118話 大災害17~金眼白毛の猫が語りし真実の断片的揶揄~
目を開けたら、いつの間にかどこかに飛ばされていた。
「うっ・・・・」
頭に鈍痛が走る。
前回、転移を行った時は酷かったが、痛みはかなり薄れていた。
横になって倒れていることに遅れて自覚する。
体を起こそうとするが、やけに全身が重い。
無理ではないが、しんどい感じ。
床に手をつけて、立ち上がる。
やけにザラザラしていた。
手を見ると、砂が付着している。
・・・床もだ。
周りを見ると、室内全体が砂まみれだった。
「なんだこれ・・・」
スティーラは元の場所に戻るって言ってたから、多分ここは土の僕内部だ。
だけど・・・これは・・・
「全部ボロボロじゃん・・・」
風化・・・とまではいかないが、目に入る全ての光景が荒れていた。
壁は所々欠けていて、塗装がメッキリ剥がれ落ちている。
天井も崩れていて、空が見えた。
暗い空に浮かぶ赤い月。
・・・夜だ。
そして戻ってきた。
地獄に。
周囲は静かだ。
音もない。
天井が外に抜けているのだから、少しぐらい戦闘音が聞こえてもいいくらいなのに。
大魔石に視点を移す。
その輝きは、もう失われていた。
エネルギーを全て使い切った魔石のように。
あれだけ輝いていたのに、今は薄黒い。
触ってみると、あの大きすぎるエネルギーは感じられなかった。
これが目的だったのは、この中に莫大なエネルギーがあったからだ。
だが、今はそれがない。
俺があっちの世界に行ったからか?
どうする?
このまま持ってくかどうか・・・
だが、どっちにしろ転移用の魔石も俺は戦闘で使ってしまった。
もう運ぶのは無理だ。
「ん?」
そういえば、俺は片手を失ったはずだ。
召喚王との戦いで。
だが、大魔石に触れているのは右手。
失ったはずの右手。
スティーラが直してくれたのか?
と言うかあっちの世界でも、手を使うのに不自由してなかったな。
俺の手を使い物にならなくしてくれた召喚王。
ソイツはここにはいなかった。
あの魔物もいない。
あるのは輝きを失った大魔石だけ。
「あっ」
思い出す。
ダゴラスさん達のことを。
まだ戦っているはずだ。
どこにいる?
・・・とにかく行かなくては。
「俺の魔剣はどこだ?」
確か、魔剣は右手ごと結界の向こうにあったな。
今のその位置には、何もない。
砂ばかりがあるだけだ。
奪われたか、壊れたか・・・
一応探してみることにした。
が、やっぱり見当たらない。
武器がないのは心許ないが、仕方ない。
来た道を引き返そう。
そう思って、この部屋まで俺が上がってきた階段へ走る。
「おいおい・・・」
階段は錆びだらけで、そこかしこに穴があいていた。
しかも、長く高かったその階段は途中から、砂に埋もれている。
「砂が上がってきたのか?」
俺が見た時は砂なんて、一切見なかったのに・・・
それに、敵の気配がまるで感じられない。
皆無だ。
下で見張っていた犬の魔物は?
下の方にも召喚王はいない。
一体どこへ行ったんだよ?
一応警戒しながら迅速に降りていく。
長さが半分になっているせいで、割と早く下まで降りれた。
だが、正規ルートはまだ下の方にある。
砂の中だ。
見ると、人が通れるサイズの穴がすぐそこにあった。
向こう側は外だ。
風が入ってきていた。
やけに乾いた風が。
走って外に出てみる。
そこには・・・
「・・・嘘だろ」
何もなかった。
砂、砂、砂。
砂漠みたいな光景が、ずっと向こうまで広がっていた。
建物も、悪魔の姿も、何もない。
・・・ダゴラスさん達も。
「どうなってんだよ!?」
土の僕がだいぶ遠くまで移動した?
それにしては、風景が違いすぎないか?
いや、今は夜だ。
俺達が戦っていたのは昼。
つまり、それだけ時間が経ったってことだ。
だけどおかしい。
スティーラはあの世界では時間が止まってるって言ってたじゃないか。
なんで、こんな・・・
スティーラが嘘をついたのか?
魔王の言った通りに。
でも、嘘をついているとはどうしても思えない。
そんな気がするのだ。
なら、この光景は何なんだよ。
訳が分からん。
誰か、教えてくれよ。
何が起きたのかを。
ただ、呆然とする。
どうすればいいのか、分からなくて。
1分程惚けていただろうか?
なんとなく、前へ歩き出した。
考えろ。
まず、何を確認するべきなのかを。
・・・俺は今、何処にいる?
この場所を確認する手立ては?
俺が覚えている印象的な場所は何処だ?
・・・ウルファンス山脈。
青龍から見た、あの高い山。
忘れようにも忘れられないあの山。
思い出して、遠くに目線を移す。
あの山は何処だ?
