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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第7.5章 地獄篇 グリード領グリード街廃墟
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119話 大災害18~金眼白毛の猫が語りし災害の結末~

 「貴方がウルファンスの助力を得て戦いを起こしてから、今日は約2年後よ」


 俺はその時気付いた。

 猫は多分、心の機微には敏感だが、同時に冷静すぎる動物であることを。


 「・・・2年後」

 「そうよ」

 「あれから2年・・・経ったのか」


 だとしたら、疑問は解決する。


 「ここが砂だらけなのは・・・」

 「大魔石が街を支えるパイプラインなのは知ってるわね?貴方がいない間は、大魔石もなかった。同時にどこかへ消えたのよ」


 天使との再開。

 飛行機内の会話。

 つまり・・・つまり。


 「街は壊滅。魔王を含め、当時いた悪魔全員が死亡。大魔石がないから、結界も張れず、街の再建も難しい。結局それが今の殺風景な景色に繋がるのよ」


 尻尾をユラユラ振りながら、俺が入ってきた穴の向こうを金眼で見据える。

 そこには無尽蔵の砂漠が見えた。

 広い砂漠が。


 「そんな・・・」


 動揺。

 が、同時に核心を突いていた。


 だって、俺が見た景色とだいぶ違うこの砂漠。

 風化した土の僕(ゴーレム)の残骸。

 この変化は、時間だけが成せる結果。

 少なくとも風化したという事実はそれを示している。

 それがプラムの発言と見事に合致してしまっていた。


 「クスクス、厳しい?悲しい?」

 「いや・・・」


 俺は・・・


 「あの時いた・・・ダゴラスさんとマリアさん、ウルファンスはどうなった?」


 ダゴラスさん達の行方を知りたい。

 この世界の大物・・・72柱の行方が分からなくなったなら、行方を追おうと悪魔達がするだろう。


 「死んだわ」


 無慈悲の言葉が俺の耳にやってきた。

 死んだ・・・死亡。

 最悪の結果。

 俺以外・・・全員?


 「俺は・・・」


 また、俺以外死んだ。

 今度は味方も。


 そうだった。

 俺は害獣。

 世界のバランスを乱す者。


 これだ。

 戦いは勝者と敗者。

 どちらかが残る。

 けど、これじゃあ・・・


 「災害そのまんまじゃないかよ」


 全てを壊す、自然の権化。

 その後には何も残らない。

 俺以外・・・


 「まるで俺が災害じゃないか」

 「そう思ってる連中が殆どみたいね」

 「・・・だろうなぁ」


 俺だってそう思ったのだから。

 本人公認じゃ仕方ない。


 ああ、もう。

 俺は馬鹿だ。

 大馬鹿だ。


 エゴ。

 俺の命を優先するばかり。

 他は犠牲。

 命を犠牲。

 犠牲犠牲犠牲。


 理想。

 俺が現世へ帰ること。

 俺の理想。

 みんな生きていること。


 都合がよすぎた?

 俺が死ぬべきだった?


 俺の決意はどこへ?

 死ぬことに対する決意。

 生き残ることに対する決意。


 どれも済ませてきた筈だったが・・・

 でも、不思議と涙は出ず、逆に冷静だった。

 冷静すぎる程に冷静。

 猫に負けるとも劣らない。


 風に当たりたくて、出口へと向かう。

 不毛の地へ。

 歩きながら俺は尋ねる。


 「生き残った奴は?」

 「有名どころだけなら知ってるわよ?」

 「それでもいい。教えてくれ」

 「72柱の第10位、ヴァネール、ラース騎士団隊長2名。以上よ」

 「それだけか・・・」


 勝者はいた訳だ。

 数名程度だが。


 「貴方の起こした騒ぎは、地獄に大いなる変化をもたらした。世界はこの2年ちょっとで大きく変わったわ」


 変化・・・


 「マリアの枷がなくなったことで、各地の悪魔は騒ぎを起こしてる」

 「マリアさんの枷?」

 「彼女はこの世界に住む悪魔の心を微量にだけど、抑えていたのよ。その極めし能力を使ってね」

 「・・・」

 「本当なら、この世界の王にもなれた筈なのよ?精神妨害能力を無条件に無視して、周囲の悪魔や魔王、72柱すらも傀儡にする程の能力を使って」


 でも、死んだ。

 死んだらもう終わりだ。

 死者には何も出来ない。


 そう。

 彼女の夫も子供も、もういない。

 いないのだ。


 「能は使うもの。彼女は最後までそれを全うした。悪魔としては、高潔に生きたと思うわ」

 「要は俺のせいで死んだんだろ」

 「捉え方次第ではそうね」

 「ははっ、そうかよ」


 笑えた。

 笑えないが。


 「クスクス」

 「はははっ」


 お互い笑う。

 我ながら狂ってんな。


 「俺は・・・どうすればいいんだろうな?頼ってた恩人が殺されて、周りは敵だらけ。肝心の大魔石はクズに変わって・・・」

 「あら、大魔石はあるわよ」

 「俺は見たんだよ、空になった大魔石を」

 「あるわよ、しっかり」

 「・・・どこに」

 「私の目の前に」


 何を言ってる?


