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girl meets ×××?


 明々と灯った家々の光とはしゃいだ子供の歓声、このふたつが楽しげに飽和する街並み。たまに、窓に光を遮る影が映るけれど、それ以外は人ひとり見当たらない。

 ただただ沢山の笑い声が絶え間なく響くだけだ。


 ここはたぶんテーマパークか何かだから勝手に建物に入っても文句は言われないだろうけど(keepoutとかstaffonlyとか書いてない限り)、手を掛けたドアノブはガチャガチャ言うだけで全く開かない。

 今のところ九連敗中だ。

 次開かなかったらもう建物は入れないものと考えた方が良いかもしれない、そう思って、そうならない事を祈って、ドアノブに手をかけた。


 ガチャガチャガチャガチャ。


「……」


 ……はい十連敗ィィィィィ!!


「なんだよこれ全然開かねえええー!! 開かないドアなんかただの壁じゃねーか! 仕事しろコノヤロォォォォ!!」


 ヤケクソになって勢いよく身体をひねってドアを蹴っ飛ばす。

 と同時に肘をぶつけた。


 ぐああああ痺れる、最悪だよもう、もう!

 腹が立ったから思いっきりガンガン蹴りまくってやった。

 しかし依然としてドアは不動である。


「……はぁ」


 わたしは諦めて目の前の建物を見上げた。

 わたしが両手を横に広げた長さよりもう少し広い幅の、五階建ての、レンガの建物。

 半円の直径の部分をそのまま下に平行移動した形の縦長の窓が五つ、中からの光と笑い声を漏らしている。


 ……不思議だ。光も笑い声も明るいものなはずなのに、わたしの気分は暗くて重くてちっとも明るくない。

 ハリボテみたいな歓声と光はすごく安っぽくって、かえって不愉快に思えてきた。わたしの気持ちも知らないで。そんなやつあたりのような気持ちもなくはなかったと思う。


 わたしは仕方なくまた足を出した。ドアではなく道路の方に。

 別に家の中以外でも誰かいるかもしれないしね! うん!


 ていうかさあ、と自分自身に言い聞かせる。よく考えてみれば、あの声や影は恐らく機械から出ている演出なのだろう。

 なーんだ。じゃあ開かなくて当然だよね。


 歩く歩く、枯れ木の並木道の真ん中を、家と家の間の路地を、水の止まった噴水の前を。

 歩けど歩けど、そのどこにも人影は見当たらなかった。


 何だこのテーマパーク、経営大丈夫なのか。というかわたし入場料とか払ってないけどいいの? キャンペーン中とか? でもそれでこの客入りなんだとしたら、部外者のわたしですら涙が出てくるよ。


 ――と。


「ん……?」


 かつんかつんとパンプスが石畳を鳴らしていた音が止まる。

 少しだけ来た道を戻る。


 ――今、何か光らなかった?


 家と家の間の裏路地に入る。

 そのまままっすぐ進むと、わたしの見間違いではなかった事が確信できた。


 路地の突き当たりに、大きな鏡がかかっていた。


「……なんでまた」


 暗い狭い人気(ひとけ)がないの三拍子が揃ったこの状態で鏡とかやめてほしい。

 でも、ここに鏡があるのにも何か意味があるはずだから、少し調べてみようか。何か仕掛けがあるかもしれない。


 鏡はバスルームにあるようなものよりも大きく、わたしの足元の地面からわたしの頭上数センチを映している。

 サイドテールに結んだ茶色の巻き髪と黒いリボン、緑の目、黒とオレンジの膝丈のドレスに黒いパンプス。

 うん、わたしだ、間違いない。


 わたしは恐る恐る鏡に触れてみた。

 わたしの姿は暗い割にハッキリ映っているが、表面を撫でてみると指先に黒い粉のようなほこりのようなものがごっそりついた。


 ……あれだな。

 触った部分がみにょーんと歪んで鏡の中に吸い込まれるとか、そういうファンタジーの王道のあれはないみたいだな。……別に、ちょっと怖くなってきてたとか、そういうことは別にないんだから。


 不思議なことに、触れると指には汚れがつくのに鏡には汚れをすくった跡がつかない。というか鏡がピカピカで、触っても汚れなんかつかなそうな見た目をしているのだ。


 表面が綺麗に見えるんだから、指を這わせたところで跡がつかないのは納得できる。

 だけど、じゃあ、この汚れは一体どこから。


 にじみ出てきてんだろうかとアホな考察をしていると、鏡に少し違和感を覚えた。


 明るい。


 大通りから漏れる街路灯の光がこの鏡を照らしている唯一の光源のはず。

 でもそれはあくまで『大通りから漏れる(・・・)』光であって、この鏡を照らす(・・・)ことなど出来るはずがない。

 それも鮮やかなオレンジ色になんて。


 つまり――鏡にぼんやり映るこのオレンジの光は、街路灯とは別のものだということだ。


 もしかしたら誰かの懐中電灯かも。


 ぽっと灯ったようなその光に少し暖かみと懐かしみを感じ、振り返ってみた。……が、誰もいない。


 おかしいなぁと思いつつ鏡に向き直った瞬間。


 鏡に映る橙色の灯り。


 わたしの顔よりずっと大きいそれがわたしのすぐ後ろに映っていた。


「……ッ、いや゛あ゛ああああ゛あっ!?」


 うん。

 この十三年の人生の中でかつてないほどのデスボイスが出た。

 わたしの喉ってこんな声出るんだね、驚きだね。


 まぁそれはともかくとして、突如として急接近してきた光にビビったあまり、わたしはこれ以上ないほどの愚行をしでかしてしまった。


 鏡に映ったそれに驚いたわたしはとっさに鏡から離れようととび下がった。

 がしかし考えて見てほしい。

 鏡に映った背後の(・・・)それにビビって鏡からとび下がって離れたらどうなるか。


 答えは一つ。

 不本意にもわたしは、それに向かって思いっきり体当たりをかましてしまったのだった。


 ついでに突然の背中への衝撃にまたびっくりして同じような事を繰り返し、今度は鏡に背中をぶつけた。アホすぎて泣けてくるね。


 情けない事にそのままへなへなと座り込んでしまったのだが、そこでようやく背後のあれの正体が理解する。



 それは、ハロウィンと(ニアリーイコール)で結べるであろう――『カボチャ頭』、だった。




girl meets pumpkin ?




―――――


≒ ←これを“ニアリーイコール”と読むのは日本だけのようです。

主人公は英国人なので、あれは日本語訳されたセリフだとお思いくださいm(_ _)m

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