表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第6章 地獄篇 グリード領グリード街
112/244

112話 大災害16~無謀な勝機~

 召喚王ネル・ナベリウス。

 召喚を得意とする悪魔。

 72柱足り得る理由でもある。


 転移に通じるあらゆる知識を保持し、使用する。

 光の特性を合わせて理解しなくてはいけない、瞬間移動を会得するまではいっていないが、間違いなく強大な力を持つ悪魔。


 そして初めて、1人で大転移を行った悪魔。

 陣を描くことなく浮き上がらせて、かつ大量に召喚することが出来る。


 魔物を大量に所有していて、それを召喚してくる。

 ただし調教や洗脳は施していないので、殆どが暴走状態にある。

 なので、魔物を召喚するだけしたら、後は遠くで傍観している。

 俺が召喚王について知ってるのはそのくらいだ。


 本人の戦闘能力は72柱でも最弱らしい。

 転移に依存して戦っているせいでもあるが、それを有り余ってやはり強い。

 本体を叩けば簡単だが、本体に辿り着かせない圧倒的な転移の技術が彼の持ち味だ。


 そんな強大な力を持つと、周りからの扱いも変わらざる負えない。

 そこに増長の原因が潜んでいる。

 魔王が心を読むシステムでいち早くそれに気付けたなら、こんな奴は生まれてこない。

 いわゆる芽を摘むってやつだ。


 つまり、社会不適合者。

 排除される存在。


 72柱とは、その中でも指名手配にしなければならない程の存在。

 犯罪者のトップ達。

 そんな例えを、ダゴラスさんから教えてもらったことがある。


 「人間・・・知識の具現。探究者。性質上群れを作るが、個としても生きる存在。知るが故に何も知らない者達。出発点の種族。悪魔の文献には、そんな風に貴様の種族である人間のことを呼んでいた」


 階段を上がりながら、召喚王が演説めいた口調で語ってくる。

 俺は俺自身のことを1つも言っていないのに、俺の種族のことを話しながら。


 「愚かで知識欲旺盛で、そして信仰心がある。そんなことが書かれていたんだよ」

 「・・・一理ある」


 俺はそれを聞いて、内容に納得していた。

 人とは・・・ヒトとは、どうしようもなく愚かだと思うからだ。

 弱いヒト。

 だから縋りたくて、信仰する。

 だから弱くて脆くて、穢れている。


 「人間の信仰。宗教が真っ先に思い浮かぶところだろうが・・・信仰は、実に様々な形のものがある。無神論者の信仰、何も信じずに、自分だけを信じる信仰・・・つまり、信仰とは自分の信じるものであり、自分の考え方そのものだ。所詮、共有するかしないかの問題でしかない」

 「・・・」

 「そんな考え方を悪魔に照らし合わせると、世界の安定化が悪魔の信仰ってことになる」

 「凄く人間っぽい考え方だな」


 言われて嬉しかったのか、クククッと少し笑う。

 そこもまた人間みたいに見えた。


 「欲望のままに生きている人間とは違って、こっちは消極的でな。ある程度知能があっても、文明の発展は最低限に留めておく考え方が根本から染み付いてるんだよ」

 「悪魔は・・・確かに保守的だな」

 「俺はそこが気に食わん。今の文明じゃあ俺が暮らすには狭すぎる。考え方も食い違うしな」

 「そうかよ」


 ここで自分の欲望が入るんだな。


 「地獄の生物全てをコレクションするにはまだ遠いだろうが・・・集め終わったとしたら、俺はこう思うだろう。まだ足りないってな」

 「・・・だから人間か?」

 「そうだ、そして現世へ行く。貴様がこの世界に来たことによって、状況は一変した。今はひたすら動く時なんだよ」


 コイツが現世に行ったとしたら、とんでもないことになるだろう。

 人間の常識外の生物。

 架空の存在。

 恐らく、パニックになることは間違いない。


 「さあ、着いたな」


 階段を上り終わる。

 そこは、普通の部屋だった。

 白い部屋。

 だが、中央に置かれたその物体が、部屋を重要なポイントとして置き換えている。


 「・・・大魔石」


 部屋の中央に置かれた特大サイズの魔石。

 ラウンド・ブリリアントカット型に形が整えられている。


 高さは1メートル。

 横も1番大きい箇所で1メートル。

 大きさがケタ違いだ。


 ラース街を照らしていたあのダイアモンドみたいにそっくりだ。

 違うのは色だけ。

 これは紫色に輝いていた。


 「見ろ、この輝かしい魔石を。単体だけで莫大すぎるエネルギーを超長期間賄えるが、それが7つ揃えば、どんな願いすらも叶えられる1つの魔具になりうる。これを集めた奴が世界の絶対支配者になれるんだよ」

