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がーる みーつ ×××!


 カボチャだ。


 カボチャだカボチャだ、カボチャだカボチャだカボチャだ!!

 いや別に喜んでる訳じゃないよ!? むしろパニクってんだよ!!


 幸か不幸かわたしの体当たりは随分効いたようで、カボチャ頭は路地にぶっ倒れている。逃げるなら今だ。しかし動けない、腰が抜けてるのかもしれない、ああああわたしのバカヤロー!!

 そうこうしてるうちにカボチャ頭はゆっくりと体を起こした。


 ぎゃああああ殺られるー!


 そう思いつつも目も閉じられないほど硬直してしまっている自分の体が憎い。

 覚悟を決めつつも来んな来んな来んなと心の中で唱えていると(覚悟決まってなかった)、奴は、起き上がっただけで本当にこっちに来なかった。来なかったかわりに、こんな事を言った。


「い、いたい……いきなり体当たりするなんてひどいよアリス……」



 ……えっ。

 ちょ、えっ。


 アリス……って、なんで、わたしの名前を?


 表情に不信感がにじみ出ていたのだろう、カボチャ頭はわたしの方に慌てたように寄ってきた。


「ちょ……来ないで! 来ないでッ!!」


 やっとの思いでそれだけ叫ぶとカボチャ頭はぴたりと動きを止める。


「なんでそんなこと言うの? アリス、あたしのこと忘れちゃったの……?」

「は!? や、やさっ、野菜の知り合いはいませんッ!!」


 ぶんぶんと手を振って拒絶の意を示すと、奴は――ぶわっと泣き出した。


 いや中の人がじゃなくてカボチャが。ん? 中の人も泣いてんのかな。とにかく、カボチャの目に当たる丸くて虚ろな穴の部分がこう……ぶわっと潤んでボロボロ泣き出したのだ。

 どういう仕組みになってんだそれ。


「ほんとに覚えてないの? あたしだよレベッカだよ、小さいころあんなに遊んだじゃん! ねぇー、アリスーアリスー、思い出してよお……」


 ぼたぼたと飴玉みたいな大粒の涙をこぼしながらカボチャは言う。


 ――レベッカ。


 その名前を聴いたその瞬間、まるで異空間に飛ばされたかのように鮮明な景色がわたしを包んだ。

 家の近所の公園、見慣れてるけど自分の家のものではない玄関、手描きの絵がたくさん飾られた白い壁。手をつないで歩いた登校の道。遅くまで遊んで眺めた夕焼け空。そして――

 ――ぐちゃぐちゃに泣きじゃくりながらも「またね」と手を振った、大好きだった、引っ越してしまった、幼なじみの、わたしの大親友の、女の子。


「レベッカ……? あんたレベッカなの?」


 そう言うと同時に、自然とわたしは立ち上がっていた。


 嘘だ、そんな訳ない。だってここはロンドンなんだ、気軽にふらっと遊びに来れる距離じゃないんだ、こんなところにいる訳ないんだ。

 でももしも、もしも本当に彼女だったとしたら――




「ベッキー……?」




 彼女のあだ名を呼ぶ。

 かつてその名前を口にしない日などなかったほど仲良しだった、彼女の名前を。


 その途端カボチャは、ベッキーは、わたしに飛びついてきた。


 そして――



「アリスうううううーっ!」

「ぐぉあっ」

「え?」


 ……首を傾げる彼女。

 地面に倒れて悶絶するわたし。


 思い出せベッキー、お前は頭に硬い硬い野菜をかぶってる事を。


 カボチャの頭突きをモロに食らったわたしは考える。

 コイツさっきわたしが体当たりしちゃったのこっそり根に持ってんじゃないだろうな……、と。



がーる みーつ 幼なじみ!



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