102話 大災害6~人型ゴーレム~
ウルファンスの能力によって、殆ど凍結されたグリード城。
だが、壊れた訳じゃない。
凍っただけだ。
これが肉体であれば、もう動かしようもないだろう。
魔物、悪魔問わず、全て。
が、これは無機物に限りなく近い魔物だった。
意思はなく、誰かの意志によって駆動する。
その体に生命の息吹を感じることは全くなく、ただ建造物が動いている印象。
だが、その動きだけは生物を模倣したせいで、生物らしかった。
雪原の中から巨大な手が出てくる。
1本の腕、5本の指。
ただし、鉄と岩が混ざっている。
その手のひらは広げただけで住宅を1件まるまる覆い隠すだろう。
巨大なのだから、力もある。
力があれば、俺らの脅威だ。
だが、ここまで大きい魔物を倒せるのか?
疑問。
倒せるかどうか疑わしい。
疑ってしまう。
土の僕はもう片方の手も雪原から出すと、思いっきり両手を地面へ叩きつける。
音が先にこちらへ届き、衝撃が後からやってくる。
「うっ!!」
小さな雪の波紋が両の手から広がっていく。
衝撃波だ。
手を突いただけでこれか。
ララとダゴラスさんは、ララが上空に作った結界の床に退避している。
あんな場所にいたら、ひとたまりもない。
両手を使って、ズルズルと自身の体を雪から抜いていく。
周りに張り付いたウルファンスの氷を、バキバキ砕いて。
氷がまるで邪魔にもなっていない。
「大きすぎるだろ・・・」
思わず呟く。
足が出てきた。
大きい足が。
2本足で直立する。
のっそりとじゃない。
質量に反して、動きは極めて速い。
本当に人間みたいだ。
土の僕と上空にいる俺達の距離が近付く。
身長が高すぎるから。
コイツが手を伸ばせば、こっちにも攻撃が届く気がする。
・・・マリアさんの判断は正しかった。
城がどう変形してこうなったのか。
それは雪に大部分が埋まっていたから分からない。
が、前に見た城の形から大きく変化している。
山脈側にあった防護壁が、おおよそ魔物の胸の位置。
50メートルあった高い壁なのに、それを超えている。
普通、あんな質量の物体が直立出来る道理はない。
自重で立てない筈だ。
なのに、立っていた。
悠然と。
変わらないのは、大魔石の位置。
あのでかい魔物の頭上にガッチリと設置されていた。
俺の目標物。
あれを取れれば・・・
突如、ゴーレムは俺達に向かって腕を一振りする。
「ぐっ・・・!!」
腕の通過した場所から、猛烈な風が襲ってくる。
能力じゃない、純粋で物理的な風。
能力どうこうの話じゃない。
どう見ても、個人で戦えるレベルではなかった。
いくら72柱だって・・・
「大丈夫よ」
肩をマリアさんにポンと叩かれる。
安心させるかのように。
「まあ、見てなさい」
ウルファンスの方を見てみる。
彼女は笑っていた。
普通の笑みじゃない。
殺人鬼の笑みだ。
死に興奮する殺戮者。
テロリズムに心酔する狂人。
「「せいぜい巻き込まれないように、注意してなさいな」」
頭に響く彼女の声が歪だった。
恐ろしい。
恐ろしくて、気持ち悪い。
容姿はあんなに綺麗なのに。
ギャップが余計に俺を嫌悪感へ誘う。
ウルファンスの周囲に青い霧が発生した。
薄い霧。
だが、時間の経過と共に濃くなっていく。
水色が青へ、青が紺色へ。
絵の具が濃くなっていくように。
その霧が濃縮して彼女を包んだかと思うと、次の瞬間それは一気に膨張した。
透明度が高すぎる氷となって。
バキバキと、おおよそ氷が発するとは思えない音が聞こえてくる。
規模が急速に大きくなっていくのだ。
顔の部分から首が伸び、そこから上半身が生える。
上半身から氷柱が重なるようにして左右の手、下半身と成長を続けていく。
そして、終わった。
「・・・凄い」
そう。
巨大な魔物の目の前には、同等サイズの氷分身がいた。
透明度が高いせいで、分厚くても向こう側が透けて見渡せる。
それでも容易にその氷像を視認出来るのは、内部の光の屈折があるためだ。
キラキラと光っている。
周囲に雪がふっているようにも見える。
氷の女王。
そんな風に俺は見えた。
まさに異名通りじゃないか。
「はは、まるで怪獣映画みたいですね」
思わず軽く笑ってしまう。
・・・笑えない笑いだった。
「その例え、間違ってないわよ」
「・・・ですよね」
俺の冗談に、マリアさんが軽く笑いながら答えてくれた。
ウルファンスにこんな切り札があるなんて思わなかった。
しかし、エネルギーの枯渇の心配はしなくていいのか?
