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「………」

「明日香、はやく。のぞみねぇが、いなくなっちゃうよ?」

「私はどこにも行かないから…」

「あっ!あれは?」

「あれがお城。あとで行こうと思ってたんだけど…行ってみる?」

「うん!」


お店の隙間から、大きな建物が見えた。

市場にも大きなお店はいくつかあったけど、比べ物にならないくらい大きな建物。


「ルウェ、ルウェ」

「ん?何?」

「おしろって、すっごくたのしいところなんだよ」

「へぇ。楽しみだな!」

「うん!」


昼ごはんを食べ終わったあと、陽葉(ひとは)もユールオを案内したいと買って出て。

涼姉さまは、ずっと望と自分の傍にいることを約束として、許してくれた。


「明日香、だいじょうぶ?」

「…ワゥ」

「えへへ。よかった」


陽葉の足じゃ望に追い付くのは大変だろうからと、陽葉は明日香に乗せてもらっている。

望が何か笛みたいなのを吹くと、明日香はすぐに来た。

すごく高い音のする不思議な笛だった。


「すみません。城内の見学をしたいんですが」

「はい。お名前と住所をいただけますか?」

「望、ルウェ、それと、狼の明日香。住所不定。あと、陽葉」

「あー、陽葉ちゃんの住所はいいです。はい、これ。入城許可証。名前を書いて持っててください。何回でも使えるんで。望さんと陽葉ちゃんは持ってますよね?」

「はい」「うん」

「はい。じゃあ、行ってらっしゃい。今日、王は不在ですが、衛士長はいますので」

「分かりました」

「お昼ごはんがまだでしたら、厨房で用意しますが…」

「残念。食べてきちゃいました」

「そうですか。まあ、陽葉ちゃんがいるなら、そうでしょうね」

「望、まだ?」

「あぁ、ごめんね」

「では、ごゆるりと」


お城!

どんなのかな?



医療室。

薬の匂いがする部屋。

厨房。

美味しいものがある部屋。

広間。

すごく広い部屋。

そして、衛士長の部屋。


「わぁ~、さすが衛士長ですね。相変わらず、すごく綺麗な部屋~」

「まあね」

「これ、なに?」

「緊急伝令用の笛よ。吹いてみなさい」

「うん」


陽葉は笛をくわえると、思いっきり吹いた。


「あれ?鳴らないよ?」

「え?」

「ふふふ。それはね、音が分からないと聴こえない笛なの。五日も練習したら、誰でも聴こえるようになるけどね」

「そうなのか?」

「うん。望ちゃんも持ってるよね」

「はい」

「陽葉。もう一回、吹いてみて」

「……?うん」


また思いっきり吹く陽葉。


「どうしたの?もしかして、聴こえるとか?」

「…うん」


明日香を呼んだ笛と同じ、甲高いけど優しい音。

温かい音だった。


「これは、望ちゃん並の逸材かもしれないね」

「わ、私はすぐに聴こえるようになったくらいですよ。逸材なんかじゃ…」

「ううん。そんなことないよ。短期採用じゃ勿体無いくらい、よく働いてくれたし」

「望は、ここで働いてたのか?」

「うん。旅費稼ぎのための、短い間だったけど」

「美希の紹介でね。伝令班に入ってもらったんだけど、うちのやつらより断然良い働きだったんだよ。ねぇ、衛士になれとは言わないから、あの時の追加報酬くらいは受け取ってよ」

「そうですね…。また考えておきます」

「じゃあ、もういいよ。ルウェにあげるから」

「え?自分は、何もしてないぞ?」

「ダ、ダメですって!」

「だって、望ちゃんが受け取ってくれないなら、ルウェか陽葉にあげるしかないじゃない」

「陽葉は、おかしがほしい~」

「そうね。厨房に行こっか。ルウェも一緒に」

「うん!」

「あ、え!?待ってくださいよ~!」


衛士長に手を引かれ、厨房へと向かう。

お城の中は入りくんでいて、望や衛士長がいなかったら一生出られないかと思うくらい。


「はい、これ。望に見つからないようにね」

「う、うん…」


角を曲がった瞬間、何かの布を渡される。

…これもお金?

布のお金なんて、初めて見た。

綺麗で複雑な模様が織ってあるのが五枚。


「ほら、早くしまって」

「うん…」

「…ありがとね」

「なんでお礼を言うの?」

「望ちゃんはね、寂しがり屋さんなの。その代わり、友達を作るのが上手いんだけど。でも、旅から旅の生活でしょ?せっかく友達が出来ても、会えるのは短い間だけ。だから、余計に寂しさが積もるの」

「…うん」

「約束してくれる?」

「何を?」

「望ちゃんの寂しさを和らげてあげて。望ちゃんの哀しみを受け止めてあげて。旅の道連れとして、友達として。家族として」

「…もちろんなんだぞ!自分がいれば、泣く子も笑うんだからな!」

「ふふ、そうなの?」

「陽葉も!やくそく、する!」

「そうね。ユールオの家族として。私と一緒にね」

「うん!」


望の寂しさを和らげてあげる。

望の哀しみを受け止めてあげる。

衛士長との約束。


「それと、もうひとつ」

「何?」

「泣きたいときには泣きなさい。どういう決心をしたのかは知らないけど、今のルウェの顔、とっても哀しい顔」

「え…う、嘘…」

「ルウェ、カルセ、ン、マゥ。ヤムル、アクツム、セタン」

「そう。自分に嘘をついちゃダメよ?」

「うん…」

「泣くときは望ちゃんを頼ってあげなさい。それが、さっきの約束を守ることにもなる」

「うん…」


泣きたいときには泣く。

そのときは、望を頼る。

衛士長との約束。

でも、自分、そんなに哀しい顔してたのかな…。

陽葉にも分かるくらい…。

じゃあ、望は…。


「よし、ちょうど到着」

「…どこ行ってたんですか!ていうか、なんで巻くんですか!」

「良いじゃない。この子たちと話がしたかったの」

「私がいちゃダメなんですか?」

「うーん…そうね」

「ダメなんだぞ」「ダメ~」「ワゥ」

「むぅ…。気になるなぁ…。あと、明日香は私と一緒にいたでしょ」

「ふふふ。あ、おやつお願い。陽葉が喜ぶような、とびきりのやつをね」

「はい、了解しました」


もう泣かない。

けど、泣きたいときには泣く。

…どうすれば良いんだ?

どっちの約束も守らないといけないのに…。

どうすれば良いのか分からないよ…。


どうするのでしょうか。

泣いてはいけないのに、泣きたいときには泣く。

答えは見つかるのでしょうか?

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