108話 大災害12~英雄と断罪者の戦い~
「待って、あなた!!」
俺が千を超える悪魔達に特攻をしかけようとした瞬間、綺麗な声が聞こえた。
知っている。
この声は知っている。
・・・マリアの声だ。
踏み出そうとした足を踏み留まる。
声の聞こえた方向に顔を向ける。
俺のすぐ傍に、マリアがいた。
ちょうど後ろ。
そこにいつもの雰囲気で、彼女が立っている。
・・・気が付かなかった。
「お前・・・」
「大丈夫、私に任せて」
そう言って、俺を歩いて追い越していく。
その先は、ラースの騎士団連中が進軍していた。
ヴァネールに至っては、もう炎を周囲に展開している。
魁偉の火のせいで、悪魔の軍団がメラメラと燃えていた。
「「止まりなさい」」
マリアのテレパシーが響く。
恐らく、俺だけじゃなく全員に。
「「止まらないと人質を殺すわよ」」
ピタリとヴァネールの動きが止まった。
合わせて騎士団の動きも停止する。
悪魔の心理を揺らす、説得力のある言葉。
マリアの含む言語には、重みがある。
その重みは、相手の動きを封じるには、十分なものだ。
「「ほう・・・マリアか。久しぶりだな」」
テレパシーを返したのはやはり、ヴァネールだった。
「「そこを退け。幾ら貴様でも、邪魔するのなら殺すぞ」」
威嚇の炎が天高く打ち上げられる。
恩があっても殺す、か。
奴らしい選択だ。
非常に非情。
奴が断罪者である理由の1つ。
「「この子達を巻き込みたいのならね」」
「「・・・?」」
それらはムックリと起き上がった。
魁偉の火によって。
微弱ながら、回復の能力もある特別な火だ。
エネルギーの枯渇でもない限り、比較的短時間で起き上がれるだろう。
体にはみなぎる力。
張り巡らされる気力。
起き上がれない者は殆どいない。
雪崩に飲み込まれた悪魔達。
グリード街の住人達が、一斉に目を覚ました。
次々と起き上がってくる。
まだ完全に動ける状態じゃないが、それでも立つには何の支障もないぐらいに回復している。
女子供含めて、健常な者ばかりだ。
これらは全て、俺達の敵だ。
起き上がれば、俺らを邪魔してくるだろう。
すぐに厄介な存在になる。
・・・本来ならば。
気絶していた悪魔達が起き上がった瞬間、ピンと硬直する。
みんな一様に。
誰かに操られるように。
「「そうか・・・!!そうだったな!!マリアァ!!!」」
怒りの声を荒げるヴァネール。
そりゃそうだ。
マリアは、起き上がったグリード街の住人全員を自分の支配下に置いていた。
洗脳で、だ。
意識が朦朧としている時なら、悪魔を操ることは比較的簡単とされる。
マリアなら造作もないだろう。
つまりだ・・・
これらが全部、人質ってことだ。
「交渉出来るのか?」
「まだ分からないけど、やってみるわ」
俺の声にそう答えるマリア。
ヴァネールの心は読めない。
何もかも燃やすあの炎。
あれが燃やせるのは、何も物質だけじゃない。
洗脳やテレパシーの概念を、選択的に燃やせる。
精神に干渉する能力自体を燃やせるのだ。
奴に洗脳は効かない。
心も読めない。
だから、交渉だ。
ヴァネールさえ操れれば、後は簡単な話だ。
奴を使ってみんなを殺せばいい。
ヴァネールが暴れれば、俺とウルファンス以外誰にも止められない。
だが、マリアでも操れない。
さらに言うと、ヴァネールの周りにいる隊長や騎士団を操ることも出来ない。
奴が炎で保護している間は。
だからマリアはこの選択肢を取った。
それだけの話だ。
グリード街の住民全員が、自分の顔面近くに手を添える。
全員の手に火球が出来る。
初級の火の能力。
このレベルなら、習っていれば子供でも扱える。
「「貴方達が引かないのなら、ここでみんな自殺させます。大人子供問わず、全て」」
躊躇わず流れるように口にする。
そのせいで、冷たい印象を持たせていた。
「「ここでこやつらを殺したら、お前も死ぬぞ?」」
「「いいわよ。そのかわり、この子達みんな道ずれだけどね」」
あえて自分の前に、子供を連れてくる。
意思のない目だ。
