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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第7.5章 地獄篇 グリード領グリード街廃墟
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118話 大災害17~金眼白毛の猫が語りし真実の断片的揶揄~

 目を開けたら、いつの間にかどこかに飛ばされていた。


 「うっ・・・・」


 頭に鈍痛が走る。

 前回、転移を行った時は酷かったが、痛みはかなり薄れていた。


 横になって倒れていることに遅れて自覚する。

 体を起こそうとするが、やけに全身が重い。

 無理ではないが、しんどい感じ。


 床に手をつけて、立ち上がる。

 やけにザラザラしていた。

 手を見ると、砂が付着している。

 ・・・床もだ。

 周りを見ると、室内全体が砂まみれだった。


 「なんだこれ・・・」


 スティーラは元の場所に戻るって言ってたから、多分ここは土の僕(ゴーレム)内部だ。

 だけど・・・これは・・・


 「全部ボロボロじゃん・・・」


 風化・・・とまではいかないが、目に入る全ての光景が荒れていた。

 壁は所々欠けていて、塗装がメッキリ剥がれ落ちている。

 天井も崩れていて、空が見えた。


 暗い空に浮かぶ赤い月。

 ・・・夜だ。

 そして戻ってきた。

 地獄に。


 周囲は静かだ。

 音もない。

 天井が外に抜けているのだから、少しぐらい戦闘音が聞こえてもいいくらいなのに。


 大魔石に視点を移す。

 その輝きは、もう失われていた。

 エネルギーを全て使い切った魔石のように。


 あれだけ輝いていたのに、今は薄黒い。

 触ってみると、あの大きすぎるエネルギーは感じられなかった。


 これが目的だったのは、この中に莫大なエネルギーがあったからだ。

 だが、今はそれがない。


 俺があっちの世界に行ったからか?

 どうする?

 このまま持ってくかどうか・・・

 だが、どっちにしろ転移用の魔石も俺は戦闘で使ってしまった。

 もう運ぶのは無理だ。


 「ん?」


 そういえば、俺は片手を失ったはずだ。

 召喚王との戦いで。

 だが、大魔石に触れているのは右手。

 失ったはずの右手。


 スティーラが直してくれたのか?

 と言うかあっちの世界でも、手を使うのに不自由してなかったな。


 俺の手を使い物にならなくしてくれた召喚王。

 ソイツはここにはいなかった。

 あの魔物もいない。

 あるのは輝きを失った大魔石だけ。


 「あっ」


 思い出す。

 ダゴラスさん達のことを。


 まだ戦っているはずだ。

 どこにいる?


 ・・・とにかく行かなくては。


 「俺の魔剣はどこだ?」


 確か、魔剣は右手ごと結界の向こうにあったな。

 今のその位置には、何もない。

 砂ばかりがあるだけだ。


 奪われたか、壊れたか・・・

 一応探してみることにした。

 が、やっぱり見当たらない。

 武器がないのは心許ないが、仕方ない。


 来た道を引き返そう。

 そう思って、この部屋まで俺が上がってきた階段へ走る。


 「おいおい・・・」


 階段は錆びだらけで、そこかしこに穴があいていた。

 しかも、長く高かったその階段は途中から、砂に埋もれている。


 「砂が上がってきたのか?」


 俺が見た時は砂なんて、一切見なかったのに・・・

 それに、敵の気配がまるで感じられない。

 皆無だ。

 下で見張っていた犬の魔物は?

 下の方にも召喚王はいない。

 一体どこへ行ったんだよ?


 一応警戒しながら迅速に降りていく。

 長さが半分になっているせいで、割と早く下まで降りれた。

 だが、正規ルートはまだ下の方にある。

 砂の中だ。


 見ると、人が通れるサイズの穴がすぐそこにあった。

 向こう側は外だ。

 風が入ってきていた。

 やけに乾いた風が。


 走って外に出てみる。

 そこには・・・


 「・・・嘘だろ」


 何もなかった。

 砂、砂、砂。

 砂漠みたいな光景が、ずっと向こうまで広がっていた。


 建物も、悪魔の姿も、何もない。

 ・・・ダゴラスさん達も。


 「どうなってんだよ!?」


 土の僕(ゴーレム)がだいぶ遠くまで移動した?

