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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第6章 地獄篇 グリード領グリード街
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107話 大災害11~英雄の本領~

 〜ロンポット視点〜


 「んだありゃ!!」


 見て呆然とした。

 晴れ渡ったウルファンス山脈にも驚いたもんだが、こっちはもっと驚愕だ。

 グリード街が、真っ白な土地になっていた。


 下りの斜面は地肌むき出し。

 明らかに、雪崩の痕跡だ。


 視線を街に移す。

 門がない。

 建物がない。

 ないないない!


 代わりにあるものが、突っ立って何かを踏みつぶそうとしている人型土の僕(ゴーレム)と、その周りにいる少数の悪魔だけだった。

 周りには戦った痕跡が幾つも残っている。


 「あれが人間を独占しようとしている一味か?」

 「多分。グリードの悪魔の残りは雪の中よね。みんな埋まってるの?」

 「それっぽいぞ。早くしなきゃやばいんじゃないのか?」


 俺の発言に返答するエイシャ。

 空中要塞の生き残り同士、つるむ回数も多くなっている。

 それと言うのもあの人間のせいだ。


 仲間が大勢死んだ。

 そして人間は逃げ延びた。

 強大な悪魔達に連れられて。


 空中要塞が落とされた後、俺達は必死に人間を探した。

 結果、すぐにおおよその場所は見当が付いた。


 ウルファンス山脈の魔物が妙にソワソワしていることと、その数が急激に減っていることで、大体の位置が特定出来た。

 あの山脈に狩人はよこさない。

 普通の悪魔も立ち入らない。

 氷の女王様と異名をとるウルファンスが、あそこを長い間縄張りにしてたからだ。


 魔物が急に頭数を減らした時期は、丁度人間が逃げ出した後の時期と一致する。

 だが、それでも人間がいる確実な証拠とは言えない。


 普通なら小隊を引き連れて、敵を確認するところから始めるが、今回はそんなんじゃなかった。

 いきなり大規模な戦力を投入と来た。

 詳しいことは分からないし、人間が騒ぎを起こして以来、ルフェシヲラの徹底したジャミングで心も読みにくくなったから知りようもない。


 ただ、人間がいるとだけ俺は聞いている。

 俺はそれでいい。

 仲間を殺した罪を償わせてやると思っているからだ。


 そうして俺達はウルファンス城に到着したが、現地には誰もいなかった。

 もぬけの殻だ。

 隅々まで探したが、結局見つからなかった。


 そんでちょっと時間がたったらだ。

 手負いの悪魔がアックスを杖代わりにして、こっちまで来たんだ。

 ソイツは、グリードの魔王が抱えてる部隊の一員だった。


 聞くと、たった今もグリード街が攻撃を受けていること。

 そのメンバーの中に、人間と72柱のメンツが混じっていることが分かった。


 聞いた直後にテレパシーを送ってみるが、誰も通じず・・・

 グリード街に設置されている固定型の陣を使って転移しようとするが、何故かそれも出来なかった。


 俺達は歩くしかなかった訳だ。

 そうしてたどり着いた先の光景。

 俺にとっては信じがたい景色だ。


 「おい、あそこで戦ってるのって・・・」

 「・・・英雄か」


 ヴァネール様が、珍しく口を開いた。

 俺も思わず驚いてしまう。


 「ダゴラス様・・・なんで・・・」

 「ロンポット」


 エイシャが俺の肩に手を置く。


 「こんなことも想定してたでしょ?」

 「こんなことってなんだよ。みんな人間が来てからおかしいぞ、これ・・・」

 「全部、人間のせいよ」

 「・・・クソッ」


 腹立たしくなってきた。

 今すぐ人間を殺したい。

 何で、檻の中にいた時に殺さなかったんだ。

