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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第7章 地獄篇 とある飛行機
114/244

114話 機内での再会

 信仰。

 世界を超えて蔓延する人間の力。

 全ての人間が持つ共通概念。

 世界の終わりのその時まで、ずっと稼働し続ける呪い。


 人間には希望が必要だ。

 生きる理由・・・アイデンティティーが。


 無意味に生きることは苦痛だ。

 人間は自分が生きる意味を誰も知らない。


 何故、人類が生きているのかを知らないから。

 何故、地球の生態系が存在しているのか知らないから。

 何故、星々があるのかを知らないから。

 何故、宇宙があるのかを知らないから。

 そして、神がいるかどうかも知らないから。


 知らない。

 すると、想像する余地が生まれる。

 人間の空想が生まれる。

 仮説が生まれる。

 宗教が生まれる。

 ・・・希望が生まれる。


 希望。

 人間を生かすもの。


 現世では、人間以外誰も自殺はしない。

 自殺の概念があるのは人間だけだ。

 だから希望を知っているのは人間だけ。


 そんな話してもどうしようもない会話を、どこかで俺は聞いたような気がする。


 ・・・夢を見ている。

 俺が光になって宇宙に行く夢。

 とても気持ちいい夢だ。

 ずっと見ていたい夢。

 なのに。


 ゴオオォォォォ。


 夢から現実へ強制的に引き戻される不快な音が俺を襲った。


 ・・・5回目。


 「ううう・・・」


 気分が悪い。

 何か酔った気分。

 確か、俺は酒が飲めなかったのだ。

 そんなことをちょっと思い出した。


 「ここは・・・」


 俺は椅子に座っていた。

 前の方には椅子がある。

 狭い小さい椅子が。


 この感触は覚えてる。

 俺は右の方を見てみる。

 そこには小さな窓があって、向こう側には雲海が見えた。


 地獄でいっつも見れるあの夕焼けみたいな空じゃない。

 ちゃんと青い・・・本当に青い空だった。


 「そうか・・・綺麗だな・・・」


 和む。

 少し気分がよくなった。

 綺麗な景色を見ると、心が癒される。

 リフレッシュは重要なのさ。


 「・・・ておいっ!!!」


 和んでる場合じゃないぞ!

 ここはどこだ!

 てか空が青いって!


 椅子から立ち上がる。

 ズラッと椅子が並んでいるのが見えた。

 左、中央、右。

 それぞれ縦に2列席があり、大量の人間が座れるような形になっていた。

 その割には俺以外誰もいない。

 そしてさっきから、ゴオオォォォォと音が静かに流れている。

 窓には空。

 これって、つまり・・・


 「飛行機?」


 そうとしか考えられない。

 何だこれ?

 俺は・・・一体どうしたんだ?


 目が覚めたら飛行機・・・

 俺、もしかしてどこかに旅行中?

 いやいや、周りに誰も人がいないだろうよ。

 違和感を感じようぜ、違和感を。


 「どうですか?久しぶりに戻った感想は?」

 「おわっ!?」


 横からいきなり声がした。

 驚いて少し飛び上がる。


 「そんなに驚かなくても・・・」


 怪訝そうな顔で俺を見てくる。

 隣に、白い服を着た女性が椅子に座っていた。

 ・・・いつの間にか。


 清潔そうな白いワンピース。

 サラサラな長い金の長髪。

 外国人みたいな端正な顔。

 うっすら輝く小柄な体。

 まるで後光が差しているようだ。


 よく見てみると神話に出てくるような、天使の頭によくある輪っかが頭の上に浮いていた。

 天使の輪・・・ヘイロウ。


 「ああ!?」


 天使じゃん!!

 あの・・・変な映画館で会った天使じゃないか!


