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「それで、シェムもたくさんいて、すごかったんだ」
「そうか」
「澪も、今度一緒に行ってみようよ」
「そうだな」
「…澪は、今日は何してたの?」
「いつもと変わらない。神主の手伝いだ」
「そっか」
「…出発の日程が決まったそうだ」
「えっ、いつ?」
「明後日の夕方から夜にかけてだ。天華や神主には、もう伝えてある。出発までの間は、タルニアとクノは仕事らしいから、一緒にはいられないということだ。ユゥクや桐華も同じくな」
「そっか…」
「………」
「龍王たちにも、伝えておかないと」
「…すぐに別れなければいけないことが分かっているのに、また新しい出会いを求めるのか」
「えっ?なんて?」
「いや…。やはり、私には、真似出来そうにない」
「何を?」
「ルウェの強さだ」
「強さ?」
「ああ」
強さ?
何を言ってるのか、よく分かんない。
…澪は、頭に手拭いを乗せて、肩までお湯に浸かってため息をつく。
「あ、そうだ」
「なんだ」
「朝にね、ツクシと日向が話してたんだけど」
「ふん。どうせ、ろくでもない話だろ」
「何のことを言ってるのか、全然分かんなくて…」
「どんな話だ」
「あのね、今日は露風が来てて、ツクシの検査をしてたの。これくらいの水の玉を、その…お股のところから入れるんだけど…」
「はぁ…。どんな話か、だいたい分かった…」
「えっ?分かったの?」
「そこから、夫の陰茎の話にでもなったんだろう」
「インケイ?」
「男の生殖器のことだ。男の裸は見たことあるか?」
「うん、あるよ。セトとお風呂に入ったときとか…」
「人間の男の生殖器は、外側に露出している。そういう意味では、観察は容易だ。そうじっくり眺めるものでもないが、股間…つまり、股を見たことはあるか?」
「えっ?うーん…。あんまりないかも…。あ、でも、男の人と女の人って、身体の作りが全然違うって姉さまが言ってた」
「そうだな。…たとえば、男の身体というのはこうだ」
澪は湯船から上がると、少し目を瞑ってブツブツと何かを言う。
すると、澪の身体付きがどんどんと変わっていって。
…同じ龍人の姿なんだけど、背も高くなって、身体もガッチリして、目付きがもっと悪くなって、おでこのところに金色の目が現れて。
つまり、男の人みたいな姿になっていた。
おでこの目は関係ないけど。
「上手く出来たようだな」
「術?」
「ああ。術式の反転という術だ」
「反転?」
「他種の生物に、自分に最も近い姿で変化する術だ。私が人間ならば、このような姿になるということだな」
「ふぅん…。澪って男の人だったんだ」
「知らなかったか?」
「知ってたけど…」
「そうか。…とりあえず、これが、十六から十八歳程度の人間の男の身体だ。そして、これが陰茎」
「………」
「まあ、俗称はいろいろあるが、だいたい分かってきたんじゃないか?」
「うん…。でも、ツクシと日向は、それが大きいとかなんとか言ってたけど…。お腹に入れるだけで苦しいとか…」
「カイトから、性交については聞かなかったのか?」
「……?」
「…まあ、そうか」
澪は小さく頷くと、いつの間にか、いつもの女の人の姿に戻っていた。
それから、また頭に手拭いを乗せて湯船に入る。
「カイトが、今は必要ないと判断したなら、私からも敢えて言うことはない。時が来れば、また教えてやる。とりあえず、ツクシと日向が話していたのは、夫たち…薫やワリョウの陰茎の大きさの話だ。まったく、ルウェの前でそんな話を…」
「………」
やっぱり、あっちの話だったんだ。
あれをお腹に入れるって、どういうことなのかな…。
あれが、お腹の中に入るの?
…想像すると、なんだか変な気分になってきて。
「………」
「…ルウェ。こっちを見ろ」
「えっ…?」
澪の方を見ると、おでこのところの目が金色に輝いていて。
次の瞬間、周りが真っ暗になっていた。
目が覚めると部屋にいた。
澪の術で、少しだけ眠ってたみたい。
そのあとは変な気分になることもなくて。
「タルニアさん、やっぱり働く女の憧れってかんじやったわ…」
「そうなの?」
「仕事も出来て、おまけに美人で優しいし…」
「エルも、仕事が出来るの」
「うちなんて、まだまだ下っ端やし。でも、いつかはああなりたいな。まあ、美人になれるかはさておき…」
「えぇ、エルは可愛いし、そのまま可愛くなれると思うけどなぁ」
「うちが可愛いかどうかは置いといて、可愛いと美人は違うもんやで」
「そうなの?私的には、どっちでもいいんだけど…」
「わたしも、別にどうでもいいの」
「美人っちゅーのは、顔、体型、全体的な構図、全てにおいて完璧な人のことや。ボインもあって、腰もキュッと絞まって、お尻もええ具合の大きさしてる」
「着眼点がおっさんなの」
「オッサンの目にならんと、女は綺麗になれん!ある程度いろんな人生経験も積んで、目も肥えてるオッサンやないと!」
「お若いのに、お気の毒なの」
「あはは…。まあ、やらしい目をしたおっさんはいるけどね…。私は顔にこんな傷痕があるし、対象外みたいだけど」
「そういうオッサンの前で、ナディアがこう、机を拭くフリをして乳を見せてあげると、鼻血出して倒れるから、すぐに外に放り出してあげるノ。あ、芳佐はちゃんと看病してあげるヨ」
「ナディアが看病すると、芳佐さん、治りが遅くなるんじゃないかな…」
「そうかナ?」
「どんな看病してるか知らないけど、あんまり扇情的なことはするもんじゃないよ」
「元禿だもんネ。男の人を悦ばせる術は、たくさん知ってるヨ?」
「使っちゃダメ」
「エェー」
「まさか、倒れて動けない芳佐さんを襲ったりは…」
「イイネ。芳佐は美味しそうだから、思わず食べちゃいそうだヨ」
「まだ未遂なんだね…」
みんなで何の話をしてるんだろ。
なんでもいいけど。
今は、こっちの小説の方が気になる。
旅に出たら、またしばらく読めないもんね。
…次の街に行ってもあるかな。
あるといいな。




