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大和が帰ってきた。
でも、リュウのお姉ちゃんはもういなかったみたい。
リュウはあんまりガッカリすることもなく、むしろ少し嬉しそうだった。
…なんでだろ。
「しかし、世界は狭いなぁ。まさか大和と契約してるやつが、こんな近くにおるとはな」
「たとえ旅をしていても、斡旋者が行動出来る範囲は限られてくる。それに、自身が知っている者でないと召致出来ないからな。俺は…なんだ、その…」
「友達少ない、やろ」
「ぐっ…。言うんじゃねぇよ…」
「大和、お友達少ないの?」
「この歳になると、減っていくばっかりで増えねぇんだよ」
「だんだん召致しにくくなるしな」
「なんで?」
「聖獣の力ってのは、歳を経るごとに強くなっていく。すると、召致するときにもバカでかい力を必要とするんだ。重いものを運ぶのに、軽いものを運ぶときより多くの力を使うみたいにな」
「ふぅん」
「分かってるのか?リュウは特に分かってなさそうだが」
「うん」
「うんってなぁ…」
大和は呆れ顔。
でも、なんだか楽しそう。
「それより、明日香。もう少し離れろ。歩きにくい」
「………」
「明日香、大和のことが好きなんじゃないの?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「お前は何を動揺してるんだ」
「動揺なんかしてねぇって!」
「じゃあ、大声を出すな」
「いいだろ!俺の勝手だろ…」
「ワゥ」
「……!」
「明日香。あんまり大和を困らせちゃダメでしょ?」
「………」
「し、しかしだな…。俺に白狼のお前は似合わねぇよ…」
「ねぇ、明日香、何言ってるの?」
「こ、子供には関係ねぇって!」
「……?」
「ふふふ」
何を慌ててるんだろ。
変な大和なんだぞ。
「むぅ…」
「ん?ヤーリェ、疲れてきたか?」
「うん…」
「坂道ばかりだからな。そら」
大和はヤーリェが乗りやすいように伏せて。
乗ったのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。
「ルウェとリュウも、疲れたら言えよ。俺は、二人くらいは乗せられるから。明日香も入れて三人ちょうどだな」
「うん」
「どこも考えることは同じやな」
「ん?どういうことだ」
「いや、疲れたら乗せてもらうって発想が同じやなって」
「まあ、体力を考えると俺たちが補助をするのは当然ではあるが」
「んー、そんなもんか」
「ああ」
「それにしても、珍しくないか?」
「そうだな」
「何が珍しいの?」
「ヤーリェが疲れてへばることだ。…どうかしたのか?」
「うん…」
「ん?」
「うっ…」
「どうしたの?気分が悪いの?」
「うん…」
「さっきまでは元気だったのに…。頭が痛いとかお腹が痛いとかある?」
「胸が苦しい…」
「えっ。お昼ごはんからあと、何か食べた?」
「ふっ…うっ…」
「いや、食べてない。ずっと見てたけど…。オレのおやつが中ったのか…?」
「いえ。それならルウェやリュウも…って、今はそうじゃなくて」
望は、ギュッと目を瞑って苦しそうにするヤーリェの額に手を当てたりして。
そして、大和からヤーリェを降ろして、地面に敷いた布団に寝かせる。
「なんだろ…。熱もあるし、心拍数も上がってる…。呼吸も荒くて…」
「目を開かせてみろ」
「えっ、あ、カイト」
「ふぅむ。お前、やっと名前を貰ったんだな」
「話はあとだ、大和。それより、望」
「うん…。ヤーリェ、目、開けられる?」
「いや、無理だろう」
「じゃあ、どうしたら…」
「考えるまでもないやろ。ほれ」
「あ、そんな乱暴に…」
開かれたヤーリェの目は、赤黒くなっていた。
なんだか、血が固まったような…。
「うぅ…あぅ…」
「なんやこれ…」
「暴走の反動が今になって出てきたのだな」
「暴走?暴走したのか…?」
「ああ。ルトが止めたんだが…少し甘く見すぎていたようだ」
「た、大変だ…。オレが…オレが目を離していたから…」
「おい、紅葉!しっかりしろ!今はそんなことはどうでもいいだろ!」
「守る…守るって決めたのに…。また…守れないのか…?オレは…オレは…」
「ちぃっ!」
大和は何かチカチカと光り始めた。
なんだろう…と考える間もなく、目の前が真っ暗になる。
「あれ?」
「見ない方がいい。あの種の光は精神に直接干渉する」
「……?」
「理解する必要はない」
次に明るくなったとき…つまりカイトが翼をどけたとき、狼の姉さまは静かに眠っていた。
何をしたのかな…。
「まったく…手間の掛かるやつだ」
「…何したんや?」
「自分の身に急激で大きな負担が掛かったとき、脳は最低限の生命活動を残して停止する」
「つまりは、気絶させたってことか?」
「そんなところだ」
「また回りくどい言い方して…」
「それより、ヤーリェだ」
「ヤーリェ…」
さっきより苦しそう…。
リュウも落ち着きなく翼をはためかせている。
「俺には闇のことは分からん。どうにも出来ないぞ」
「そんなことは言われなくても分かっている」
「や、薬草ならいくらかあるけど…」
「そうだな…」
「ルトは?ルトを呼び寄せたらええんとちゃうん?」
「それはそうだが」
「なんか問題でもあるんか?」
「さっきから応答がないのだ。もしかしたら、寝てるのかもしれん」
「ったく、あいつはいつもそうだな!」
「怒ったところで、どう代わるものでもあるまい。今はとにかく、やれるだけのことをやってやるしかないだろう」
「はぁ…。分かってるよ…」
斜めに赤く照らす太陽は、これから夜が来るということを伝えていた。
ヤーリェ…。
大丈夫だよね…。