 「おい、天使!!どうなってるんだよ、一体!!」


 不満をぶつける。

 そりゃそうだ。


 コイツのアドバイスで、俺は地獄に行ったのだ。

 そのおかげで俺は、何度も死ぬような目にあったのだ。

 怒らない方がおかしい。


 「少し落ち着いてください。と言うか私の呼び方、前よりも酷くなってますね」

 「・・・はあ!?」


 フラストレーションが溜まっていて、ちょっと冷静じゃない自分がいる。

 ずっと・・・ずっと話したいことがあったのだ。


 「いや、ちょっと待て。何で天使がここに・・・」


 言ってる途中で、ゴンッと頭に衝撃が走る。

 げんこつ程度に痛かった。


 「前の別れ際に何と私は言いましたか?」


 笑顔なのに、目がギラギラしていた。

 多分、怒ってる。


 「・・・さあ?」


 もう1回ゴンッと頭を殴られた。

 今度はちゃんと見たが、何も見えなかった。

 透明な何かに殴られた感じ。

 これも大して痛くない。


 「私、前の別れ際に言いましたよね?また会う時は、私の名前をさん付けで呼ばないようにお願いしますって」

 「・・・あっ」


 思い出した。

 確か俺が初対面で、天使のことをスティーラさんって呼んでたな。

 忘れてた。


 でも、コイツと別れた後の出来事が印象が強すぎて、全然記憶が薄れていた。

 正直仕方ないと思う。

 だって、命を懸けてたんだぜ?

 コイツに言わせると、俺はもう死んでるらしいけど。


 「・・・スティーラ」

 「ん、とりあえずはいいでしょう」


 納得したようだった。

 呼び方にこだわるとか・・・

 俺達まだ2回しか会ってないのに。


 「落ち着きましたか?」

 「殴られた?せいでな」

 「それは良かった」


 そう言って、俺にまた席へ座わるよう手招きする。

 座ると、隣との感覚が狭くて、スティーラの肩に少しぶつかってしまう。

 こりゃあエコノミークラスだな。


 「これ、飛行機だろ?」

 「ええ、そうですね」

 「奥に進めば、もっと広い室内もあるんじゃないか?ビジネスクラスとか、ファーストクラスとか」

 「恐らく行けないと思いますよ。貴方は前世において、その室内を見たことがありませんから」

 「・・・はい?」


 また前世の話が出てきたよ。

 まだその設定が続くのか?

 それとも真実なのか?


 「その前世ってやつは本当なのか?」

 「何故、そのようなことを聞くのですか」

 「それは・・・」


 魔王が天使は嘘吐きだと言ったからだ・・・とは言えなかった。


 「地獄の統治者にでも言われたのですか?天使は虚言を吐く種族だと」

 「・・・そうだ」


 思っていることを当てられた。

 ・・・心を読まれている?

 それとも俺の表情から察したか?