マリアが無理矢理洗脳を施したら、例外なくこうなる。
この状態の悪魔を見るのは、自分でも吐き気がすると言っていたが・・・
子供達が、足元に落ちていたガラスの破片を拾う。
それを自分の首に持ってきて、薄く横にスライドさせる。
血がうっすらと流れ出た。
「てめぇ!!!」
ヴァネールの後ろに控えていた、隊長と思わしき悪魔が怒号を発する。
能力を咄嗟に発動したのか、岩の塊がマリアへ向かって数発飛んできた。
俺はそれを剣で弾いていく。
「「・・・次やったら殺すわよ」」
その言葉で、騎士団連中が攻撃を行った隊長を抑え込む。
あれは・・・ロンポットか。
懐かしい。
確か、俺が隊長やってた頃は上級騎士だったな。
性格も悪魔には珍しく、陽気で強情だった。
悪魔ってのは普通、こんな心理戦に慣れていない。
心が直接読めるから、こんなまどろっこしいことはしなくていい。
だが、精神に干渉出来る奴か、ジャミング出来る能力者なら話は別だ。
心を操れるし、心を読ませないことも出来る。
心を読むという相互関係が基本の社会常識から、遠く外れた存在ってことだ。
だからマリアとこういう話が出来る悪魔は、基本少ない。
ヴァネールも例外の内に入る。
だから奴は警戒しておかなくちゃいけない。
「「ククククッ・・・」」
突然、奴が笑い出した。
「「マリアよ。お前はこの人質がワシ達に有効だと思ったのだな」」
「「ええ、もちろん」」
「「ククク・・・ハッハハハハハッ」」
豪快に笑いだす。
余裕?
それともポーカーフェイスか?
奴の考えが読めない。
「「ロンポット、お前が正しいよ。あいつらは殺すべきだ」」
「「・・・」」
「「この場で人間を逃したら、この先何人の同胞達が死ぬことになる?この街の住人の数じゃあ抑えが効かないだろうよ」」
マリアは黙って清聴している。
出方をうかがっている感じだ。
「「単純な損得勘定だ。ここで人間を殺そうとすれば、この場の悪魔が死ぬことになる。対して人間を逃がせば、この先これ以上の犠牲者が出る」」
マリアの表情が苦くなった。
ああ・・・
俺は戦う準備をする。
こんな時の為に、まだ能力の武装は解除していない。
維持するだけで大きなエネルギーの損失だが、油断は出来ない。
もう奴の攻撃範囲に入っているのだから。
「「2択。どちらが損になるか分かっているのに、これが交渉だと?クククッ」」
もう駄目だ。
俺は魔剣を構える。
マリアに合図を出して。
「「殺せえ!1人残らず殲滅しろおおお!!」」
一斉に騎士団達がこちらへ走ってきた。
剣を持って。
隊長格もそれぞれの武器を持って。
「はああああぁぁ!!!」
それを見て、グリードの住人達は自身の頭に突き付けた炎を真正面に向けなおす。
その方向には騎士団がいる。
・・・戦わせる気だ。
多分、連中は止まらない。
住人の戦闘力は期待出来ない。
騎士団の方が圧倒的に強いだろう。
だが、時間稼ぎにはなる。
住人達が、騎士団に向かって走り出す。
数は圧倒的にこちらの方が多い。
「ヴァネールを抑えて!!隊長と騎士は私で抑えるから!!」
「おう!」
魔剣を構えて、俺は風の翼をはためかせる。
ジャンプして、自ら作り出した風の軌道に乗っていく。
俺は空を飛んだ。
ヴァネールもそれを見て、炎を噴射させて空を飛ぶ。
距離10メートルの所で両者が止まる。
闘志と殺意の目が真っすぐぶつかる。
「よう、久しぶりだな」
「昔は共闘していたが、まさか戦うことになるとは・・・英雄よ」
「俺はこっち側についた。それだけだ」
「あの女狐が原因だろう。貴様程の男・・・わしを殺せる男が、こんなに落ちてしまうとは・・・悲しいものだ」
「言っとくが、人間のせいじゃないぞ」
「そんな筈はないだろう。人間が現れなければ、貴様は平凡にあの辺境で暮らしていた筈だ」
・・・コイツ、そう思っていたのか。
「なんで俺とマリアが一緒に仕事を辞めて、あそこで暮らしたか知ってるか?」
「・・・知らぬ」
「俺とマリアは元々知ってるんだよ。人間がいなくたって、こんな争いがいつか起こることを。お前だって覚えてるだろ」
