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御供物を届けてシャムショに戻ると、天華さんとフゥが一緒に話してて。

自分たちも、それに一緒に混じる。


「澪と俺となら、どっちがデカいんだ?」

「なんで?」

「なんでって…なんとなくだよ」

「男の子って、いろいろと張り合いたいものなのよ。自分が一番でいたいの」

「ふぅん」

「別に、そんなんじゃないけど…」

「しかも、男の子って歳でもないでしょ」

「大人になっても、ちゃんと子供の部分を残してる人って、なかなか魅力的なものよ。大人になっても、いつまでも子供な人とは違うから、注意しないとだけど」

「フゥはそうなの?」

「身体の大きさ比べなんて、子供っぽくて可愛いじゃない」

「可愛いの?」

「ええ、可愛いわ」

「お前な…」

「でも、フゥさんって本当に大きいですね。シェムも、龍の中では身体の大きな方ですが…」

「まあ、緑龍あたりなんかも、お前たちよりもデカいんじゃないか?」

「蛇龍ですか?確かに、あの方たちも大きいですね」

「蛇龍?ふぅん。蛇みたいな龍は身体が大きくなるのかしら」

「あっ、確かに」

「フゥは蛇足だね」

「あぁ、なるほど。明日香ちゃん、それ、面白いね」

「面白くないから…」

「明日香ちゃん、なんて?」

「フゥは蛇足だって」

「あはは、確かに。蛇に足が生えてる」

「俺は蛇じゃないからな…」

「似たようなものじゃない」

「龍と蛇は違うものだ」

「でも、蛇龍ってのがいるんでしょ?」

「それは、見た目が蛇のようだからというだけの理由で呼ばれている通称だ」

「えぇー」

「本来は、さっきもフゥさんが言っていましたが、緑龍っていうんです。緑色の鱗の、綺麗な龍なんですよ」

「ふぅん」

「妖怪にまで範囲を広げれば、他にもいるんだけどな」

「妖怪の龍と普通の龍って違うんだ」

「まあ、違うな。何が違うのかと言われたら、俺には分からないと答えるしかないが。とにかく、違う系統らしい」

「へぇ」

「私は、妖怪の龍については全然知らないですねぇ」

「俺も、この世界の緑龍のことを言ってたんだが。聖獣について明るいわけでもないしな。交流があまりなかったと言うべきか」

「龍ってさ、何種類いるわけ?妖怪の龍と、この世界の龍と?」

「あとは、聖獣の龍だな。日向みたいな」

「聖獣にいるなら、影にも龍はいると思いますよ」

「幅が広いねぇ…」

「人間だって、妖怪にもいるし、聖獣にもいるだろう。影のことはほとんど知らないが、おそらくいる。そういうものだ。俺たちは、それぞれ固有の種ではなく、たくさんの存在の中の一人だということだ」

「ふぅん…。妖怪の人間って何?人間の妖怪?」

「玉藻前は知っているか?」

「狐でしょ?」

「狐は狐でも、妖狐だ。あれは狐の妖怪だが、玉藻前の子供である安倍晴明は人間の妖怪だ。正確に言えば半妖だが」

「有名な話よね。…まさか、実在したの?」

「もちろんだ。作り話だと思ってたのか?」

「そりゃそうでしょ。ついこの間まで、妖怪の存在すら知らなかったのよ?それの退治屋なんて、信じられるわけがないでしょ」

「退治屋というか、退魔師だけどな…」

「どう違うのよ」

「退治、つまり、妖怪を痛め付けたり殺したりするんじゃなくて、追い払ったり交渉したりといったかんじだ。聞き分けのないやつらには、そりゃ実力行使もしただろうが」

「えぇー。ホントにいたの?」

「結局信じないのかよ…」

「信じないわけじゃないけど、なんかねぇ。あなたたちみたいに、実際にこの目で見たわけじゃないし。まあ、あなたたちが今目の前にいるんだったら、安倍晴明だっていたんだろうってのは分かるけどさ。実証じゃなくて、状況証拠なわけ」

「まあ、分からないでもないけど…」

「今、私の目の前に安倍晴明が現れたら、信じてあげてもいいわ」

「稀代の天才退魔師と言えど、そんなことは出来ないだろ…」

「そう。残念」

「というか、今も生きてるの?平安時代くらいの人でしょ?」

「半分妖怪だからな。まあ、どこかで生きている可能性はなきにしもあらずだ」

「なんか曖昧…」

「曖昧ねぇ…」


明日香と天華さん、また同じこと言ってる。

でも、やっぱり、それってすごいことだと思うんだぞ。


「まあ、玉藻前が今は隠居してるから、安倍晴明もどこかでひっそりと暮らしてるだろうよ」

「玉藻前のこと、知ってるの?」

「古くからの友人だ。最近は…会えてないけど」

「へぇ…。じゃあ、フゥも、名立たる大妖怪の一人なの?」

「有名な大妖怪の友人も、有名な大妖怪…というわけではないだろ。俺は、山奥で静かに暮らしていたから、そんな伝説になるような妖怪ではない」

「なぁんだ。大妖怪が住む神社だって言って、箔が付くと思ったのに」

「お前な…。なんでも商売に結び付けようとするなよ…」

「だって、あれだけの時祭りをやったっていうのに、この閑散とした境内を見なさいよ。ああいう大々的な儀式より、なんか下らないけど御利益がありそうななさそうな、そんな取るに足らないことの方が注目を集めたりするものよ」

「いやいや…。あの時祭りの噂が広がるのは、あれを見た客が、それぞれの街や村に帰ってからだろ…。それより早いとしても、村宛に書いた手紙が届くくらいの時期からだ。街に住んでる人自体は、昼間は仕事で来れないだろうし、どうせすぐ近くだからってことで、腰が重たくなってるのかもしれない。どちらにせよ、本当に盛り上がるのは、もう少しあとになってからだと、俺は思うけど」

「へぇ、なかなか鋭い分析ね。私もそう思ってたわ」

「嘘だろ」

「嘘よ」

「まったく…」

「ふふふ。でも、それがもし本当になったら、すごく嬉しいんだけどねぇ。そのために、今からしっかり準備しておかないと」

「準備って、何のだよ」

「心の準備よ」

「お前なら、そんなことしなくて大丈夫だろうよ…」

「えぇ、この繊細な心の持ち主を捕まえて」

「はぁ…」


フゥは、なんだか疲れたみたいにため息をついていた。

実際に疲れたのかもしれないけど。

…でも、確かに、天華さんだったら、心の準備なんてしなくても大丈夫だろうなって思う。

お客さんで大賑わいになっても、いつも通りニコニコしてそう。


「でも、お客さんがいっぱい詰め掛けるってのも、なんか複雑ね」

「そうか?」

「だって、この静かな境内じゃなくなっちゃうんでしょ?なんか、それはちょっと寂しいな」

「まあ、確かに」

「まさに一長一短ねぇ…」


うーん、確かに、それはちょっと寂しいかも。

広いんだけど、お客さんがあんまりいないのも、この神社のいいところだと思う。

…お客さんはたくさん来てほしいけど、でも、あんまり来てほしくない。

なんか変なかんじだけど、そう思ってしまう。

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