101話 大災害5~それぞれのやるべきこと~
ウルファンスの居城。
俺達の話し合いは、かなり長引いていた。
俺がこの世界の知識をまだまだ知らないからだ。
いちいちマリアさん達に説明を求めるのは、俺としても嫌な気持ちだった。
「・・・土の僕?」
「そう、ゴーレム」
マリアさんが講師のような目で俺を見てそう言った。
ゴーレムって言えば・・・
「神話に出てくる、土で出来たやつですか」
「間違ってはいないえ。けどまあ、現世の言い伝えとはちょっと違うけどね」
「少し違う?」
むむ。
よくゲームなんかでは人型とかが出てくるが・・・それとは違うのか?
「君が乗せられた空中要塞、覚えてる?」
「ああ、忘れる訳ないですよ。死にかけましたもん」
「そう、あれもゴーレムの1種よ」
「・・・あれが?」
「そう」
ゴーレムって言うか、あれはただの建造物じゃないか?
なんか違くないか?
「人型、城型、要塞型、いろんな形が合ってね、それ全部魔物なのよ」
「・・・嘘でしょ?」
「嘘じゃないわよ」
「いやいや、じゃあ俺、魔物の腹の中にいたってことじゃないですか」
空中要塞が魔物ってことなら、そういうことになる。
悪魔だって建物内にいたじゃないか。
「まあ、そういうことになるんじゃないかしらね」
「ええ・・・」
マジか。
俺、魔物の中にいたのか・・・
そこで俺の態度を見てイライラしたのか、ウルファンスが割り込んでくる。
「あんたねぇ、グリード領にもゴーレムいるのよ?今回相手する厄介な奴らが操ってくるんだからね?」
「グリード領にもあんな要塞みたいなやつが?」
「要塞じゃない。あの堅物が持ってるのは人型のやつよ」
「人型?」
「そう、人の種族を模したでっかい魔物」
・・・人間?
「なんで人型?」
「は?」
「いや、この世界なら悪魔とかなんじゃないか?」
「ん・・・」
ウルファンスの顔が、疑問に染まったような表情になった。
分からない?
それとも知らない?
マリアさんの方を見てみるも、彼女もご存じないようだった。
「まあそんなことはいいさ。今はそのゴーレムを倒す方法を教えなくちゃあな」
ダゴラスさんによって、会話が押れていく。
「マリアが空中要塞を落とした時、どうやったかお前さんは見てたか?」
「どうやって・・・」
確か、魔物の大軍を使ってたな。
「魔物を使ってました」
「ああ。そしてそれもゴーレム攻略の方法に入るだろうが、普通はそんな正攻法は通用しない。ていうか出来ない」
「・・・何故?」
「まず、大量に魔物を召喚出来ない。それに操れない。あの状況であんな馬鹿な方法で召喚を繰り返せたのは、召喚王がいたからだ。そしてそれをババッと操れたのは、そこにマリアがいたからだ」
・・・考えたらそうだな。
転移は莫大なエネルギーコストを消費する。
方法は分からないが、その法則を捻じ曲げて、大量の転移を召喚王は実現出来たんだ。
で、魔物を操る方法もこの世界ではかなり限定される。
結界か、調教か、洗脳。
ましてや、幻想種を操れるのはマリアさんしかいない。
あの2人だからこそ出来たことなんだ。
「それに、中で戦力をかき乱す奴も必要だな。ゴーレムと正面から殺り合うなら、幻想種だって死ぬこともありうる。攻撃を阻止したいなら、操縦席を狙うべきだ」
なるほど。
空中要塞で、その役割を務めたのが銀騎士か。
72柱なら操縦室まで突っ込むことも可能だろう。
それでも個々の事情があるせいか、ウロウロしてたけど。
殺戮の為か、ポポロを捕まえるためか、操縦室を破壊するためか。
目的は分からない。
けど、結局バルバトスは全部それらを達成してしまった。
中に入るのなら、そのくらい出来るような実力者でないと生き残れないのだろう。
「要塞型は主に、移動と守護に特化したゴーレムだけどな、今回の人型は戦闘に特化してる」
「・・・建造物が戦う?」
「そう、まるで俺達悪魔みたいにな」
・・・想像が出来ない。
ロボットみたいなのを思い浮かべれば良いのか?
