103話 大災害7~アモンの神聖種~
〜ダゴラス視点〜
白兵戦における、戦いの極意。
それは危機意識を覚えた状態で、その反応を無視することだ。
これを言うと、よく言われる。
矛盾してますだとか、無理ですなどと。
無理なことはない。
戦いを何回も重ねればな。
今の地獄にはこうした機会はとんと少なくなった。
世界の安定化。
それが今の地獄を緩やかに蝕んでいく。
後輩の育成もままならない。
このままでは、遺伝子の中に刻まれた闘争本能は廃れていくばかりだろう。
幾ら悪魔の寿命は長いとは言え、それは良くない。
そうした点を踏まえて、短期間だがみっちり近接戦闘を叩き込んでやった。
アイツは筋がいい。
覚えも速い。
そしてあの特殊な技能・・・
でも、アイツにはまだまだ教えてやりたいことがかなりあった。
・・・心配だ。
「あ~あ、行っちゃったか」
アイツ、大丈夫かな。
1人にさせるのはやっぱ不安だな。
俺もこれが終わったら、駆けつけようかな。
でも時間がかかりそうだ。
目の前には、巨大化させた大剣を持ったアマンダと、溶岩を使うマールがいた。
どっちもララに匹敵する強敵。
マールに至っては72柱でもおかしくない実力だからなぁ。
「そんなに余裕があるのか、英雄殿」
「別にないよ、そう見えたのか?」
「そうだな。欠伸をして視線を逸らされれば、誰だってそう思うとは思わないか?」
「思わない」
ここでアマンダが威圧感をグッと上げる。
挑発したつもりもないんだがな。
対してマールは冷静沈着。
経験の差が出たか。
「ガンガン攻撃してゆけ、アマンダ。サポートしてやる」
「ええ、もちろん」
側近同士だからだな。
連携しなれている雰囲気だ。
ますますめんどくさい。
あの大爆発の後、俺はこの敵さん2人を出来るだけ氷分身から遠ざけた。
土の僕をこの場で抑えられる奴・・・つまり、ウルファンスを倒されたらこっちの負けだ。
それは非常に困る。
だから俺が引き付けた。
そろそろ神聖種が出てくる頃合いだろうし、この2人組はますます俺にしか手が負えなくなる。
エネルギーはまだまだ余裕。
十全に対処出来る。
「じゃ、行きますか」
俺が動くよりも前に、アマンダが大剣を振り下ろした。
ある程度離れていても、斬撃をお見舞いできる。
攻撃範囲が広いからだ。
遠距離でも白兵戦が通用するのだ。
それに、動きも速い。
威力も巨大化した分単純に上がっているだろうし。
厄介だな・・・
「てぇ、普通は思うだろうなぁ!!」
巨大化した大剣に向かって、大剣を思いっきり振る。
剣同士が接触した途端、衝撃波が生まれる。
その隙を狙って、溶岩が頭上から落ちてくる。
まるで噴火みたいだ。
「霊性なる守りの壁よ!!大いなる風よ!!」
片手で結界を張って、溶岩を直接防ぐ。
同時に風を大剣に纏わせる。
リーチを15メートルにして。
空気なので軽い軽い。
あっちみたいにわざわざ筋力強化なんてこともしなくていい。
切断力もこっちが上だ。
アマンダへ接近しなくても、この剣の長さならこの場で十分に届く。
アマンダの方向へリーチを伸ばした大剣を突く。
突く突く突く。
風の貫通力を恐れてか、アマンダは突きを横から弾く。
弾く弾く弾く。
ほら、隙が出来た。
「霊性なる炎よ!」
火を加工せずに、そのまま片手で放射する。
広大な劫火の海を。
視界が津波のように紅蓮に染まる。
「ぐっ!!!」
アマンダの方が火のランクは下だろう。
マグナス級か、それ以下か。
「いったん引け」
アマンダは指示に従ってバックする。
そこからマールは、またもノーモーションで溶岩を発生させる。
俺と同じ形状。
溶岩の海だ。
波のように襲ってくる。
これはダメだ。
せめぎあっても負ける。
実際、俺の広範囲に放射した火炎は熔岩にことごとく飲み込まれていた。
溶岩と火。