 それにしては、風景が違いすぎないか?

 いや、今は夜だ。

 俺達が戦っていたのは昼。

 つまり、それだけ時間が経ったってことだ。


 だけどおかしい。

 スティーラはあの世界では時間が止まってるって言ってたじゃないか。

 なんで、こんな・・・


 スティーラが嘘をついたのか?

 魔王の言った通りに。

 でも、嘘をついているとはどうしても思えない。

 そんな気がするのだ。


 なら、この光景は何なんだよ。

 訳が分からん。

 誰か、教えてくれよ。

 何が起きたのかを。


 ただ、呆然とする。

 どうすればいいのか、分からなくて。

 1分程惚けていただろうか?

 なんとなく、前へ歩き出した。


 考えろ。

 まず、何を確認するべきなのかを。

 ・・・俺は今、何処にいる?


 この場所を確認する手立ては?

 俺が覚えている印象的な場所は何処だ?


 ・・・ウルファンス山脈。

 青龍(ブルードラゴン)から見た、あの高い山。

 忘れようにも忘れられないあの山。


 思い出して、遠くに目線を移す。

 あの山は何処だ?


 探す。

 必死に。

 特徴的な山だった。

 なら、見たら分かるはずだ。


 「・・・あった」


 俺の記憶と唯一、合致する場所。

 ウルファンス山脈を見つけた。


 ただし、白い雪で覆われてはいない。

 緑に囲まれている、美しい山になっていた。

 だが分かる。

 あれはウルファンスの居城がある山だ。

 そう思う確信があった。


 「じゃあ、俺は移動してないのか?」


 でも、この砂漠は何だよ。

 俺が見た時は、雪崩で雪に埋まってたじゃないか。

 雪が解けたのか?

 でも、建物がない。

 瓦礫すらもない。

 これはおかしいことだ。

 ますます訳が分からなくなった。


 「ダゴラスさん!!!マリアさん!!!」


 大声で味方の名前を呼ぶ。

 だが、何も返事は返ってこない。

 虚しく俺の声が、砂漠の向こうへ消えるばかり。


 「ララ!!!シフィー!!!」


 だけど、叫ぶ。

 不安に駆られて。


 「スフィー!!!ソフィー!!!スー!!!」


 ・・・返ってこない。

 返ってこない!!


 何でだ。

 まさか・・・殺されたのか?

 俺がいない間に?

 そんな馬鹿な。

 だって・・・

 だって!!!


 時間は止まってたんだろう?

 どうしてだよ。

 どうして味方も敵も1人もいないんだよ・・・


 悲観。

 終わったのか、戦いが?

 俺がいない間に。

 戦いの決着は?

 どっちが勝ったんだ?

 ・・・どっちが生き残ったんだ?


 「誰かいないのか!?」


 思い立って、後ろを見てみる。

 呆然とした。

 そこには、胸部から下が一切なくなり、頭部と首だけが残ったゴーレムがあった。


 そうか・・・

 階段が短かった理由が今分かった。

 砂が上がってきたんじゃない。

 体そのものがなくなってたんだ。


 頭の部分も風化したのか、見る影もない。

 瓦礫の残骸のようだった。


 「何をどうしたらこうなるんだよ・・・」


 呆然。

 何が起きたらこうなる?

 予想がつかない。

 判断材料が少なすぎる。


 「「ミャア」」


 突然声が聞こえた。

 猫みたいな声が。


 「?」


 こんな所に猫?

 いや、こんな世界にも猫がいるのか?


 「「ミャア」」


 外から聞こえるというよりは、中から?

 でも、なんとなく方向は分かる。

 声の持ち主の場所が。


 それに、妙に惹かれるものがある。

 何だろう?

 必要に迫られるこの感覚。


 「「ミャア」」

 「どこだ?」


 土の僕(ゴーレム)の残骸がある場所へ引き返していく。

 声に誘引されて。

 火に寄る蛾のように。


 残骸の中に再び入っていく。

 前に置いてあったヘリコプターなんかは下の砂に埋まっているんだろう。

 何もない空間。

 綺麗さっぱりなくなって、殺風景だ。


 「「ミャア」」


 今度は頭の中で強く響いた。

 いいのか、こっちで?

