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「暇だなぁ。馬車って、本当に何もやることないよね」

「あら。私とのお喋りは退屈だったかしら」

「そんなことないけど。ほら、なんか花札みたいなさぁ」

「花札はないわねぇ」

「そっか…」

「贅沢言っちゃダメなの、ナナヤお姉ちゃん」

「そうだよ。馬車に乗せてもらってるんだし」

「そんなこと言ったって、私はナディアみたいに一日中ぐうたら寝たり出来ないからさ」

「まあ、ナディアは寝すぎかもしれないけどさ…」


暇だからと言って寝たナディアは、馬車が大きく揺れても起きなくて。

今からこんなに寝て、夜に寝られるのかな…。


「サーニャってさ…」

「ナナヤは、暇になればサーニャの話しかしないのか」

「えぇ、いいじゃん。サーニャのこと、もっと知りたいしさ」

「根掘り葉掘り聞かれる身にもなってみろ」

「そんなこと言ったって…。というか、なんで澪が取り仕切ってるのよ」

「下らない王者を決めたのはナナヤ自身だろう。自分で決めたことだ。従ってもらうぞ」

「えぇー。やめろとか言ってたくせに」

「やめておけば、従わずに済んだのにな」

「えぇ…」

「ふふふ。澪ちゃんが王さまなら、なんだか納得だわ」

「納得しちゃダメだよ…。絶対に私だと思ってたのになぁ」

「まあ、ナナヤの慢心とも言えるんだけど…」

「そうねぇ。そういう勝負事は、勝つ見込みがなければやらないのが吉だわ。徹底的な情報収集をして、勝利が確実なものとなったときに、さりげなく持ち出すの」

「えぇ…。性格悪いなぁ…」

「あら。負けないためには、勝てない勝負をしないことが大切よ。確実に勝てる勝負にだけ挑めば、負けることはないわ」

「そりゃそうかもしれないけどさぁ…」

「博打なんて打つものじゃないわ。一か八かの賭けなんて禁物よ。商売に於いてはね。まあ、賭け事が好きなんだったら、商売以外のところでなら止めないけど」

「別に好きじゃないけど…」

「そう。よかった」

「でもさあ、なんか最近、馬車移動が多くない?楽だからいいけど」

「急に話を変えるね…」

「だって、サーニャの話題は、澪が五月蝿いんだもん」

「あの、私は大丈夫ですので、なんでも聞いてください」

「え?あぁ、いやいや、気なんて遣わなくていいよ」

「せっかく一緒に旅をさせてもらってるんですから、私のこと、みなさんにもっと知ってもらいたいんです。私も、みなさんのことをもっと知りたいですし…」

「だってさ、澪。どうする?」

「………」

「いいんだって。じゃあ、サーニャのことをいろいろ聞いて、いろいろ聞かれよう」

「は、はいっ」

「ということで、その敬語はやめよう。一緒に旅してる仲間なんだし」

「えっ…。はい、頑張ります…あっ」

「あはは。まあ、そのうち慣れるよ。それじゃあ、親睦会開始だね」

「まずは、自己紹介からね」

「えぇ…。昨日したじゃない…」

「お互いにちゃんと知り合うためには、自己紹介もちゃんとしたものが必要よ。昨日のは名前だけだったでしょ?」

「そうだけど…」

「そういうわけよ。じゃあ、ナナヤちゃんからどうぞ」

「えぇ、私?うーん…。名前以外に言うことなんてないんだけど…」

「好きな本とか、好きな歌とか」

「好きな本はいっぱいあるし、歌はあんまり知らない」

「もう…。ナナヤ、ちゃんとやりなさいよ」

「だって…。自己紹介って結構難しいよ?そんなこと言うんだったら、望がやってみたらいいじゃない。難しいってことが分かるから」

「仕方ないなぁ。お手本を見せてあげるから、しっかり聞いてなさいよ。…私は望。こっちの明日香と一緒に、ずっと旅をしてるんだけど、途中でルウェと一緒に旅するようになって。それからはリュウ、ナナヤ、澪、ナディアって増えていったんだ。本当はもう一人いるんだけど、今は別行動中。だいたいは、このルクレィの中を旅してるんだけど、たまに、他の国に行ったりもするよ。旅に関しては、そこそこ経験も自信もあるから、何か分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」

「うん、分かった」

「おぉー。なんかすごい」

「ナナヤも、これくらいやりなさいよ」

「無理だね」

「やる前から諦めるのは、あまりよくないわねぇ」

「だって、自分のことで、そんなに喋ることなんてないんだもん…」

「じゃあ、最後にもう一回聞くわね。次はリュウちゃんでいいかしら」

「うん。わたしはリュウなの。最初は旅団天照にいたんだけど、ヤマトでここに合流したの。いろいろあったけど、旅って楽しいなって。みんなといると、よくそう思うの。だから、サーニャとも一緒に旅が出来て嬉しいの」

「あ、ありがと…」

「わたしも、ありがと、なの。…終わりなの」

「そう。じゃあ、次はルウェちゃんね」

「うん。えっと、自分はルウェなんだぞ。ヤゥトの村にもともと住んでたんだけど、村を出ないといけなくなって、望と一緒に旅に出たんだぞ」

「なんで、村を出ないといけなくなったの?」

「うーん…。今でもよく分からないんだけど、暴走した自分に似た影が村の人を傷付けたみたい。だから、みんなが怒って…」

「そうなんだ…」

「でも、旅に出てよかったって思ってる。友達もいっぱい出来たし、いろんな経験もしたし、たくさんのことを知ることが出来た。だから、今は、もっと旅をしたいって思ってるんだぞ。もっともっと、世界を見て回りたい」

「そっか」

「うん」

「私も、世界を見てみたい。ウラルの国も…」

「いつか行けるよ。一緒に行こうよ」

「うん、そうだね。…終わりなんだぞ」

「さて、ナディアちゃんは飛ばして、次はサーニャちゃんね」

「えっ、あ、はいっ。えっと、私はアレクサンドラって名前で、愛称はサーニャって言います。あっ…。また敬語が…」

「いいのよ。自分の好きなように自己紹介なさい」

「は、はいっ。えっと…。両親がウラル出身の外国人なんだけど、私は日ノ本で生まれました。唄が大好きで、昨日歌ってたのは、愛しき大地、という唄です。私の家に代々伝わる唄で、実は唄の終わりに、ご先祖さまから誰かへ宛てた文言が添えられているんです」

「えっ?どんな?」

「もともとはウラルの言葉なんですが、日ノ本の言葉に訳しますね。…我が故郷は、案外、簡単に手の届くところにあったのだな。だから私は、次は空の向こうには何があるのか、一足先に見にいくとしよう。夢見た大地より、遥かなる空へ」

「へぇ。誰に宛てたものなんだろ」

「それは分かりません。でも、私は、好きだった人に宛てたものだったんじゃないかと思うんです。私の家では、子守唄として唄われていて。代々伝わってるというか、そういう意味では、耳が覚えちゃってるのかもしれません」

「そうなんだ。なんか素敵だよね、そういうのって」

「はいっ」


昨日、澪が唄ってたのと何か関係あるのかな、その誰かって…。

でも、遠い海の向こうの国にいた、サーニャの家族と同じ唄を知ってるなんて、何も関わりがなかったんだったら不思議だよね。

…やっぱり、澪は何か知ってるのかな。

気になるんだぞ。

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