いくら大概の物質を燃やす4段階強化した炎と言っても、これは相当相性が悪い。
迫る溶岩を見ながら、無詠唱で足に筋力強化を施す。
負担はかかるが、言ってる暇がないからな。
素早く跳躍して、空中に結界を敷いて見下ろしていたマールに突っ込む。
「おらおらおらおら!!!」
飛びながら連続無詠唱で水の球をマールへ発射する。
が、それは突如現れた壁によって遮られる。
壁の弾力性を含んでいるのか、僅かに衝撃に対してたわんでいるように見えた。
「・・・ゴムか」
水にはゴムを。
火には溶岩を。
そういう対処法ね。
なるほど。
目の前で水をキャッチしたゴムの壁を、リーチを伸ばした大剣で斬り付ける。
ゴムは弾力性に富む故に、衝撃には強い。
その分切断にはめっぽう弱い。
風と相性が悪いのだ。
あっという間にガラガラとゴムが崩れていく。
「うお!」
崩れたゴムの欠片から、無数の棘が伸びてくる。
不意打ちか。
冷静にこちらへ伸びてくる棘だけを見切って斬り落とす。
途中、視界の端からアマンダが接近してくるのが分かった。
アマンダの方を振り向く。
ついで大剣と大剣が接触する。
その時、巨大な大剣の炎がまたもメラメラと荒れ狂った。
「・・・またか?芸がない」
「バーニング!!」
瞬間、大爆発が起こった。
「霊性なる守りの壁よ!!」
とっさに結界をキューブ状にして、周りに展開する。
ルフェシヲラと同等の結界。
いくらなんでも破れまい。
アマンダの攻撃を食らえば、普通は即死する。
単純な爆死だ。
が、それでも生き残る奴は生き残るだろう。
でも、生き残っても相手に不利な条件は残すことが出来る。
視界が光で埋まる。
耳が聞こえない、とかな。
・・・不意打ちにピッタリじゃないか。
丈夫な結界のおかげで、俺は無傷。
だから周りの状況を察知出来る。
上からでかい岩の塊が落ちてきているのが分かった。
爆発の余韻があるから、まだ結界は解けない。
剣で大岩を斬る訳にもいかない。
俺はキューブ状の結界を変形させて、立体的な三角形へと形を変える。
結界の1番上に圧力が加わるように、面積を出来るだけ小さく、丈夫に、鋭く。
爆発の黒煙を蹴散らしながら、大岩が三角形の結界にぶち当たる。
ガガガガと音を立てながら、岩が内部でどんどん割れていく。
やっぱり岩自体の硬度はそんなんでもない。
固有能力で鉄でも生成しない限りは。
岩の内部から光が差す。
赤い光が。
溶岩の海が大岩に続いて大量に落下していた。
「おいおい、容赦ないなぁ」
俺の結界で溶岩は長く耐えられない。
なら・・・
「霊性なる水よ!!」
結界を水で沈める。
そのまま水の規模を急速に拡大。
1秒程で、空中に浮かぶミニ湖が誕生した。
その湖の水を使って、ドラゴンの頭部を5つ形成。
水を能力で作り出しながら、ドラゴンの口でブレスと似た攻撃を作り出す。
溶岩が水に接触した途端、ジュワッと水蒸気が発生して、霧に包まれる。
溶岩が湖に突っ込む頃には、溶岩はただの大岩になっていた。
その調子でブレス状の攻撃を続けて、どんどん固まった溶岩を上へと押し返していく。
マールに向かって。
「流石に英雄か!!」
「そりゃどうも」
「させるか!!」
三者の言葉が交差する。
攻撃も同時に交差した。
アマンダがジャンプして、巨大な大剣で冷えた溶岩を一刀両断する。
あっちの魔剣、素の切れ味が高いな。
業物なんだろう。
湖の下から高速で岩のとげが俺めがけて伸びてくる。
地面の岩を変形させていた。
・・・水じゃあどうしようもないな。
再び無詠唱で、魔剣のリーチを風で伸ばす。
俺が作ったミニ湖ごと棘を大剣で一掃する。
中間あたりから、ズバズバ斬っていく。
上への牽制も忘れない。
片手でマトラス級の火球をいくつかぶっ放して、ちょっと気を逸らしたら・・・
「大いなる風よ!!」
風で空中を高速で走る!!