「攻略方法は人型もそんなに変わらない。操縦室さえ押さえれば、ゴーレムは止まる」
「魔物なのに操縦室があるってすごいですね」
「悪魔に作られた魔物だからな。魔物の制御は必要だろ?コントロールの手段くらいは用意するさ」
「じゃあ、暴走とかしないんですね」
「しない。魔物の肉体を操作するのであって、命までは吹き込まない。だからマリアでも洗脳は出来ないし、調教なんて出来ない。意思がないからな」
「へぇ・・・」
つまり、人工の魔物ってことか。
作れたんだな、魔物って。
「今の俺達に魔物の大軍を召喚する方法はない。だから、あのでかちんを足止めする奴が必要だ」
「それ、私にやらせてちょうだい」
ウルファンスが挙手する。
言葉使いとは裏腹に、綺麗な動作で。
「どうせ魔王が操縦するんでしょ?だったら私がやりたい」
「あら、てっきり貴方なら操縦室へ行って魔王をぶっ飛ばしたい!って言うかと思ったのに」
「マリア、あんたは全部分かってるでしょ?そんな遠回しに言わなくても」
その言葉に対して、マリアさんは肩をすくめる。
大げさに、ニコニコと。
「じゃ、ウルファンスはゴーレムの足止めでいいな」
ダゴラスさんが全員に確認をとる。
反対意見は出なかった。
「でだ、周りの雑魚達は雪崩で一掃するから良いとして、まだ障害は残ってる」
「まだあるんですか?」
「魔王にはな、側近が必ずいるもんなんだ」
「ルフェシヲラみたいなですか」
「そう、そんな悪魔が4人いる。みんな手ごわいぞ」
げぇ。
まだ強い悪魔がいるのか。
確かに彼女は強かった。
嫌な性格してたな、あの女も。
「さっき言ってた、火と骨腕の部隊とは違うんですか?」
「違う。あれは主に街の守護を目的とした悪魔の集団だ。魔王の側近は、もうそのまんま魔王を守るってだけの目的で存在してる」
うわ・・・
ますます強そうだな。
「白兵戦に強い悪魔が、側近の対処に当たるべきだが・・・」
ダゴラスさんが辺りを見る。
ここで剣を使う悪魔は限られている。
俺も一応剣は使うが、俺じゃあなぁ・・・
「もう私とダゴラス様以外に適任者はないでしょう」
ララが鋭く発言する。
そう。
隊長と元隊長。
2人は魔剣を持って戦う剣士だ。
ララの言う通り、うってつけだろう。
「ララ、俺が騎士団にいた時吸血鬼化が不安定だったな。今はうまく出来てるのか?」
「ダゴラス様の迷惑にならない程度には。一応ヴァネールにも剣筋は確かだと言われたことが」
「ん~あのじいさんからもか」
「はい。吸血鬼化を維持出来る時間はそう長くないですが・・・」
「マリアから聞いた話だと、ラース街でじいさんから吸血鬼化が解けた状態で逃げ切ったそうだな」
「はい」
一瞬ララが、俺をチラ見した気がした。
視線をちょっと感じただけなので、よく分からない。
「まあ、素のままでもじいさんから逃げられる程度には強いってことだ。十分だろ」
ダゴラスさんは自分の膝を軽く叩く。
「じゃあ、魔王の側近は俺とお前な」
「はい」
「んじゃ、次」
「・・・次?」
「まだ邪魔してくる奴はいるぞ?」
まだいるのか。
雪崩で大半の悪魔を戦闘不能にするって言っても、それは雪崩もかわすことが出来ないような比較的戦闘力の弱い悪魔ばかりだ。
戦闘慣れした悪魔なら、自然災害くらい自前の能力で凌ぐのだろう。
「他に何がいるんですか」
「神聖種さ」
「サタンの空駆ける聖馬みたいな?」
「一応は」
ユニコーンか。
ソイツも強かったな。
空中要塞で、最後まで戦っていた神聖種。
72柱のバルバトスとも互角以上に戦ってた。
主人である魔王が気絶しても、暴走することなくサタンを守っていた。
「魔王は脆弱な存在さ。だから、古代から神聖種を飼いならしてるんだよ。もう何百年も魔王に調教され続けているから、洗脳と同レベルで自由自在なわけ」
そうか・・・
あれだけ従順なのも道理か。
「マモンが飼ってる神聖種は、守護統べる管弦の聖狐。魁偉の火って固有能力を使う神聖種だ」
「ナインテイル・・・九尾の狐?」
「そう、狐さ」
狐か・・・
九尾の狐って言ったら、前世では殺生石の玉藻の前が有名か。
いや、どっちかと言うとそっち系の言い伝えじゃないよな。
悪魔だから西洋?