探す。
必死に。
特徴的な山だった。
なら、見たら分かるはずだ。
「・・・あった」
俺の記憶と唯一、合致する場所。
ウルファンス山脈を見つけた。
ただし、白い雪で覆われてはいない。
緑に囲まれている、美しい山になっていた。
だが分かる。
あれはウルファンスの居城がある山だ。
そう思う確信があった。
「じゃあ、俺は移動してないのか?」
でも、この砂漠は何だよ。
俺が見た時は、雪崩で雪に埋まってたじゃないか。
雪が解けたのか?
でも、建物がない。
瓦礫すらもない。
これはおかしいことだ。
ますます訳が分からなくなった。
「ダゴラスさん!!!マリアさん!!!」
大声で味方の名前を呼ぶ。
だが、何も返事は返ってこない。
虚しく俺の声が、砂漠の向こうへ消えるばかり。
「ララ!!!シフィー!!!」
だけど、叫ぶ。
不安に駆られて。
「スフィー!!!ソフィー!!!スー!!!」
・・・返ってこない。
返ってこない!!
何でだ。
まさか・・・殺されたのか?
俺がいない間に?
そんな馬鹿な。
だって・・・
だって!!!
時間は止まってたんだろう?
どうしてだよ。
どうして味方も敵も1人もいないんだよ・・・
悲観。
終わったのか、戦いが?
俺がいない間に。
戦いの決着は?
どっちが勝ったんだ?
・・・どっちが生き残ったんだ?
「誰かいないのか!?」
思い立って、後ろを見てみる。
呆然とした。
そこには、胸部から下が一切なくなり、頭部と首だけが残ったゴーレムがあった。
そうか・・・
階段が短かった理由が今分かった。
砂が上がってきたんじゃない。
体そのものがなくなってたんだ。
頭の部分も風化したのか、見る影もない。
瓦礫の残骸のようだった。
「何をどうしたらこうなるんだよ・・・」
呆然。
何が起きたらこうなる?
予想がつかない。
判断材料が少なすぎる。
「「ミャア」」
突然声が聞こえた。
猫みたいな声が。
「?」
こんな所に猫?
いや、こんな世界にも猫がいるのか?
「「ミャア」」
外から聞こえるというよりは、中から?
でも、なんとなく方向は分かる。
声の持ち主の場所が。
それに、妙に惹かれるものがある。
何だろう?
必要に迫られるこの感覚。
「「ミャア」」
「どこだ?」
土の僕の残骸がある場所へ引き返していく。
声に誘引されて。
火に寄る蛾のように。
残骸の中に再び入っていく。
前に置いてあったヘリコプターなんかは下の砂に埋まっているんだろう。
何もない空間。
綺麗さっぱりなくなって、殺風景だ。
「「ミャア」」
今度は頭の中で強く響いた。
いいのか、こっちで?
得体が知れないぞ?
本当に行っていいのか?
もし、魔物だったら?
・・・確実に殺される。
だが、他にどうすればいいか分からない。
俺が声に惹かれるのは、手掛かりを探す為じゃない。
不安感が今にも爆発しそうだったから。
余裕がない時、人は愚かな行為をする。
俺はそれをよく知っている。
だが、今の自分を止めることはしない。
・・・出来ない。
「・・・」
すぐ向こうにドアがあった。
ボロボロのドアが。
多分、いる。
声の持ち主が。
恐る恐るドアに近付いて、取っ手を握る。
開けた瞬間に攻撃されて、避けられる反射神経は俺にはない。
死ぬことを考慮に入れる。
それでも、不安による恐怖の方が凌駕する。
人はこんなにも孤独に弱い。
ドアを開ける。
「・・・ノラ猫?」
猫がいた。
真っ白い猫。
金色の瞳。
その目が俺を射抜くように見つめる。
「失礼しちゃうわね、人間さん」
「うお!?」
驚く。
猫が喋った!!
「その反応、本当に失礼だから止めて欲しいわ」
と、言われた。
話してる・・・
話してるが、攻撃はしてこない。
「す、すいません・・・」
無意識に敬語が出てきてしまった。
「敬語はあまりいただけないわね」
「・・・すまん?」
「中途半端に謝るのね」
「じゃあどうしろと?」
「素直に謝れば?」
「・・・ごめん」
あっという間に素が出て来てしまった。
「そう、それでいいのよ」
「・・・」
これ、俺が悪いのか?
よく分からん。
「普通、猫が話したら驚くだろ」
「今まで普通の出来事なんて、貴方にあったの?」
・・・ないな。
「否定出来ないのが悔しい」
「悔しがるのは向上心があるということ。喜ばしいことよ?」
この猫、賢そうなことを言うな。
「で、まず初対面で出会ったら自己紹介が普通なんじゃない?」
「・・・そうだな」
おっしゃる通りで。
相手は猫だが・・・
「俺は・・・見ての通り人間だ。名前は忘れたから、2人称で好きに呼んでくれ」
「貴方、新しく名前を付けないの?」
「・・・忘れてるだけだから、名前はある。思い出した時に、新しくつけた名前があると面倒だろ?」
「・・・面白い考え方するわね」
そうか?
