ぎいぃ、がっちゃー……ん。じゃらじゃら、かちゃり。
ふと後ろを振り返ったその時、わたしの脳は瞬間冷凍されたがごとく固まった。
脳みそってトウフ並みの柔らかさらしいけれど、なんかもう今ならわたしの脳で釘を打てる気がする。絶対いける。
石橋を渡り終わった先に広がっていたのは、ちょっとレトロな感じのアパートとか広場とか、「ああハロウィンぽいな」って感じの街だった。……って言って通じるかな? 通じないよな。
街はまっ暗なのに雰囲気は暗くなくて、家々から漏れる光は不自然なくらいに明るくて、それでも何か背中がざわめくような不穏な気配がする気もして。なんて言えばいいんだろう。落ち着かない。居心地が悪い。そんな感じ。
それでなんとなく後ろが気になって振り返り、そしてフリーズした。
振り返ったわたしの目の前にあるのは、わたしの背丈の二倍はありそうな真っ黒な門。大きなゴシック式の屋敷で見るような、蜘蛛の巣や蔦を象った複雑な装飾の漆黒の門だ。その間からさっき渡ってきた石橋が見える。
それが何を示すかというと――
「嘘でしょなんか退路断たれた……なぜっ……!」
そう、帰り道がなくなってしまったのだ。なんてこった。
追い討ちをかけるように石橋の灯りが一斉に消える。まるで誰かが吹き消したようにふっと揺れて消えたそれに、思わず息が止まった。
……えっと。
まず一番最初から考えよう。え、なにこんな門あったの?
実のところ、石橋を延々と歩いてて(とは言ってもどれくらいの距離を歩いてたかは分からない。すごく長かった気がするけど、そんなに疲れてないから自信がなくなってしまった)気づいたら街の入口に立っていたのだ。
そんなにうつむきまくって歩いていたつもりはないんだけど、ふと顔をあげたら目の前に街が広がっていた。ビックリだ。
それでなんとなく後ろを見てみて――今に至る。
いやいやおかしいおかしい。
下を向いていたとはいえ歩いてここまで来たのだ、こんなでかくてガッチリ閉ざされた門があったら通れる訳がない。
ということは……、わたしが無意識にあの門をくぐったその後に閉まったことになる訳だ。
まぁこれだけ大きければ逆に気づかないという事もあるかもしれない。
だけど大きさにはそれに比例して『音』がともなうはずな訳でして。
「えー……音もなく閉まるとかやめてよね気味悪い……ん?」
文句をこぼしつつひんやりと冷たい門を指でなぞっていると、門とは少し違う感触のものに触れた。
それは漆黒の門のに映える銀色の鎖、そして錠前だった。
橋と街を隔てる門が開くことのないよう堅く巻きつけられた鎖と鍵のかかった頑丈な錠前。
両手でそれらを掴み揺さぶってみたがびくともしない。
当然門も動かない、小さくギシギシ軋むだけだ。ずいぶんとしっかり巻かれているらしい。
あーこれは開かないわー。
……って、あれ?
…………。
最近の科学技術ってすげえな。きっとわたしみたいな素人には一生わからない何かがいろいろ絡み合ってできてるんだろうな。
わたしは深く考えることをやめて前を向いた。