She does not want to become the heroine. 2
車が止まった。
やっと着いたかなー、とほっとしていたら、どうもそういう訳ではないらしい。
外で何やら怒鳴り合う声が聞こえる。
詳細は聞き取る事が出来なかったが、罵声が飛び交っているのは声質で何となく分かった。
仲間割れ?
私は生まれてから37回――ああ、これも合わせると38回になったのかしらん――誘拐というものを経験しているけれど(もちろん被害者側で)、その内仲間割れで幕を閉じたのは実に2回しか無い。まあ2回とは言っても、7歳くらいまでの記憶はあやふやなので、その内の5回にそういうケースがあったかもしれない。無かったかもしれない。まあ正直どっちでもいい。結局私が言いたいのは、仲間割れは珍しいというコト。更に今回は、誘拐されてからそれ程時間が経っていない。多分5時間くらいだ。これで助かったりしたらその後逆に面倒に巻き込まれるという邪推をしてしまう。だって、こんな簡単に助かって良いはずが無いのだから。
やがて外で銃声が聞こえた。一発二発どころの騒ぎじゃない。銃撃戦である。
むー。日本なのにな。私の周りの非常識さが改めて恐ろしい。嘘。別に恐ろしくは無い。
銃は嫌いじゃないけれど、銃口は嫌いだった。人の悪意や憎しみが、あの穴から染み出して来るから。
とか(笑)
まあ、そんな感じに笑い話にしたい所だけれど、それは嘘では無い。銃口を向けられると、未だに私は心底震え上がってしまう。他の恐怖は最近麻痺しつつあるのだが、銃だけは何故か別なのだった。違った、銃口か。
だから私は、この展開はあまり望んでいなかった。誰が生き残ったとしても私は銃口を向けられそうな気がする。
ガタガタガタ、と音がしたかと思うと、トランクが開いた。
「あ、あ、あの、ぼ、ぼく、いや私、あやしいものじゃありませんので」
と、怪しさを自ら確率変動させる発言が聞こえた。
声質から、恐らく男であろう事が伺える。
……私の嫌な予感はやっぱり当たった。ような気がする。