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「えっ、まだ噛んでたの?」

「んむ」

「よく噛んで食べる。良いことだ」

「いや、もうお昼だし…」

「んー」

「リュウ、飲み込むか出すかしなさい」

「うん」


リュウは懐から紙を出すと、そこに吐き出した。

そして丁寧に畳んで、また懐に仕舞った。


「って、えぇっ!?リュウ、まだ食べる気なの!?」

「……?うん。どうして?もったいないよ」

「もったいないとかじゃなくてね…。あー、なんて言えばいいのかな…」

「遙お姉ちゃんがね、食べ物は粗末にしちゃいけないって言ってたの。だから、この干し肉も大切に食べるの」

「良い心構えじゃねぇか」

「ワゥ」

「ああ。しかし、衛生面での心配や行儀の問題もある。食べていたものを吐き出して、それをまた食べるというのは控えた方がいい」

「私としては、今すぐやめてほしいけどね…」

「まあええやないか。食いもんを大事にするってのは、生きてる中で一番重要なことや。旅の身やったら尚更な。それが分かってるなら、ごちゃごちゃゆうこともないやろ?」

「むぅ…」

「さあ、メシやメシ。はよせな冷めてまうぞ」

「そうだな。俺はもう腹ペコだぞ」

「なんや、狩りに行くんとちゃうんかい」

「いいじゃねぇか、たまには」

「たまには、ねぇ。オレの記憶が正しかったら、オレらと一緒に食べてる回数の方が多いんやけどなぁ。どうなっとるんやろ」

「記憶違いなんだろ」

「まったく。大和には困ったものだな」

「ジジィだって、狩り、しねぇじゃねぇか」

「もう歳だからな。それに、私のような年寄りが若い芽を摘むわけにもいくまい。若い芽を食べて生きるのは若い者だけ。年寄りは死を待つのみだ」

「…よく言うぜ」

「はいはい、喧嘩はおしまいおしまい」

「こんな若造とは喧嘩にもならんよ」

「ふん。吠えてろ」


大和はカイトに少し唸ると、フイとそっぽを向いた。

カイトは、そんな大和なんて相手にしてないみたいで。

望が投げる肉の欠片を上手に食べていた。


「上手いね」

「何、これくらい朝飯前だ」

「大道芸じゃねぇんだから。爺さんが無理すんじゃねぇよ」

「む?心配してくれているのか?」

「んなわけねぇだろ」

「そうか。それは残念だ」

「素直やないな」

「ふん…」

「大和は優しいのか?」

「そうだな…。口は悪いし態度も悪い。向こう見ずで思慮が浅い」

「おい、ジジィ。お前…」

「このように、他人の話も最後まで聞かない。しかし、だ。私は、大和は優しき青年だと思うぞ。そうでないと、明日香が好きになる道理がないしな」

「ワゥ」

「大和、意外に評価が高いんだね」

「な、何言ってんだ!どうせ、口先だけだろ!」

「では、明日香の言うことも口先だけのことだと言うのだな?」

「………」

「なんでそうなるんだよ!あ、明日香の言ったことは、今は話題になってないだろ!」

「明日香は私の言ったことに賛同した。つまり、私を否定するということは、明日香を否定するということだ。どこか間違っているところはあるか?」

「………」

「あ!明日香!待てって!」


明日香は急にどこかへ走り去ってしまった。

大和はそれを追い掛けて。

…なんだか、姉さまとセトを見てるみたいなんだぞ。


「あーあ。カイト、やりすぎじゃない?明日香、泣いてたよ」

「青春というのは、あれくらいしないと充分に満喫出来ないものなのだよ」

「青春ねぇ。オレには言葉遊びを楽しんでるようにしか見えんかったけど」

「年寄りの数少ない娯楽なのだ。それくらい許してくれないか」

「えぇ…。結局そこなの…?」


呆れ顔の望。

お兄ちゃんもお手上げみたい。

…カイトって、だいぶお茶目なおじいちゃんなんだぞ。


「ごちそうさまなの」

「あ、美味しかった?」

「うん。美味しかったよ」

「そう。よかった」

「んー、おやつ~」

「あ…」


リュウは懐からさっきの紙を出すと、中身を取り出して口に入れる。

そして、また噛み始めた。


「あー…遅かった…」

「はは、やっぱり気に入らんか」

「当たり前だよ…。私、ずっと前にそれをやってお腹壊したから…」

「ほぅ。中ったのか」

「たぶんね」

「リュウ、大丈夫なのか?」

「んー。今はなんともないよ」

「口にものを入れたまま喋らないの」

「ふぁ~い」


リュウがお腹痛くなったらどうしよう…。

ホントに大丈夫なのかな…。


「ルウェ。そんなに心配しなくていいよ。私も、腹痛に効く薬くらいは持ってるからね」

「食中毒にも効くんか?」

「効くよ。私特製だからね」

「ホンマかな…。まあ、効かんかってもオレが持ってる薬やったら確実やけどな」

「私の薬、信頼してないの?」

「出来るかいな。薬師が調合したわけでもないのに」

「む。私だって、いちおう薬師の勉強はしてたんだからね」

「ほぅ。どれくらいや」

「二年くらい」

「ほなら、まだまだやな」

「仕方ないじゃない。先生が急に北へ行かなきゃいけない用事が出来て…」

「逃げられたんか」

「違うよ!…北で大変な伝染病が出たからって、居ても立ってもいられなくなって」

「四日風邪か」

「うん…」

「なるほどな」

「四日風邪?」

「だいたい四日間、風邪みたいな症状が出て、それが終わると何事もなかったように治る病気だな。それだけなら良いのだが、三人に一人くらいは重症化して目が見えなくなったりするようだ」

「うん…。普通の風邪との見分け方が難しくて、しかも尋常じゃない速さで感染が広がって薬師が足りなくなったから、先生も行っちゃったんだ…」

「そうか。困っている人を放ってはおけないのだな」

「うん。自分もいろんな人に助けられたから、今度は自分が助ける番なんだって。先生の口癖だったんだよ」

「その先生も、大変な人生を歩んできたのだな」

「そうだね。私とそんなに変わらない歳だったんだけど…」

「…絶対、鯖読んどるやろ」

「そんなことないよ。ホントに二、三歳しか変わらないの」

「それは嘘やろ、さすがに…」

「嘘じゃないって!」

「何か偉大なことを成し遂げるのに年齢制限はないのだ。望と変わらない歳でも良いではないか。不満があるのか?」

「不満はないけど、信じがたいやろ。普通に考えて」

「まあ、そうかもしれんな」

「ホントだって!」


望と変わらないのに、すごいことをした人。

…自分にも、何か出来るかな。

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