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昨日と同じ家でごはんを食べる。

今日のおかずはカボチャの煮物。


「この南瓜はね、村で採れたんだよ。美味しいでしょ」

「うん!」

「まあ、野菜はいくらでもあるんだけどね。山村では肉はなかなか手に入らないから。翔にはちょっと物足りないかもしれないね」

「いえ。満足です。南瓜は大好きですし」

「そう?それなら良かった。それより、あの子の具合はどうなの?源次さんも掛かりきりみたいだし…。ごはんも食べに来られないみたいだから、すごく心配…」

「まだ、何も、分からないんです。大和も、向こうに、行ったきりだし…」

「大和?あのお兄ちゃん?」

「あぁ。えっと、銀狼です。聖獣だから、言葉も、通じるし…」

「へぇ。それで、セイジュウって何?」

「言葉を話す獣ですよ~」

(違うよ!)

「わっ、びっくりした。…このちっちゃいのが聖獣かい?」

(ちっちゃくない!)

「この子は、クルクスって聖獣で、土に、属してるんです」

「土?なんだか術式みたいだね」

「術式は、もともと、聖獣が使ってたのを、龍が模倣して、広まったって、言われてます」

「へぇ~」

「ところで、なんでお前がここにいるんだ?」

(良いじゃない。どこにいたって)

「そうだ。術式といえば、宿に泊まりに来たお客さんが回廊に迷い込む事件が何度かあったけど、あれ、あんたのせいなんだろ」

(え、えぇ…。何のことかなぁ…)

「まあ、幸い真彦(まさひこ)が得意だからね。行方不明続出なんてことにはなってないけど」

(真彦かぁ…。せっかく作ったのに、次々に破って回って…)

「白状したね」

(え?あ…)

「まったく…。イタズラもたいがいにしておきなさいよ」

(えぇ…。楽しいのに…)

「何か言った?」

(…いえ)

「なら、よろしい」

(うぅ…)


黒い龍の子は、ため息をついて。

でも、やっぱりイタズラはダメなんだぞ。

自分も、姉さまによく叱られたし…。


「そういえば、あなたの名前、まだ聞いてなかったの」

(え?わたしの名前?)

「うん」

(んー。まだ契約してないし、名前は貰ってないよ)

「また知らない言葉が出てきたねぇ。契約って何なの?」

(聖獣と契約者が一緒になるってことだよ)

「んー、よく分からないねぇ」

「聖獣が、契約者の身体に、住み着くんです。契約者は、住む場所を渡す代わりに、聖獣の力を、貸してもらえるんです」

「はぁ~。賃貸みたいなかんじ?」

「そうですね。家賃が力なんです」

「ふぅん…。で、この子は家を借りてないってことなんだね」

(契約しない方が、自由でいいんだもん)

「力は弱くなるけどね」

「力が弱くなるって?」

「聖獣は、契約することで、本来の力を発揮出来るようになるんです。聖獣と契約者の信頼関係が、聖獣の力に関わってきて…」

「なるほどねぇ。よく知ってるんだね」

「光は、正真正銘北の出身ですから」

「へぇ、北の。こりゃまたいろんなことを聞きたくなってきたねぇ」

「あ、いえ…。こっちでの生活の方が長いので、ご期待に沿えるかどうか…」

「あはは、そんな心配しなくていいよ。私の知らない世界を、少しでも知られるだけで儲けものなんだから」

「前向きなんですね」

「後ろ向きに歩いてたら、いつか転んでしまうだろ?それなら、どんな結果になろうとも前向きで歩いていく方が良いと思わない?」

「なるほど…。亀の甲より年の功ってことですね」

「響。それ、誉めてるつもり?」

「いちおう」

「ははは。若いって良いねぇ」


そう言いながら、響の背中をバシバシ叩く。

それが強すぎたのか、思いっきり咳き込んでいる。


「まだ当分ここに泊まってるんだろ?話、聞かせてね」

「はい。喜んで」


ごはんも残り少なくなってきて。

一番小さなカボチャを取って、口の中に入れた。



外は真っ暗。

明かりをさっき消したから、部屋の中も真っ暗だった。

黒い龍の子は翔お兄ちゃんの布団に潜り込んで、ぐっすりと眠っている。


「ふぁ…」

「早く寝なよ。明日、起きられなくなるよ」

「うん…」

「起きてるのは、またわたしたちだけかな」

「いや、俺も起きてる」

「翔かぁ。寝ずの番でもしてくれるの?」

「やらねぇよ。何かあっても、すぐに起きるし」

「そっかぁ。そっちかぁ」

「そっちで悪かったな」

「まあいいけど。ところで、今日一日どうだった?」

「楽しかったよ。弥生も早くに打ち解けてくれたみたいだし」

「ごはんの力は偉大だよ~。って、そういうことじゃなくて。光だよ、光」

「お前は本当に光のことが気になるんだな」

「そりゃそうだよ。生涯の相棒なんだから」

「相棒ねぇ」

「うん。それで?ちょっとは好きになった?」

「そうだな…。良い子だと思ったよ」

「それだけ?」

「俺には勿体ないくらいだとも思った。もっと良いやつを見つける方が、光にとっても幸せだと感じたな」

「それはどうかな。まあ確かに、初恋だし、いろいろ補正が掛かってるかもしれないけどさ。でも、この歳まで誰も本気で好きにならなかったんだから。それに、幸せかどうかは本人が決めることであって、翔もわたしも、その手助けしか出来ないんだよ」

「そりゃそうだろうけどさ。妹を引っ張り回して流浪の旅をしてる俺みたいな輩よりかは、どこかにしっかりと根を張ってるやつの方が、将来的にも安泰だろ」

「はっきりしなよ。光が嫌いならさ、わたしから言っておいてあげるから。好きなら好き、嫌いなら嫌いって。どちらにしろ、返事はしないといけないんだから」

「そうだな。でも、こういうことは直接言わないとダメだから。俺から光に言うよ」

「えっ、じゃあ…」

「好きだよ、俺は。光のこと。まだ一日だけの付き合いだけど、それでも好きになれる何かを光は持ってるみたいだ」

「なぁんだ。びっくりするじゃない…」

「なぁんだはないだろ?ちょっとびっくりさせようと思っただけだ」

「ホント、心臓に悪いよ…」

「まあ、たまにはいいじゃないか。びっくりするのもさ」

「はぁ…。でもまあ、光は良い子だよ。わたしが言うんだから間違いない」

「そうか」

「それに、翔も良い人だと思うよ。光が好きになるくらいだから」

「ふふ、ありがとな」

「うん。だから、光を大切にしてあげてね」

「なんだよ。そんな今生の別れみたいな言い方は」

「あれ?そう聞こえた?」

「聞こえた」

「そう。まあ、わたしは光から離れる気はないからね」

「…そうか」

「うん」


それきり、二人は何も言わなかった。

暗闇に慣れてきた目は、嬉しそうに笑っている響を見ていた。

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