。
「・・・ついていくか?」
「そうした方がいいでしょうね。大魔石のある場所へ行くみたいだし」
じゃあ、決定だ。
プラムは素早く能力を解除して、投影からの映像をブッツリと切る。
俺の片目が通常の視界に戻った。
「尾行開始」
言って、俺は副団長を追跡する。
足音は立ててもいいが、見られないように注意しなければいけない。
幸い、ここら辺一帯は曲がり角が多い。
目標をロストせずに追跡するには最適の場所だった。
「ここら辺に曲がり角が多いのって、あれだろ?侵入者を迷わせるためだろ?」
「この塔が建てられたのは遥か昔、大魔石が発見された当時だと聞くわ。その時にどういう意図があって、こんな構造にしたのかは定かじゃないけど、大体あってるんじゃないかしら?」
「確かなことは言えない?」
「私にもね?」
そこら辺の事情を知ってそうなのは、魔王ぐらいか。
まあ、些細な疑問だ。
流しても問題ないだろう。
それに、俺にとっては好都合なのだし。
ある程度追跡すると、副団長が階段を上がって行くのが見えた。
そこには1人、辺りを警戒する悪魔が1人。
・・・邪魔だな。
「排除するか」
「目立たないようにね」
「オーケー」
物陰から、相手に見えないギリギリの地点まで近付く。
眼前の敵の視線を注視して、少しでも俺らの姿から離れた場所を見たのを確認。
猫の瞬発力で、一気に接近した。
相手が目を見開いて、俺を見るが行動は出来ていない。
いつも通りの手順で、喉を切り裂き声が出ないようにする。
「プラム」
彼女は、俺の合図を確認すると、床に薄い結界を敷く。
最下級の結界だ。
絨毯のように敷かれた結界の上に、噴き出た血がボタボタと落下する。
これで、血が残ることはないだろう。
「ぁっぁ・・・」
まだ意識が残っている悪魔の首を掴んで、ねじ切る。
首の骨がゴキンと音を立てて折れる。
これで、楽になったろう。
少しの間、苦しませてしまったみたいだ。
近くに大きい収納棚があったので、死体をそこに押し込める。
結界に付着した血も、その棚の中に処理した。
「・・・行くか」
障害を排除した俺は、引き続き追跡を続行。
階段を上がる。
副団長の悪魔は4回分階段を上がったかと思うと、次は廊下に出る。
その廊下は長い長い1本道だった。
たまに十字に廊下が分かれている個所があるくらいで、殆ど隠れる場所がない。
副団長はひたすら廊下を突き進む。
相手は待ったなしだ。
仕方ない、俺も行くしかないだろう。
相手の挙動を確認することに神経を使いながら、後ろからついていく。
相手との距離は5メートル。
近すぎず、遠すぎず。
そんな距離感をキープする。
「げっ!?」
突然、前方にある十字の曲がり角から、上級役職と思われる悪魔が姿を見せた。
タイミングが悪すぎる。
「んなろ!!」
俺は真上にジャンプする。
天井までは3メートルぐらいだから、今の俺なら1回の跳躍で十分届く。
体を空中で反転させて、体の正面を天井と平行にさせる。
その状態でバックパックからナイフを取り出し、両手に持つ。
それを天井に突き刺した。
上腕の力を使って、無理矢理両足も天井につける。
これで・・・見つからないか?
「プラム、見つかってないか?」
「・・・大丈夫みたいね」
顔が天井に向いているから、下の方が見れない。
確認は彼女がするしかなかった。
「ずさんな追跡ね。私の結界がなかったら、音ですぐにばれてるわ」
「しょうがないだろ、こんな暗殺者みたいなことをするのは初めてだし。それに、お前には感謝してるんさぞ?」
「その感謝があるから、私はサポートをしているのだわ」
全くもって、良好な関係だった。
「で、まだか?」
腕の筋肉をフルに使っているせいで、少しプルプルしてきた。
無理な体勢をしているからだ。
「ちょっと相手と話しているみたいね」
まじか。
これ、長時間は無理だぞ。
「どのくらい・・・続きそうだ?」
「多分、後少し」
むぅ・・・
頼むから、早くしてくれないかなぁ・・・
「・・・話し終わったみたいね」
「短いようで、長かったぁ・・・」
とことこ足音がこっちに近付いているのが分かる。
多分、副団長と話していた悪魔だ。
服装からして、偉そうな悪魔。
「いっ!?」
ナイフを突き刺した天井から、ポロッと破片がこぼれる。
丁度、あの悪魔の目の前に。
その破片は結界内から出て行って、真下に落ちる。
「ん?」
悪魔は訝し気な声を上げる。
そして、天井を見ようとした・・・その時。
俺は勢いよく落下する。
ナイフを両手に持って、考える前に相手へ接近。
だが、相手は素早く俺の行動に反応する。
片手のナイフを額に突き刺そうとするが、悪魔が一瞬で腕に小さく結界を展開する。
結界にナイフが刺さり、攻撃が止められた。
もう片手のナイフで喉を斬ろうとするが、それは頭を低くしてかわされた。
とっさに出した、相手の結界で強化したストレートパンチを横にかわす。
その隙に、相手は後方にバックステップ。
距離を取ろうとする。
「やばいっ!!」
今、後ろに出られると結界から抜けてしまう!
「ニャア」
いつの間にか、悪魔の頭の上にプラムが乗っかっていた。
彼女は、金色の瞳を至近距離で相手の瞳に合わせる。
そうしただけで、相手の動きは一切止まってしまった。
・・・ギリギリ結界内で。
悪魔はその場で大きな音を出しながら倒れるが、結界内に入っているので音は漏れない。
副団長は、ノコノコと前へ歩いていた。
後ろの戦闘にも気付かず。
「あっぶなかった・・・」
プラムが手を貸してくれなかったら、今頃俺の存在がばれてたな。
真面目にあぶなかった。
「今のは・・・仕方ないわね」
「ごめん」
一応誤っておく。
「お互い出来ることをするのよ。私は私に出来ることで貴方をサポートした。それだけよ」
「・・・助かるよ」
本当に。
「もうだいぶ先に行ってるわよ?」
「ああ・・・」
見ると、副団長はかなり前を歩いていた。
ここで立ち止まる訳にはいかない。
「この・・・プラムが廃人にしちゃった奴、どうする?」
プラムに見つめられた悪魔は、泡を吹いていた。
多分、2度と普通の生活には戻れないんだろうな。
「隠す場所もないし・・・ほっときましょう」
「いいのか?」
「これも、仕方ないことよ。さっきも言ったけど、私達の存在はいずればれるわ。遅かれ早かれね」
「隠せないなら、それも致し方なしってか」
「そういうことね」
らしい。
素直に従うべきだろう。
俺達は、また副団長の後を追い始めた。