 俺はずっとこのことで後悔していた。

 その後悔も、もうすぐ消える。


 「おい、ジャクタム。ゴーレムの中に誰が乗ってるか探知出来るか?」


 ジャクタムの役割は主に敵の諜報、探知だ。

 戦闘には適していない、隊長格のサポーターと言ったところか。

 ちなみに、ウルファンス山脈の魔物の動向を察知したのはコイツだ。


 「・・・もうちょっと接近しないと分からんよ。オレの能力は障害物があっても見通せるけどな、誰が何をしているかの詳細を知りたいなら、近くじゃないと無理なんよ」

 「じゃあどんくらいだよ」

 「せいぜい100メートル以内」

 「敵の攻撃範囲に入ってるじゃないかよ」


 敵がダゴラス様なら、その10倍は攻撃範囲が広い。

 そんなんじゃあ役に立たないじゃねえか。


 「仕方ないだろうよ。じゃあ、お前がやってみるか?」

 「・・・」


 ・・・言い返せなかった。


 「そこまでそこまで。もう敵はすぐそこなんだよ?気を引き締めないとさぁ・・・」


 割って入るのはレイディだ。

 今のメンバーの中で、ヴァネール様に次いで強い女騎士。

 ララ様程じゃないが、確かに強い。

 俺が3人いたとして、束でかかっても敵わない。

 狩人でもあるが、今は騎士が着る重厚な鎧を全身に装着している。


 「今、すごくイライラしてると思うけど、それは全部敵にぶつけるものだと思うよ?」

 「・・・確かに」


 そうだな。

 そのとおりだ。

 ここで相手に文句を言って、ストレスを発散させるのはよくない。

 ・・・さっきまでの俺だ。


 「戦闘の準備はしておいた方がいいね」


 エイシャがみんなに伝える。

 もう敵の気配がすぐ近くだ。

 敵側には72柱もいる。

 ヴァネール様が先陣を切るとは言え、十分に注意しなくちゃいけない。


 「人間、もう少しで殺してやるよ」


 俺は自分の武器である愛用のハンマーを用意して、歩き出した。



 ---



 〜ダゴラス視点〜


 マールと俺の戦闘開始から5分後・・・


 「ハハハハハハッ!!!!」


 マールが笑っていた。

 高らかに。

 俺に心臓を刺されている状態で。


 戦った満足感からだろう。

 結果は関係ない。

 こいつは自分の欲求を満たすことに喜びを覚えた。

 それだけだ。


 「ハハハハ・・・やっぱり敵いませんか」

 「お前、負けるって分かってただろ」

 「・・・」


 答えない。

 だが、そのすがすがしい顔が答えを物語っていた。


 「じゃあな」


 勢いよくマールの胸から魔剣を引き抜く。

 それに伴い、マールの血が吹き出た。


 「ハァ・・・」


 少し疲れた。

 自分よりも年上の悪魔を殺すのは慣れない。

 敬意を払っているからだ。

 自身より経験を蓄えている者は、それが愚かだとしても尊重すべきだ。

 それがないのが戦場。

 分かってはいるが、疲れる。

 疲れるものはしょうがない。


 そして見る。

 ウルファンス山脈の方向を。


 大量の悪魔が隊列を成して、グリード街の方へ行進していた。

 最前列にいるのは72柱の断罪者、ヴァネール。

 他にもラースの隊長がいる。


 確か、1人悪魔を逃がしてたな。

 あのアックスを持った悪魔。

 奴がもし、俺達がグリード街を襲っているのを知らせたら・・・


 ヴァネールのじいさんが、山脈にいる俺達を追ってきていることは事前に分かってた。

 山脈に目星を付けていたなら、勢力を総動員してウルファンスの領域に潜入してくるだろう。

 彼女と戦う為に、多少の犠牲もいとわない覚悟で。


 だが、その情報が間違っていることは考えなかったんだろうか?

 普通は様子見で、少数の戦力を送っていく筈だ。

 なのに、今いるのは騎士団に所属している殆どの悪魔達を導入している。

 ここに俺達がいることを確信していないと、まずこういう行動にはでない。


 ・・・索敵能力を持った悪魔に探索させたか?

