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列島崩壊後

作者: 有宮休一

 かつて経済大国と云われたことが夢のようで、その光景を見てそのことを信用する者はいないであろう。

想定をはるかに超えるプレート型巨大地震が相次いで起こり、主要都市のビルは完全に倒壊し、各地の火山活動の活発化によって大量の火山灰が降り積もり、数年のうちに一面砂漠のようになってしまった。

生き残ったわずかな島民は周辺国の援助で各国に散らばっていった。

しかも、原子力発電所が列島全体で何基か稼働していたが、それらはすべてメルトダウンを起し、放射能の値が全国どこでも基準値をはるかに超える値で、人がこの先住める目途は全く立っていなかった。

それから地震活動は徐々に小康状態となって50年が経ったものの、列島全体は雑草と鳥の楽園となっていた。


そんなある時、その列島の周辺国のスラム街で何人かの原因不明の死者が出た。

しかもその誰もが朝、ベッドで足から血を流して死んでいたのである。

それがどんな原因で起こるのかは特に調査もされないでいた。

そして、その原因不明の病は、家畜にも伝搬し世界的に広がっていった。

富裕層にも死者が出るに至って、本格的に原因究明が進められた。

その結果分かったことは、直接の死因が肺細胞が急激な収縮を起し呼吸不全を起こすことで、原因は新種のヒルであった。そのヒルは特殊なアレルゲンを持っており、人間と牛やブタなどの家畜に対して強いアレルギー症状を引き起こすのだ。


またそのヒルは、夜行性で淡水や海水にも生存できるという性質をもっていて、その繁殖力がすざまじく、毎日のように卵を産んで一週間で100倍以上に増えるということであった。

ただ夜行性で光りに弱いため、ヒルというのに昼間は姿を現さないので、目にふれにくいだけであった。

 この新種のヒルがどこで発生したのか、という調査も進められた。

被害が広がっていった経過からして、その中心に位置する不毛の地である列島が疑われた。

放射能を遮断する防護服を着て、何人もの調査隊が派遣された。

列島には、火山灰の下を流れる薄暗い川や湖沼が多く存在して、そこにはやはり予測通り新種のヒルが川底が真っ黒になるほど見られた。

そこで考えられた仮説は、放射能によって突然変異を起こした新種のヒルが発生し、魚をとりにきた鳥にとりついて、その鳥が周辺に運んだのではないかということと、海水でも生息できるように進化したため、海流にただよって広がった可能性も考えられた。


駆除するといっても、飲み水の汚染や環境破壊となるため、これといった解決策が見いだせなかった。

家畜農家では、夜も煌々と電灯を点けたり、家畜を完全密閉するような建物を作るものまで現れた。

街は夜も明かりが点いているのに、人影はほとんどなくたまに見るひとも完全防護服で身を固めていた。

各家庭でも夜は電気が点けっ放しになり、電気料金は倍ほどに跳ね上がっていた。

しばらくして、強力な電磁波を照射すれば簡単に殺せるということが分かり、その発生装置でヒルを殺すという商売までできたが、それで絶滅するというにはやつらの数は多すぎた。

しかし、とにかく明るいところにいて、水道の蛇口をひねったときにヒルが出て来ないか、水洗トイレに潜んでいないか、だけを注意していれば、生命の安全だけは確保できていた。


そして一年後、アレルギーショックを起させない薬が開発され、あらかじめ注射すれば大丈夫になった。

それでもいつまた更なる新種のヒルが発生するかもしれないという恐怖から、発生源の列島のヒルを絶滅する作戦が開始された。

それは川や湖沼を中心に上空から、ヘリコプターで強い電磁波を照射するというものであった。

それは一年以上にわたって各国の軍が派遣されて徹底的に行われた。

河口にはおびただしい数のヒルと魚が流れ着き、上空からみると、列島に黒いふちどりが出来た。

これで一時の恐怖状態からは脱して、世界の人々に安堵の気持ちが広まった。


ところがそれからまた一年が経って、予防注射を打って明るいところで寝ていたにもかかわらず、ヒルにかまれて呼吸が止まって死ぬという事態があちこちで発生するようになった。

強い光りにも耐え、更なるアレルゲンを持ったヒルへと進化したのであった。

そとに出ると、すぐに足元や立木の上から取りついてくる。

そこで昼間でも完全防護が必須になったが、農作業などの外での作業は暑くて続かない。

始めの頃は、フルフェイスのかぶりものを外して額の汗を拭くようなことができたが、だんだんと防護服に何匹もとりつくようになってきて、肌を出そうものなら、尺取虫のように素早く動いて血を吸いにくるようになり、実質、外での作業はできなくなった。

これは家にいても同じである。やつらは、水廻りから容易に侵入してくるようになり、家の中でも防護服を着る必要が出てきて、今やごはんを食べることもトイレに行くことも命がけになってきた。


切羽詰った、主要10ヶ国の首脳は、南極の基地に逃れて連日のように対策会議を行った。

さすがにやつらも凍り付く南極までは追ってこれない。

備蓄した食料は半年程度であった。

小田原評定を繰り返すうちにも、10ヶ国のうち半数の国との通信はできなくなった。

つぎからつぎへとヒルにやられて、官邸ですらも持ちこたえられなくなっていたのだ。

最後の選択は、地球をやつらに明け渡すか、それともやつらを道連れに運命を共にするかということであった。

議論のあと採決が行われ、にくきやつらを生かしておけん、という意見が大半で、運命をともにするということが決まった。


そしてしばらくして、強烈な熱風が地球全体を多い尽くし、全ての有機物を灰にしていった。



                                                       <完>



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