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「はぁ…。天華さんに怒られちゃった…」
「まあ、あたしたちも悪かったんだしさ。反省だよ、反省」
「そうだね…」
「…天華が帰ってから、ため息ばっかりだね、シエラ」
「うん」
「やっぱり、オレが旅に出たら、みんな心配なのかな…」
「そりゃ心配は心配でしょ。でも、天華も言ってたけど、それを全部排除してこそ、旅立つ価値があるんじゃないかな」
「うーん…」
「なかなか難しいとは思うけどさ」
「そういえば、フゥが言ってたことが、ちょっと気になるんだぞ」
「えっ?何か言ってた?」
「ほら、龍王に一人旅をさせる気はないって」
「あぁ…。何なんだろね。適当に言ったんじゃないの?」
「フゥは、そんなことしないもん」
「まあ、そうだよねぇ…」
「うん」
「でもさ、じゃあ、どういう意味があるの?フゥが誰かを紹介してくれるってこと?」
「まあ、言葉の意味をそのまま捉えるなら、そのあたりが妥当だよねぇ…」
「でも、そんなの、誰を紹介してくれるの?フゥ、そんな知り合いがいるのかな?」
「シュリとか?」
「シュリにフゥが頼むの?シュリなら、自分で頼めって言いそうじゃない?勝利は自分の手で掴めとか言ってたし」
「それもそうだね…。じゃあ、誰なんだろ。龍王が知らなくて、フゥが知ってる人?そんなのいるのかな?」
「フゥって、友達いるのかな…」
「さぁ?鶉の友達だったらいるんじゃない?」
「それくらいしかいなさそうだよね…」
「お前ら、失礼なことばっかり言うなよ…とか言われそうだけど」
「あはは、確かに」
「まあ、失礼出来るほど知り合いがいるのかは、やっぱり怪しいところだけど」
「そうだね」
「おい、お前ら。本当に失礼なやつらだな」
「わっ!だ、誰?」
「…俺だ。分からないか?」
「詐欺…?」
「違う」
そこにいたのは、澪みたいに鋭い目付きをした男の人だった。
髪が金色で、赤い目をしてる。
…髪と目の色だけなんだけど、サンに似てるって思った。
でも、この人は龍で、サンは魔霊だから、関係はなさそうってことは分かる。
「あっ、フゥと同じ匂いがする」
「フゥと?フゥの知り合い?」
「なんでだよ。俺がフゥだ。分からないのか?」
「もしかして、フゥを食べちゃったの?」
「お前の脳みそは、どういう回路で繋がってるんだ?」
「だって…」
「フゥが変化の術で人間の姿に化けてるんだよ」
「えっ?じゃあ、この人がフゥなの?」
「そうだ。お前がそんなにニブいやつだとは思わなかったよ」
「そんなこと言ったって…」
「で、何しに来たの?友達を紹介しに?」
「いや、そうじゃない。…どうだ、調子の方は。許可は貰えそうか?」
「うーん…。ちょっといろいろあって、今は保留中なんだ…」
「保留?何があったんだ?」
「えっと、うーん…。上手く説明出来ない…。明日香、お願い…」
「はいはい。シュリがさ、今日、龍王が村を出る手助けみたいなことをしちゃったらしくてさ。そこから、シエラとシュリで喧嘩になって、天華が仲裁に入ったんだけど、天華もシュリと同じような意見で、龍王には旅をさせた方がいいって思ってたんだ」
「まあ、そうだろうな。あいつはそういうやつだ」
「うん。それで、龍王の人生なんだから、龍王の生き方に誰も口出しは出来ないって」
「なるほどな、確かにそうだ」
「でも、あれこれ理由を付けて、引き止めることは出来るって。子供だからとか、女だからとか、一人旅は危ないからとか。それでも、龍王がきちんとその理由を排除出来たとしたら、もう旅立つのを見送るしかないってさ」
「なかなか面白いことを言うな。まあ、可愛い子には旅をさせろとも言うし、天華の言う通り、心配が排除されるなら、そうした方がいいのかもしれない。心配は心配だろうけどな」
「心配するには理由がいるから、心配だから心配っていうのは理由にならないんだって」
「ふぅん…。まあ、言いたいことは分かる」
「分かるんだ」
「だいたい、具体的な形がなければ、対処のしようもないだろ?そういうことだろ」
「……?」
「…その話はもういい」
「えぇ…。というか、フゥはなんでここに来たの?しかも、人間の姿で」
「ん?まあ、何か少しでも進展があれば、シエラとかとも話をしようかと思ったんだけどな」
「何の話?」
「うーん…。とりあえず、お前の切り札ともなる話だ。何も話が進んでない今話すと、全く意味がないけどな」
「切り札?どんな切り札?」
「だから、それを話すと意味がないんだって」
「なんでだよ。オレの旅に関係する切り札なんだろ?」
「朝にも言ったけど、お前自身で、とりあえずは許可を…まあ、天華が言うところの、心配を排除していく段階まで持ち込まないと意味がないんだ。分かるか?」
「その切り札を使ったら、心配もなくなるんだろ?じゃあ、最初から使って安心させてあげたらいいんじゃないの?」
「切り札は、最後まで取っておくものだ。それに、この切り札は俺が切る」
「じゃあ、切り札じゃないじゃん!」
「そういうものだ、人生ってのは。自分の力で、シエラたちを説得してみろ」
「むぅ…」
「説得することさえ出来れば、あとは俺がなんとかしてやるから」
「絶対だよ!絶対だからね!」
「ああ。分かってるよ」
龍王はフゥに念押しをしてから、まだ何かボソボソと喋ってるシエラとシュリの方に行って。
もう少し待った方がいいんじゃないかなって思うけど。
…大丈夫かな。
なんだか、ちょっと心配なんだぞ。




