表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/537

89

「響は術式が使えるのか」

「まあ、龍だし。適性は高いと思うよ」

「そうか」

「本当は光の方が上手いんだけどね。でも、回廊の術式みたいな、ちまちましたのは苦手なんだよ。もっと、ガツーンと元素式をぶっ放すみたいなのが得意」

「何か、呼んだ?」

「いんや。皿洗い頑張って~」

「もう…。響も、手伝ってくれたら、いいのに…」

「俺が手伝うよ」

「えっ、あ、ありがと…」


翔お兄ちゃんは席を立って、流しのところまで歩いていく。

光の隣に立つとニッコリと笑って。


「それじゃ、皿洗いはあの二人に任せますか~」

「響お姉ちゃんは行かないの?」

「行かな~い」

「もう、響!」

「わたしはリュウの相手をしてるから、安心して皿洗いに専念しなよ」

「何、言ってるの!」

「まあまあ。抑えて抑えて」

「響!」

「ははは。大変だな、光は」

「ホント、そうだよ…」

「まあとにかく、早く終わらせよう。次の皿洗いは響に任せたらいいじゃないか」

「あー、ダメダメ。わたしが皿を洗ったら、汚いって怒られるし」

「ちゃんと、洗わないからでしょ」

「洗ってるよ。それなりに」

「ちゃんと、洗いなさい!」

「気が向いたらね」

「………」

「あはは。怒んないの。そんな顔してたら、翔に嫌われるよ」

「ひ、響!」


光はまた赤い顔をして。

それを見て、翔お兄ちゃんはイタズラっぽく笑っていた。


「さて、早く済ませようか」

「う、うん…」


二人は、またお皿洗いに取り掛かる。

それを確認すると、響はこっちを向いて。


「弥生。翔ってさ、いつもあんなかんじ?」

「うん」

「ふぅん」

「それがどうしたの?」

「どうもしないけどさ。光のお婿さんになるかもしれないんだから、変なのだと困るでしょ」

「兄ちゃんは、充分変だと思うよ」

「そうなの?」

「うん。暇があれば、一日中自動三輪を触ってるし、何かにつけて部品を欲しがるし…」

「あー、男の人ってそうだよね~。でも、わたしは分からないでもないかな。自動三輪をいじってるっていうのは、要するに趣味に没頭してるってことでしょ?一所懸命になれることがあるっていうのは、良いことだと思うよ」

「そうかな…」

「そうだよ」


弥生は、それでも納得出来ないというようなかんじで。

一所懸命になれること…。

自分は…何だろう…。


「あ、そうだ」

「ん?」

「自動三輪って何なんだ?」

「そっか。ルウェは知らないんだ」

「わたしも知らないの」

「あれ?そんなに普及してないのかな…」

「兄ちゃんが、北では結構見られるけど、この辺はあんまりないんだって言ってたよ」

「ふぅん。北だけかぁ」

「響お姉ちゃんも、北から来たの?」

「うーん…。北からと言えば北からだし、違うと言えば違うんだよね」

「……?」

「北にいた記憶はあるんだ。でも、記憶だけ」

「そんなことってあるのか?」

「んー。どうかな。赤ちゃんのときにいたのかもね~。わたし、生まれてすぐくらいに孤児になったみたいだから、どこで生まれたとか誰が親だとか、そういうことは分からないんだ」

「そっか」


自分も分からない。

響と同じなんだぞ。


「光も孤児なんだけどね。美希お姉ちゃんに会うまでは、一緒の孤児院にいたんだ」

「私と兄ちゃんも孤児だよ。古いお寺でお世話になってたんだけど、兄ちゃんがどこかで自動三輪を拾ってきてから、旅に出たんだ」

「へぇ~。もしかして、ルウェとリュウも孤児だったりするの?」

「うん」「そうだよ」

「なぁんだ。それじゃ、ここにいるみんなが孤児なんだね」

「うん」

「なんか不思議だね。みんな同じ過去を持ってて、今はこうやって旅をしてる。それで今日、ここに集まってる」

「不思議なのか?」

「ルウェは、不思議だと思わない?」

「…思うんだぞ」

「でしょ~」


響は頭を撫でてくれて。

…不思議。

もしも望が体調を崩してなければ、もしもベラニクに来なければ、もしもヤマトでリュウに会わなければ…。

もしもあの日、ヤゥトから旅立たなかったら。

今、こんな風に頭を撫でてもらってなかった。

みんなに会ってなかった。

不思議。

全部がこうなるように決まってたみたいに。

約束してたみたいに。

でも、決まってはいない。

自分が決めた道。

歩いてきた道。

ううん。

道は自分が歩いたあとに出来るんだ。


「みんなが助けてくれるもんね。前が見えなくても怖くない」

「うん」

「……?何の話?」

「秘密。二人の内緒だもんね」

「うん」

「えぇ…。気になるなぁ…」

「皿洗い、終わったよ」

「うむ。ご苦労であった」

「もう…。なんで、響が、えらそうに、してるのよ…」

「まあまあ。ほら、お茶菓子でも食べてゆっくりしなよ。お茶はわたしが淹れるからさ」

「うん、ありがと。でも、皿洗いは、代わってあげないからね」

「えぇ~…。そんなのってないよ~…」

「ほら。早く、お茶。喉、渇いちゃった」

「人使いがあらいなぁ…」

「もともと、響が、言ったことでしょ。責任持って、淹れてよね」

「はぁい…」


響はガックリとうなだれて、流しの方へ向かう。

…何かを言うときには、ちゃんといろいろ考えてから言わないといけないんだぞ。

自分も、注意しないと…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