「浄炎不死の聖鳥の使う癒しの火と似てはいるが、決定的に違うところもある。これが厄介なんだよなぁ」
何が厄介なんだろうか。
固有能力が強力なのは、俺も知ってるが・・・
「それは私がやるわよ」
マリアさんが名乗りを上げた。
「私が1番相性いいでしょ。軍団を扱う者と、軍団を補助する者。いいんじゃない?」
「でもお前・・・」
「大丈夫。まだまだいけるわ」
・・・なんだ?
今、会話に違和感を感じた。
これ・・・
「・・・分かった」
そうダゴラスさんは一言。
あまり乗り気そうじゃない顔。
ますます違和感。
けど、何故か追及する気にもなれない。
相手のコンディションを確認することは、作戦会議において重要なことだ。
体調を崩してしまって予定が狂ったら、命とりだ。
それを防ぐ為の話し合いでもある。
それは分かってる。
けど、俺は言えなかった。
・・・聞けなかった。
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火と骨腕の部隊は決して弱くはない。
全員魔物と戦いなれた強者ばかりだ。
雪山の魔物は、比較的強いものが多い。
麓まで降りてくることもしばしばだ。
だから追い返したり、討伐したりする機会は頻繁にあった。
確かな実力はあったのだ。
でも、72柱はそこらの魔物とは訳が違う。
単独で邪悪種とも交戦出来るし、討伐出来る。
だから、火と骨腕の部隊が全滅しても、何もおかしくはなかった。
「残ったのは魔王だけか・・・」
そう。
グリードの魔王、アモン・マモン。
悪魔の士気を高めることを得意とする悪魔。
本人も部隊が戦っている間は、ひたすらそれを見守っていただけだ。
だが、その表情はまだ悲観にはくれていない。
魔王自体の戦闘力はさほどもない。
むしろ弱い部類だ。
魔王に必要なのは戦闘力じゃない。
統率力だ。
世界を安定させる為の力。
それを守護する悪魔がいる。
それは領土の歴史によって、大きく守護団だとか、騎士団と呼び名を変えていた。
でも、悪魔以外にも魔王を守る物はもう1つ。
ゴーレム。
そして・・・神聖種。
ゴゴゴゴと地響きがした。
雪原全体が揺れている。
つまり、これは・・・
「シフィー、もうちょっと高く飛んで」
「了解」
マリアさんの指示を受けて、青龍を高い高度まで飛ばさせる。
攻撃の射程範囲内だからだ。
何からの攻撃がここまで届くのか?
それが魔王の切り札でもある。
「フン」
突然魔王の体が赤い光に包まれる。
おなじみ転移の光だ。
魔王クラスが、貴重な脱出用の転移魔石を持っているのは簡単に予想出来る。
別に驚くことじゃない。
そうして魔王は、あっさりと姿を消してしまった。
「「移動したな」」
ダゴラスさんのテレパシーが、俺の頭の中に響く。
下を覗いてみると、ダゴラスさんはこちらを見つめていた。
「「んじゃ、確認な」」
「「ええ」」
マリアさんが返答する。
いつもと変わらない調子で。
「「俺とララが魔王の側近達。ウルファンスはでかちんの足止め。マリアとシフィーは魔王の神聖種と戦闘」」
各々の役割。
こちらはどうしても少人数だ。
猫の手も欲しい状況。
最年少のスー君やソフィーまで、戦闘のサポートに入っているのだ。
なら、俺がでない訳にもいかない。
「「んで、お前さんは・・・魔王を殺す」」
俺のやるべきこと。
魔王の殺害。
無力化じゃない。
殺すのだ。
しっかりと。
「「うん、みんな確認オーケーね」」
マリアさんの言葉にみんなしっかり頷く。
俺はテレパシーを使えない。
だからダゴラスさんの言葉は聞くことしか出来ない。
けど、俺が深く首を縦に振ったのは、彼も分かってくれたと思う。
「「それじゃあ・・・やろうか」」
ダゴラスさんとララが立っている目の前の位置。
街の中心部、グリード城。
てっぺんの大魔石が光輝く。
光が増すと、地面の揺れも激しくなる。
そして、その大きな城がのっそりと起き上がった。




