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「でもまあ、必然だったのかもしれん。美希もオレも似たような道を辿っているからな。その同行者だった望も無意識のうちに同じ道を通り、自然と道が重なったということだろう」
「でも、今回はリュウのお陰ですよ。リュウがベラニクに行きたいって言ったから」
「ほぅ」
「みんながね、たぶんベラニクにいるの。だから、ベラニクに行きたいの」
「みんなって、旅団天照か?」
「うん」
「そうか…」
少し考えるように、リュウを見る狼の姉さま。
でも、すぐに元に戻って。
「狼の姉さま、どうかしたのか?」
「ん、いやな。行商を生業としてるクーア旅団とかユンディナ旅団ならともかく、危険な仕事もやってる旅団天照がこんな子供を連れ回してるのはなんでなのかと思ってな」
「あ、そういえば」
「リュウ、何か知ってる…わけないか…」
「あのね、桐華お姉ちゃんが、ラズイン旅団に対抗するって言って、コジノホゴカツドウってのを始めるって言ってたって遙お姉ちゃんが言ってたの」
「…ん?結局、遙に聞いたのか」
「うん」
「ツッコむとこはそことちゃうやろ…」
「ラズイン旅団に対抗して、というのが桐華らしいな。しかし、そうか。あいつがこの前に言ってた、すごい秘密っていうのが孤児の保護活動なのか」
「でも、そんなんしてどうするんやろ。孤児なんか、それこそ溢れるほどおるぞ」
「いくつかの信頼出来る孤児院や寺、神社なんかと提携したり、あるいは、新しく施設を設置して、保護してきた孤児の面倒を見てもらう代わりに経済的な援助を行う…といったところだろう」
「なるほどな…」
「戦の絶えない今の時代、平和なのはルクレィくらいだ。設立もヤゥトだし、たぶんそのあたりを拠点としているんだろう」
「ルウェ。ヤゥトに旅団天照が来たりしなかった?子供たちを連れて」
たくさん人が来て、お祭りをするときはあったけど…。
うーん…。
「…分かんない。でも、遠くから森とか原っぱを越えてきて、村に住み着いた子とかはたくさんいるって姉さまに聞いたことあるんだぞ」
「へぇ…」
「桐華が言ってたのは、ついこの間だ。たぶん、最近始めたんだろう」
「わたしがホゴカツドウの第一号だって、桐華お姉ちゃんが話してたの。それで、この名札を貰ったの」
「えっ、リュウって孤児だったの?」
「コジって何なの?」
「あっ…いや…」
「はぁ…。アホやなぁ、お前は」
「……?」
「まあ、それは置いておくとしてだ。なんでリュウは一人だけ取り残されてたんだ?」
「朝、寝坊して、起きたらもういなかったらしいです」
「護衛の都合か…。しかし、一人くらい同行者を置いていってもいいようなものだが…」
「桐華お姉ちゃんが横で寝てたけど、起こしても起きないから置いてきたの」
「…なるほどな。同行者はリュウの方だったか」
「……?」
「だ、団長を放っていくんですか…?」
「実質、副団長の遙が団長のようなものだ。桐華がいなくてもやっていける」
「えぇ…」
「まあ、あいつもあいつで頑張っているんだ。お茶を飲みながらいろいろ考えて」
「お、お茶?」
「桐華は大のお茶好きだ。旅団天照で、お茶農園をひとつ持ってるらしいしな」
「えぇ…。それはまた本格的ですね…」
「ああ。あいつのお茶好きは筋金入りだからな」
「桐華お姉ちゃんと、いつも一緒にお茶を飲んでるの」
「えぇ~。お茶って苦いじゃない。ぼくはあんまり好きじゃないかな…」
「そんなこと言って、麦茶はよく飲むじゃないか」
「む、麦茶は緑色じゃないから美味しいの…」
「ふふ、色で分けるか」
「むぅ…」
自分は…どうなのかな。
風邪を引いたときに姉さまが作ってくれた薬草茶はもう飲みたくないけど…。
「あ、それより、桐華さんが心配するんじゃないですか?」
「たぶん、リュウと一緒だったってことを知らないだろう。自分一人だけ置いていかれることはよくあることだし」
「えぇ…」
「ふふ、そういうところなんだよ。でもまあ、いちおう報せておくか」
「え?どうやってですか?」
「まあ見てろ。大和、頼めるか」
「ほいほい」
狼の姉さまが合図をすると、一瞬、何もないところが強く光った。
思わず閉じた目をもう一度開けると、そこには悠奈を大きくしたような銀色の狼がいて。
「しっかし、まぁたあの嬢ちゃんかよ…」
「いいじゃないか。大和も好きだろ?桐華のこと」
「ぶっ!バ、バカ言ってんじゃねぇよ!ありゃ茶菓子目当てだ!」
「ふぅん」
「ホ、ホントだからな!」
「よう、大和。久しぶりやな」
「ん?おぉ、坊主か。おっさんはどうしたんだ」
「もう発った」
「そうか…。ついにあいつも逝っちまったか…」
「いやいや、勝手に殺すなよ!オレとは別に発ったってゆうてんねん!」
「なんだ、つまらん」
「アホゆうなや…」
「お兄ちゃん、この聖獣と知り合いなの?」
「ん?前に話さんかったか?」
「聞いたような、聞かなかったような…」
「ふぅむ?この嬢ちゃんは、お前の嫁か?」
「な、なんでそうなるの!」
「なんだ。違うのか」
「当たり前だよ!」
「あー、まあ、こいつとは雇用被雇用の関係やな。いちおう」
「まだ護衛なんてやってたんだな」
「ええやないか。何をやろうとも」
「まあそうだが」
「それより、早く行ってくれないか。桐華がヤマトを出てたら探すのが面倒だろ」
「仕方ねぇな。んじゃ、話はあとだ。またな」
「おぅ」
大和は軽く助走をすると、そのままものすごい速さで走っていってしまった。
…大和。
悠奈とカイトと、あと、ルトの話に出てきた。
言葉遣いは乱暴だったけど、なんだか面白そうなんだぞ。