 「言ってることがスケールでかすぎて、よく理解出来ないんだが」


 俺はただ、帰りたいだけだ。

 元の世界に。

 そんな支配者じみたことはしない。


 悪魔を殺すのは、俺を殺そうとしてくるから。

 全部仕方ないことだ。

 方法がそれしかないのだから。


 「ぐっ!?」


 大魔石に1歩近付いた途端、また例の頭痛が起きる。

 ズキズキと頭の芯から痛みを発する。

 一体何だってんだよ・・・


 幸いなことに、俺の変化に召喚王は気付いていない。

 目の前のことに夢中だ。


 頭痛はあるが・・・今、やるか?

 下の階に魔物は留まっている。

 召喚王は大魔石に目を取られている。


 ・・・絶好の機会じゃないか。


 俺の戦う答えは目の前のコイツとは違うと思っていた。

 だが・・・自分の願いを叶えるために、世界に影響を与えること。

 その1点については、同じだ。


 俺の場合は已むに已まれず・・・そんな状況ではあるが、やっていることの本質は一緒なのだ。

 この世界への抵抗。

 自身の開放。


 自身の目的が相手と違えることなんて、生きている内はたくさんあるだろう。

 その時、譲歩するか、互いに引くか・・・それとも争うかは、その時の関係次第。

 俺と奴は敵同士だ。

 争わなければいけない。


 また、生かすことも出来ない。

 この世界には現世の常識を覆す治療概念がある。

 命を奪わなくては、また自分の欲望のために俺と衝突するだろう。


 そして、コイツはマリアさんの命も狙っている。

 復讐の為に。

 俺の恩人を・・・ここで殺させる訳にはいかない。


 マリアさん達は召喚王がここに来ていることを知ってるか?

 いいや、知らないだろう。

 だから、俺がここで食い止めなくちゃいけない。

 神聖種の火で、本人が強化される前に。


 殺すのだ。

 命を懸けて。


 油断はない。

 そういう覚悟で来た。


 戦え。

 戦え!!!


 俺は魔剣を素早く握って、召喚王の首を狙う。

 剣を横に振って。

 捉えたと思った。

 だが、途中で剣が急激に止まり、ガギンと音がなった。


 「貴様・・・」


 俺の剣が、何もないところで止められていた。

 正確には、何か当たったような感触はあるが、何もそこには見えない。

 ・・・チャンスを逃してしまった。


 「よかったな。俺があらかじめ貴様を殺さないことを決めていて」

 「そんなの関係ない!!」

 「そうかな?」


 透明な何かに俺の剣が押し返される。

 その時、突然俺の腹に衝撃が走る。

 そのまま後方へ突き飛ばされた。


 「ぐっ・・・」


 すぐに体制を立て直す。

 今のは何だったんだ?

 見えない壁?

 じゃあ俺を突き飛ばしたのは?


