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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第6章 地獄篇 グリード領グリード街
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106話 大災害10~個々の欲望~

 ・袋小路の世界を変えましょう。

 貴方の願いは、前世で分かれた3つの意思に。

 同じ顔はいくつもいらぬ。

 本当の自分に目覚めたら、心は1つと知るでしょう。


 ・死の花を摘みましょう。

 死して横たわるは、鉄の味を知る貴方と彼女。

 看取るべきは世界の異端者。

 叶わぬと分かりきった願い事は、悔いなく潰れるでしょう。

 

 ・愛する者の為に還りましょう。

 過酷な道標の先に立つ、もう1人の貴方。

 全ては収束し、安らかな眠りにつくでしょう。

 魂が境界の彼方へと旅立つことを願って。


 ・不幸にも貴方は仮面を被る。

 二律背反の自身を守り、生きる理由を復讐に求める為に。

 世界が微笑みの天使で満ちる時。

 復讐は思い出と引き換えに、貴方を鼓舞することでしょう。


 ・人という穢れを残し、貴方は眠る。

 銀の獣に願いを託し、真実と共に貴方は眠る。

 頭に全ての命を抱えながら、痛みに耐えて静かに泣いて。

 かつて約束した旅立ちの日まで、愛した彼を見守ることでしょう。


 〜夜叉の猫・サスケ視点〜


 「・・・ウーン」


 ランティスの予言が書かれた紙を見て、溜息スル。

 相変わらず訳の分からない予言をするネエ。

 だからいっつもオレは戸惑うんダヨ。


 でも、具体的にどこへ行って何をすればいいかは教えてくレル。

 そんな訳でやって来た、ウルファンス山脈ダヨ。


 吹雪で寒いと言われてたから、覚悟して厚着してたけど、晴れてんジャン。

 お日様がキラキラ輝いてて、気持ちイヨ。


 視界もいいし、魔物もミナイ。

 なんだ、ここ通るの簡単じゃナイカ。


 地面に積もった雪はちょっと解けてて、靴がぐしょぐしょ音を立てテル。

 歩きにくいナァ。


 そんな調子でトコトコ歩いて行くと、お城が見エタ。

 大っきなお城ダ。

 これがウルファンスのお城カァ。


 ランティスのお家は小さいから、スゴイと思ウ。

 ウルファンスとランティスは同じ疎まれている者同士なのに、どうしてこんなにお家が小さいのダロウ?

 よく分からナイ。


 「えっと、こっちカナ?」


 お城には用はナイ。

 お城のお客さんを探さなキャ。


 ポケットから魔具を取り出ス。

 悪魔探しのアイテム。

 これで僕も道に迷わず済んダ。


 魔具にエネルギーを通ス。

 すると、すぐに送ったエネルギーが波紋に置換されて、周囲に広がっていくノダ。

 有効範囲は100キロメートルマデ。

 かなーり広いから、とっても便利ダヨ。


 そして見つける、悪魔の気配。

 ザッと数えて500はいるネェ・・・ッテ!


 「多すぎるヨ!!」


 あ、ソッカ。

 グリード街に行く奴らもいるから注意しろって言ってタッケ。

 ランティスが予言した彼らを殺すカラ。

 怒ってるんだ、仲間を殺サレテ。

 残った隊長格の殆どが集結シテル。


 第2隊長ヴァネール・アウナス・クリセレンプス。

 第4隊長レイディ・ハンター。

 第7隊長ウェルチマーナ・オムノス。

 第8隊長モーラン・ハムナ。

 第10隊長ロンポット・マーステル。

 第11隊長エイシャ・エンクレン。

 そしてその他大勢の騎士悪魔タチ。


 ざっとこんなモノ。

 みんな強いのバッカリ。

 特にヴァネール。

 断罪者の彼は怖いくらい怒ってルシ。


 でも、ラースの魔王はイナイ。

 どうしてダロウ?