俺には、ウルファンスが能力を使いすぎているように見える。
でも彼女は余裕の表情だし・・・
ダゴラスさんと同じく、エネルギーの保有量が膨大なんだろうか?
「「来るわよ」」
マリアさんのテレパシーで、ハッと我に返る。
赤い光がまた視界に映ったのも理由の1つだ。
光の元を辿ってみる。
ゴーレムの右肩と左肩、そして頭上に1人ずつ強そうな悪魔がいた。
右肩に乗っかっている悪魔。
その悪魔はいかつそうな女性だった。
肩に輪っかの形をした大きな剣?を持っている。
赤色の刀身。
剣に違和感のある色が視認出来れば、大概それは魔剣だ。
コイツも魔剣使い。
左肩に乗っている悪魔。
銀騎士のような甲冑を全身に着込んでいる。
おかげで男か女かは分からない。
とりあえず重そうだ。
甲冑の色は黒。
漆黒。
色のせいで余計に重そうに見える。
背にはダゴラスさんの大剣に匹敵する程の大剣があった。
ダゴラスさんの魔剣は無骨そのもの。
鉄塊と表現していたが、コイツの持っている大剣は普通の悪魔が持っている剣を、そのままでかくしたような形。
それも刀身が赤い色に染まっている。
魔物の頭上。
大魔石のすぐ横に立っている1人の悪魔。
見た目は男の老人だ。
剣は2人のように持っていなかったが、代わりに立派な杖を持っていた。
木をそのまま削り出したような簡素さがあったが、それでも立派な代物。
先端には魔石と思わしき綺麗な石が固定されている。
なんだか魔法使いに見えてくる。
見た感じ、遠距離能力を使うのだろう。
今までの攻撃から予想するに、火か?
だが、さっきアックスの魔具を使っていた奴もいることから、火とも限らない。
・・・見た目じゃ判断がつかないな。
と、その老いた悪魔がいきなりノーモーションで、周囲から莫大な炎の塊を発生させる。
いや、炎の塊と言うよりかは・・・
「溶岩ですか・・・」
「固有能力者のマールよ。側近の中で最も強く、なおかつ1番ウルファンスと相性が悪い相手」
マリアさんの説明が入る。
あいつが1番強い。
ってことは・・・
複数の浮遊した溶岩が、風の能力によって唐突に真っ二つにされた。
その影響で溶岩から大爆発が起きる。
爆発の黒煙からヌッと黒い影が大剣を持って現れた悪魔。
・・・ダゴラスさんだ。
空中で風の能力を行使して、方向転換。
急加速して、杖を持った悪魔へ剣を振る。
だが、黒い甲冑を着た悪魔に剣を遮られる。
ガギンと鈍い音がして、その鉄塊のような剣は弾かれてしまった。
ダゴラスさんはウルファンスの操る巨大な氷の像の方へ。
ララももう片方の肩に合わせて乗っていた。
「力強ええな」
「当たり前だ!私を誰だと思っている。峻嶮の火だぞ!」
「知らねぇよ」
そんなダゴラスと、性別不詳の悪魔による言葉の応酬。
目の前には、ダゴラスさんの魔剣に匹敵する大きさの大剣を持った、黒甲冑の悪魔が盾のように剣を構えていた。
元々ダゴラスさんが獲物にしていた2人の悪魔。
