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空はまだ縁の方が明るくなり始めたところだった。

遠くの方で鳥が鳴いてるのが聞こえて。


「ふぁ…。雑魚寝は肩が凝るな…」

「翔お兄ちゃん。おはよ」

「おはよ、ルウェ。早いんだな」

「いつも言われるんだぞ」

「そうか。いつも早いんだな」

「えへへ」


頭を撫でてもらった。

朝から良いこと。

今日もきっと良い日なんだぞ。


「よし。朝ごはんにするか」

「でも、まだみんな起きてないよ?」

「いいじゃないか。紅葉姉さんも、もういないし。寝坊助は置いといて、先に食べておこう」

「うん」

「さてと…」


翔お兄ちゃんは、みんなを跨いで出口まで行く。

じゃあ、自分も…。


「わわっ!」

「うっ…。何…?」

「ご、ごめんなさい…」

「なんだ、ルウェか…」


響はモゾモゾと動くと、また眠ってしまった。

次は踏まないようにしないと…。


「ほら、ルウェ」

「え?」


光を跨ごうとすると、翔お兄ちゃんが戻ってきて。

そして、抱き上げて出口まで運んでくれた。


「跨げないときは、部屋の端とか、みんなの隙間を歩いていくんだ」

「でも、翔お兄ちゃんは…」

「俺はルウェより背が高いからな。当たらないくらいまで、足を上げられる」

「むぅ…」

「ははは。ちっちゃいなら、ちっちゃいなりの良いところはある。こうやって、抱っこしてやれるだろ?ルウェが大きいと、こんなことは出来ない」

「うーん…」


翔お兄ちゃんはそのまま部屋を出て、そこで降ろしてくれた。

ちっちゃくても良いこと…。

自分には分からないんだぞ…。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、何か変なかんじがして…」

「変なかんじ?」

「気のせいか…?」

「……?」

「いや、気のせいじゃないな」


翔お兄ちゃんは、もう一度部屋の戸を開ける。

すると、部屋には誰もいなくて。


「んー、なるほど…。鏡の世界か…」

「えっ?」

「まあいい。ルウェ、朝ごはんにしよう」

「う、うん…」


また鏡の世界に入ったのか?

でも、なんで?


「あ、そうか。昨日とは逆に行かないとダメだな」

「翔お兄ちゃん…」

「ん?」

「翔お兄ちゃんは平気なの…?」

「鏡の世界に入ったことか?」

「うん…」

「平気だよ。ルウェが一緒だからな」

「自分と一緒なら平気なの?」

「ああ。ルウェは俺の妹だからな」

「……?」

「まあ、深く考えるな。大丈夫だよ。何があっても、兄ちゃんが一緒にいるからな」

「…うん」


翔お兄ちゃんは、しっかりと手を握ってくれた。

だから、大丈夫。


「それにしても、本当に鏡なんだな。全部逆だ」

「そうなの?」

「ああ。階段も右回りだったのに、左回りになってるし」

「んー…?」

「まあ、いつもここにいる…とかでない限り、しっかり観察してないと分からないよな」

「むぅ…」

「はは、そんなに唸ることもないだろ。少し注意深くなれば、ルウェにも自然と分かるようになってくるから」


バフバフと軽く頭を叩いてくれるけど、あんまり嬉しくなかった。

なんだか悔しいから頭を振ると、翔お兄ちゃんはカラカラと笑って。

むぅ…。


「ん…?」

「何?」

「あれは?」

「え?」


階段を降りきって廊下に出る。

すると、翔お兄ちゃんが見てる方のずっと奥に、黒いモヤモヤしたものが漂っていた。


「……?」

「黒い霧か…。気をつけて行こう」

「うん…」


ゆっくりと、黒い霧の方に近付いていく。

モヤモヤと動いてる霧は、近付くにつれて何かの形になっていく。


「………」

「人…?」

「ふぅ…。また来たんだね」

「うん」


黒い霧が一気に集まって弾けた。

そして、代わりに立っていたのは、この前の子。


「鏡の世界は、鏡の向こうに広がる世界だよ」

「………」

「翔お兄ちゃん?」

「お前は誰だ。まずはそこからだ」

「むぅ…。誰と聞かれても…。今はルウェ、だよ」

「……?」

「でも、普段はルウェじゃない。わたしは琥珀。"落つる涙"ユヌト」

「ユヌト…。聖獣か?」

「うん。本来の聖獣からしたら、まだまだ半人前以下だけど」

「ユヌトというと、赤狐と聞くが。まるっきり人間じゃないか」

「だから、今はルウェなの。あ…もしかして、あんまり似てない?」

「…どちらかと言うと、響なんだぞ」

「えっ、あ、本当だ…。失敗だね…」

「失敗?」

「うん…。でも、まあいいや。じゃあ、今日は響で」

「…適当なんだな」

「何事も適当にやっておくくらいがちょうどいいって教えてもらったんだ」

「誰だよ…。そんなことを教えるのは…」

「大和なんだぞ」

「そうそう、大和兄ちゃん」

「ルウェは、こいつと知り合いなのか?昨日会っただけなんじゃなかったか?」

「うん。でも、知ってる」

「そうだね」

「……?」

「わたしは、ルウェに身体を貸してもらってたの。ルウェは知らなかっただろうけど。契約じゃないから、わたしもあんまりルウェに干渉出来ないし。さっきも言ったけど、わたしはまだ半熟の聖獣だから、契約も出来ないし、いつ消えるかも分からない不安定な存在なんだ。だから、消えないように身体を間借りして、ひっそりと修行してたの」

「修行…?」

「そうだよ。この世界に存在を定着させる修行なんだけど。先天的な聖獣じゃなくて、わたしの場合、あとから聖獣になったから、それだけ道は険しいんだ。まあ、それが終われば晴れて本物の聖獣になれるんだけど」

「ふぅん…。ところで、お前はよく喋るな」

「うん!だって、お喋りって楽しいじゃない!しかも、大和兄ちゃんと別れてから、クノさま以外とはほとんどまともに話したことがなかったからね。久しぶりにいっぱい話せて嬉しいんだ~」

「はぁ…。俺はなんか疲れたよ…」

「そう?まだまだ話したいこと、たくさんあるのに」

「向こうの世界で出られないのか?向こうなら、お喋り好きのやつらがたくさんいるぞ」

「うん、そうなんだけどね。存在を繋ぎ止められるかどうかが不安なんだ。もし失敗したら、もう二度と戻ってこれないかもしれないし…」

「あの無口な頃の琥珀は、もっと度胸があったはずだぞ。お喋りになって、度胸も口から抜けていったのか?」

「えっ、あ…」


振り向くと、そこには大和がいた。

狼の姉さまも一緒で。


「紅葉姉さん!なんでここに?」

「いいじゃないか、細かいことは。こいつの散歩をしてるとき、時空の歪みを感じて入ってきてみただけだ」

「紅葉の散歩の間違いだろ?それに、時空の歪みを見つけたのは俺だ」

「そんなことはどうでもいい」

「………」

「まあ、とりあえずは外に出ようか」


狼の姉さまに背中を叩かれると、大和は渋々といった風に何かをやり始める。

そして、気付いたときには、目の前が真っ暗になっていた。

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