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「ごちそうさまでした」
「はい。お粗末さまでした」
クノお兄ちゃんが作ってくれた夕飯は、とても美味しかった。
やっぱり、お料理が上手いんだぞ。
「ほんで、どうや。怪我の具合は」
「うん。もう大丈夫みたい」
「ほぅか」
「また旅に出るの?」
「ん?あぁ、そうやな。柚香も、もうちょっと元気になったら一緒に行けるかな」
「ホントに?」
「ああ」
「長之助の許可が出てからだけどな」
「早く許可が出ないかなぁ」
柚香はウキウキとした様子で。
早く許可が出るといいな。
「ところでだ」
「わっ、びっくりした」
「聖獣っちゅーんは、なんでそんないきなり出てくんねん」
「良いじゃないか。朝の続きといきたいのだが」
「まだ何かあるの?」
「あのチビはいないか?」
「今は寝てるみたいだけど」
「そうか」
「悠奈となんか関係あるんか?」
「いや、ない。ただ単に五月蝿いのがいないか確認しただけだ」
「………」
「そういえば、ルトって誰かと契約してるの?」
「今はしてないが。というより、契約してるとこれだけ自由に動き回ることは出来ない」
「ふぅん」
「なぜそんなことが気になるのだ、望は」
「召致してるわけでもないし、どうやって来てるのかと思って」
「何も召致だけしかこちらにくる手段がないわけじゃない。それなりに自由に来れるのだが、まあ、向こうで不便をしてるというわけではないからな。好奇心旺盛な者が多いユヌトやクーアでもない限り、こちらに来ることは少ない」
「そうなの?」
「ああ」
「ふぅん」
「さあ、質問はそれで終わりか?」
「今のところはね」
「ところで、そこのクルクスのチビはなんなのだ。それで隠れているつもりか」
「あうぅ…」
「千早です。私と契約している」
「ふむ、なるほどな。千早。良き名だ」
「………」
「さて、本題に取りかかりたいのだが」
「どうぞ」
「ならば…」
「あ、そうだ。なんで、闇を抑えるのに光が必要だったの?」
「あー、うむ。今からその話もするから」
「分かった」
「では…」
ルトは一度咳払いをして話し始める。
「朝話してたのは、祐輔の闇の話だったな」
「うん」
「今まで漏れ出ていなかったのに、急に出てくるということはない。ヤーリェのように常に湧き出ているか、いつまでも出てこないかのどちらかだ。それがいきなり出てきたということは、何かしらの力が加わったと考えるしかない」
「……?」
「ヤーリェ。ヤクゥルには行ったのか?」
「うん」
「えっ、来てたの?」
「うん。街の宿屋さんに泊まってた」
「ほなら、なかなか会えんやろな。正反対やし」
「むぅ」
「その時、闇は出てたのか」
「ううん」
「では、原因は別にあるのか…」
「えっ、連鎖的に闇が出てくることなんてあるの?」
「質が同等なら、共鳴して一時的に出てくることもある。闇に限らずな。望も、共鳴すれば火を纏うことになる」
「えぇ…」
「まあ、カイトがいるから大丈夫だろうが」
「良かった…」
「話を戻して。調べてみたら、ルウェに混ざっている闇はヤーリェとほぼ同質だった。いや、ヤーリェのも少し混ざっていたが」
「え、そんなの、いつ調べたの?」
「朝の暗いうちに一度起こしただろう。あのときだ」
「ふぅん。そんなの分かるの?」
「まあな。あれが祐輔の闇だとすると、ヤーリェの闇と共鳴したと考えられるのだが…」
「違うんだね」
「たぶんな」
じゃあ、なんで暴走したんだろ。
うーん…。
「あ、そうだ」
「なんだ」
「悠奈が、ルトが闇を混ぜたって言ってたけど、どういうことなの?」
「そうだな…。太陽は眩しいだろう」
「うん」
「月は明るくとも、眩しくはないだろう」
「うん」
「そういうことだ」
「はぁ!?それで終わりかいな!」
「全然分かんないんだぞ」
「そうか?」
「当たり前やろ。ちゃんと説明せえな」
「ふむ。太陽の光と月の光は異質なものだ。そもそも、太陽の光は闇だ」
「……?」
「太陽の光は闇を強調する。対して、月の光は光を強調する」
「そうなの?」
「遥か昔から言われていることだから、そこはどうとも言い様がない」
「ふぅん」
「そして、ルウェの光は月の光だ。月の光は、闇の中でこそ真価を発揮する。それに、光が強すぎて太陽のようになってしまうと、要らぬものまで引き付けてしまうからな」
「要らぬもの?」
「ああ。…まあ、今のところ、その心配はない」
「ふぅん」
「炎はそれを焼き払うことも出来るだろうが、光は対抗する手段を持たない。だから、強すぎるのは問題なのだ」
「………」
「難しいか」
「うん」
「では、これで終わりとしよう。私も考え事が出来たのでな」
「うん。またね」
「お休みなさい」
「ああ。お休み」
「興味深い話をどうもありがとうございました」
「む?そんなに面白かったか?」
「ええ」
「そうか。それなら良かった」
「………」
「柚香も感謝しております」
「ん?月光病か」
「はい。昼は目が見えなくなり、夜は声が出ません」
「ほぅ。昼と夜で症状が違うのか。これまた興味深い」
「………」
「また今度、ゆっくりお話がしたいそうです」
「ああ。楽しみにしておくよ」
ルトは柚香の頬を舐めると、もう一度こっちを向いて。
そして、そのまま消えてしまった。
「ふぁ…あふぅ…」
「千早、もう寝るか?」
「うん…」
「自分も、もう寝るんだぞ」
「じゃあ、ぼくも」
「お前らはここで寝たらええわ。オレは毛布敷いて寝るし」
「あ、布団、出してきます」
「ええて、そんなん。毛布の方が落ち着くし」
「じゃあ、柚香ちゃん、一緒に寝よっか」
「………」
柚香はコクリと頷いて、望が座っている寝台に向かう。
「それでは、私はルウェさまとヤーリェさまと一緒ですね」
「うん!」
「えへへ。ルウェと一緒だね」
「ほんなら、お休み」
「お休みなさい」「お休み~」
ヤーリェは左に、クノお兄ちゃんが右に寝る。
二人はとても温かかった。
そして、その温もりは眠気を誘うのには充分で。