それが丁度、集まった形だった。
峻嶮の火アマンダ、噴熔千変マール。
2人の固有能力者。
マールは岩と火の能力を使って熔岩を作る、遠距離環境破壊型の悪魔。
アマンダは身体成長能力である育めの能力と、火の能力を同時に扱う近距離殲滅型の悪魔。
どっちもかなり強いらしい。
ララでも2人がかりでこられると勝てない確率の方が高くなる。
だから、ここでダゴラスさんが出た。
おまけに、今出てきた3人は火の能力を扱える連中だ。
氷分身は火に弱い。
コイツらにウルファンスの邪魔をさせる訳にはいかない。
その為のララとダゴラスさんだった。
「うおおおおお!!!!」
アマンダが吠える。
すると、見る見るうちに大剣が大きくなり始めた。
体ではなく、剣だけが。
元々ダゴラスさんの大剣と同等の大きさだったのに、それを遥かに超える形状へと成長?していく。
大剣に付加されていた能力は、身体干渉系能力?
じゃあアイツは呪いを持っていない?
疑問が頭をすぐにかすめる。
が、そんなの無意味だ。
戦うのはダゴラスさん。
俺には別の役割がある。
そう、敵を分析するのは勝手だが、アイツじゃない。
俺には俺の敵がいるのだから。
アマンダの大剣は、15メートル程で成長を止めた。
・・・大きすぎる。
人の手には余る剣。
それを片手で、黒甲冑を着たアマンダは悠々と持っていた。
腕力強化をしなければ、こんな馬鹿げた大きさの大剣は持てまい。
複数の能力を行使しているのだろう。
かなり負担は大きい筈。
そう思った直後。
ビルぐらいの大きさの大剣が燃えた。
ゴウゴウと。
峻嶮の火。
見て納得。
あれは近付きがたい。
接近したら死ぬと分かっているからだ。
もうすでに、佇まいからして修羅のようだった。
「おうおう、お見事」
それを目の前にしても軽口を叩ける辺り、ダゴラスさんはやばい。
死を恐れていないのか?
こんな状況に慣れ切っているのか?
彼は自身の背丈程もある魔剣を構える。
いつもの体勢。
攻撃を待ち構えるようなポーズ。
攻撃を誘っているかのようだ。
「ラースの英雄と戦える日が来るとはな、嬉しいやら悲しいやら」
「英雄なんかじゃねぇよ。怪力バカが」
「ふむ・・・」
言ってアマンダは、ゴーレムの肩から跳躍する。
狙いはダゴラスさん・・・じゃなく、巨大な氷分身だ。
先にウルファンスを潰しに来たか。
「させるかよお!!!」
ダゴラスさんがそれを邪魔するように、道をふさぐ。
両者の剣がぶつかる。
巨大すぎる大剣と大きな大剣。
視覚的には、ダゴラスさんが押されるような構図。
なのに、両者の力は拮抗していた。
「霊性なる炎よ!!!」
巨大な刀身に燃えている火が荒れ狂う。
あれは・・・
「こっちもいくかね」
アマンダの背後で、複数の熔岩を生成したマールが杖を振る。
赤色の軌跡を描いて、溶岩が一気にダゴラスさんを襲う。
仲間を道ずれにしたか?
それとも何か方法があるのか?