 「私には見えるわ。貴方に膨大なエネルギーが混じっているのを」


 俺に?

 この猫には俺がどんな風に見えている?


 「重要なのは、大魔石じゃなくてその中身でしょう?」

 「・・・だな」


 あくまで俺が欲しいのは、世界を渡るためのエネルギーだ。

 現世へ行くこと。

 それが出来ればいい。


 「それに、貴方にとっての希望はまだ残ってるし」


 猫が目を向こうに向ける。

 遥か彼方の地平線へ。


 「何が希望だ?」

 「私と貴方自身よ」

 「ああ、じゃあ味方になってくれるんだな」

 「猫の気紛れだけどね」


 やっぱあるんじゃないか。

 猫の気紛れ。


 「なあ」

 「なに?」

 「悪魔って死んだらどこへ行くのかな?」

 「・・・」


 プラムが少し黙る。

 そして言った。


 「死んだ、と言うことは、もう何者でもなくなるってことよ。死んだ先で、死者は何も残さない。過去が死んだ者の存在を固定するの」

 「死ぬ前にやった功績?」

 「そう。じゃあ、死んだ後はどうなるか分かる?」

 「分からないから聞いてるんじゃないか」

 「そうよね」


 瞳の中の瞳孔に、俺の顔がよく写る。

 俺の顔は酷く歪んでいた。

 怒り、悲しみしかないような顔。

 心はこんなに平静なのに・・・


 「死んだらね、その後は誰も知らない状態になるのよ」

 「・・・そうなんだ」

 「死んだこともない者達が、どうして死後を宗教として纏め、語れるのか?真実は何なのか?是非、私も知ってみたいわね」


 誰も知らない状態か。


 でも、結局俺の前からはいなくなった。

 これからずっと、いないのだ。

 寂しいな。

 俺に優しくしてくれたのに。


 砂漠に一滴の涙が落ちる。

 声は出ない。

 ただ、目から涙が勝手に出ていた。


 別に泣く程悲しい訳じゃない。

 でも、泣いていた。


 俺のために死んだのか。

 それとも別の目的のために死んだのか。

 今となってはもう知ることは不可能だ。


 死者はただ黙ったまま喋らない。

 この世に残してきた何かで意思を伝える。


 思い通りにいったことも、いかなかったことも。

 自身の人生で残した痕跡が教えてくれる。


 これからそんな痕跡に触れるかもしれない。

 俺が行動する限り。

 俺が諦めない限り。


 「・・・俺、少し疲れたよ」


 涙が止まった後も、しばらく黙って立ち続けていた。



 ---



 先には砂漠が広がっている。

 地平線の先まで。


 歩いていけるのか?

 飢え死にしないのか?

 そんな考えも頭を掠めたが、考えたところでどうしようもない。

 とにかく、動かなくちゃいけないのだから。


 「まず・・・西に行きましょう」

 「行きましょう?プラムも一緒に行くのか?」

 「ダメ?」

 「いや、全然」


 むしろお願いしたいところだ。

 何故か、この猫のことが頼もしいと思える。


 俺にとっての希望。

 どうせ、悪魔にとっての絶望とやらなんだろ?


 「いいよ、行こうじゃないか」


 どこまでも。

 天使に会って、1つ俺が得た物がある。

 得たというよりは、戻ったと言うべきか。


 本質を取り戻す。

 それが記憶を取り戻すということ。

 俺の本質は、通常の人間より、だいぶ離れている。

 そんな気がした。


 「西には何がある?」

 「私の仲間がいるわ。そこで色々準備を整えましょう」


 仲間か・・・

 俺に協力する奴なんているのか?


 「悪魔以外の種族。貴方がこれから頼るべき創造種。私と同じ、創造する者達」

 「ソイツらも、俺の味方になってくれるのか?」

 「そうね、そうだといいわね」


 またクスクスと笑う。


 「何でそこをボカすんだよ」

 「何が起こるかなんて、確実に分かると思う?」

 「そりゃ思わないけどさ」


 安心させるということを、この猫はしてくれないらしい。

 まあ、これはこれでいいか。


 目の前には果てしない砂漠。

 向こう側には山が広がっている。

 まずはここを越えなくてはいけない。


 「じゃあ、これからよろしく。プラム」

 「ええ、よろしく。人間さん」


 そして俺達は歩き出した。


 絶望か、希望かも分からない道を手繰りよせるために。

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