視界を線で捕らえて、点であるアマンダをしっかりと捕捉する。
同等程度の風を進行方向に発射して、スピードをゼロに。
その際体に強烈な負担がかかるが、気にしない。
岩の影。
死角からの接近。
アマンダにはもうどうしようもない。
首めがけて思いっきり無骨にフルスイングする。
よし獲った。
・・・と思ったが、マールに邪魔された。
拳ほどの石を飛ばして、アマンダの兜に当てたのだ。
首はあらぬ位置へと移動して、俺の大剣を寸でのところでかわした。
「ちっ!」
サポートが上手い。
悔しいが、流石だと思った。
それぞれが地面に着地する。
上ではマールが睨みを利かせていた。
「ほれ、アマンダ。今1回死んだぞ」
「・・・申し訳ない」
ああ、そういう関係かい。
そうかそうか。
「いやぁ~殺せると思ったんだけどな~」
「わしがいなかったら殺れただろうて。残念だな」
「本当に残念残念」
当のアマンダは少し息を切らしていた。
兜は弾かれて、素顔がまるまる見える。
生えてる角から推察するに、まだ若い。
しかも女だ。
よくここまで実力を上げたもんだ。
だが、バーニングとか言う技。
あれは結構なエネルギーを使うっぽい。
俺ならまだしも、アマンダが使うのは体に毒だろう。
普通なら、1発で枯渇して使えまい。
どこかに魔石を仕込んでいるのか・・・
「殆どの能力を4段階まで発動出来る万能の戦士・・・ラースの英雄。これほどなのか」
「驚くのはいいけど、まだ本気は出してないぞ~」
これ、冗談ではない。
本当だ。
余裕って訳じゃないが、まだまだギアは上げられる。
だが・・・
「ん・・・」
突然上空から赤い光が満ちていく。
・・・召喚の光。
よく見ると、召喚されたそれは9本の尾を持った白い狐だった。
「守護統べる管弦の聖狐か?」
現れた途端、白い狐の口から火が灯る。
そしてどこか弦楽器に似た鳴き声と共に、その火は俺の目の前にいたアマンダとマールへと着弾した。
音楽のように軽やかに。
ダメージはない。
むしろその逆。
脅威度が増している。
綺麗な透き通る火が、アマンダとマールを包む。
初めて見るが、これが魁偉の火なのか。
なるほど、火が着弾した途端に体力が回復しているように見える。
つけた傷が徐々に閉じていた。
・・・これ、エネルギーも回復してんじゃないのか?
「ああ嫌だ嫌だ。ウルファンスもとっとと攻めない筈だ」
魁偉の火による攻撃力の強化、及び傷の回復、エネルギーのチャージ。
白い狐野郎は、主に補助系の神聖種だと聞いている。
仲間の士気だって、そりゃ上がるだろう。
もし、雪崩で不意打ちをしなかったら、街の悪魔全員にこの能力がいきわたってたとこだ。
マリアの判断はやっぱり正しい。
俺なんかが口出ししないで正解だ。
「で、魔王様の応援をその身に受けて、どんな感想だ?」
「・・・最高だ。今なら出来ないことも出来る気がする」
ああ、興奮作用もあるのか。
確か結構な数の能力をミックスさせてるんだっけか?
4種類?5種類?
正確には忘れたが・・・
こんな時ぐらい、まじめに覚えておけばよかった。
まあ、それはいい。
今はコイツらを殺すことに集中しないとな。
神聖種の相手は青龍に乗ったマリアとシフィーだ。
俺はこいつらに集中しなきゃな。
「んじゃ、2回戦突入ってことで・・・」
こっちのセリフを待たずに、溶岩の波が襲ってくる。
「・・・殺ろうぜ」
俺はそう言った。
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〜シフィー視点〜
土の僕と巨大な氷分身が両の手を振って、殴りあっていた。
氷が砕け、岩が砕ける。
だがその度に再生し、殴り合いを再開。
これじゃあキリがない。
けど、それでいい。
私の隣にいるマリアさんは、黙って戦局を見守っている。
あの人間を送り出してからずっと。
そして、マリアさんの視線の先。
土の僕の胸部。
そこから1つの火が隙間からバラバラと飛び出してきた。
火の玉。
綺麗な火だ。
違和感のある感じ。
あの手の火は知っている。
何かしらの能力が混ざり合って起きる現象。
多分、お母さまが邪険にしていた生き物。
拡散していた火が集合しだして、1つの形に戻っていく。
9本の尾。
オオカミににた鋭い目つき。
純白の毛皮。
こんな生物2つといない。
魔王の神聖種だ。
間違いない。
「さて、シフィー!準備はいい?」
「もちろん。がんばりますよ」
久々の戦いだからか、緊張してきた。
落ち着かなくちゃ。
他の方々と違って、このポジションは命がけって訳じゃない。
だからこそ、みなさん以上に頑張らなくちゃね。
白色に光る狐が、コォンと遠吠えをする。
遠吠えしたその口から透明度の高い火が吐かれる。
火の玉だ。
仲間の補助に特化した効果。
凄い不愉快な能力だと、お母さまに聞かされたことがある。