 みんなゾロゾロと隊列を組んで、ある方向に向かっテル。

 多分、アソコダ。


 オレもそこに行かなくちゃイケナイ。

 なら、見つからないようにしてイコウ。


 気配断ちの結界を自分の体に合わせて張ル。

 足場が水混じりで、どうしても足音が立っちゃうけど、これなら大丈夫ダトオモウ。


 「ンジャ、道案内をしてモラウヨ」


 オレは彼らの後を、コッソリとついていくことにシタ。



 ---



 〜ダゴラス視点〜


 剣が腹を貫く。

 アマンダの黒い甲冑を突き抜けて。


 激しい攻防の後のこと。

 マールがいたせいでかなり難しかったが、ようやく1人処理出来た。

 後は持ってる剣で、心臓を斬れば・・・


 「シフィーイイイィィ!!!!」


 味方の叫びが突然聞こえた。

 声に反応して振り返る。


 「・・・!?」


 氷分身(アイス・アバター)が、ボロボロの状態で這いずっていた。

 上半身だけの氷の体を引きずって、何かの元へ行こうとしている。

 それは、血にまみれて重症の2人、シフィーとララだった。


 負けたのか!?

 ララまで・・・

 そんなに強い相手ではなかった筈だ。

 ララ程の悪魔が何で・・・


 「おおおぉぉ!!」


 俺のそうした行為を敵は見逃さなかった。

 アマンダが俺の剣を、無理矢理引き抜く。

 彼女が尻もちを突いたと同時に、俺とアマンダの間に巨大な岩の壁が出現した。


 「チッ!!」


 現れた岩壁をすぐさま切断して、壁の向こう側へ踏み切る。

 すでに彼女はマールに回収されていた。

 クソ、やられた!!

 だが、それよりも・・・


 ガンッと氷が砕ける音が広がった。

 土の僕(ゴーレム)の足が氷分身(アイス・アバター)を踏むのに合わせて。


 「まさか!?」

 

 大きな気配が消えたのを感じる。

 ウルファンスまで!?

 んな馬鹿な。

 あんなに馬鹿でかい力を持った奴なのに!

 これは・・・もう・・・


 焦りを押し込めて考える。

 ウルファンスがあんな反応を示す理由。

 彼女の私情。

 ・・・シフィー。


 そうか・・・

 彼女は・・・だからか・・・


 ならせめて、救おう。

 2人を。

 

 「うおおおおお!!!」


 マールが俺の進行方向に、溶岩でコーティングした岩壁を作り出す。

 素早く水の能力を発動して、数発放つ。

 水が当たった個所から溶岩はただの岩に戻る。

 そこを俺の剣で壁を切断。

 その先へ走る。


 マールの遠距離攻撃を振り切って、全力でシフィーとララの元へ急ぐ。

 ゴーレムが2人を足で潰そうとしていたからだ。


 あの巨大な足自体を何とかすることは出来るが、多大なエネルギーを消費しそうだ。

 現実的じゃない。

 2人をどうにかしよう。


 「霊性なる簡捷の俊足をエオー・スピーリトゥス!」


 足の全力強化。

 それに加えて。


 「霊性なる風よ(ラド・スピーリトゥス)!」


 能力を唱えて、膨大な風を背中辺りに出現させる。

 1対の羽のように展開して、走りながら羽ばたく。

 その際強烈なGに体が負けないように、緩衝用の風を全身に巻いておく。

 俺の全力の移動方法。

 速度はララのスピードを超える。


 ボンッと風が弾ける。

 風が破裂した直後、走っている両足が吹き飛ばされそうになる。

 それを強化した筋肉で留めて、ただまっすぐ走る。

 1歩踏み出す度に、ゴーレムの足跡と同じくらいの幅で跡が積雪に残る。


 そして、2人の元へたどりついた。

 膨大な推進力を打ち消すため、さっきの倍以上の風を進行方向に放出。

 体が引きちぎれそうな感触を全身に味わいながら、ストップした。


 「おい、大丈夫か!!!」


 2人の様子を見る。

 ララはシフィーの手当てをしていた。


 ララの方は大丈夫だ。

 命に別状はない。

 ただ、もう戦闘は出来ないだろう。


 問題はシフィーの方だった。

 片方の足と腕がない。

 残った腕も使い物にならない。

 そしてなにより、腹に開いた穴が深刻だった。


 内臓が複数抉れているのが穴から見える。

 腸も少しだけはみ出していた。

 本当ならドバドバ出血してるところなんだろうが、何とかララが魔具で持ちこたえている。


 今分かった。

 シフィーがきっかけで崩れたな?


