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「ここが、オレの家だよ!」
「へぇ、結構広いんだ」
「龍王は村長の娘だからな」
「へぇ、やっぱり」
「えっ?やっぱりって?」
「………」
「龍王ちゃん、あのとき広場に入っていかなかったでしょ?もしかしたら、あの中にお父さんがいるのかなって思ったの」
「それで、なんで村長が父親だと思ったの?」
「だって、龍王ちゃん、ずっと村長さんのことを見てたもの」
「………」
「よく観察してるね、日向」
「そ、そうかな…。ちょっと気になっただけなんだけど…」
「ふぅん」
「父ちゃんの話なんてするなよ!」
「こら、龍王。大きな声を出すんじゃない」
「うっ…」
「おぉ、シュリ。帰っていたのか」
「ん?フゥ…じゃないな。誰だ?」
「妾はチビという名だ。ついこの間まで、フゥに身体を預けていたのだが」
「チビねぇ。ま、いいや。それで?あんたたちは?」
「お客さまだよ。明日香と、ルウェと、日向お姉ちゃん」
「右から?左から?」
「左から」
「ふぅん。どっちにしても、あんたはルウェだね」
「えっ?」
「右からでも左からでも、二番目にいるでしょ?だから、あなたはルウェ」
「うん」
「まあ、さっきから言われてる通り、あたしはシュリって名前だ。しがない旅芸人さ」
「うちの想者なのに、全然家に帰ってこないんだよ」
「あたしは、こんな隠れ里でのんびり暮らすより、世界をフラフラ旅する方が楽しいんだよ」
「母ちゃんも寂しがってるよ」
「龍王、お前、まだ父ちゃんのこと、赦してやってないんだな」
「………」
「ま、今は客人の相手が先か。ゆっくり座れよ」
「あ、はい。すみません」
シュリは、近くにあった椅子を引き寄せて、自分の横に置いてくれる。
それに座ると、シュリは正面の階段の手すりに座って。
明日香と日向も適当に。
「さて、あんたたちのことだけど、実は、ターニャと天華に、ある程度は先に聞いてきた」
「えっ、知り合いなの?」
「あたしはクーア旅団所属だし、まあ、いちおう、天華ともよく会うしね」
「ふぅん…」
「まあ、本隊所属じゃないけど、ターニャがイシュテナに行くって言うから、龍王たちの顔見ついでに帰ってきたってわけ」
「帰ってくるなら、手紙くらい書いてくれたっていいのに…」
「だって、急に帰らないと、ご馳走とか用意して待ってるだろ?ああいうのはいいんだ」
「なんで?すぐにまたどこかに行っちゃうんだから、ご馳走くらい用意しても…」
「あたしは、豪勢な晩餐会より、みんなと普通に食べる夕飯が好きなの」
「でも…」
「父ちゃんと母ちゃんは?シエラ姉さんは?」
「シエラは知らない。母ちゃんは、ワリョウさんと話してる」
「ワリョウ?」
「あの、私の旦那さまです」
「ふぅん。そういえば、あんたもシェムだね。どこから来たの?」
「えっと、私は聖獣といって、この世界の龍とは…」
「あぁ、聖獣ね。聖獣のシェムっていえば時だっけ。まあ、この辺は時の龍脈が安定してるとかなんとか、誰か言ってた気もするな」
「日向お姉ちゃんとワリョウの想者が、ルウェなんだよ」
「へぇ、そうなんだ。契約は?してんの?」
「あ、はい、いちおう」
「ふぅん。シェム二人を受け止められる器の持ち主なんて、そうそう見ないけどな」
「ルウェちゃんは、私たちだけじゃなくて、他にも何人かの聖獣と契約してるんですよ」
「うん。薫と、悠奈と、七宝と、琥珀。あと、愛って影の子とも誓約してて」
「六人も?聖獣と?影ってのはよく知らないけど、聖獣と六人も契約出来るなんて、並大抵の器じゃないね。もう、普通の人がお猪口だとしたら、洗濯盥くらいはあるんじゃないか?」
「よく分かんないけど…」
「あたしも、タルカっていう、ちっこいトカゲと契約してんだけど、もうそれだけで精一杯だし。表面張力よ」
「……?」
「まあ、それだけ器が小さいってこと」
「ふぅん…」
「でも、世界はまだまだ広いってことだね。やっぱり、もっといろいろ見て回らないと」
「そんなこと言って、全然帰ってこないじゃん!」
「いいだろ。あたしの人生なんだから、あたしの好きに生きさせてもらうよ」
「母ちゃんのこと、嫌いなの…?」
「嫌いなんかじゃないさ。父ちゃんや母ちゃんがあたしを愛してくれてるように、あたしだって二人を愛してる。でも、旅はやめられないって言ってるだろ?」
「………」
「あたしが近くにいなくったって、二人はあたしのことを変わらず想っていてくれる。だから、あたしは旅を続けられるんだ」
「分かんないよ…」
「分からなくていい。今はな」
「………」
「さて、遅くなったな。そっちの白い狼も聖獣か?」
「いちおうね。水の聖獣だよ」
「ふぅん。水っていうとアスカか。でも、たしか、アスカには真っ白な個体はいないんじゃなかったのか?」
「それは…そうなんだけど…」
「そういうこともあるんだな」
「まあね…」
「明日香は、誰と契約してるんだ?ルウェじゃないんだろ?」
「いちおう、街で働いてる望って子なんだけど」
「働いてる?あぁ、短期雇用の話か。まあ、あたしもお世話になってるよ」
「うん」
「旅芸人として、芸一筋で稼げたらいいんだけどな。まだまだ未熟だし」
「旅芸人って、どんなことするの?」
「まあ、いろいろだな。いろいろ」
「ふぅん…。はっきり言わないあたりが怪しい…」
「どんなことでもやるってことだよ。玉乗りだって、お手玉だって、踊りだって」
「踊りっていえば、ナディアだよね」
「えっ、誰?」
「ナディアって子がいるんだよ。一回だけ見せてくれたけど、すごく踊りが上手いんだ」
「ふぅん…。じゃあ、また教わりにいかないとな」
「教えてくれるかな…」
「まあ、一緒に話すくらいなら、バチは当たらんだろう」
「そうかもしれないけど…」
ナディアとシュリ、なんだか気が合いそうな気がする。
雰囲気が似てるっていうか。
全然違うんだけど。
…そういえば、シュリ、明日香の言葉が分かるんだ。
自分や望と一緒なんだぞ。
それが、なんかちょっと嬉しい。