 「不思議そうな顔だな?俺が無防備な状態で背を向けて歩いてくれたと思ったのか?」


 召喚王がパンパンと両手を叩く。

 それに応えるように、目の前の空間から何かが姿を現した。


 「魔物!?」

 「名前を神出鬼没者(カラーレスワッペン)って言ってな、透明になる能力を持ってる数少ない俺の手駒だ」


 姿を現した魔物はカメレオンのようで、頭部に6つの剥き出しになった眼球と、6本の足、3本の尻尾を除けばかなり見た目はそっくりだ。

 全長4メートルサイズの化け物。

 こんなでかい奴に気付けなかったのは、多分気配断ちの能力を行使していたからだ。

 クソ・・・何でこの可能性を視野に入れなかった。

 俺だって散々世話になっただろうに。

 相手が使ってくることを全く考慮に入れていなかった。


 「生半可な武器じゃあコイツの皮膚は切れんのよ」


 もう状況は動き出した。

 俺が敵対心を持っていることがばれた。

 やるしかない。

 手持ちの武器で、コイツをどうにかするしかない。


 「貴様、空中要塞でラースの魔王、その側近の1人を曲がりなりにも1人殺したんだろ?」

 「・・・」

 「それなら身体能力に関しては俺より上だ。人間にしては凄まじい戦闘技能を有していると言える」


 それは同意する。

 異常な力に意味不明なこの強化方法。

 明らかに普通の人間じゃない。

 そんなこと、だいぶ前から分かっている。


 「それで俺を殺せるか?実験だ、試してみろよ」

 「言われずとも」

 「威勢がいいな。俺の最上コレクションは元気があるのが1番だからな」

 「俺はお前のおもちゃじゃない!!」


 俺の持っている魔剣、闇夜黒剣へあらかじめ持たされた魔石からエネルギーを注いでいく。

 魔剣が注がれたエネルギーを糧にして、特異な力を輩出する。

 この魔剣に付加されているのは固有能力だ。


 闇・・・光とは対照的な存在。

 何かを照らすことなく、包む者。

 宇宙に満ちる暗黒そのもの。


 ダゴラスさんに新しく貰った魔剣。

 その価値は絶大で、かつて俺を助けた縛牢斬滅にも劣らない、名剣中の名剣。


 縛牢斬滅と違って、発動には魔石を使わなくちゃいけない。


 魔石は全部で3つ。

 闇を作り出す為に必要な餌は膨大だ。

 転移を1回可能とするエネルギーすら貪欲に食い尽くす。

 だから俺にとってはタイムリミット付きの代物だ。

 早めに倒さなければ勝機がない。


 刀身から暗黒の霧を出していく。

 黒い霧。

 それは濃密で、向こう側が全く見渡せないレベルで濃い。


 「その魔剣・・・闇夜黒剣か。行方不明になっていた秘匿魔剣の1つ。どうやって手に入れた?」


 答える必要はない。

 俺はただ、目の前のことに集中すればいい。


 「また面倒な代物を手に入れたな」


 そう言って、召喚王はカメレオンの魔物に指示を出す。

 攻撃指示を。


 魔物がガッパリと口を開く。

 次の瞬間、高速で長い舌が直線的に俺へ向かって伸びてきた。


 刀身から発している黒い霧を前方を中心に展開する。

 それは伸びてきた舌とぶつかって・・・


 「ほう!これまた珍妙な」


 暗黒の霧に触れた途端、カメレオンの舌がスローモーションになる。

 歩いてでもかわせる速度。

 伸びてきた舌を横から切断する。

 血が吹き出て、口の中に舌が収納された。


 「そうかそうか。闇には特質な作用があるんだったな。光は物体を高速にするが、闇はその逆・・・沈静化だ。おおよそ全ての概念を無に近い所へ返す物質。いや、存在と言った方がいいか?」

 「やけに語るな」

 「珍しいからな。魔剣はコレクションの対象に入っていないとは言え、価値ある物には興味を示す。それが普通だ」


 だから簡単に名剣の縛牢斬滅を俺に渡したのか。

 あの剣を折ったダゴラスさんとは対極の考え方と言える。

 ・・・至極どうでもいいことだが。


 俺は剣から黒い霧を抽出して、加工していく。

 剣を縦にして、刀身と柄の部分を霧で棒状に伸ばしていく。

 その際こちら側へしなるようにして。

 刀身と柄の先端を闇の糸で結ぶ。

 数秒で即席の黒い弓が出来上がった。


 「いけ!」


 指示に従ってカメレオンが姿を消す。

 見えはしないが、ドスドスと歩く音が接近しているのが分かるが、それすらも結界で掻き消えてしまった。


 黒い矢を装填して、放つ。

 放つ放つ放つ。

 四方八方に。


 矢は空気に拡散して、有効範囲を広めていく。

 複数の矢の内、1本が透明化したカメレオンに触れて、形を変えたのが分かった。


 「そこか!」


 大量の矢を1点に向けて撃つ。

 残弾数はエネルギーが続く限り無限だ。

 カメレオンの手足に黒い霧の矢が突き刺さる。

 相手の動きが格段に鈍くなった。

 同時に魔剣に注いでいたエネルギーがなくなる。

 ストックしていた魔石を使って、エネルギーを補充する。


 残り2つ!


 魔剣を剣に戻して、素早くダッシュする。

 距離数メートル。

 カメレオンが咄嗟に口から緑色の液体を霧状にして噴射する。

 あれは・・・危ないな。


 判断時間を最小に済ます。

 黒い霧を特大の袋状にして、一気に緑色の霧をバックリと包む。

 それを収縮すると、緑の霧はあっという間に消滅した。


 その間にも俺はカメレオンの頭部、その真下に踏み込む。

 顎から一気に串刺しの要領で突く。

 だが、固い皮膚に弾かれてしまう。


 「こんのっ!!!」


 刀身に黒い霧を纏わせる。

 高濃度に圧縮したソレを、圧力がかかるように先端の面積を出来るだけ少なくする。


 闇の沈静化・・・つまり触れた端から物体の動きを抑えること。

 生物に触れれば、細胞組織の動きを停止させる。

 つまり、脆くなる。


 強化された腕に最大限力を込める。

 カメレオンは抵抗しようとするが、沈静化の影響で動けない。

 ミリミリと音がして、魔剣が頭部を貫いた。


 途端、カメレオンの魔物は力が抜けたように横へ倒れる。

 倒れると共に、魔石からのエネルギー供給がまた途絶える。


 残り1つ!