聞いた通り、厄介そう。
「「シフィーお姉ちゃん!私達のお城のあった所に、いっぱい悪魔が集まってる!」」
ソフィーからの連絡。
人間をゴーレム内部に送った後、スフィー、ソフィー、スーランは山頂の私達の住まう城へと即席の転移で送った。
あの子達の役割は、山脈の監視。
援軍の状況確認。
そっか。
もうなのね。
あまり時間がないみたい。
「「分かったわ。ありがとう」」
マリアさんが返答する。
この報告を聞いて、実際に対処するのはマリアさんの役割。
私は彼女を守りながら、狐の相手。
マリアさんの能力は強力だけど、本人は無防備に近い状態になる欠点がある。
能力の運用次第では命を取られかねない。
1番被弾が少ないポジションだって、この状況じゃあ何が起こるか予想もつかない。
だからますます警戒しなくちゃいけない。
魁偉の火は浄炎不死の聖鳥程味方を回復する訳じゃない。
じわじわと気力、体力、エネルギーを自動で回復する、自然干渉系と身体干渉系が混ざった能力。
全身に装備することで、初めて効果を発揮する火なのだ。
その際筋力も微量ながら上げてくれる、優れもの。
こんなのを魔王の側近に装備させちゃったら、大変だろうな~、きついだろうな~とか他人事のように私は思ってた。
けど、言葉の通り黙って傍観してる私でもない。
私の働き次第で、ララさんとダゴラスさんの負担が減る。
その為の貢献が出来る。
ただし、うちのブルちゃんを使ってだけど・・・
「じゃあ行くわよ!!」
マリアさんみたいに能力で操れればいいんだけど、私にはそれは出来ない。
けど、指示をしてあげればちゃんと理解してくれる。
これは長年ブルちゃんを飼っていた家族の苦労の賜物。
ちゃんとしつけておいて正解だったと思う。
「全力でブレス!!」
命令に合わせて、ブルちゃんが口を開く。
最大出力のアイスブレス。
単純な攻撃だけど、出だしのスピードは速いし、攻撃範囲も広い。
おまけに強い!
私としては、開幕でケリをつけたかった。
あまり長引かせたくないから。
可視化された冷気が、広範囲に渡って展開される。
けど、核は一直線にナインテイルの位置へ。
よく見ると、相手の方も攻撃の準備は出来ていたみたいで、口からこっちと同じくらいの大きさの火炎放射を出していた。
お互いの攻撃が真正面から衝突して、輪っか状の波紋を生む。
こっちは全力の攻撃でやってるのに、攻撃を押せない。
押されてもいない。
両者の力が拮抗していた。
「ううっ・・・」
火傷を負いかねない風が、こっちにまで届いてくる。
ブレスと言うのは、火の玉みたいに単発的な攻撃じゃない。
攻撃を継続して行うもの。
だから、相手もブレスを使って来たらもう力比べになってしまう。
幻想種はそんじょそこらの相手には負けない。
とてもとても強いのだ。
でも、この狐はちょっとまずいかも・・・
そしてその直後。
「えっ・・・!?」
ブレス同士がぶつかって、その中心に大きな力のわだかまりが出来る。
熱いものに冷たいものを急にぶつけたら、どうなるか?
・・・水蒸気爆発。
目の前で、猛烈な爆発が起こった。
「きゃっ!?」
悲鳴。
平衡感覚が分からなくなって、目の前も真っ赤になる。
本気で危ないと感じて、とっさに私が持っている魔具を使って結界を張る。
私とマリアさんを密閉するように。
無我夢中だ。
「いった・・・」
少し火傷を腕に負った。
ヒリヒリして痛い。
真っ赤に腫れている。
でも、治癒能力を使えば何とかなる。
今はそんなことよりも・・・
私は結界ごしから目の前を見る。
まだ連続爆発が続いていた。
衝撃が凄まじい。
そんな中で、ブルちゃんは私の命令に従って、まだブレスを吐いてくれていた。
相手も火炎放射は継続中。
よって、爆発はまだまだ勢いを増している。
結界がピキピキ悲鳴を上げている。
慌てて補強に入る。
両手を結界に直接当てて、エネルギーを注ぎ込む。
「うっ!!」
外の環境が苛烈なせいで、能力の行使にどんどんエネルギーが吸い取られていく。
これは・・・長くは持たない。
これ・・・ツライよ。
ガリガリ貪り食うように、私のエネルギーがなくなっていく。
魔具を通して能力を使ってるから、少しは負担も軽いはずなのに・・・
「・・・まだ・・・終わらないの!?」
ブレス攻撃と爆発はまだ終わっていない。
ここで結界を解いたら、マリアさんごと私は死んでしまう。
でも・・・でも・・・
「もう無・・・理!!」
元々私は戦闘向きじゃない。
お母さまみたいに、勇猛に戦えないのだ。
もし、私に力があったら・・・
本当にそう思う。
でも、無理。
力が足りないからブルちゃんに乗ってるのに。
そんな想像は無駄よね。
そんなことを思いながら、結界が破れていくさまを見る。
ごめん、お母さま。
私、あっという間にやられちゃった。
その後私の全身は、連鎖する無慈悲の爆風に包まれた。