面白さは微塵も感じないが・・・
「私は知的で高貴な種族、月叉。名前をプラム・ガリアと言うわ。そうね・・・プラムと呼んでちょうだい」
「プラムね、分かったよ」
猫に名前があるとは思わなかった。
今までの生物は分類上の名前だったからな。
ソイツらは言葉も話せないような生き物だったが、目の前の猫・・・プラムはしっかりと話せる。
言語によるコミュニケーションが成立しているのだ。
なら、名前だって当然あるか。
でもなあ。
まさか猫と真面目に会話する時が来るとは・・・
それでも、何もいないよりはいい。
誰かいた方が絶対にマシだ。
例えそれが異形でも。
「なあ」
「何?」
「ここってグリード街だよな?」
そう聞くと、猫のプラムは目の色を変えた。
猫に表情筋はない。
だから感情が読みにくい。
動物特有の雰囲気で判断するしかないのだが、明らかにプラムの様子が変わる。
「聞きたい?」
「そりゃあ聞きたい」
聞けなきゃ困る。
これからどうしたらいいかの判断材料がなくなるのだから。
「貴方の知らないこと、全部知ってるわ」
「本当か!」
「でも、なんでもは教えてあげない」
「・・・なんでさ」
「クスクス、猫に全てを問うわけ?断片的な語りが元々好きな種族なのに」
・・・そんないい加減な。
「・・・分かった」
「あら、随分物分かりがいいのね?」
「教えて貰えるだけ、まだありがたいだけだ」
「ここまで生き残ってきただけあって、シビアね」
シビアか・・・
「まず、無条件で教えてあげることが1つ」
「何だ?」
「私のこと」
プラムのこと・・・
何だろうか?
「私には主人がいるの」
「・・・」
一瞬緊張が走る。
そしてよぎる。
使い魔と言う言葉が。
主人ってことは、悪魔ってことだ。
悪魔の大多数は俺の敵。
と言うことは・・・
「勘違いしないでね」
ピシャリと言われる。
「私、敵じゃないわよ」
「・・・証拠は?」
「信じてくれないのかしら?」
プラムが俺を試すように見つめてくる。
この目・・・
数秒黙ったままの状態になる。
心の探り合い?
いや、違う。
多分、本当に試されてるのだ。
一方的に。
敵がこんなまどろっこしいことすると思うか?
それとも、主人が来るまでの時間稼ぎ?
「・・・分かった、分かったよ」
観念した。
もう疑わない。
無闇に行動もしたくない。
少なくとも俺は、この猫に命を預けることにした。
「いい目になったじゃないの」
「信じるよ。お前は敵じゃないんだな」
「安心して?そう貴方が思う限り、私は味方よ」
「疑う訳じゃないけど、猫の気まぐれとかないよな?」
「私には主人がいるもの。ノラと同じにしないでちょうだい」
2度目のピシャリ発言。
いかにも猫らしいと、ちょっと思った。
「私は主人からの命令で、ここに2年ちょっと住んでいるわ」
「ここ、ゴーレムの中だぞ?」
「見ての通り、そうね」
ここに2年近くだろ?
でも、俺は昼にこのデカブツが動いてるのを見ている。
「グリード城で飼われてたのか?」
「いえ、私が来たのはここが廃墟になった直後から。その時にはもうグリード城とは呼ばれなくなったわね」
・・・何かが噛み合わない。
俺、何か勘違いしてるのか?
考える俺。
ジロジロ顔を見てくる白猫。
「ふぅん」
「・・・何だよ」
「ねぇ?」
「おっ!?」
プラムが俺の肩にピョンと飛んでくる。
猫特有の身軽さで。
「私、貴方のこと個人的に気に入っちゃったかも」
耳元で囁くように言ってくる。
「それにいい匂い」
「そりゃどうも」
匂いを褒められても、微妙なとこだが・・・
まあ、臭いと言われるよりはいいか。
「貴方は元々記憶の中でも迷子になってるのに、時間にも絡みつかれて。でもどうしてこんなにも愛しく魅せてくれるのかしら?」
「え?」
「意味、分からない?」
全くな。
脈絡がないようにも聞こえた。
直後、プラムがまたクスクスと笑う。
「貴方は真実に耐える器があると思う。けど、私は無理強いはしないタイプなの」
聞いてて訳分からないが、確かに無理強いはよくない。
俺もそう思う。
「主人には、貴方に味方しろと言われてるの。けど、もう逆らえちゃうのよね。時間が経ち過ぎたから」
「・・・そうなのか」
その主人が異様に気になるが・・・
と言うか、最初から味方になるよう言われてたのかよ。
なんか・・・流石猫だな、って感じがした。
「私は真実を貴方に教えてあげる。けどね、それは劇薬のようなもの。知らぬが仏って貴方の世界では言うわね?私が貴方の疑問に答えれば、どうなるか保証は出来ない。それでも聞きたい?」
無理強いってことは、俺に何かを伝えるように、元々命令されてたってことか?
だが、プラムから選択の余地を与えられるような内容・・・
一体なんなんだろう?
「・・・悪いけど、聞かなきゃ分からないな」
「そうよね」
素っ気なく猫はそう返した。
「じゃあ、核心から教えてあげる」
深く、深く響く。
「貴方がウルファンスの助力を得て戦いを起こしてから、今日は約2年と120日後よ」