 得体が知れないぞ?

 本当に行っていいのか?


 もし、魔物だったら?

 ・・・確実に殺される。

 だが、他にどうすればいいか分からない。

 俺が声に惹かれるのは、手掛かりを探す為じゃない。

 不安感が今にも爆発しそうだったから。


 余裕がない時、人は愚かな行為をする。

 俺はそれをよく知っている。

 だが、今の自分を止めることはしない。

 ・・・出来ない。


 「・・・」


 すぐ向こうにドアがあった。

 ボロボロのドアが。


 多分、いる。

 声の持ち主が。


 恐る恐るドアに近付いて、取っ手を握る。

 開けた瞬間に攻撃されて、避けられる反射神経は俺にはない。

 死ぬことを考慮に入れる。

 それでも、不安による恐怖の方が凌駕する。

 人はこんなにも孤独に弱い。

 ドアを開ける。


 「・・・ノラ猫?」


 猫がいた。

 真っ白い猫。

 金色の瞳。

 その目が俺を射抜くように見つめる。


 「失礼しちゃうわね、人間さん」

 「うお!?」


 驚く。

 猫が喋った!!


 「その反応、本当に失礼だから止めて欲しいわ」


 と、言われた。

 話してる・・・

 話してるが、攻撃はしてこない。


 「す、すいません・・・」


 無意識に敬語が出てきてしまった。


 「敬語はあまりいただけないわね」

 「・・・すまん?」

 「中途半端に謝るのね」

 「じゃあどうしろと?」

 「素直に謝れば?」

 「・・・ごめん」


 あっという間に素が出て来てしまった。


 「そう、それでいいのよ」

 「・・・」


 これ、俺が悪いのか?

 よく分からん。


 「普通、猫が話したら驚くだろ」

 「今まで普通の出来事なんて、貴方にあったの?」


 ・・・ないな。


 「否定出来ないのが悔しい」

 「悔しがるのは向上心があるということ。喜ばしいことよ?」


 この猫、賢そうなことを言うな。


 「で、まず初対面で出会ったら自己紹介が普通なんじゃない?」

 「・・・そうだな」


 おっしゃる通りで。

 相手は猫だが・・・


 「俺は・・・見ての通り人間だ。名前は忘れたから、2人称で好きに呼んでくれ」

 「貴方、新しく名前を付けないの?」

 「・・・忘れてるだけだから、名前はある。思い出した時に、新しくつけた名前があると面倒だろ?」

 「・・・面白い考え方するわね」


 そうか?

 面白さは微塵も感じないが・・・


 「私は知的で高貴な種族、月叉。名前をプラム・ガリアと言うわ。そうね・・・プラムと呼んでちょうだい」

 「プラムね、分かったよ」


 猫に名前があるとは思わなかった。

 今までの生物は分類上の名前だったからな。

 ソイツらは言葉も話せないような生き物だったが、目の前の猫・・・プラムはしっかりと話せる。

 言語によるコミュニケーションが成立しているのだ。

 なら、名前だって当然あるか。


 でもなあ。

 まさか猫と真面目に会話する時が来るとは・・・

 それでも、何もいないよりはいい。

 誰かいた方が絶対にマシだ。

 例えそれが異形でも。


 「なあ」

 「何?」

 「ここってグリード街だよな?」


 そう聞くと、猫のプラムは目の色を変えた。

 猫に表情筋はない。

 だから感情が読みにくい。

 動物特有の雰囲気で判断するしかないのだが、明らかにプラムの様子が変わる。


 「聞きたい?」

 「そりゃあ聞きたい」


 聞けなきゃ困る。

 これからどうしたらいいかの判断材料がなくなるのだから。


 「貴方の知らないこと、全部知ってるわ」

 「本当か!」

 「でも、なんでもは教えてあげない」

 「・・・なんでさ」

 「クスクス、猫に全てを問うわけ?断片的な語りが元々好きな種族なのに」


 ・・・そんないい加減な。


 「・・・分かった」

 「あら、随分物分かりがいいのね?」

 「教えて貰えるだけ、まだありがたいだけだ」

 「ここまで生き残ってきただけあって、シビアね」


 シビアか・・・


 「まず、無条件で教えてあげることが1つ」

 「何だ?」

 「私のこと」


 プラムのこと・・・

 何だろうか?


