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「光はやっぱり料理が上手いなぁ」
「そ、そんなこと、ないよ…」
「美希お姉ちゃんに習ってるもんね~」
「響もそうなんじゃないのか?」
「わ、わたしは…いいのよ…」
「まったく…」
「響は、不器用なんだよ。塩ひとつまみって、言ってるのに、いつの間にか、全部、塩味になってるときも、あったもん」
「だって、ひとつまみ入れても何も変わらないんだもん…。味が分かるまで入れたら、そんなことになっちゃっただけで…」
「塩の役割は塩味にするだけじゃないぞ…。あくまで調味料なんだし、塩味にするなら食べるときに振り掛けたらいいだろ」
「そんなの…」
「で、どうしたんだよ。その塩辛い料理は」
「あ、それは、美希お姉ちゃんが、早くに気付いたから、あんまりしょっぱくなかったんだ」
「そうか。それはよかったな」
「うん」
「それよりさ、兄ちゃん。あの鳥は何なの?」
「さあ?」
「さあって…」
「分かったら苦労してねぇって。森の方から飛んできたんだけど、それ以上は分からない」
「ふぅん…」
鷹は窓のところに止まって、外を眺めていた。
でも、森に帰るわけでもなくて。
「変な鷹なの」
「そうだな。変な鷹だ」
「あれ、鷹なの?」
「そうだろ。たぶん」
「たぶん…」
「俺は鳥に詳しいわけじゃないからな。もしかしたら鷲かもしれないだろ?」
「鷲かぁ…」
「鷲なのか?」
「いや、だから、分からないって…」
「鷹と鷲の明確な区別はない。小さめなのが鷹、大きめなのが鷲だとか言われてるが、鷲くらい大きい鷹もいるし、鳶ほどしかない鷲もいるらしいぞ」
「あっ!狼の姉さま!」「いろはお姉ちゃん!」
「久しぶりだな、ルウェ、リュウ」
「うん!」
「ヤーリェは?」
「もうすぐ来る」
「お腹空いた~」
「ヤーリェ!」
「わわっ、ル、ルウェ?」
「よかった…。治ったんだ…」
「うん。心配かけてごめんね」
ホントのホントにヤーリェだった。
この匂いも温かさも、みんなみんな…。
「さて、ルウェ。再会の喜びに浸るのもいいが、オレたちにも昼ごはんを食べさせてくれないか?少し急いできたものだから、腹が減ってるんだ」
「あ…うん。ごめんなさい」
「それにしても、また旅の仲間が増えたみたいだな」
「わたしは響だよ~」
「もう、響。そんな言葉遣いじゃ、失礼でしょ。えっと、わたしは、光です」
「俺は翔と言います。こっちは弥生」
「………」
「おい、弥生」
「………」
「す、すみません…」
「はは、いいんだよ。そのうち慣れてくれるだろうし。それより、同じ旅仲間なんだ。敬語なんてやめてくれよ」
「分かった~」
「響は、元から、敬語なんて使ってないじゃない」
「あれ?」
「分かりまし…分かったよ。…なかなか難しいな」
「………」
「ふふふ。それにしても、響と光からは美希の匂いがするな。美希が見つけたって言ってた道連れはお前たちか?」
「そうだよ~。美希お姉ちゃんは、今いないけど…」
「そうだな。となると、表の自動三輪は翔たちのか?」
「ああ。北からずっと南下してきてるところなんだ」
「北か。またいつか行きたいな」
「行ったことないのか?」
「一回だけ行ったんだけどな」
「けど?」
「あまり、いろいろ見る余裕はなかった」
「ふぅん…」
「まあ、オレの昔話より先に昼ごはんだ」
「あ、ごめんなさい。今すぐ、用意するね」
「ああ。よろしく頼む」
狼の姉さまは自分の横に座って。
こっちを見てニッコリ笑って、頭を撫でてくれた。
「望が大変らしいな」
「えっ、なんで知ってるんだ?」
「大和から聞いた」
「大和と会ったの?」
「いや、大和の記憶を辿らせてもらった。今も望の看病をしてるみたいだ」
「ねぇ、望はどうなってるの?どうなるの…?」
「大丈夫だよ。すぐに良くなるから」
「でも、望、すごく苦しそうだった…」
「大丈夫。大和からの報告を聞いて、ユンディナ旅団の医師を借りてきたから」
「えっ、ユンディナ旅団の?それってすごいじゃない!」
「ヤーリェを診てくれたやつでな。仲間が同じ病気で苦しんでるらしいってことを伝えたら、早馬を出してくれたんだ。これだけ早く来れたのも、それのお陰だな」
「早馬…。それ、知ってるんだぞ」
「ん?そうか。どんなのなんだ?」
「急いでる人がいたら、出してくれるんだぞ。それで、シュンメが速くて…えっと…」
「はは、無理をしなくてもいいぞ。それにしても、駿馬なんて難しい言葉を知ってるんだな。そっちの方がびっくりしたよ」
「えへへ。おばちゃんが教えてくれたんだぞ」
「おばちゃん?」
「あ、ここでは、夕飯だけ、民家で食べさせてもらうんだ」
「ほぅ。最近変わったのかな」
「えっ、前にも来たことがあるの?」
「まあな。一年くらい前までは、朝から夜までここで食事を摂ってたんだ」
「へぇ~」
「そうか…。良い仕様にしたな…」
「はい、出来たよ」
「ん、すまないな。いただきます」
「いただきま~す」
「光のごはんは美味しいよ~」
「美希が仕込んだんだろ」
「そうだよ。美希お姉ちゃん仕込み」
「響は、からっきしだけどね」
「もう…。さっきから、そればっかりじゃない!」
「事実だもん、仕方ないじゃない」
「むぅ…」
響は唸りながら光の手を叩いて。
それを見て、狼の姉さまは楽しそうに笑っていた。
「そうだ。昼ごはんが終わったら、あいつの話も聞いてみよう」
「あいつ?」
「あの鷹から話を聞くんじゃなかったのか?」
「あぁ、そういえばそうだったね」
「…完全に忘れてただろ」
「あれ?」
…自分は忘れてたんだぞ。
あの鷹の話…。
狼の姉さま、大和以外にも契約してるのかな。