俺たちの友達
「レベッカって言ったわよね? ねぇ行きましょ!」
「あそぼ! むこうであそぼ!」
わらわらとベッキーに駆け寄り手を引く女の子。
なんだっけ……えっと、確か、シャルロット。
と双子。
名前……名前…………ごめん忘れた。双子でいいや。
「えっ遊べるの? 何それー! 行くー!」
わたしに背中を向けているため表情は解らない(見えたところでカボチャだ)けど、嬉しそうな声でベッキーが言う。
「行こっ! 行こっ!」
と引っ張られるままにきゃっきゃとはしゃぎながらベッキーは歩きだした。
「ねぇアリスも行こうよ! お菓子あるって!」
「お菓子ってあんた……」
言いながらちらっと横に視線を流す。
わらわらに加わっていない、もう一人の男の子を盗み見るために。
この男の子(名前忘れた)はわたしよりも背が高いし、他の子たちより大人びている気がする。
だからこそ厄介だと思った。
正直わたしは、一緒に遊びたくなんかない。
早く帰りたいんだ。
「エドウィンもいこうよ」
双子の男の子のほうが、わたしの隣――エドウィンに言う。
彼は「んー」と首を傾げた。
「俺は後から行くよ。先行ってな」
「え~。でもわかったあ」
「よし、いい子いい子。シャルロット、ちゃんと二人のこと見てやれよ? あとあんま床汚さないこと! 解った?」
「はぁい」
「はーい!」
「……はい」
双子とシャルロットが手をあげて返事をする。
明るくと笑って行ってらっしゃいと手を振る彼は、なんだかお父さんみたいだ。
「レベッカちゃん、どうぞごゆっくり」
「ありがとう! あ、レベッカでいいよ。アリスも後で来るよね?」
「え……ん、多分」
「良かったー、アリスがいないとあたし困っちゃうよー。また後でね!」
男の子、エドウィンに挨拶を交わし、わたしに大きく手を振りながら去っていくカボチャ頭と子どもたち。何このシュールな画。
「別に、わたしなんかいなくても全っ然平気な気がするんだけどなあ……」
わたしの記憶の中よりもずっとずっと強くなった幼馴染の背中を見送り、ぽつりと呟く。そして自分はなぜ今こんな感傷的な気分なのかとちょっと引いた。センチメンタルな自分とかね。ちょっとキモいわ。
「さてと」
男の子が言う。
「俺はやることがあんだけど、アリスはどうすんの?」
「呼び捨てかい」
「ああごめん、レベッカにいいよって言われたから、つい」
「いや別にいいけど……」
さわやかに悪い悪いと笑う男の子。
エドウィン。
え、あってるよね?
金色の短い髪に、若草色の瞳。黒いズボンとベスト、シルクハット、それから白いシャツにオレンジのネクタイ。
それと……
「……ねえ、なんで右目に包帯してんの?」
異彩を放つ、真っ白な顔の包帯。
ハロウィンコスプレって言われたらそれまでだけど、なんか……うん。
「これ? 悪い記憶を封印するためかなー」
「…………」
うん。
なんか……うん。
聞かなかったことにする。
「エドウィン……は、どこに行くの」
「ははは、アリスも呼び捨てじゃねーか。俺は――ジャックを探しに行かないと」
ベッキーたちの声はもう聞こえなくて、あんなにざわついていた街も静まり返っている。
彼の声はしんとしたこの空間によくとおった。
「ジャック?」
「そう。この街の管理人。俺たちの友達」
そう言ったエドウィンの笑顔に、なぜか微かに背筋が震えた。
「アリスも来る?」
一歩、二歩、三歩進んだところでくるりと振り返り、若草色の左目が私を見る。
言葉自体はさわやかなだし、笑顔も明るい。口調に有無を言わせないような強さを伴っている訳でもない。なのに、なんだか、あの大きく虚ろな月を彼が背負っているように見えて。
……わたしは、いやだと言えなかった。