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部屋に戻ると、狼の姉さまとヤーリェの分の荷物が増えていた。
そして、響が部屋の隅でいじけてて、光が何が言っている。
「紅葉お姉ちゃんが、正しいでしょ?響のは、ただの、八つ当たりだよ」
「分かってるよ…」
「じゃあ、紅葉お姉ちゃんに、謝らないと、いけないね」
「………」
「謝ってくれるのか?」
「あ、紅葉お姉ちゃん」
「………」
「響」
「………」
「悪いと思っていないなら謝らなくてもいい。そんなの、バカらしいだろ?オレ自身、八つ当たりされたなんて思ってないからな」
「………」
「それより、ヤーリェ。荷物の整理をしておこう」
「う、うん…」
狼の姉さまは荷物を取って畳に広げる。
ヤーリェも、おどおどしながら同じようにして。
「そういえば、よくこの部屋が分かったな」
「ん?」
「俺たちは厨房にいたのに。この部屋に寄ってから来たんだろ?」
「そうだな」
「誰かに聞いたのか?」
「ああ。宿の主人に、蒼いチビと赤い女の子がいる部屋と同じにしてくれと言ったら、ここの鍵をくれたんだ」
「色かよ…」
「自分は、チビじゃないんだぞ!」
「あぁ、そうだったな。身体は小さくても、心は大きい」
「うん!」
「…結局、チビって言われてることに変わりはないけどな」
「シーッ、兄ちゃん!」
「……?」
え?
何か変なところがあったのかな…。
うーん…。
「ヤーリェ。通行証は?」
「えっと…」
「ツウコウショウ?」
「特別な場所に入るとき、必要になることがあるの。今はほとんど廃止されて、自由に行き来出来るようになったところが多いんだけど、禁地リュクラスとかに出入りするときは、まだ必要なの」
「ほぅ、よく知ってるな」
「えへへ。遙お姉ちゃんに教えてもらったの」
「そうか。リュウは旅団天照の団員だったな」
「まだ正式な団員じゃないの。でも、いつかは絶対に入るの!」
「ははは。じゃあ、一所懸命頑張らないとな」
「うん!」
リュウは胸元に下げている旅団天照の紋章を握って。
…きっと、リュウなら団員になれるんだぞ。
そんな気がする。
「リュウの言った通り、これは禁地リュクラスへの通行証だ。リュクラスは、ルイカミナからさらに西に行って、カシュラの街から南へ向かった先にある。ヤーリェの良い経験になるだろうし、一度行ってみようと思ってたんだ」
「リュクラス…」
「リュクラスは良いところだぞ。ずっと昔から変わらない古代の森林だ。心が安らぐ」
「噂には聞くんだけど、俺たちはなかなか入られないんだ。自動三輪の乗り入れなんて御法度も御法度だからな」
「中を走り回らなければいいんじゃないのか?」
「え?そうなのか?」
「少なくとも規約には書いてなかったぞ。禁地を荒らすべからず、とはあるけど」
「そうなのか…。うーん…。取るだけでも取っておこうかな…」
「私はリュクラスに行ってみたい!」
「じゃあ、取っておいた方がいいだろうな。自動三輪が気になるなら、どこかに預けるのもいいだろうし。信用出来る倉庫を紹介しようか?」
「ホントか?」
「嘘をついてどうするんだ。カシュラでいくつか挙げておくよ。オレの名前と暗証番号を出せば、どこでも借りられるはずだ」
「助かるよ、ありがと」
「いや、いいんだ。リュクラスを好きになってくれるやつが増えるなら本望だ」
「好きになるかどうかは、まだ分からないけどな」
「そうだな。でも、必ず好きになる。それは保証する」
「ん~、楽しみだな~」
「おいおい…。行くって言っても、カシュラですらまだまだ先だぞ…」
「えぇ…。そこは加速装置を使えばいいじゃない」
「何言ってるんだよ。うんともすんとも言わないじゃないか」
「じゃあ、何のための加速装置なのよ」
「聖獣がいないんだから仕方ないだろ」
「むぅ…。兄ちゃんが契約してたら…」
「あっ!それなら、うってつけのが、いるよ!」
「え?」
光が突然大きな声を出したから、響はびっくりして飛び上がっていた。
でも、そんなことは全く気にしないで、光は部屋を飛び出していって。
「うってつけ…。聖獣の余りでもいるのか?」
「きっと、ミコトのことなの」
「あぁ…。そういえば、まだ契約してないとか言ってたような…」
「よかったね。これで加速装置が使えるよ」
「そうだな…」
「どうしたの?嬉しくないの?」
「翔は加速装置で加速される速度を懸念してるんだろ」
「ああ。制御出来るのかどうかが…」
「詳しくは知らないけど、聖獣の力の強さ次第ってのを聞いたことはあるな」
「それは俺も聞いたことがある。あと、体力が関係してるとも聞くな。クーアなんかだと、それなりに力を持っていても加速は緩やかだとか。タルニアになると、数十歳くらいでもクーアの何十倍もの出力があるとか…」
「うーん…。そっか…。じゃあ、クルクスならどうなのかな…」
「クルクスか。クルクスなら体力は中堅だけど、あくまで平均の話だからな。もしかすると、翔が心配するような体力バカかも知れないぞ」
「体力バカじゃありませんように…」
「祈っても結果は変わらないけどな」
「うぅ…」
ミコトはどうなんだろ。
体力バカなのかな。
…翔お兄ちゃんの心配する様子、半端じゃないみたいだけど。
そんなに速いのが怖いのかな…。