その筈だ。
1回リセットされたこの世界の姿を覚えているのは、ジャミングの能力を持った悪魔と選ばれた悪魔だけだ。
今はこの事実を知っている悪魔は殆どいない。
ヴァネールも真実を知っている悪魔の1人だ。
「・・・もしかして、お前も何か企んでるのか?」
「・・・」
唐突にそう思った。
世界を変えた事実を知っているなら、人間を殺しても根本の解決にもならないことは知っているはずだ。
それなのにこの行動・・・
「ふん、だとしても貴様をここで殺すことには変わりないわ!!」
「だよなぁ!!」
火炎が、異常な速度で俺とヴァネール自身を囲む。
半径100メートル程の広さはある、球体上に形成された炎のフィールド。
俺はこの技を知っている。
「罪の裁定。これで貴様は逃げられない。ドレインでも貫けまい」
「・・・お互い手の内は知り尽くしてるもんな」
昔に邪悪種やら幻想種やらを一緒に殺していた仲だ。
それに、お互いの印象も強かった。
忘れる訳ないか。
周りはもう火しか見えない。
ドレインでも破れないと言うからには、相当な厚さがあるんだろう。
撃退か倒すかしか、脱出の方法はない。
それも俺はよく知っている。
「贖罪への恐怖」
言ってすぐさま壁から、炎の巨大な十字架を幾つも出す。
総数50本の武器が即座に完成した。
完成した端から、十字架が俺目掛けて襲い掛かる。
あの炎は、触れたらもう簡単には鎮火しない。
法則に反した燃え方をするからだ。
水は普通燃えない。
岩とか、風なんかも。
だが、この炎は全てを燃やす。
存在がなくなるまで、塵も残らず燃やし尽くすのだ。
あれに対抗出来るのは、同じランクの属性能力だけだ。
すなわち、ドミナス級の能力。
俺はそんな高尚な能力を持ってないから、全ての能力攻撃が無効になる。
水や土で攻撃しようものなら、逆に燃えて厄介なことになる。
結界も無意味だ。
かと言って、生身という訳にもいかない。
「いくぞ!!」
俺の魔剣に俺の持ってる全ての能力を通す。
自然干渉系能力12種。
身体干渉系能力8種。
全部合わせる。
ありったけのエネルギーを使い、チャントを付加して。
俺の体で、この能力を表現するのは無理がある。
だから魔剣に集約させる。
全部出力の負担を魔剣に持っていかせる。
普通の魔剣なら耐えきれまい。
だが、俺の魔剣は別だ。
1千年物の格別に強力な代物。
これだけが、俺の全力を耐えきれる武器なのだ。
俺の大剣に、黒い霧のような物質が纏わりつく。
俺が全力を出した時にしか拝めない、異常物質。
これを見た奴は、ヴァネールとクルブラド、それとマリアしかいない。
後はみんな死んだ。
これで勝てなかった経験はない。
皆無だ。
それだけ、この能力が異常なのが分かる。
ただ、1桁台の72柱に向けて使ったことはない。
さて、どうなるか・・・
魔剣に能力を通し終わる。
その形は変わっていない。
ただ、色だけが変わっている。
漆黒の黒。
全てを飲み込まんとする強欲の色。
悪魔にはまだ理解出来ていない法則で編まれた固有の能力。
「偉大な意思の具現 」
俺の場合、この能力は安定していない。
だから、剣を維持するのに莫大なエネルギーを使う。
長くて5分。
それが俺に残されたタイムリミット。
ヴァネールのじいさんもそれを分かってる。
俺自身もよく自覚している。
だから短期決戦だ。
最初から全力を叩き込む。
向かってきた十字架を剣に当てる。
触れた瞬間、黒い魔剣は燃えることなく十字架を弾いた。
よし、いける!
行く手を塞ぐ炎を魔剣で切り払っていく。
普通ならこうはいくまい。
一気にヴェネールへ接近する。
「ふんっ!!」
十字架が一斉にパンッと弾ける。
それは輝く炎の玉となって、辺りを無数に浮遊する。
炎の玉が一気に俺へ高速で向かってきた。
四方八方から複数のガトリングガンのように連射してくる。
動きを止めて、弾いていく。
結界では防げないから、かわすか剣で受けるかしか選択肢がない。
狭められた可能性。
なら!