 「ほほう!素晴らしいな、俺お手製の魔物を倒すなんて!」


 魔石を再びセットして、魔剣の刀身を漆黒に染める。

 召喚王に向かって、全速力で駆ける。


 「よし、これならどうだ!!」


 召喚王が杖を振る。

 1秒しない内に、転移の陣が空中に浮かび上がって、1つの生物を呼び出した。


 「・・・コウモリ?」


 現世のコウモリよりも一回りだけ大きいコウモリ。

 それが転移の陣から飛び出してきた。

 体の面積が小さいせいか、異様に体が再構成される時間が短い。


 脅威度がそんなに感じられない。

 恐らく、魔物じゃない。

 そのまま向かってきたコウモリを魔剣で斬り捨てる。


 「ほらほらほらほら!」


 転移の陣が次は50か所同時に現れる。

 そこからまた同じように、コウモリが襲ってきた。


 「クッソッ!!!」


 黒い霧を広範囲に展開して、極太のビームのように真っ直ぐ放つ。

 霧に触れた端からコウモリが停止したに近い速度になった。

 霧をそのまま維持して、黒い通り道を確保する。


 「ハハハハハハッ!!!」


 見ると、転移の陣が今度は倍の数になっていた。

 もう無茶苦茶だ。

 普通の法則を無視してやがる。


 幾らコウモリの動きを沈静化しているとは言え、数が数だ。

 体が押されるように霧の中へどんどん集まっていて、通路の幅を急速に狭めていた。

 黒い霧がコウモリで満ちる前に全速力で走っていく。

 

 通路が狭まり、コウモリが俺の目の前に出てくる。

 沈静化で脅威はないに等しいが、走る分には邪魔だ。

 一振りで斬って排除する。

 走る斬る、走る斬る、斬る斬る斬る。


 出口がコウモリの密集で狭まっていく。

 ここを塞がれたらもう押しつぶされるしかない。

 能力を解除しても同様だ。

 死ぬしかない。

 今は・・・走るだけ!!


 「うおおおおおお!!!」


 間に合えっ!間に合えっ!間に合えっ!!!

 出口がコウモリの壁で塞がりかける。

 俺自身が驚くほど無駄のない動きで、小さい生物の密集した壁を切り刻む。

 バラバラになって、向こうに光が見えた。


 「くっ!!!」


 何とか向こう側に出る。

 目の前には、召喚王が続々と召喚を行っていた。

 コウモリに巻き込まれないように、ドーム状の結界空間を作って。


 魔剣に再び黒い霧を収束させる。

 黒い通路が消えて、コウモリが一斉に解き放たれる。

 もう退路はない。

 逃げられない。

 なら、もっと戦える!


 後ろの大軍に追いつかれないようにさらに速度を上げて走る。

 霧を濃縮した刀身を思いっきりドーム状の結界に突き刺す。

 沈静化の影響で、結界は脆くなり簡単に崩壊する。


 直後、目の前で召喚の光が俺の視界に入る。

 目が光でつぶれないように、咄嗟に霧をゴーグル状にして視界を保護する。


 目の前を見てみる。

 下にいたはずの地獄の番犬(ケルベロス)が、召喚の光から姿を現した。


 自由に扱える魔物の数はそれこそ限られているはずだ。

 下に配置した自分の手駒をここに戻すことは予想出来ていた。


 あらかじめ伸ばしていた黒い霧が、隷属の獣犬(ケルベロス)の三つ首に触れる。

 動きが鈍くなったのを見計らって、走りながらポケットに入れていた手榴弾を開けていた3つの口にそれぞれ放り込む。

 霧を発散させる。

 直後、3つ首が大爆発を起こした。


 肉片が飛び散って、俺へモロに当たる。

 血が目に入らないように、姿勢を低くしながら駆ける。

 だが、3つ首の1つだけ頭が残っていた。

 よく見ると、結界が張られている。

 あの一瞬で自分を守ったのか?


