He wants to become a hero. 2
エイチが教室に戻って来るか不明なので、俺はもう帰る事にした。
毎日待ち合わせて一緒に帰る程、気持ち悪い関係ではないが、今日はもう少し話しておきたかった。話したりていなかった。
……うん、まあ、どちらにしろ気持ち悪いな。俺たちは当然、四六時中一緒にいるような、そんなベタベタした関係でもない訳だし。
階段を降りようと、一歩目を踏み出しかけた所で、
「あ、おい只野!ちょうどよかった。ちょっと話があるから、付いて来なさい!」
と声を掛けられ、あやうく転げ落ちる所だった。
声の主は担任だった。何てタイミングで声を掛けるんだ。
「何ですか。俺急いでるんですけど。この後やる事があるんで」
本当は、予定など無かったが、俺はそう答えた。
「嘘を付くな。お前の進路について、だ。面倒臭がらずに付いて来い」
ばれた。ばっさりだ。先生は、何かを考えるように少し沈黙した後、続けた。
「……後な、立場的にこういう事をいうのは、その、なんだ。駄目だとは思うが。お前は、もっと上手く嘘を付いた方がいい」
経歴書の内容について言われたのか、予定があると言った事について言われたのか、それともその他の事か。
「……別に、嘘なんてついてませんよ」
「それも嘘だな。正義、お前は、名前の通り正直すぎるんだ。もっと狡く生きないと、その内生きていくのが辛くなるぞ」
名前を呼ばれた事にびっくりした。この人が生徒の名前を覚えているなんて。いい意味でも悪い意味でも、他人に興味がない人だと思っていたのに。失礼ながら、生徒の事を苗字という記号でしか覚えていないようなイメージがあった。
「お前の将来の夢だが、あれ、嘘じゃないだろ」
そう言われて、俺はぴくりと反応してしまった。それを確認して担任は続けた。しまったな、何で反応してしまったんだろう。
「……やっぱりか。あれがもし冗談なら、書き直して来いで済むんだが……立ち話で済む話でもなくなったか。ほら、早く付いて来い!」
そういうと担任は、有無を言わせずに歩き出してしまった。
まあいいか。と思いながら、俺は付いて行く事にした。