きっかけ
その帰り道
俺は自転車を押しながら夏実と歩いた道を一人で歩っている
近所のおばさん曰く
「結構遠い街に引っ越しをした」らしい
それ以上はわからなかった
それから、一週間
ついに大体の人が待ちに待っていたら夏休みが始まる
夏休み前の最後のHRに先生が夏実について話した
先生曰く、本人の希望で話さなかったみたいだったけど
俺は納得が行かなかった
あいつの性格はわかってるけど
何も言わないでいなくなったことが
それに気付けなかった俺自身に腹がたつ
こんなにブルーな状態で迎える夏休みなんて初めてだ
「クソ…」
悪態をつくと同時に
「寺畑」
「稲村…」
「ちょっと、付き合え」
いつの間に終わってたHR
全然気づかなかった
友人の稲村 義孝が声をかけてきた
Yシャツの前を開け校則違反のTシャツをフツーに見せている
先生もその辺は結構ルーズで怒らない
そいつに誘われ誰かが鍵を壊した屋上に行く
扉を開けた瞬間に熱気が来る
僅かな日陰に二人して身を潜める
「暑いな
蝉もうっせぇし」
「…」
「落ち込むなよ、寺畑」
稲村は結構あざとい
理由を分かってるんだろう
俺はその言葉を聞き流しながら稲村の隣に座る
稲村はポケットから棒付き飴を出し舐め始める
「食うか?」
棒付き飴はそれしかないのか俺にくれたのはフツーの飴、グレープ味の
俺は何と無く受け取る
でも、舐める気がしなくてただ眺めていた
「ん…ありがと」
「あー…なんて言うか、お前は桜井を信じてやれよ」
「え?」
ーガチャ
「義孝ー?」
「お、竜司」
稲村の友人、匂坂 竜司が屋上の入り口付近で稲村の名前を呼ぶ
「あ、取り込み中?」
「少し待ってろ
すぐ終わるから」
匂坂にそう言うと稲村は俺に向き直り
「俺は、お前の気持ちも桜井の考えもわかんねぇ
馬鹿だからな
それに、本人でもねぇし
でも、戻ってくる
他のやつがそう信じなくてもお前は信じろよ
つか、探せよ
落ち込んでねぇでさ
意地になって探せば見つけられるだろ
それでも見つかんねぇなら諦めろ
な?」
そう吐き捨て
「じゃぁな」
と言って俺の返事も聞かないで匂坂の元へ行ってしまった
俺は一人残され壁に寄りかかり空を仰ぐ
「信じろか…」
今日の空はいつもの変わらないはずなのに違うものに感じだ
「うん…だよな…」
なんか、悩んでたのが馬鹿らしい気がしてきた
「サンキューな…稲村」
稲村って意外と考えてんな
下手に励ましてくるやつより
しっかりしてるわ
俺も馬鹿にできねぇな
とか、思いながら稲村から飴を口に含み思いっきり噛み砕いてやった
一気に口いっぱいにグレープの味と風味が広がった