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「ふぁ…。暇だなぁ…」
「翔も、響たちと一緒に、川に行けばよかったのに」
「んー…。そうかもなぁ…」
「望はどうなったのかな」
「さあ…。美希お姉ちゃんからも、何の連絡もないし…」
「便りがないのは良い便りとは言うけどな…」
「何なんだ、それ?」
「手紙が来ないのは、元気で忙しくしてて手紙を書く時間もないからってことで、何よりも良い手紙だって意味だな」
「怠けてるだけじゃないのか?」
「はは、そうかもしれないな」
「適当なこと、言わないの」
「んー、案外真実かもしれないぞ?」
「もう…」
「ふふふ。でもまあ、旅をしてると、なかなか返事も貰えないしな」
「誰に書くの?」
「ん?そうだな…。孤児院の院長とかにかな。俺は書かないけど、弥生が書いてるみたいだ」
「あ、翔も弥生も、孤児だったね」
「ああ。俺たちのところは、ある程度の年齢になったら、みんな旅に出るんだ。俺は、まだちっちゃかった弥生も引っ張ってきたんだけどな」
「ふぅん」
「ずっと自動三輪で旅してきたんだ。いろんなところに行ったりして」
「そういえば、翔と弥生は、どの辺を、旅してるの?」
「北からずっと下ってきてるところだ。どの辺っていうのはまだない」
「ふぅん」
「光はどうなんだよ。どこを回ってるんだ?」
「わたしたちは、最近旅を始めたばかりだから、まだ決まってないよ。あ、でも、美希お姉ちゃんは、ルクレィを中心にして、回ってるみたいだから、わたしたちも、そうなるのかな」
「そっか。ルクレィか」
「うん。この辺だね」
「俺たちはどうしようかな…」
翔お兄ちゃんは仰向けに寝転んで。
天井を見つめて、何かを考えてるみたいだった。
「あの鷹、何だったのかな…」
「えぇ…。道順を、考えてたんじゃ、なかったの…?」
「通れる場所ならどこにでも行くからな。考えたって無駄なんだよ、俺たちの場合は」
「そうかもしれないけど…」
「翔お兄ちゃんは、北にいた頃はどこを回ってたんだ?」
「ん?そうだな…。リュカナからユィナを経由して、シルアに抜けるかんじだったかな。まあ、ラナンとかキサゥにも行ってたけど。…って、こんなこと聞いて分かるのか?ルウェはヤゥトから来たんだろ?」
「うん」
「じゃあ、分からないんじゃ…」
「うーん…」
「わたしは分かるけどね…」
「そうなのか?」
「そういえば、光は北の出身だったな。どこなんだ?」
「ミルのあたりだよ」
「へぇ、ミルか。リュカナの近くだな」
「うん」
「なんでこっちに来たんだ?戦か?」
「うん…。まあね…」
「そうか…。あの辺も一時期は大変だったからな…」
「うん…」
「ごめんな」
「ううん、大丈夫だよ」
「…そうか」
翔お兄ちゃんは光の頭を撫でて。
光もニッコリ笑ってみせたけど、少し哀しそうだった。
「あ」
「ん?」
「また来た」
「え?」
光が振り向いた瞬間、鷹が光の肩に止まる。
…よっぽど光が好きなのかな。
「わっ!えぇっ!?」
「さっきと同じ驚き方をするんだな」
「だ、だって…!」
「鳥が嫌いなのか?」
「そ、そういうわけじゃ、ないけど…!」
「まったく…。ほら、こっちに来いよ」
鷹は首を傾げると、翔お兄ちゃんのところへ飛んでいった。
うーん…。
翔お兄ちゃんの方が好きなのかな…。
「さあ、今度は何か喋ってくれるんだな?」
「……?」
「今、喋っても、何を言ってるか、分からないじゃない…」
「あぁ、そうか。ルウェ。悠奈はどうしてる?」
「んー…。寝てるみたい…」
「そうか…。ミコトも寝てるしな…」
「起きるまで、待つしかないよ」
「…そうだな」
鷹は翼を広げて、毛繕いを始めた。
片方の翼だけで一尺半くらいあって、とても大きい。
でも、優しい目をしていて、怖いとは思わなかった。
「綺麗な羽根だな。本当に野生なのか?」
「自然の方が、綺麗ってことも、あるでしょ?」
「まあ、そうなんだけど。…あと、光。お前は近すぎだぞ」
「鷹なんて、なかなか間近で、見られないもん。こうやって、大人しくしてる間に、しっかり見ておかないと」
「そうか…」
翔お兄ちゃんは、困ったように頬を掻く。
…光、確かに見すぎなんだぞ。
「ふぁ…。ミコトを見てたら、俺も眠くなってきた…」
「寝ちゃダメ!」
「…そんなに気張って言うことでもないだろ」
「……!」
「ほら、鷹もびっくりしてる」
「翔お兄ちゃん、鷹の気持ちが分かるのか?」
「いや。ただ単に、そう思ってるだろうなってことを言っただけだ」
「なぁんだ」
「ははは。こいつの気持ちが分かれば苦労はしてないって」
「そうだけど…」
「残念だったか?」
「うん…。ちょっとだけ」
「ちょっとだけかぁ…」
少し残念そうに。
でも、本当に分かってたら、本当にすごかったんだけどな…。
「やっぱり、誰かが飼ってるような気配はないな…。でも、野生にしては人間に慣れすぎてるし…。考えれば考えるほど変な鷹だな、お前は」
「……?」
また首を傾げる。
鷹は、もしかして、こっちの言葉は分かってるのかな。
うーん…。
早く起きないかな、悠奈。