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「ふむ。なるほどな」
「何か分かったの?」
「暴走の反動であるのは確かだが、どうも他にも要因があるようだ」
「他の要因?」
「ああ」
ルトは目を少し細めてヤーリェを見る。
何が見えるのかは分からないけど。
「ふぅむ…」
「どうしたの?」
「いや、腹が減ったと思って」
「………」
「なんだ。私も腹は減る。お前たちだってそうだろう」
「せやけどなぁ…。ヤーリェが大変やゆうときに…」
「ヤーリェに構ってばかりで、私たち自身も体調を崩しては何も意味がないだろう」
「そりゃそうやけど…」
「では、夕飯にしようか」
「はぁ…」
「なんだ、望。不満か?」
「私は食べられそうにもないよ…。ヤーリェのこと看てるから、食べるなら勝手に食べて…」
「望、お腹空いてないのか?」
「ううん。でも、何も喉を通らなさそう…。ヤーリェが苦しんでるのに…」
「お腹が空いてたら、藺草は編めぬって言うの」
「ふふ、何それ。腹が減っては戦は出来ぬ、でしょ?」
「あ、笑った」
「え?」
「望お姉ちゃん、ヤーリェが倒れてからずっと怖い顔してたの」
「…そっか。ごめんね」
「うん。だから、一緒に夕飯、食べるんだぞ」
「そうだね。うん、ありがと」
「よっしゃ、夕飯やな。ほんで、何にするかやけど…」
「ワゥ」
「ん?どうかしたんか?」
「………」
「兎の肉ならあるって」
「ほぅ。ほなら、それ使おか」
「ワゥ」
明日香はガサガサと草むらに入っていき、兎を咥えてすぐに戻ってきた。
「兎の肉なんか久しぶりやなぁ。あいつらすばしっこいから、なかなか捕まえられんねん」
「お兄ちゃんが鈍臭いだけでしょ」
「そんなことない。望は明日香に捕ってきてもらったらええんやから楽やろうけどな」
「明日香なんて、ほとんど分けてくれないよ。ね、明日香」
「ワゥ」
「認めるんかい…」
「とりあえず、早く夕飯にしましょう」
「せやな」
お兄ちゃんは、背負い袋から鍋や食器を取り出して準備を始めた。
ホント、お兄ちゃんの袋にはいろんなものが入ってるんだぞ。
最後の一滴も飲み終わって。
お腹いっぱい。
「ごちそうさま~」
「はい。お粗末さまでした」
「ワゥ」
「え?そんなの知らないよ…」
「………」
「まだ紅葉さんの目も覚めてないし、ルトもどこかに行ったし…。それに、大和だって忙しいんでしょ」
「いや、そうでもねぇよ」
強い光があたりを真っ白にする。
そして、次の瞬間には明日香の隣に大和がいて。
「あ、大和」
「いちいち眩しいから、もっと離れたところに出てこい」
「相変わらずだな、お前は。光の使徒が光を発さずに出てくるわけにもいかねぇだろ」
「もうちょい抑えろよ。ルトなんか大人しいもんやぞ」
「あれは闇だからな。闇に眩しいも眩しくないもねぇだろ」
「それで、大和は明日香に会いに来たの?」
「ち、違うって!ヤーリェがどうなったか心配で…」
「ルトが来てなんかしたあとからは、ちょっと落ち着いてる。それだけや。ほれ、目的も達成したんやから帰れ」
「ちょっと、お兄ちゃん。そんなこと言ったら可哀想でしょ」
「ふん。こんなジジィが色気付いとるんが悪い」
「ジジィってなぁ…。俺はまだ青年って呼ばれる年代だぞ。そりゃ、お前らよか長く生きてるかもしれねぇが。ジジィってんなら、カイトだろ」
「ルトは?ルトは何なの?」
「あれはおっさん」
「おっさん…」
「ああ。おっさんだ」
「ワゥ」
「えっ…お前か?お前は…」
「明日香は、じゃじゃ馬娘だよね。狼だけど」
「………」
「あはは、怒った怒った」
「明日香はじゃじゃ馬なのか?」
「そうだね。相当のじゃじゃ馬だよ」
「ふぅん…」
前に葛葉が、姉さまみたいな人をじゃじゃ馬って言うんだって教えてくれた。
じゃあ、明日香と姉さまは似てるのかな。
でも、大和とセトは似てないんだぞ。
「あぅ…うぅ…」
「ん?」
「ふぅ…」
「うなされてるだけか…。今日は、カイトもルトも戻ってこないと思う。俺は何も出来ないけど、夜番くらいは出来るから」
「おぉ、すまんな」
「紅葉さんもヤーリェも動けないから、明日香だけじゃちょっと不安だったからね」
「ゆっくり眠ったらいい。光は抑えておくから」
「当たり前やろ。そんなギラギラ光られたら寝られんっての」
「ギラギラという表現は合わねぇな。俺の光は月の光だから」
「月やったら、もっとやんわり光ってくれへんかな」
「ふぅむ…。こんなかんじか?」
大和の光がフッと消えたかと思うと、次は柔らかく光りだした。
まるで、本物の月みたいに…。
「わぁ~。綺麗なの!」
「ホント、綺麗なんだぞ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「やれば出来るんだね」
「なんだ、その普段は出来ない子みたいな言い方は」
「事実やろ」
「お前は光りすら出来ねぇじゃねぇか」
「その方が、大和みたいに周りに迷惑掛けんで済むやろ」
「素直に羨ましいと言えよ」
「アホか。一個も羨ましくないわ」
「これだから若造は…」
「お前も若造やろ。自分で青年とかゆうてたし」
「歳の差という、越えられない壁があるだろ」
「ふん。未熟なんは何歳でも一緒や。百歳でも二百歳でも青臭いやつは青臭いんや」
「言うようになったじゃねぇか。ついこの間まで、寝小便をして泣いてたチビが」
「いつまでも成長せんからって、オレのこと、妬まんでくれるか」
…まだ続きそう。
大和の光は、さっきより強くなってるし。
「ルウェ、リュウ。あっちで寝よっか」
「うん」「はぁい」
「ワゥ」
「明日香も一緒に寝るんだぞ」
「あんなに五月蝿いのは嫌だもんね」
明日香がいなくなったのにも気付かないで喧嘩を続ける二人。
…あんな二人は放っておいて。
寝る準備をして、明日に備える。
お休み…。