 「私には主人がいるの」

 「・・・」


 一瞬緊張が走る。

 そしてよぎる。

 使い魔と言う言葉が。


 主人ってことは、悪魔ってことだ。

 悪魔の大多数は俺の敵。

 と言うことは・・・


 「勘違いしないでね」


 ピシャリと言われる。


 「私、敵じゃないわよ」

 「・・・証拠は?」

 「信じてくれないのかしら?」


 プラムが俺を試すように見つめてくる。

 この目・・・


 数秒黙ったままの状態になる。

 心の探り合い?

 いや、違う。

 多分、本当に試されてるのだ。

 一方的に。


 敵がこんなまどろっこしいことすると思うか?

 それとも、主人が来るまでの時間稼ぎ?


 「・・・分かった、分かったよ」


 観念した。

 もう疑わない。

 無闇に行動もしたくない。

 少なくとも俺は、この猫に命を預けることにした。


 「いい目になったじゃないの」

 「信じるよ。お前は敵じゃないんだな」

 「安心して?そう貴方が思う限り、私は味方よ」

 「疑う訳じゃないけど、猫の気まぐれとかないよな?」

 「私には主人がいるもの。ノラと同じにしないでちょうだい」


 2度目のピシャリ発言。

 いかにも猫らしいと、ちょっと思った。


 「私は主人からの命令で、ここに2年ちょっと住んでいるわ」

 「ここ、ゴーレムの中だぞ?」

 「見ての通り、そうね」


 ここに2年近くだろ?

 でも、俺は昼にこのデカブツが動いてるのを見ている。


 「グリード城で飼われてたのか?」

 「いえ、私が来たのはここが廃墟になった直後から。その時にはもうグリード城とは呼ばれなくなったわね」


 ・・・何かが噛み合わない。

 俺、何か勘違いしてるのか?


 考える俺。

 ジロジロ顔を見てくる白猫。


 「ふぅん」

 「・・・何だよ」

 「ねぇ?」

 「おっ!?」


 プラムが俺の肩にピョンと飛んでくる。

 猫特有の身軽さで。


 「私、貴方のこと個人的に気に入っちゃったかも」


 耳元で囁くように言ってくる。


 「それにいい匂い」

 「そりゃどうも」


 匂いを褒められても、微妙なとこだが・・・

 まあ、臭いと言われるよりはいいか。


 「貴方は元々記憶の中でも迷子になってるのに、時間にも絡みつかれて。でもどうしてこんなにも愛しく魅せてくれるのかしら?」

 「え?」

 「意味、分からない?」


 全くな。

 脈絡がないようにも聞こえた。

 直後、プラムがまたクスクスと笑う。


 「貴方は真実に耐える器があると思う。けど、私は無理強いはしないタイプなの」


 聞いてて訳分からないが、確かに無理強いはよくない。

 俺もそう思う。


 「主人には、貴方に味方しろと言われてるの。けど、もう逆らえちゃうのよね。時間が経ち過ぎたから」

 「・・・そうなのか」


 その主人が異様に気になるが・・・

 と言うか、最初から味方になるよう言われてたのかよ。

 なんか・・・流石猫だな、って感じがした。


 「私は真実を貴方に教えてあげる。けどね、それは劇薬のようなもの。知らぬが仏って貴方の世界では言うわね?私が貴方の疑問に答えれば、どうなるか保証は出来ない。それでも聞きたい?」


 無理強いってことは、俺に何かを伝えるように、元々命令されてたってことか?

 だが、プラムから選択の余地を与えられるような内容・・・

 一体なんなんだろう?


 「・・・悪いけど、聞かなきゃ分からないな」

 「そうよね」


 素っ気なく猫はそう返した。


 「じゃあ、核心から教えてあげる」


 深く、深く響く。


 「貴方がウルファンスの助力を得て戦いを起こしてから、今日は約2年と120日後よ」

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