表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/537

84

「響。あんまり急ぐと、喉に、詰めるよ」

「ん」

「よく食べるねぇ。たくさん作っておいてよかったよ」

「成長期ですから」

「はは、そうだね」


響はご飯をお味噌汁で流し込むと、箸をクルリと回してお椀を光に渡す。

すると、光はムッとした顔をして響の頭をはたいた。


「いったぁ~…」

「もう!目の前に、あるんだから、自分で、入れなさいよ!」

「むぅ…。光のケチ」

「ケチで、結構。わたしは、響のお母さんじゃ、ないんだよ」

「じゃあ、なんなの?」

「えっ…それは…」

「響のお姉ちゃんなんだぞ」

「あー、そうだね。お姉ちゃん。ねぇ、お姉ちゃん。お代わり」

「自分で、入れなさい」

「妹が可愛くないの?」

「こんな妹なら、いらない」

「えぇ…。お姉ちゃんに見捨てられた…」

「ははは。じゃあ、お母さんが入れてあげようかね」

「ありがとうございま~す」

「もう…。すみません」

「いいのいいの。久しぶりに娘とごはんを食べてるみたいで嬉しいよ」

「娘さんが、いるんですか?」

「ああ。今はルイカミナにいるけどね。ほら、ご飯だよ」

「ありがとうございます。で、どんな人なんですか?」

「私に似て美人だねぇ」

「へぇ。あんまり期待出来ませんね」

「ひ、響!」

「はは、そりゃそうだね。私に似てたらダメだ。でも、美人なのは本当だよ。親の欲目を差し引いてもね」

「名前はなんていうんだ?」

「茜。ルイカミナ自警団の第一部隊隊長なんだよ」

「第一部隊ですか。すごいですね。精鋭中の精鋭しか入れないって聞きますけど」

「そうらしいね。昔から、腕っぷしだけは強かったから」

「いや、腕っぷしだけでは入られないと思いますよ」

「そうかねぇ。まあ、あんまり危険な仕事はしてほしくないってのが実際のところだね。結婚もまだなのに…」

「今、何歳なんですか?」

「私は四十二だよ」

「いや、そうじゃなくて…」

「ははは。茜は今年で二十歳。二十にしちゃ、ポワポワしてるけどね」

「ポワポワ…」

「そうね。リュウみたいなかんじね」

「わたしは、ポワポワなんてしてないの」

「おっと、これは失礼したわね」

「むぅ…」

「ははは」


おばちゃんは、リュウの頭を撫でながら大笑いする。

楽しそうに、寂しそうに。



真っ暗な夜道。

星がキラキラ輝いてて、とても綺麗。


「はぁ~、お腹いっぱい」

「響は、食べ過ぎ」

「光お姉ちゃんも、いっぱい食べてたの」

「そうそう。他人のこと、言えないよ?」

「そ、そんなこと、ないもん…」

「ふぁ…。眠たいんだぞ…」

「そうだね。早く宿に戻ろっか」

「うん…」


お腹いっぱいになったら眠たくなってきた…。

欠伸が止まらないんだぞ…。


「それにしても、望お姉ちゃんはどうなったのかな。誰も何も報告してくんないし」

「そうだね…。心配だね…」

「こっそりさ、様子を見に行ってみる?」

「ダメだよ!それで、響も、倒れちゃったら、どうするのよ!」

「ご、ごめん…」

「大丈夫になったら、また、連絡があると思う。そのときまで、我慢しよ?」

「うん…」

「でも、やっぱり心配なの…」

「それは…そうだけど…」


望…。

早く元気になってほしいんだぞ…。

また、望と一緒に旅をしたい…。

だから…。



フカフカの布団は羽根みたいに軽くて、身体に巻きつけなくても暖かかった。


「でも、毛布もあんまりきっちり巻きつけない方がいいよ。毛布と身体の間にある空気が温度を保ってくれるから。その前に、苦しいしね」

「ふぅん」

「まあ、硬い毛布では、羽毛布団には勝てないけどね」

「そうなの?」

「うん。ていうか、この布団は羽毛だよ」

「羽根が入ってるのか?」

「そうそう。フワフワでしょ?」

「うん」

「ねぇ、光。何の羽根を入れるんだっけ?」

「………」

「光?」

「………」

「ありゃりゃ。寝ちゃってるね。疲れたのかな。やけに張り切ってたし」

「リュウも寝てるんだぞ」

「なんだ。じゃあ、わたしたちしか起きてないんだね」

「うん」

「そういや、ルウェも眠いって言ってたよね。目、冴えちゃった?」

「うん」

「あるよね。猛烈に眠たかったのに、布団に入ったら目が冴えるんだよね~」

「響も眠られないのか?」

「そうね…。ルウェが眠たくなるまで起きててあげるよ」

「じゃあ、早く寝ないと…」

「いいよいいよ。無理に寝ようとしたら、余計に目が覚めるでしょ?」

「うん…。でも…」

「大丈夫だよ。わたしはルウェのお姉ちゃんだからね」

「…うん」


そっと頭を撫でてくれた。

嬉しくて手を伸ばすと、しっかり握ってくれて。


「…ねぇ」

「ん?」

「一緒に寝ていい?」

「ふふふ。甘えん坊さんだね。いいよ。こっちに来なよ」

「うん」


布団の中に入ると、響は少し後ろに退がって場所を空けてくれた。


「あったかい…」

「そうだね」

「響」

「ん?」

「えへへ。なんでもないんだぞ」

「そっか」

「ん~」


良い匂い…。

姉さまや葛葉と同じ匂いがする…。

お姉ちゃんの匂い…。


「眠れ我が子よ 今日をいだいて

 眠れ我が子よ 明日を夢見て

 今日が昨日より良い日なら 明日はもっと良い日になる

 今日が昨日より悪い日なら 明日はきっと良い日だから

 眠れ我が子よ 翼を広げ

 光り輝く 明日へ羽ばたこう」


澄んだ歌声は、闇の中でいつまでも響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