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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第7章 地獄篇 とある飛行機
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116話 機内での別れ

 手を繋いで、天使が前を歩いていく。

 俺が引っ張られる形だ。

 前にもこんなことがあった気がするんだが・・・

 どんな時だったかは、うまく思い出せない。


 記憶に靄がかかっているような・・・

 その先に行くにはまだ抵抗感があって、向こう側も見えない。


 俺は前世の記憶を少し取り戻したと彼女は言っていたが・・・

 何だろうな。

 この懐かしい感覚。


 この飛行機にしたってそうだ。

 最初、これに乗るのに緊張していたんだっけ?

 隣には外人がいて、何を話しているのか分からなくって。

 それで何となく笑っていたら、何故かあっちも笑い始めて。

 それで仲良くなって・・・


 確か、そんなことを経験していた気がする。

 俺、ここへ前に来たことがあるんだな。


 映画館はよく分からないが、あの場所も懐かしい感じはする。

 心に残っているような・・・


 「思い出してきましたか?」


 歩きながら、後ろの俺をチラッと見るスティーラ。

 その目は興味に満ちていた。


 「何となくな。俺がこの飛行機に乗ったことあるんだな、って程度は」

 「いい兆候ですね。他には?」

 「後は何にも。うまく思い出せないんだよな」


 記憶喪失者もこんな感じなんだろうか?

 思い出す時はフッと一瞬で、それもいつの間にか自然に思い出しているこの感覚。


 「恐らく、後にも思い出すことはあるでしょうね。自分の記憶、大事にしてください」

 「そりゃあな。1度失くしたんだから、もっと大事にしまっておくよ」


 心の中にでも。

 覚えていられるなら、どこでもいいけど。


 2人でトコトコ歩いていく。

 エコノミークラスの最前列まで。

 距離は飛行機の中なので、そんなに遠くない。

 数分で到着してしまった。


 「この奥、本当に行けないのか?」


 エコノミーの最前列はここだが、目の前にはカーテンのかかった通路らしき道があるようだった。


 「試してみれば良いじゃないですか」


 スティーラは簡潔にそう言う。

 彼女、実践主義者っぽいな。


 言われた通り、通路の方まで歩いていく。

 カーテンに触れて、それをどかす。

 左には飛行機の出入り口があって、そのまた奥にはカーテンがかけられていた。

 右にはキャビアアテンダントが作業をするスペースがある。


 「行けるんじゃないのか?」


 スティーラの方を見るが、何も反応してこない。

 まるで結果は分かり切ってるみたいな・・・

 俺はそのまま奥に進んで、ビジネスクラスの室内を遮るカーテンを開けようとする。


 「んっ」


 カーテンは動かなかった。

 ・・・横にスライドしてくれない。


 「あれ?」


 今度は強く引っ張る。

 なのにビクともしない。

 まるで鉄のように。

 これ・・・


 カーテンの下の隙間から向こう側を覗いてみる。

 なんて未練に満ちてるんだって意見はなしだ。

 そこには・・・


 「えええ・・・」


 白い空間が無限に広がっていた。

 白以外、何もない。

 どこまでも・・・真っ白い・・・


 「言ったでしょう?無理だって」


 スティーラが声をかけてくる。


 「俺、やっぱり行ったことないのか?ビジネスクラス」

 「そうですね。行ったことがあるのなら、心象世界は正しくそちらの景色も投影します。それがないのなら、行ったことはないのでしょう」


 そうか・・・

 俺、現世では普通の一般人だったみたいだ。

 裕福ではなかったのか?

 いや、でも飛行機に乗れてる時点で、金銭にはそんなに困ってなかったってことだ。

 それでよしとしようじゃないか。


 「納得しました?」

 「した。もう満足だ」

 「では、こっちです」


 少し戻って、飛行機の出入り口まで歩く。

 人1人が通れる大きさ。

 鉄の扉がその先を阻んでいた。


 「ここから行くのか?」

 「ええ」

 「でも、閉まってるぞ」

 「開けるのです」

 「操縦席には行けないんじゃないのか?」


 扉は操縦席から開くんじゃないのか?

 いや、緊急で開けるスイッチもあったっけか?

