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「んー…」
「ルウェ、朝ごはんだよ」
「ん…」
「ダメだ。まだ寝てるよ」
「んー…。起きてるよ…」
「それは起きてるって言わないんだよ」
響にほっぺたを引っ張られる。
顔を振ってみるけど、全然離してくれなくて。
んー…。
「こら、響。嫌がってるじゃない」
「起こしてあげてるんだよ~」
「もう…。自分が、楽しんでるだけでしょ」
「そんなことないよね、ルウェ」
「んー…」
「ほら、早く起きないと、またいじめられるよ」
「いじめてないよ」
「いじめてるようにしか、見えない」
光は響の頭をはたいて。
うーん…。
まだ眠たいけど、起きなきゃ…。
「ふぁ…」
「眠たい?」
「うん…」
「朝ごはんを、食べたら、また寝たらいいよ」
「うん…」
「どうせやることもないしね~」
「そんなこと、ないでしょ」
「じゃあ、何があるのよ」
「鳥の観察とか、昆虫採集とか」
「光じゃないんだから、そんなことしないよ」
「むぅ…。どういう、意味よ」
「そのままの意味だよ。とにかく、わたしは昆虫採集なんてやらないよ」
「えぇ…」
「ほらほら、早く行こ。朝ごはんを食べないと、昆虫採集にも行けないよ」
「うぅ…。なんで、響が、それを言うのよ…」
「まあまあ。早く行こ~」
そういえば、リュウたちはどこに行ったのかな…。
先に行ってるのかな…。
一階の長い廊下を歩いていたけど、眠気が抑えられなくて。
フラフラしていると、いつの間にか響と光はいなくなっていた。
「うーん…」
先に行っちゃったのかな…。
まあいいや…。
廊下の隅に座って、ウトウトしてしまう。
「んー…」
「どうしたの?」
「眠たい…」
「ここで寝ちゃダメだよ。部屋に戻ろ?」
「でも、朝ごはん食べないと…」
「そっか。じゃあ、厨房に行こ?」
「うん…」
手を引かれて、厨房に向かう。
フラフラしてると、ちゃんと支えてくれて。
「昨日、遅かったの?」
「んー…。響と翔の話を聞いてたら、眠れなくなっちゃって…」
「どんな話だったの?」
「えっと…。翔が光のことが好きかどうかとか…」
「へぇ、恋愛の話かぁ」
「うん…」
「それで、どうだって?」
「んー…。忘れちゃった…。眠たかったから…」
「そっかぁ、残念だなぁ」
そう言って少し俯いて。
そして、顔を上げてニッコリ笑い、頭を撫でてくれた。
「あ、そうだ。ルウェは、こういう場所によく閉じ込められたりするの?」
「……?」
「あぁ、そっか。分かってないんだね」
「何が…?」
「ううん。なんでもないよ。それより、お腹空いてる?」
「あんまり空いてないけど、なんで…?」
「朝ごはんの前に、ちょっと散歩してみない?」
「うん…」
そしてそのまま、玄関から横に逸れて外へ。
空は蒼くて、雲がいくつか浮かんでいた。
穏やかな村の様子は、これから先もずっと変わらないような、そんなかんじがする。
「今日は良い天気だね」
「うん」
「川の方に行ってみよう」
「うん」
宿の右手にある坂道を下ると、すぐに川へ出る。
水面に太陽の光が反射して、とても綺麗…。
「……?」
「気付いた?」
「水が…流れてないんだぞ…」
「うん。この世界には時間がないんだ。見えている世界を映しているだけだから」
「どういう意味…?」
「望に貰った鏡、持ってる?」
「うん…」
「じゃあ、出してみて」
言われた通りに懐から出して。
鏡の中を見ると、自分の顔が映っていた。
「何も変わらないんだぞ」
「川に向けてみて」
「こう…?」
鏡を川の方に向けると、川が動き出した。
…一部分だけ。
「生きてる時間を与えられることで、この世界は動き出す。生きてる時間っていうのは、つまりは鏡の向こう側の時間のこと」
「じゃあ、ここって…鏡の中の世界なのか…?」
「そうだよ」
イタズラっぽく笑うと、時間のない川へ入っていく。
そして、手招きをして。
「こっち来なよ。気持ちいいよ」
「で、でも…」
「あ、そうだよね。遊んでる時間はないよね。じゃあ、帰る?」
「う、うん…。ごめんなさい…」
「あはは、謝ることなんてないよ。わたしだって、ルウェを助けるために来たんだから」
「……?」
「どういうことか気になる?」
「うん…」
「んー、じゃあ、また次に会ったときに教えてあげる」
「えぇ…」
「大丈夫。ルウェは迷い込みやすい体質みたいだから。きっと、またすぐに会えるよ」
「え?どういうこと?」
「それも、また次のお楽しみだよ」
ニッコリと笑って、おでこをつつく。
おでこを押さえていると、頭を撫でてくれた。
「じゃあね」
「うん。またね」
流れない川は、変わらずキラキラと光っていて。
世界が揺らいで、そのまま消えてしまった。
目が覚めると、布団の中だった。
横で響が寝ていたけど。
「お帰りなさい」
「うん。ただいま」
「え?どうしたの?」
「あっ、ルウェが起きた」
「響は寝たままだけどな」
「響は、お腹いっぱいになったから、寝てるだけだよ」
「子供みたいだな」
「うん。それより、ルウェ。朝ごはん、持ってきてあるんだけど、食べる?」
「うん!」
不思議な鏡の世界。
また会えるって言ってたけど、どういうことなのかな。
また、あんな風な世界に行くってことかな。
…でも、なんだか次が楽しみになってきたんだぞ。
次は、いろいろと教えてもらえるから!




