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「ヤマトに戻った方がええんとちゃうん?」

「そうだな…」

「いや、戻ったところで何が変わるわけでもない」

「何ゆうてんねん…。ヤーリェを寝かしとく環境が激変するやろ…」

「む?」

「オレが連れていくよ…。だから、みんなはベラニクに行ってくれ…」

「連れていくゆうても、背負ていくんか?そんなんしてたら夜になるぞ」

「いいんだ…。オレに出来るのはこれくらいしかないから…」

「何言ってるんですか。紅葉さんだけが、ヤーリェの心配をしてるんじゃないんですよ」

「………」

「だから、一人で行くなんて言わないでください」

「…ありがとう」

「明日香、いける?」

「ワゥ!」

「いや、それなら私が行こう。陸路を行くより空路の方が速いからな」

「でも、全員は無理でしょ?」

「そうだな。ヤーリェと紅葉の二人で限界だ」

「ほなら、しゃーないな。オレらは先に進むしかない」

「………」

「納得いかんか?」

「いくよ!いくけど…」

「ヤーリェが心配なのは、みんな同じなの」

「せやけどな…」


まだ目を覚まさないヤーリェのことが心配。

ルトは、もうだいぶ落ち着いたみたいだって言ってたけど…。


「紅葉」

「ああ。頼めるか」

「当たり前だろ」

「え?どうしたんですか?」

「聖獣と契約者ってのは一心同体だからな。例えば、紅葉が見たもの聞いたもの、あるいは、記憶なんかも俺が望めば手に入れることが出来るんだ。逆もまた然り」

「へぇ。じゃあ、私とカイトもお互いに見聞きしたものを共有出来るってこと?」

「そういうことになるな。まあ、あまり使える能力ではないが、こういうときには役立つ」

「伝達係か。…ってことは、お前、オレらに付いてくるんかい」

「そうだ。不満か?」

「いや…」

「ワゥ!」

「明日香がすごく嬉しそうなんだぞ」

「えっ、あ、うん…」

「良かったな。美人の白狼に気に入ってもらえて。いや、美狼か」

「う、五月蝿い!お、俺は別に嬉しくなんか…」

「誰も嬉しいかどうかなんて聞いていないだろうに」

「なっ…!」

「やはりまだまだ青いな、お前は」

「若さに対する僻みか」

「いや。羨ましい。その若さが。まあ、上手くやるんだぞ」

「ワゥ!」

「なんで明日香が返事するのよ…」

「ふふ、お前たちといると、本当に退屈しないな」

「あ、笑ったんだぞ」

「え?」

「いろはお姉ちゃん、ヤーリェが倒れてから笑ってなかったの。でも、今、笑ったの」

「そうか…。笑ってなかったか…」

「笑ってなかったのはみんなだけど、でも、狼の姉さまに一番笑ってほしかったんだぞ」

「そう…だな。一番近くにいる私が笑ってないと、ヤーリェも笑ってくれない。私は、ヤーリェのことを全く考えてなかったのかもしれない」

「ううん。いろはお姉ちゃんは、一所懸命にヤーリェのことを考えてたの。だから、笑ってなかったの。でも、今からは笑顔で待っててあげてほしいの」

「分かった。約束するよ」


そして、狼の姉さまはギュッと抱き締めてくれた。

狼の姉さまは、とても柔らかくて、とても温かくて。


「じゃあな。また会おう。ヤーリェの目が覚めたら、すぐに報せるから」

「報せるといっても、俺が確認を怠ると分からないままだけどな」

「…怠ける気なのか?」

「あ、いや、例えだろ。そんなに睨むなって…」

「ふん」


大和って強そうに見えるのに、明日香とか狼の姉さまには弱いんだぞ。

なんでだろ。

葛葉は、男の人は女の人に弱いものだって言ってたけど。


「話は済んだか?」

「ああ。大和とはな」

「………」

「狼の姉さま、ヤーリェ、ルト。行ってらっしゃい、なんだぞ」

「行ってらっしゃ~い」

「行ってきます」「ああ。また会おう」

「なんや一瞬やったけど、世話になったな」

「いや。こっちこそ世話になった」

「困ったときはお互いさま、ですよ」

「ふふ、そうだな。あと、次会うときには敬語が取れてると良いんだがな」

「うん。努力するよ」

「あ、せや。これ、返しといてくれんか?」

「ん?昨日の弁当箱か」

「ちょっと!お兄ちゃん!」

「いや、いいんだ。これくらいやらせてくれ」

「柚香って子の家やねんけど…。まあ、ヤマトの自警団で一番賑やかな"お姉さん"って聞いて、出てきた人に返してくれたらええわ。その人が柚香の母親やから」

「ふむ。"お姉さん"が重要なのか?」

「まあ…せやな。そう紹介しとかなオレの命が危ない」

「なるほど。そう言っていたということも伝えておこう」

「え?あ、おい!それはやめてくれよ!」

「じゃあな」


ヤーリェをルトの背中に乗せて、続いて狼の姉さまもしっかりとヤーリェを抱きかかえるようにして乗る。

ルトは何回な羽ばたいて地面を蹴り宙に浮かぶと、一瞬だけこっちを見て、そのままヤマトの方へ飛んでいった。

…なんだか、ニヤリと笑ってるようにも見えたんだけど。


「おい!絶対に言うなよ!」

「もう聞こえてないって」

「いや、もうホンマに母さんが怒ったとき知らんやろ!」

「知らないけど、五月蝿いよ」

「あぁもう!余計なこと言わんかったらよかった!」

「いつもそうじゃねぇか、お前は。一言どころか二言三言余計に言って」

「はぁ…。もう十年くらいは逃亡生活を送りたい…」

「何をバカなこと、言ってるのよ!ほら、行くよ!」


望はお兄ちゃんの頭を叩いて引っ張る。

お兄ちゃんはというと、望に引っ張られるまま、ズルズルと引きずられていって。


「ベラニクってどんなところかな?」

「きっと、お茶が美味しい街なの」

「お茶は特産品じゃないけどな。お茶に合うお菓子はたくさんあるはずだ」

「ホント!?」

「ああ」

「じゃあ、早く行くの!」

「あ、おい。転ぶぞ」

「あうっ!」

「はぁ…。言わんこっちゃない…」

「大丈夫?」

「いてて…」


リュウの手を引いて起こしてあげる。

うん、怪我はしてないんだぞ。


「えへへ。じゃあ、行こ!」

「うん!」「ワゥ!」「ああ」


望とお兄ちゃんのあとを追って。

ベラニク…。

楽しみなんだぞ!

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