 よく分からない。


 「いえ、そんなところに行かなくても開けられますよ?」

 「どうやってさ?」

 「映画館で貴方がやったようにです」

 「・・・あれか」


 そういえばやったな。

 想像で創造。

 俺の世界なのだから、何でも出来るってやつ。


 「やってください」


 当然の如く言われた。

 いや、やるけどさ・・・


 目を閉じる。

 あの面倒な過程はもう必要ない。

 だって、地獄で体験した非日常に比べれば・・・


 要するに、何でも出来ると思い込めばいいのだ。

 俺は超人、神様、何でもいい。

 想像の豊かさがここではモノをいう。


 数秒後、瞼越しに届く光を見た。

 目を開ける。

 目の前には、飛行機の鉄の扉に代わって、例の銀色に輝く金属質なドアに代わっていた。


 「なんでこんなドアなんだろうな。最初に見た映画館のドアもこれだったし」

 「・・・」


 スティーラは答えない。

 これも言えないことなのか?

 扉を見ると、また中央の方に文字が書かれている。


 「tempo」


 そう書かれていた。

 何語だ、これ?

 アルファベットで書かれているが、英語なのか?


 「意味、分かるか?」


 見ると、彼女はまたクスクス笑っていた。

 何がおかしいんだよ・・・


 「それはイタリア語ですよ」

 「またか。なんかイタリア語多いな」

 「それだけ縁があるということですよ」

 「なにをどうしたらイタリアと縁が繋がるんだよ・・・」


 もしかして、俺が飛行機で行こうとした先がイタリアなのか?


 「tempo・・・意味は時間です」

 「何故に時間?前は星だったけど」

 「それは自分で考えることですね」


 キッパリと言われた。

 教えてくれるわけじゃないらしい。


 「ただ、この言葉も貴方にとっては重要です。忘れないでください」

 「・・・そうか、分かった」


 意味不明だが、忘れないようにはしておこう。

 いつかどこかで役立つかもしれないし。


 「これでまた、一時のお別れですね」


 急に名残惜しそうな顔になる。

 彼女が感情表現豊かになったのは、以前の俺とやっぱりどこか違うからなのだろうか?

 

 「餞別は送ってあげられませんが、それでもいいですよね?」


 何かくれるなら欲しい。

 だが、がめつくなるつもりもない。


 「ま、いいか」


 別れは簡素である方が良い。

 銀色のドアに付いているドアノブを回して奥の方へと押す。

 金属質で重い印象を漂わせていたドアは思いのほか軽かった。


 ドアの先は光でいっぱいになっていた。

 目を細めなければまともに見れないほど光で溢れている。

 すごく強い光だった。


 光に向かって手を伸ばす。

 変な言い方だが、光に触れているのがよく分かる。

 光はとても暖かく、とてもこの先が地獄だなんて思えないくらいに神聖だ。


 不安なんかとっくのとうに吹き飛んでいた。

 心を洗ってくれるかのように、光は俺の体を包み込んでいく。


 前と同じだ。

 これは、転移にどこか似ている。

 違うのは色だけ。


 「この先、どこに繋がってるんだ?」

 「元の場所ですよ」

 「元の場所?」

 「大魔石の近くです」


 そっか。

 なら、前やったスカイダイビングはやらなくていいんだな?

 あれはもう思い出したくない。

 最初っから1回死にかけたんだからな。


 「ただ、時間はかかったので、様子は変わっているでしょうが」

 「様子?」

 「時間が流れれば、あちらの状況も変わるでしょう?」

 「・・・ああ!?」


 思い出した!

 そうだよ!

 あっちでダゴラスさん達が戦ってる最中じゃないか。


 すっかり忘れていた。

 ここの雰囲気に飲まれてたな、俺。


 慌てて扉の光に触れる。

 光が俺を包み込んで、いつかのように向こう側へ連れて行こうとする。


 ああ、疲れが一気に吹き飛んだな。

 またやる気が出てくる。

 確か、スティーラに最初怒ってたんだっけか。


 今はもうそんな感情を失ってることに今気付く。

 あの感情はどこに行ったんだろうか。


 「そういえばさ!」


 光に包まれる直前、思い出した。

 スティーラが、地獄で俺が戦っていることを知っているという事実を


 「ずっと見守っててくれたのか?」


 光に巻き込まれてよく音が聞こえない。

 だから大声を反射的に出してしまった。

 光に視界が奪われる。


 そうして最後に見たのは、スティーラがニッコリとほほ笑むところだった。

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