 だが、責任を押し付ける気はない。

 みんな頑張っていた。

 なら、誰の責任でもない。

 シフィーからも謝罪の念が、俺の頭に届いていた。


 「お・・・か・・あさ・・・まが・・・」 

 「話しは後だ!!」


 ララを背中に背負う。

 能力で土を粘土状にして、俺の背中に固定する。

 シフィーは丁寧に両腕で抱きかかえて。


 もう俺達を踏みつぶそうとする巨大な足はすぐ真上に来ていて、純粋な残酷さを秘めた子供が、アリを踏み潰そうとするように殺そうとしていた。

 ・・・ウルファンスと同じように。


 さっきの要領で、風と脚力強化の同時行使は出来ない。

 2人に負担がかかるからだ。


 俺は土の能力で、10本の太い岩柱を雪の底から生やす。

 巨大な足の側面に合わせて。

 ガンッガンッガンッと音が響いた。

 ゴーレムの足を少しの間だが支える。

 作ったタイムラグを利用して、巨大な足の影から脱出した。


 「ハァ、ハァ・・・」


 上空を見てみる。

 ドラゴンと神聖種の狐が主人もなしに、勝手に戦闘を繰り広げていた。

 ・・・暴走じゃない。

 主人の指示を遂行しているのだ。


 ドラゴンの背中にマリアはいない。

 シフィーと一緒に乗っていたはずだが、どこにも見当たらない。

 ・・・脱出したか?


 シフィーとララは戦闘不能。

 マリアは行方不明。

 アイツはゴーレムの中で状態が分からない。

 ってことは・・・


 「残ったのは俺だけかよ」


 あ~あ。

 結局こうなったか。


 実は、こういう危機的状況は結構経験している。

 俺以外仲間はみんな全滅。

 1人だけ生き延びる。

 そんなの慣れっこだ。


 けど、その時は敵も全滅していた。

 今はどうだ?

 厄介そうなのが複数残っていた。


 ゴーレムに、魔王の側近1名。

 1人は俺が戦闘不能に。

 もう1人はララがノルマをこなしたらしく、生きている気配がない。

 神聖種はドラゴンが抑えているから・・・


 「1人と1頭か・・・」

 「ほうほう。ダゴラス様は1人になったようですな」


 いつの間にかやって来ていた相手が、対話をしてきた。

 マールだ。

 ・・・都合がいい。


 「戦いなれない奴も連れてきちゃったからなぁ。仕方ないさ」

 「ですがね、あのウルファンスまで殺られるとは正直想定外でしてな・・・」

 「だろうな」


 俺だって想定外だ。


 「実はですの、私、ダゴラス様と手合わせをしてみたいと前々から思ってましてな」

 「・・・」


 そうきたか。

 マールも実力的には72柱に近いものがある。

 自我がもう抑えきれまい。

 ますます都合がいい。


 「もう状況的に、俺とあんたが殺しあうしかないだろ。言われなくても戦うさ」

 「ほう!」


 俺の即答に喜ぶマール。

 戦いに喜ぶ・・・か。

 人間に近くなっている証拠だ。

 人柱落ちも近いんだろう。


 「丁度、魔王様も取り込み中ですからな。私にとっても大変都合がよろしい」


 見ると、土の僕(ゴーレム)の動きが止まっていた。

 そうか。

 アイツも戦ってるんだな。

 俺も気合を入れなおす。


 形としては、1対1の戦闘を所望している。

 この状況を作り出したかったから、まずアマンダに俺を攻めさせた?