 「安心してください。嘘は言っていません・・・とは言っても、証拠は何もありません。信じたければ信じれば良いし、信じたくなければ信じなくても良いのです」

 「そんなスタンスでいいのか?」

 「実際に行動するのは貴方ですから」


 と、何か論破された気分になった。

 全く論じてはいないけれども。


 「いや、それよりも、何で俺はここにいる?だって俺はさっきまで戦ってたんだぞ?」

 「そうですね。確かに貴方は地獄の悪魔と戦っていました」

 「じゃあ何で・・・」


 コホンと天使が咳払いをする。

 丁寧なしぐさだ。


 「まず、それに答える為に私から質問させていただきます。ここはどこだと思いますか?」

 「ここか?飛行機だろ?」

 「まあ、確かに飛行機ではありますが・・・違和感を感じませんか?人のいないこの空間に」


 人がいないのはおかしいさ。

 だからと言って、他に変な個所はないし・・・

 でも、空が青いってことはここは現世じゃないよな。

 そもそも飛行機なんていう、人間の文明を象徴する乗り物は地獄になんかあるはずがない。

 そんなものよりも、地獄には転移なんて言う便利な移動方法があるからだ。


 そして、1人だけいる天使。

 つまり・・・


 「ここは最初にスティーラと会った、映画館みたいなものか」

 「正解です」


 笑顔でパチパチパチと拍手する天使。


 「ここは貴方の心・・・心象を移した世界。簡単に言えば、精神と記憶の中、とでも言ったらいいでしょう」

 「前は映画館。今度は飛行機の中。こんなのが俺の心?」

 「そうです」


 きっぱりと答えられた。

 飛行機・・・しかも、エコノミーっすか。

 ファーストクラスには行けないらしいし、随分安っぽい心の中だな。


 「この空間は、貴方がまだ私と出会った後の記憶から創られていますね」

 「ん?お前と出会った後?」

 「前世の記憶ってことですよ」

 「じゃあ、俺はこの飛行機に乗ったことがあるのか」

 「前世では」

 「ふぅん」


 前世で俺はエコノミー以外見たことがないから、その先のビジネスクラスとかに行けないってことなのかもしれない。


 「貴方は越境者の1人と戦って、ボロボロの状態になりました。その時、何に触れたのか覚えてますか?」

 「んっと・・・硬くてスベスベした物だった気がする。あの時は目がよく見えなかったから、よく分からなかったんだよ」


 そう。

 もう意識を失いかけてたからな。

 ギリギリの状態だったと言える。


 「その、硬くてスベスベした物。それは地獄で大魔石と呼ばれている物ですよ」

 「ああ、なるほど」


 近くにあったものな、大魔石。

 犬みたいな魔物に突き飛ばされたんだっけか。


 「巨大なエネルギーに触れて、貴方は自身の記憶を少し取り戻したはずです」

 「俺の記憶・・・」

 「それにともなって、貴方に渡していい情報がかなり解禁されたのですよ」

 「前は教えてくれなかったことばかりだったな」


 言えません、言えませんの連続。

 まともに答えが返ってこなかったよなぁ、あの時は。


 「貴方には使命がありますから、導きの手順を間違ってはいけないのです」

 「使命?前はそんなこと言ってなかったじゃないか」

 「それも解禁された情報の1つだから、話せているのです。前は教えてあげられませんでしたから」

 「使命の為に?」

 「そういうことです」

 「何の使命だよ?」

 「言えません」


 あ、でたな。

 言えませんが。

 こうなったらもう話してくれないぞ。

 俺はもう分かってる。


 「恐らく、色々聞きたいことがあるでしょうね」

 「当たり前だ。俺、何度も死にかけたんだぞ」

 「知っています。私からも説明したいことがあります」


 何かを教えてくれるらしい。

 いいぞ。

 話せるだけ話してくれたらありがたい。


 「まず、この世界について話しましょうか」


 世界・・・地獄とか、現世のことか。


 「この世界が三位一体の世界、と私が言ったことを覚えていますか?」

 「覚えてるよ。最下層が地獄、中層が煉獄、最上層が天国って言ってたな」

 「ん、忘れっぽいのによく覚えてましたね」


 スティーラが頭をなでなでしてくる。

 お前は俺の保護者か!と言いたかったが、案外心地よかったので抵抗出来なかった。

 少し恥ずかしくはあるが・・・


 「でも、地獄は星だって聞いたぞ。星に下層も上層もないんじゃないのか?」

 「ああ、あれは物の例えですよ。世界にも格があるのです。地獄が3者の中で1番下というだけのことです」

 「世界にも上下関係があるのか?」

 「ええ、れっきとした生物ですから」

 「星が生きている?」


 ・・・ガイア理論。

 地球に存在する生物や環境を1つに纏めて、ある種の巨大な生命体と見なす仮説。

 地球の環境バランスは奇跡的な確率で成り立っている。

 それは例えると、生物の循環機能的なシステムだと言われている。

 つまり、星は生き物ってことだ。


 俺達は星の体に住まう小さな微生物。

 生命のシステムの1つ。

 そういう考え方だ。


 これは仮説にすぎない。

 だが、今の発言からすると、仮説じゃなくなるな。


 「その中でも現世は例外です。元々あった3つの存在の内、外からやってきたもう1つの存在。それが現世・・・地球です」

 「やってきた?」

 「現世では、ビックバンによって宇宙が誕生したという説がありますね?」

 「あるな。超有名な説だった気がする」

 「それは少し違います」

 「へぇ、違うんだ」


 サラッと重大な秘密が明かされた気がする。