「黒衝!!!」
叫んで黒い衝撃波を剣から放つ。
俺の能力を分離させて、衝撃波にした攻撃。
これもヴァネールの攻撃を弾ける。
「おらああああ!!!」
次々と黒い衝撃波を飛ばしていく。
連射された炎の玉は、攻撃の勢いを削ぐことも出来ずに散っていく。
二重にも三重にも炎の壁を相手は張っていくが、それすらも抵抗なく突き破る。
届いた衝撃波をかわしていくヴァネール。
防御することは困難だと思ったのか、俺の背後にドラゴンにも匹敵する規模の炎龍を出現させた。
「邪魔だっ!!」
炎龍の牙を掻い潜って、首を切断。
消滅させる。
今の俺は能力に守られている訳じゃない。
あくまでこの炎に通用するのは、この黒い能力・・・闇の意思だけだ。
通常の悪魔に対してなら、絶大な効果を持つこの武装だって何の意味もない。
結局は攻撃自体をかわすことも多い。
俺の防御力は身体に依存していると言う訳だ。
当たれば燃える。
1度燃えれば消火出来ない。
緊張が俺の体を駆ける。
いちいち龍に構っていられない。
俺は魔剣をブーメランのように回転させて投げる。
魔剣の通り道の後に炎は一切なく、根こそぎ消滅させていた。
それと同時に風の翼をはためかせる。
ジェットのように風を噴出させ、ブースト。
投げた魔剣以上の速度で一気に抜ける。
回転している剣に追いついて、うまくキャッチ。
もう目の前には、炎帝紅魔を構えたヴァネールがいた。
ブーストの運動エネルギーを殺さず、そのまま突っ込む。
魔剣でいつでも攻撃出来る姿勢で、肉薄した。
最初の一振り目が相手の剣で受け止められる。
俺の黒い能力はドレインも含まれている為、炎帝紅魔の火炎が魔剣に収まる。
「目障りな炎はこれでなしだ!!」
言いながら斬撃を浴びせていく。
ヴァネールは剣をズラして重心を細かく変える。
空中に浮かんでいる状態だから、体制を崩されても修正は十分効く。
だが、攻撃に移るまでのタイムラグは発生してしまっていた。
コンマ数秒で、10を超える刺突が眼前に迫る。
魔剣で細かく捌くが、最後の突きが異常に加速する。
柄の方で炎を噴射して、突きの速さを高めていた。
仕方なく体を横に反らす。
そこからヴァネールが、物理的な反撃に打って出るかのように追撃してきた。
一撃必殺を狙って首を斬撃が掠める。
追撃を離す為に、俺はバックステップする。
だが、後ろから炎の龍が大口を開けて接近していた。
よく見ると、俺とヴァネールを包囲している炎の壁から無数の龍が出現している。
「めんどくせえ!!」
黒い能力を拡大させて、龍の口を横に一刀両断。
後ろを見ず、咄嗟に前方へ風を放出。
相手へ接近する。
ヴァネールが流麗に剣を振るう。
振り向きながらそれを魔剣で受け止める。
その直後、ヴァネールは体術に戦闘スタイルをチェンジ。
足蹴りを俺に食らわそうとするが、残った腕で受け止める。
4段階の筋力増強を図っているから、楽に受け止められた。
蹴った足を強く握る。
ギチギチと音が鳴る程に。
ヴァネールが苦悶の表情を浮かべた。
奴の体は火の能力と反比例するかのように、弱っちい。
剣を振るう場合、炎を噴射して筋力をカバーしていたりと、ヴァネールは能力にタップリ依存している。
奴も、ある程度は筋力を強化しているだろう。
だが、俺程じゃないはずだ。
だからこそ、接近戦に持ち込んだ。
俺の有効な遠距離攻撃は黒衝ぐらいしかない。
近く近くで戦うことが、今の俺に勝機を与える。
ヴァネールが残った手に火を纏わせて手刀を仕掛けてくる。
それを見切って、腕の燃えていない部分を蹴りつける。
その衝撃でお互いが引き離される。
ドレインの効果がなくなったことをいいことに、手から連続で爆発を起こして追ってこないようにしてきた。
俺は魔剣に纏わりついている黒い異常物質を風でリーチを伸ばすように加工する。
距離を伸ばす度にゴソッと気力を持っていかれる。
早くも俺のエネルギーの底が見えてきた。
爆発で視界が塞がる中、リーチを伸ばした大剣でさっきの龍と同様一刀両断する。
線上に爆発が強制的に晴れる。
その先にヴァネールがいた。
「おおおおおおお!!!!」
ヴァネールの唸る声が炎のフィールド内に反響する。
魔剣を天高く掲げたかと思うと、俺の知っている限り単独戦で最強の技が放たれた。
「罪の殲滅」
奴の目の前に、巨大な炎の断崖が出現する。
縦横を余すことなく燃やさせた、かわしようのない純然たる殲滅技。
本来なら炎は防げない。
故にかわせない状況を作ることが、対個人戦での奴の切り札。
必殺の1つ。
燃え盛る炎の壁の向こう側は見えない。
守護統べる管弦の聖狐の出していた炎は透明度が高かったが、こっちは全くの逆。
全てを燃やし尽くさんとする死の属性。
究極に高められた1つの技。
俺はこれを破れるか?
