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「今日は泊まっていくんでしょ?」

「あ、はい。お世話になります」

「じゃあ、せっかくだし、ルウェちゃんと一緒にユールオ観光でもしてきなさい」

「そうですね。今日は謁見出来るんですか?」

「エッケン?」

「王に会うことよ。残念だけど、今日はルイカミナに行ってるわ」

「そうですか…」

「王って、誰?」


偉いのか?


「そうねぇ。ルクレィの中心となる人ね」

「すごく偉い人だよ」

「ホントか!?」

「うん。でも、どうしたの?大きな声を出して」

「姉さまが、立派で偉い人になりなさいって、いつも言ってたんだぞ!」

「そうなの?でも、残念だったわね…。今日は王に会えないの」

「うん…」


残念なんだぞ…。

と、望が手を取る。


「でも、ユールオには面白いところがたくさんあるから」

「そうそう。行ってきなさいな」

「うん、もちろんなんだぞ!」

「明日香はどうする?」

「………」

「そう。じゃあおばさん、明日香をお願いします」

「ふふ、明日香ちゃんは優しい子で手間が掛からなくて良いわ~」

「…何が言いたいんですか?」

「ふふふ。ほら、ルウェちゃんが待ってるわよ」

「望!」

「はいはい。ユールオは逃げないんだから、慌てないの」


分かってるけど、待ちきれない!

姉さまや葛葉へのお土産もたくさん用意しないと!



市場は、両手でも数えきれないくらいのお店が並んでいて。


「望!あれ!」

「ダメダメ。お菓子はあとあと。まず、昼ごはんにしよ」

「今、出てきたばかりなのに?」

「あぁ、外食したことないんだ」

「……?」

「まあ、行けば分かるよ」


ガイショク?

朝みたいに、どこかで火を起こすのかな?


「えっと…昼ごはん代を差し引いて、だいたい四千八百円だから…」

「何を考えてるの?」

「ん?ちょっとね。夕飯を買うお金があるかなって」

「まだ昼ごはんも食べてないのに?」

「うん。お金はちゃんと管理しておかないと、途中で無くなったら困るから…」

「なんで?」

「たとえば、ルウェが風邪を引いたとするよ?」

「うん」

「私もある程度の風邪薬は調合出来るけど、どうしても調合出来ない薬は買うしかないのよ。そんなときにお金が無かったら、ルウェの風邪は治らない。そうなったら困るでしょ?」

「うん…」

「だから、お金はちゃんと管理して、残しておかないといけないの。分かった?」

「うん!」


お金の管理は大事。

だから、セトの銀貨も大切にしないと。


「ほら、着いたよ」

「なんか、良い匂いがする」

「うん。今日はここで食べるの」

「え?」


そう言ってる間に、望は良い匂いのするところに入っていく。


「らっしぇい!ご注文は?」

「お久しぶりです、おやっさん」

「おぉ、望ちゃんかぃ!涼!哲也!陽葉(ひとは)!」

「やかましいよ。ただでさえ大きい声なのに」

「のぞみねぇ!」「のぞみねぇ~」

「久しぶり~」

「ん?後ろのちっこいのは?」

「あぁ、旅の道連れです。ルウェって名前で、ヤゥトから」

「へぇ~」

「のぞみねぇ、注文は何にする?」

「どうしようかなぁ」

「ルウェもどーぞ」

「あ、ありがとう…」


お品書きと書かれた木の板を渡される。

そこには、何かの名前がたくさん書いてあった。


「ルウェ、ルウェ」

「な、何…?」

「ルウェは、ヤーリェなの?」

「あぁ、ごめんね。ヤーリェってのは…」

「自分、"龍"じゃなくて、"狼"なんだぞ」

「おおかみ?」

「うん」

「へぇ、驚いた。望ちゃんとうちのやつら以外に北の言葉が分かるやつがいたなんてねぇ」

「よく出来るんですよ。おまじないの言葉の意味だって、すぐに分かって」

「そうだろうね。"月の神が遣わした者"なんて名前だし」


"月の神が遣わした者"

…つまり"狼"

夜の護り神。

大好きな名前。


「ヤムル、アクツム、カ、ユツス、ルウェ」

「…ナゥカルト、ヤムル」

「…なんて言ってるんだぃ?」

「父ちゃんも北の言葉を勉強しろよ」

「あぁ?もう無理だっつーの」

「ずいぶんと歳食っちゃったもんね」

「お前も同じ歳だってことを忘れるなよ」

「何か言ったかしら?」

「なんでもないです」

「ちゅうもんは~?」

「あぁ、そうだった。ルウェ、どんな料理か分かる?」

「うーん…あんまり…」

「ほら、見て。このサボり衛士が食べてるのがきつねうどん。あっちの衛士長が食べてるのが焼き鯖定食。他にもあるけど、今日はこのふたつがお薦めだよ」

「うん」

「涼さん、サボり衛士はないでしょ!」


サボりエジが食べてるものは、油揚げが乗っていて、葛葉が好きそうな…。

エジチョウのは、魚を焼いたものとかご飯とか、いろいろあった。


「これ、食べる?」

「良いの?」

「うん。私はもうお腹いっぱいだから」

「ありがと、エジチョウ」

「どういたしまして。さて、私はそこのサボりを連れて帰らないといけないんだけど…」

「衛士長~…」

「それを食べ終わったら、すぐに城に帰って、政務室に来なさい」

「うへ~い…」

「じゃあね。ム、エク、ルウェ。良かったら、お城にも寄っていってね」

「うん!」

「衛士長さん、ありがとうございます」

「ふふ、いいのよ」


そして、頭を優しく撫でてくれて。

エジチョウはお店を出ていった。


「じゃあ、私はきつねうどんにするよ」

「あいよ!父ちゃん!きつねうどん、特盛一丁!」

「おぅよ!」

「と、特盛は言ってない…」

「良いの良いの。今日の再会を祝して。奢りよ」

「もう…」


望は呆れたような顔をして。

自分は、エジチョウがくれたごはんを食べて。

…そのあとに来た、きつねうどんトクモリには、油揚げが五枚も乗っていた。

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