表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/537

「これ、いつ捕ったの?」

「ルウェが寝てる間」

「美味しい」

「うん」


朝ごはんは、カゥタって名前の鳥の肉を焼いたものだった。

初めて見たけど、森にはこんな鳥もいたんだな。

自分が片方の羽根を食べて満腹になってる間に、望は残り全部を食べきっていて。


「カゥタの羽根はね、ちょっとした処理ですごく綺麗な装飾品になるんだよ」

「綺麗?でも、茶色だぞ?」

「まあ、見てて」


そう言って、望はさっきから沸かしてあったお湯の中に羽根を浸した。

すると、羽根はくすんだ灰色になってしまった。


「………」

「あ、疑ってるでしょ」

「うん」

「じゃあ、びっくりして心臓が飛び出さないように、しっかり押さえておいてね」

「…うん」


心臓はどこから飛び出すのかな?

とりあえず、胸のところを押さえておくんだぞ。


「三、二、一…はい!」


勢いよく羽根をお湯から出す。

でも、何もなくて。


「望…?」

「ほらほら。しっかり見てて」

「うん…」


言われた通り、ジッと見詰める。

んー…。


「あっ!」

「ふふふ。どう?」

「すごく綺麗!」


羽根の灰色は、下の方から色が変わっていって、綺麗な青…緑…赤…あれ?


「光の当たり具合によって色が違って見えるでしょ」

「うん!」

「玉虫色とか虹色って言うんだけどね。乾いたら、好きなところに付けたら良いよ」

「うん!ありがと!」

「どういたしまして」


玉虫色…。

すごく綺麗な色…。



明日香が戻ってきて、片付けも済んだあと、次のところへ出発。

どこに行くのかは分からないけど。

森の中をずんずんと進んでいった。


「ほら。これがツゥカル。この草が一番高く売れるんだ」

「なんで?」

「全部が薬になるからね。葉、茎、根。それに、どういうわけか、人間の手で育てられない草なんだよね。自然の力ってやつなのかな。不思議だよね」

「………。あ、うん」

「聞いてなかったでしょ」

「…うん」

「まあ、ルウェにはまだ難しいかな」

「むぅ…」


なぜだか、望はすごく嬉しそうだった。

薬草を見つけては丁寧に教えてくれ、珍しい虫を捕ってきては楽しそうに見せてくれて。


「これがね、ヤク…」

「……?望?」


捕ってきた虫を草むらに投げ込むと、望は腰に差してあった小刀に手を触れる。


「ウゥ…」

「ルウェ、警棒」

「う、うん…」


短い言葉だったけど、何をしないといけないかは分かった。

額当てをもう一度しっかりと締め、警棒を構える。


「明日香」

「………」

「ルウェ。ジッとしてて。動いちゃダメだよ」

「うん…」


でも、何?

何があるの?

望と明日香は、同じ一点を見詰めていた。


「出てきなさい。さもなくば、敵とみなします」

「………」


………。

でも、誰も出てくることはなくて。

望が動き出す。

明日香は、いつでも動けるように準備をして。


「繰り返します。大人しく出て…」


と、見詰めていた場所あたりで、いきなり望が消えてしまった。


「かかれ!」

「おぅ!」「よっしゃ」

「え?え?」


誰かの掛け声と、二人の男。

軽い身のこなしで、一気に近付いてくる。

一人があと数歩のところまで迫ってきたとき、明日香が跳んだ。


「ガゥ!」

「くそっ!ワン公!」

「何やってるん!振り払えや!」

「いてぇ!ち、千切れる!犬じゃねぇ!狼だ!」

「あぁもう!ややこしいもん連れとるなぁ!」


もう一人が助けに入る。

手には小さな刀を持っていて。


「明日香!」

「グァウ!」

「うぐあぁぁ!」


間一髪で身体を捻り、刀をかわす。

その動きで、噛みつかれていた男の腕は大きく裂けて…。

明日香は、次は刀の男の足首に噛みつき、うつ伏せに押し倒す。


「ウゥ…」

「ぐっ…あぁぁ…」


牙が足に食い込んで。

うぅ…。

血が…血が…。

思い出すのは、あのときの葛葉の姿。

血塗れで…。


「明日香!やめて!」

「ウゥ…」

「あっ…がぁ…」

「明日香ぁ!」


もう…もう嫌…。


「明日香。やめなさい」

「………」

「望!」


地面から望が這い上がってきた。

…あの場所に、落とし穴が掘ってあったみたい。


「"治癒"」

「うぅ…」


望は、腕を噛まれた男の傷口に手をかざして、術式を掛ける。

…治癒なんて術式、聞いたことないけど。

でも、血はすぐに止まって。


「あなたも」

「くっ…」


足を噛まれた男にも、術式を掛ける。

さっきと同じように、すぐに血は止まった。


「さあ。目的を話しなさい。あと、もう一人がどこにいるか」

「くそっ…。大誤算や…」

「………」

「痛っ!き、傷が!」

「話さないと、治療はやめます」

「話します話します!」

「………」

「目的は物取り。分かるやろ…。小娘が…ええ気になって…」

「………」

「痛い!すんません!調子乗ってました!」

「余計な言葉はいらないです」

「はぁ…。もう一人はとっくの昔に逃げとるやろ。くそっ。だから、あんなやつと組むんはいらん言うたんや…」

「そうですか。それより、地下牢と獣の餌ならどっちが良いですか?」

「は、はぁ!?」

「獣の餌が好みですか。では、さようなら。ルウェ、行くよ」

「え…あ…うん…」

「お、おい!ちょい待てや!おーい!」


望は、そのまま淡々と歩いていく。

すごく怒ってるみたいだった。

でも、自分はあの人たちが気になって。


「あ、あの…」

「なんじゃい、坊主。笑うんやったら笑えよ。はぁ…。しかし、えげつないな…。治療するだけして…。ホンマ、こんな血生臭いところにおったら獣の餌やで…」

「こ、これ…」

「あぁん?」

「お金…」

「…ふん。いらんわ」

「でも…」

「お前の大切な金やろ。オレらみたいなやつが使える金ちゃう」

「あぅ…」

「ほら。なおせなおせ。それに、はよ行かんと姉ちゃんとはぐれるぞ」

「あ…うん…」

「…でも、ありがとうな。オレらのことは心配いらんから」

「うん…。じゃあね…」

「ああ。またな」


お兄ちゃんは優しく頭を撫でてくれて。

姉さまみたいに優しく。

そして、別れを告げて、望を追いかける。

お兄ちゃんとは、また会えそうな気がするな。

うん、きっと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