可能性は半々。
生き残る可能性と死ぬ可能性が平等に分かれた時、正常な判断が出来るのだろうか?
ただ、分かることはここで背を向けて逃げ出すことは出来ないということ。
俺が生存する可能性は壁の向こう側だ。
さあ。
俺の資質に賭けてみよう。
「うおおおおおおお!!!!」
黒の物質・・・闇の意思をどんどん広げていく。
俺の中にあったエネルギーを食らい尽くさんばかりに。
命を守る為に、命を提供すること。
いいさ。
今だけは持っていけ!!!
「あああああああああああああああっっ!!!!!!!」
許す限り、闇の能力を最大限、そして限界値まで拡大させる。
その形は獣の頭部にそっくりだった。
荒々しい牙が生え、今にも全てを食い殺そうとする殺気がどす黒い色で構成されている。
もう炎の壁はすぐそこまでやってきていた。
「いけええあああああああっっ!!!!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
お互いの殺気がぶつかり合う。
その直後に莫大な力を持って、両者が激突した。
炎の壁は黒の獣を燃やし潰さんと迫り、獣は壁を構成しているエネルギーをバクバクと食い荒らす。
1メートル進む度に、1メートル分獣の腹に火が収まる。
黒い獣が必要とするエネルギーは大きすぎる。
一言でいえば、燃費が最高に悪い。
俺のエネルギーが枯渇するのは、一体何十年ぶりだ?
俺の目の前が真っ白になる手前か。
炎の壁の向こう側まで獣は穴を作った。
穴の向こうにいる奴を、確かに捉えた。
「ここまでとは・・・!!!」
驚いた奴の顔を瞳に写す。
もうこの目から離さない。
これで最後だ。
獣の構成を維持しながら、前へ倒れるように直進する。
決めた。
もう前しか進まない。
無駄な力はもう出せない。
そう思った。
獣が俺の意識が薄れると同時に、勝手に暴れだす。
自己の闘争本能を表出させながら。
抑えが効かない。
が、それでもいい。
進め。
獲物めがけて。
獣の牙がヴァネールの首まで近付く。
自動で。
野生的な動きで。
生きているかのように。
ヴァネールが炎の龍を真正面に打ち出す。
大技を出した直後で、よくもまあそんな技を出せるものだと思う。
獣と龍の口がお互いに食い合う。
だが、あっという間に均衡が崩れる。
獣は顔面を一口で食いちぎった。
分散した炎すらも咀嚼して、ゴクゴクと飲み込む。
その間も首を伸ばして奴に接近する。
もう攻撃は出来まい・・・と思ったのだが、炎を衣のように纏いだす。
せめてもの抵抗か。
「ガアアアァァァ!!!」
喉など存在しない筈なのに、獣は吠える。
そのままヴァネールの胴体に噛みついた。
「ぐっ・・・うお・・・ぐあ・・・」
体を激しく揺らす。
その影響で血が四散する。
痛みを感じるのは久しぶりなのか、苦しそうにしている。
「ぐおおおああああ!!!」
全身から炎を吹き出す。
全力の抵抗。
灼熱の塊。
だが、黒い獣はそれをものともしていない。
おいしそうに噛み続けるのみだ。
獣に含まれた闇の意思による沈静化によって、その炎すらも消えていく。
「おのれがぁ!!!」
憎しみを込めた声色で、手から赤色の光が漏れだす。
炎の色とはまた違った輝きだ。
これは・・・
「させるかよぉ!!!」
俺は腰につけたナイフを、ヴァネールに投げつける。
だが、1歩遅かった。
ナイフに額が当たる直前、もう奴はいなかった。
同時に炎フィールドも消滅する。
視界が晴れて、周りの景色が映る。
そこには・・・
「マリアァァァ!!!」
無数の騎士達の屍の中。
3人の隊長格に拘束されて、血だらけのマリアがいた。




