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「む。美味いな」
「うん」
「でも、三つしかないんだ。お前たち三人で食べるといい」
「せやせや。オレらはこっち食べるから」
「それにしても、紅葉さんとヤーリェもベラニクだったんですね」
「ああ。オレたちも弁当を持ってくれば追い付かれなかったんだがな」
「別に競争ちゃうんやし、ええんとちゃうか?」
「まあ、そうだな」
「それで、この赤いチビはどこで拾ってきたんだ。朝はいなかったよな」
「いつの間にか付いてきてた」
「…こいつはオナモミか」
「ヌスビトハギやろ」
「あんまり変わらないだろ」
「いや、オナモミはちょっとでかい。大きさを考えたら、こいつはヌスビトハギやな」
狼の姉さまがリュウの頭に手を乗せる。
そのまま、ゆっくりと撫でて。
「んむ?」
「まあ、そうかもしれんな」
「でも、ヌスビトなんて可哀想だよ」
「盗人を仕事としてるやつらもおるけどな」
「ん?盗賊か?」
「盗賊なぁ」
「ちょっと、お兄ちゃん!」
「ん?どないした」
「む…なんでもない…」
「ほうか」
「まあ、クーア旅団も盗賊だけをやっているわけではないだろ。あそこは巡回行商だけでも充分やっていける」
「え…?あれ?紅葉さん?」
「ん?」
「知ってたんですか?」
「何を」
「あ…いや…」
「ふふふ。でもまあ、ルウェを見れば分かることだ。クーア旅団の腕輪と同じ、銀で作られたラズイン旅団の腕輪。ヤゥトの紋章は万金で作られているし、あとは採掘証明だ。ここから推測されるのは、クーア旅団とラズイン旅団が同一、あるいは、近しい関係であることだ」
「ほぅ。なるほどな」
「ルウェ…。あまりいっぱい装身具を付けないでよ…」
「……?」
なんでだろ。
どれも格好いいのに…。
「まあ、ラズイン旅団は人気だから、模造品や近似品が出回っている。クーア旅団も同様に。採掘証明は少し意外だけどな。旅団の紋章が入った、そういう名札や腕輪を集めて回ってる者もいるらしいから、ラズイン旅団とクーア旅団の腕輪を同時に身に付けていてもおかしくはない」
「じゃあ、なんで…」
「模造品の類は、たいがいは木製であったり安物の金属であったりする。その中での銀の腕輪だからな。あと、クーア旅団とラズイン旅団が同一の旅団だということを知ってたというのが一番大きい」
「なぁんだ。知ってたんですか」
「ああ。タルニアとはずいぶんと長いからな」
「ん?でも、クノは知らんかったやん」
「クノはオレのことを直接は知らないからな」
「……?」
「タルニアとは昔から文通をしているんだ。それこそ、あいつがキラキラのお姫さまだった頃からな」
「えっ、お姫さま?」
「おっと、知らなかったか。じゃあ、この話はここまでだ」
「えぇーっ!すごく気になります!」
「ふふふ。あいつから直接聞けばいい。聞けば話してくれるだろ」
「聞いとけばよかった…」
「まあつまり、クノは手紙を見こそすれ、オレと直接会ったことはないんだ」
「なるほど」
「あ、そうそう。あいつには妹がいたな…」
「いた、ですか」
「ああ」
「………」
「タルニアも驚いただろうな」
「え?なんでですか?」
「それも秘密だ」
「むぅ…。秘密が多すぎます…」
「タルニアは謎が多いやつだからな。…それにしても、お前ら、全く喋らないな」
「んむ」
「お弁当が美味しいから、お喋りしてる暇がないんだぞ」
「神道なの」
「リュウ…。どこでそんなん覚えてくんねん…」
「えっとね、桐華お姉ちゃんが教えてくれたの」
「桐華?旅団天照の?」
「うん」
「紅葉さん、桐華って人のこと、知ってるんですか?」
「まあな。いちおう、旅団天照の団長だ」
「…紅葉さんって何者なんですか?タルニアさんのことも知ってるし、旅団天照の団長さんのことも知ってるし」
「ただの旅人だよ。美希と同じ、な」
「え…?」
「黒い毛に先白、透き通った漆黒の目。すごくお喋りで可愛い子。美希から聞いていた、望って女の子にピッタリ一致する」
「美希お姉ちゃんを知ってるんですか!?」
「ああ。ヤーリェの前は、美希と組んで旅をしていた」
「な、なんで教えてくれなかったんですか!」
「とりあえず落ち着け。教えるも何も、望とまともに話をしたのは今日が初めてだ」
「あ…そ、そうですよね…」
「美希ってやつが、なんかあるんか?」
「私の、旅の師匠なの。今の私があるのは、美希お姉ちゃんのお陰…」
「ほぅ」
「あ、それで、美希お姉ちゃんは今どこにいるんですか?何日か前にユールオで聞いたら、ちょっと前に発ったって…」
「カタムからヤーリェと一緒に旅をしてるから、ユールオにいた時期も少しずれているんだ。だから、正確な位置は分からない」
「そうですか…」
「でも、基本的な道は変わらないはずだ。それに、あいつも新しい子を連れて旅をしている。進む速度も今まで通りとはいかないはずだから、もしかしたら近くにいるかもしれん」
「ホントですか!?」
「あくまで可能性の話だ。手紙でも寄越してこない限りは分からない」
「でも、ヤマトからベラニクに向けて行ってたんですよね!」
「ああ。そうだな」
「じゃあ、ベラニクで会えるかも!」
「ごちそうさまでした」
「おっ。リュウが一番だったな」
「えへへ」
「よし。みんなが食べ終わったらおやつにしような」
「……!」
「あっ!ヤーリェ、急がないの!」
「ん…むぅ…」
「ほら!言わんこっちゃない!」
望はヤーリェの背中を叩いて。
ヤーリェは、苦しそうに咳をしていた。
…慌てんぼうすぎるんだぞ。