 にしたって、広範囲の探索は難しいはずだ。


 クソッ。

 よく分からん。


 こうして思考している間にも、騎士団は刻一刻とこっちへ近付いている。

 時間がない。

 俺もこんなに相手は出来ないだろう。


 72柱がいないのであれば、何とか出来るかもしれない。

 が、ヴァネールがいるのなら望みは薄い。

 殺すのにどうしても時間がかかり、なおかつ全力を出さないといけない相手だ。

 全力であるなら、俺はタイマン専門の固有能力を使うことになる。

 その上で、騎士団の隊長や騎士達を相手に出来る訳もない。


 「・・・でも、やれるだけやるしかないんだよなぁ」


 結局それだ。

 自分に今、出来ることをやるしかない。


 遠方から膨大な炎がこちらへやってくる。

 ヴァネールだ。

 あのじいさんの魔剣から、次々と際限なく放出される炎。

 それは波になり、先ほどのウルファンスが起こした雪崩のように、一気にグリード街へ流れた。


 この世界で最強の火が、街の全域を覆っていく。

 建造物を燃やさず、ただ雪のみを溶かして。


 能力の媒体主である、ウルファンス本人が死んだ今、それは抵抗もなく溶けていく。

 アイスアバターの破片ごと。


 炎で溶けて、水になり、水も蒸発してなくなっていく。

 なのに雪に埋もれていた建造物を燃やさないでいられるのは、アイツが世界で10番目に強いと呼ばれる片鱗だろう。


 そうして、あっという間にグリード街を埋めていた雪がなくなった。

 通常ならありえない早さで。


 雪に埋まっていたのは、何も建物だけじゃない。

 グリード街の住人達の殆どが生き埋めの状態だった。


 雪崩が起こってから、まだ30分くらいしかたっていない。

 悪魔の持久力なら、十分に生きているだろう。

 つまりだ・・・


 上空でドラゴンと戦っていた神聖種が口をガッパリと開く。

 おびただしい数の犬歯を覗かせる中、ヴァネールにも匹敵する量の透明度が高い炎を四方八方に吐く。

 着弾先は、もちろん雪崩の雪から解放された街の住人達だ。

 薄い炎は雨のように街全体に降り注いで、無数の悪魔達を燃やす。

 ・・・燃やして、目覚めさせる。


 「ふぅ・・・」


 1回深呼吸。

 これでまたさらに敵は増えた。

 火と骨腕の部隊は殺したから、今目覚めるのは弱い奴らばかりだ。

 赤子の手を捻るように処理出来る。


 ・・・だが、強化の火があるんなら、話は別だ。

 1人1人の強化幅は大したことがない。

 余裕で倒せるだろう。

 だが、この数を同時に強化されたら、厄介になること間違いなしだ。

 しかも、魁偉の火(タクティクスフレア)はウルファンス山脈にいる騎士団全員にも降り注いでいた。


 ・・・はっきり言って、危うい。

 死ぬかもしれない。


 だけどなぁ・・・マリアの頼みだからなぁ。

 断る訳にはいかない。

 それが、俺がここにいる理由。


 マリアの為なら俺は死ねる。

 なら、戦ってやるよ。


 魔剣を構える。

 陰豪鉄鎖。

 この魔剣は筋力強化と気配断ちの能力が付加されている。

 それに加えて、転移の陣を刀身に仕込んである。

 いざとなれば、転移を使って脱出は出来るが、使わない。

 俺の存在理由は、ここで試されている。


 「うおおおおおおお!!!!!」


 俺の背中に風の翼を発現させる。

 両の拳には炎を。

 体には岩を防具のように纏わせる。

 空いた片手に氷の剣を発生させる。

 そして、俺の周りに10体の水で出来た龍の水流を作り出す。

 追加で全身の筋肉を最大限強化。

 いつでも防御用の結界を作り出せるようにスタンバイする。


 まだまだエネルギーはストックしている。

 致命傷をもらわない限り、こっちは倒れない。


 「よしっ!!」


 準備完了。

 これが俺の本気の1つ。

 この武装で、俺は俺の敵を殺してきた。


 オールマイティーに能力を発動出来るのが俺の強みだ。

 どんな攻撃にも対応出来る。

 その為のエネルギーも十分ある。

 じゃあ、早速戦おう。

 

 「殺せるものなら、殺してみろよ!!!!」


 叫びながら、千を超える敵に向かって俺は駆けだした。

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