 長年の研究で分かったことを数秒で否定しやがった。

 サイエンスな人達が可哀そうな気がしてきた。


 「ビックバンという大爆発によって誕生したのは宇宙ではなく、神様です」

 「・・・神様?」

 「どうやってビックバンが起こったのかは私達でも定かではありません。ですが、それが原因で神様が誕生されたことは事実です」


 神様か。

 そうだよな。

 悪魔がいて、天使がいるんだら神様だっているだろう。

 天使が神様って言っても違和感は何も感じない。


 「神様は最初、1人で佇んでおられました。ですが、やがて神様は自身の分身たる3つの存在を生み出します。最初は無を作られました」

 「無・・・って何もない空間の無か?」

 「そうです。何かが存在するのは無という概念があるからです。何もないからこそ、何かを作る余地が生まれるのです」

 「陰陽太極図みたいな考え方だな」

 「いい例えをしてきましたね。私も同意見です」


 物事には陰と陽がある。

 裏と表とも言っていい。

 全ての性質は2面性をもっていて、相互の関係は決して崩れることがない。

 どちらもが平等の価値を備えている。

 例えそれが善と悪でも。

 そういう考え方を図で示したのが陰陽太極図。

 今ので言えば、有と無ってとこか。


 「まあそれは置いておいて、2つ目に神様が作られたのは闇です。無の中に満たす存在として、作られた存在ですね」

 「闇って言ったらあんまりいい印象がないんだが」

 「名前だけ聞くとそうですが、闇とはつまり宇宙のことをいいます」

 「・・・宇宙の暗さが闇?」

 「暗さと言う表現は厳密には違いますが・・・それでもいいでしょう」

 「じゃあ厳密に言うと何なんだよ」

 「暗いのではなく、元々その色なのです。生物の目には見通しが悪いだけであって。言ってもあまり伝わらないでしょうが」


 うむむ・・・

 確かに言ってることがちょっと分からなかった。


 「3つ目に作られたのが光。私達、生物を支える存在ですね」

 「光は知ってる。あれだろ?転移の時に召喚して、目的地まで運んでくれる奴だろ?」

 「光の主流な使い方はまさにそれではありますが・・・私達天使の場合は、もう少し違う使い方もしますね」

 「転移以外にも何かあるのか?」

 「ええ、地獄の象徴たる能力。あれと同じように、天国にも象徴があります。それが魔法です」

 「魔法?」

 「魔法は光に補助してもらうことが前提の技能です。この心象世界だって、光から構成されているものですから」

 「じゃあこれも魔法なのか」

 「そのとおりです」


 それじゃあこの椅子も、エコノミーな室内も、それどころかこの飛行機も青空も全部魔法かよ。

 能力でこんなこと出来るやつなんてあったっけか?

 ・・・固有能力でもこんなの無理だ。

 人の記憶を光で再現とか凄いな。


 「光は私達の体を構成しているものですから、仲間・・・もっと言えば、家族みたいな存在なのです」

 「じゃあ、その体も・・・」

 「光ですね」


 だから体から後光が差してるのか。

 天使だから光ってる、とかアホなことを考えていたが、ちゃんと理由はあったんだな。


 「悪魔の体だって、闇から構成されているのですよ?」

 「悪魔って闇で出来てるのか!?」

 「本人達は知らないでしょうが、それが事実です。闇が司るものは能力。また地獄の世界も、神様が作った無数の星に闇が根を下ろした存在です。能力基盤の文明を作るのも当然でしょうね」

 「まじか・・・」

 「地獄は闇、天国は光、煉獄は無。その3者が無数の星の1つから世界を作り、互いに共存を図っているのです。地獄は最後に誕生した世界なので、格も1番下なのです」


 新事実が一気に俺の耳に入ってくる。

 これ、ちゃんと頭の中で処理出来てるか?


 「ちょ、ちょっとまて・・・」


 少し頭の中で整理が欲しい。

 スティーラは一気に言いすぎなのだ。

 つっても、まだ十数分しか話していないけども。


 「大丈夫ですか?まだ解禁された情報はありますが・・・」

 「そうだよな、まだあるよな」


 ないならないで不満だ。

 全部聞くべきことだろうから聞いておきたいが、何分俺の頭がショート仕掛けている。


 「少しペースダウンしないか?俺、戦った後だから疲れてさ」

 「頭の整理が欲しいなら、ちゃんと言ってください。思ったことを相手に伝えることはコミュニケーションを図るうえで基本、かつ重要なことですよ」


 また図星。

 もしかして・・・


 「天使も心を読めるのか?」

 「悪魔程自然に心を読む訳ではありませんが、知ろうとする方法自体は存在しますね」

 「ひょっとして、俺の心も読んでる・・・とか?」

 「心を読まなくたって、貴方の考えてることぐらいは分かります。私と貴方の仲ですからね」


 天使と人間の仲ってなんだよ。

 まだ会って2回目だぞ。


 「まあ、いいでしょう」


 天使が指パッチンをする。

 すると、ポンッとそれこそ魔法のようにティーカップとコップが現れた。

 カップの中には香りのいいミルクティー。

 コップの方には・・・オレンジジュースが入っていた。


 「何故にオレンジジュース・・・」

 「好きでしょう?」


 手に取って飲んでみる。

 滅茶苦茶うまかった。


 「ほらね」


 俺の顔を見て、微笑むスティーラ。

 和やかな雰囲気に包まれているような気がする。


 「少し休憩にしましょう」


 そう言って、音もなく天使はミルクティーを飲み始めた。

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