 結局は俺と戦うことになるのだから、魔王の背信行為にはならないだろう。

 結果、魔王にも検知されない。


 「ま、考えたって仕方ない。俺は戦うしかないし」

 「分かっているではありませんか」


 ニヤッと皴のある年季の入った顔が笑う。

 老獪な面持ちが、若者のような好奇心を持つことの恐ろしさ。

 それは十分に承知している。


 「なあ、俺達が戦ったら、確実にこの2人、消し飛ぶだろ」


 シフィーとララを指さして言う。

 ララはその間もシフィーの出血を魔具で止めていた。

 ララと目で合図する。

 テレパシーは使わない。

 傍受される恐れがあるからだ。


 「貴方としては、この2人は巻き込みたくないと?」

 「察しが早くて助かる」

 「・・・いいでしょう」


 マールも自分の欲望には勝てないか。

 戦闘欲と言ったらいいのか・・・

 俺にもその欲求はある。

 実に魅力的ではあるが、とっくのとうにそんな衝動を打ち消す段階は克服している。

 俺はそんなレベルじゃない。


 「これを」


 そう言って、マールが魔石を投げてくる。

 キャッチして、表面を見る。

 転移の陣が精密に描かれていた。


 「転移魔石か」

 「左様で」

 「どこに繋がってる」

 「グリード城内部・・・ゴーレムの中にある、私の私室ですよ」

 「・・・安全か?」

 「安全ですとも。あそこには幾らか魔石も置かれているのですよ。彼女達であれば、それでその怪我も癒やせるかもしれませんな」

 「お前の部下は?」

 「いないですとも。元から立ち入りは私以外禁止なのでね」

 「・・・」


 魅力的な提案だ。

 だが、1つ気になることが・・・


 「それ、魔王を明らかに裏切ってるよな」

 「・・・ふふふ。そう思われますか」

 「お前・・・元からか」

 「ええ。人間の動乱が風の噂で流れて来た時、決心しました。自分の意思を尊重しようとね」


 そうか・・・

 もう落ちてたのか・・・


 そんなことを考えたなら、魔王が速攻でマールを殺しにかかるはずだ。

 断罪者を他領土から転移して。

 それがなく、今まで隠せたのだったら・・・


 「お前、ジャミングの能力があるのか」

 「当然でしょう。なければ私の企みが、グリードの全悪魔へ瞬く間に伝わってしまいますからな」


 ・・・・本当だ。

 このマールから伝わってくる感じ。

 嘘は言っていない。

 つまり、今現在ジャミングを使用していないことになる。


 「魔王に聞かれてるぞ、きっと」

 「いいのです。これは宣言なのですから」

 「宣言?」

 「ラースの英雄・・・72柱、第4位のダゴラス・ガープを殺して、私が成り代わるということですよ」

 「・・・そうかい」


 思わず溜息。

 そういえば、昔はこんな奴、沢山いたな。

 マリアが地獄中の悪魔達の意思を制御する前の話だ。

 人間であるアイツがこの世界に来たことで、前の時代にどんどん戻ってるな、こりゃ・・・


 「頭の切れる老人かと思ってたがな・・・とんだ思い上がりだったみたいだ」

 「誰しも自身の欲求には逆らい難いものでしょうに・・・せっかくの機会だ。使わなければ損でしょう。どっちみちグリード街はこんな惨状なのですからの」


 これはマールの言い訳だ。

 口実をそれっぽく作っただけだ。

 本当は戦いたいだけ。

 そんな気持ちがダイレクトに俺へ伝わってきた。


 油断は出来ない。

 溶岩は触れればそれだけで大ダメージ。

 簡単には殺させてくれないだろう。


 「ララ!」


 俺は振り向くことなく、背後の彼女に呼びかける。


 「これからお前達をゴーレムの中まで飛ばす。安全な場所だそうだ」

 「ダゴラス様・・・すいません・・・」

 「謝るな。とりあえずそこで気絶してるシフィーを助けとけ。お前なら、きっと・・・」

 「・・・はい」

 「よし」


 言いたいことを言い終えて、転移魔石を起動する。

 そのままララの方に置いて、数歩後ろへ下がる。

 眩しい赤色の光が俺の目に入った。


 しばらくして、転移の光が収束する。

 その中心に彼女達の姿はなかった。

 これで2人だ。

 思う存分戦える。


 「ではでは・・・」


 戦いのオーラが場を包む。

 プレッシャーをかけているつもりなのだ。

 俺もそれを気迫で押し返す。

 その流れから相手の出方を予想し、動く。

 それが強者との戦闘の基本だ。


 「始めましょうかのぉ」


 マールが杖を振る。


 背後にマグマの巨人が現れた。

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