 「ガアアアアァァァ!!!!」


 口が俺に迫る。

 いきなりのことで、対応が少し遅れた。

 回避行動を取るが、腕がついていかない。

 魔剣を持った右手が食いちぎられた。


 「があぁぁぁッッ!!!ううぅぅッ!!!!!」


 叫んで痛みを無視する。

 ただ、走る。

 残った手をズボンに突っ込んで。


 「ハハハハッ!!やるねぇ!!」

 「うるっせえっ!!!」


 魔剣が離れたことによって、俺の強化がどんどん失われていく。

 足も失速。

 後ろのコウモリ軍団、それにケルベロスも後ろから俺を狙おうと迫ってくる。

 どっちみち、走るしかない。

 多分、ギリギリ間に合う!


 武器を失ったと思ったのか、召喚王は無防備だった。

 杖を構えて、ただ突っ立っているだけだ。

 これこそ絶好のチャンスだった。


 腰からある物を取り出す。

 俺が拝借してきた拳銃。


 アイツはこれが何なのか分かっていない。

 人類が生み出した物の中で、最も生物を殺したであろうこの武器を。


 口で安全装置を外して、走りながら銃を構える。

 召喚主が死ねば、後ろの魔物は暴走して、俺を殺そうとするだろう。

 その時、俺は逃げ切れるのか?


 疑問。

 だが、迷っていられなかった。

 今、ここで何もしなかったら確かに生き残れるかもしれない。

 だが、土の僕(ゴーレム)の外で戦っているダゴラスさん達はどうなる?

 俺は裏切れるのか?


 俺の覚悟。

 それは今、俺に尽くしてくれる存在に尽くすことだ!


 「ああああああ!!!」


 利き手じゃない。

 だから狙いがぶれる。

 だが、召喚王はこれが飛び道具だと思っていない。

 故に微動だにしない。

 自分の勝利を確信しているからだ。


 ここで外せば終わり。

 俺は連れていかれてジ・エンド。


 外せない。

 プレッシャーがかかる。

 逆に手の震えが止まる。


 「があっ!?」


 後ろから手のなくなった右腕が引っ張られる。

 ケルベロスが後ろから服の裾を牙に引っ掛けていた。

 もう3つ首が完全に再生し終えている。


 服を乱暴に千切る。

 もう撃たなきゃ終わる。


 揺れ動く重心。

 その中で、俺は引き金を引いた。


 連続で弾丸が射出される。

 だが・・・


 「・・・?」


 召喚王の周りの壁が弾けていく。

 弾丸が当たった痕だ。

 残弾数は・・・ゼロ。


 「・・・外したかぁ」


 諦念が俺を包んだ。

 後ろから、ケルベロスが俺を突き飛ばす。

 大魔石の傍まで長距離吹っ飛ばされた。


 「ぐっ、ううぅぅ・・・」


 痛みが全身を駆け巡る。


 「ああ、なるほど。そういう武器だった訳だ。貴様はそれを狙っていたんだな」


 体を何とか起こして、前を見る。

 絶望的だった。

 目の前には魔物がいて、背後には召喚王が。

 その後ろには大量のコウモリが結界壁に抑えられて控えている。

 魔剣は、俺の手と一緒に結界の中にあった。


 拳銃は弾切れ。

 手榴弾は3発とも使ってしまった。

 魔石すらもない。


 打つ手なし。

 もう俺にはどうすることも出来ない。


 終わり。

 これで?


 そうだ。

 最後はみんなあっけない物じゃないか。

 この世に生ける人間は、基本的に雑魚だ。


 俺も元々雑魚。

 持っている物がたまたま上質だから、こんなに戦えた。

 まあ、負けたけど・・・


 「いや、実に見事だった。あっぱれだ。手をなくしても俺へ立ち向かうその気概、気に入ったぞ?」

 「・・・」

 「手は元に戻してやる。だから安心して気絶しろ」


 ケルベロスが俺を睨む。

 すると、俺の首をひも状で取り囲むように結界が発生した。

 そのまま急速に結界が俺の首を絞めつける。


 「今度こそ抵抗するなよ。余計に苦しいだけだぞ?」


 ああ・・・俺は連れていかれるのか?


 何か・・・何か方法は?

 頭の隅で考える。


 もう意識が白んできた。

 白以外、何も見えない。

 どうしたらいい?


 無意識に手を探る。

 方法を探るために。


 人間は探究者。

 可能性の虜。


 俺だってそうだ。

 何かを探している。


 人間は探すのだ。

 知識を吸収し、陰りを超えて。


 探せ。

 探せ。

 探せ。


 頭が1つのことしか考えられなくなる。

 そういえば、何か綺麗な物がこの近くになかったっけ?


 そうだ・・・あの・・・綺麗な・・・


 意識を失う直前。

 俺の手に、硬い何かの感触が伝わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