考える時間はなかった。
溶岩がぶつかり、アマンダの炎が爆発を起こす。
二重の大爆発。
転移の光以上の閃光が俺達を襲う。
「ぐうっ!!!」
青龍の全身が揺れる。
空気の振動で影響を受けるのは俺達だ。
それだけ規模の大きい爆発。
巨大な者同士を挟んだ中心で起こったのにも関わらず、両者は衝撃に耐えていた。
吹き飛ばされることなく。
ただ、動きは流石に止めていた。
見ると、肩には誰も乗っかっていない。
吹き飛ばされたのか。
いや、違う。
遠くへ飛んで、戦っていた。
ララは残った悪魔、輪火の足エラと交戦。
ダゴラスさんは、アマンダとマールを相手にして。
視界が光で埋め尽くされているのに、ものともしていない。
ああ、これが強者同士の戦いなんだ。
強化された目を見開きながら、俺はそう悟った気がした。
「今よ!!」
爆風が襲う中、マリアさんが大声で叫ぶ。
そう、今だった。
タイミング的には絶好の瞬間。
ドラゴンの口には、あらかじめ仕掛けを施してある。
その仕掛けを解いて、シフィーは命じる。
ドラゴンの息吹・・・ありったけのブレスの中心に氷を作って。
ドラゴンのブレスで作られた青い風が、一直線にゴーレムへ伸びる。
その風に乗って、氷がぐんぐん速度を上げていく。
最大出力のせいか、爆風に影響されることなく真っ直ぐ進んでいく。
そして、着弾した。
ゴーレムの表面を、ガリガリとドリルのように削っていく。
貫通にはいたらない。
けど、それでいい。
ブレスで貫通力を上げた氷が、ゴーレムの中に入ってくれれば。
コンッとゴーレムの中から、音が聞こえた気がした。
物が落ちる音。
こんなに離れていても微かに聞こえたのは、強化した耳によるものだ。
「よし!届いたわ」
「転移魔石を用意して!」
マリアさんの言葉に反応して、俺はすぐにポケットから転移の陣が描かれた魔石を用意する。
エネルギーはもうすでに入れてある。
すぐにいつでも飛べる。
俺の転移先。
ゴーレム、グリード城内部へ。
魔王を殺す。
手が空いているが俺行くしかいない。
俺が殺すしかない。
この戦闘で、敵が手を離せないうちに。
援軍がこないうちに。
俺がこの手でけりをつけなければいけない。
・・・やるしかないのだ。
覚悟を決めろ。
ここからは1人だ。
戦う手段を得た。
戦う方法も短期間だが学んできた。
傍観者から抜け出て、俺も実行する。
非道の行いを。
何回も葛藤してきた。
自分の為に相手を殺すこと。
自分がいる為に争いが起きること。
けど、そのために俺は自分を犠牲にしない。
諦めない。
人とは自分勝手だ。
窮地に追い込まれたら、自分のことしか考えられなくなる。
それが人の本質。
他者のことを考えられるのは、余裕があるからだ。
自身のことを完全に捨てて、他者を救ったなら、それは聖者と呼ばれていい。
そんな人間は現世ではごく僅か。
そしてその聖人は異常者でしか成り得ない。
残念ながら、俺は聖人なんかじゃない。
ただの人だ。
どこまでも自分勝手な人。
エゴイストだ。
そういう生き物。
けど、それを受け入れてなお、しなければいけないことがある気がする。
・・・使命感のようなもの。
確信はない。
けど、心の中にそういったわだかまりを感じる。
自分を強化するたびに、新しい感情に目覚める。
影響が頭に残っているのか・・・それは分からない。
でも、そのかわり力はみなぎっている。
悪魔を倒せる力。
そして精神。
それが背中に背負っている武器から流れてくる。
なら、大丈夫。
行こう。
手に魔石を握る。
力を込めて。
すると、眩しい光が手の中からあふれてきた。
光が集まってきているのだ。
光の召喚。
転移の正体。
俺を運んで行ってもらおうじゃないか。
俺の体が光へと置き換わっていく。
その時。
「行ってらっしゃい。しっかり自分を取り戻してきなさい」
強烈な爆風の中で、優しい声が俺に届いた。
「・・・行ってきます」
瞬間、俺は光に包まれた。




