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「犯人がクーアで良かったわぁ」

「ええ。人間が犯人なら相当ややこしくなってました」


また扉の向こうからお姉ちゃんとクノお兄ちゃんの話し声が聞こえる。

ルウェのうっすらとした光だけで、あとはまだ真っ暗で。


「それにしても、属性の違う聖獣と契約出来るなんて、びっくりしたわねぇ」

「あの子の力は計り知れません」

「ふふふ。普通の可愛い女の子なんだけどねぇ」

「ええ」

「…さあ、寝ましょうか。夜明けまでまだ一刻ほどあるわ」

「はい。お休みなさいませ、タルニアさま」

「お休み、クノ」


扉が開いてクノお兄ちゃんが入ってくる。

そしてそのまま、自分の隣に寝転んで。


「ルウェ。ム、エク、ルウェ。僕の可愛い妹でいてくれるか?」

「クノお兄ちゃんは、ずっと、自分のお兄ちゃんなんだぞ…」

「わっ、びっくりした。起きてたのですか」

「うん…」

「朝までまだ時間があります。ゆっくりお休みなさい」

「うん…」


クノお兄ちゃんの服をギュッと握って、大きく息を吸う。

クノお兄ちゃんは甘い匂いがして、なんだかとても安心出来た。



目を開けると、クノお兄ちゃんが布団の横に座ってこっちを見ていた。


「おはようございます、ルウェさま」

「おはよ」

「早速ですが、朝ごはんを食べに行きましょうか」

「うん」


そしてクノお兄ちゃんは、そっと抱き上げて立たせてくれて。

部屋を見回してみると、クノお兄ちゃんと自分以外は誰もいなかった。

ルウェとクーアも。


「みんなは?」

「先に行かれましたよ」

「…ごめんね」

「え?何がです?」

「自分が起きるのが遅くて、クノお兄ちゃんが朝ごはんを食べられなかったから…」

「じゃあ、早く行きましょう。遅れた分を取り戻さないと」

「うん…」


クノお兄ちゃんに手を引かれて部屋を出る。

…やっぱり、早く食べたかったんだ。

自分が起きるのが遅かったから…。


「クノお兄ちゃん…」

「どうしました?」

「ごめんね…」

「………」


ピタリと立ち止まる。

そして、こっちをジッと見て。


「怒ってなんかないよ。そう見えたならごめん」

「えっ、でも、早く行こうって…」

「遅れた分は、あとからでも充分取り戻せるんだ。それを分かってほしかったんだけど…そうだな。そうとも取れるよな」


目線の高さを合わせると、優しく頭を撫でてくれて


「ごめんな、ルウェ」

「えへへ。いいんだぞ」

「うん。ありがとう」


ニッコリ笑うと、ギュッと抱き締めてくれた。

とても温かくて、とても嬉しかった。


「さあ、行きましょう」

「うん!」


今度はクノお兄ちゃんの手を引っ張って。


「速く速く!」

「ふふ、あまり慌てると転びますよ」

「わわっ!」

「ほら、危ない」


クノお兄ちゃんに抱えてもらって、なんとか転ばずに済んだ。

ゆっくり、慌てずに。

でも、出来るだけ速く、なんだぞ!



望がくれたお魚の切り身を食べているとき


「じゃじゃーん!真お姉ちゃんの登場!」

「騒がしいぞ、真」

「なんやなんや。いつも通り、胡散臭い顔してるなぁ」

「う、胡散臭い…?」

「ル~ウェ~。ほれ、見て見て~」

「なんや。もう出来たんか」

「当ったり前やん!」

「これが名札?」

「せや。ヤゥトの紋章とルウェの名前入りや!」

「でも、これ、どうするんですか?どこかに付けるようにはなってないみたいですけど…」

「それは問題ないわぁ。これを使いなさい」

「わぁ~、綺麗な組紐ですね」

「これをこの穴に通して…出来上がりや!」

「あ、そっちですか」

「最初から採掘証明型の名札、注文してたやろ…」

「せやせや。ちょっと余ったから、望のも作っといたけど…ええよな?」

「うん!望のはどんなの?」

「これや」


真お姉ちゃんが出したのは、自分のと同じ形で小さな名札。

こっちにも紐を通す穴が空いていて。


「あらぁ、望ちゃんの分は用意してなかったわぁ」

「大丈夫大丈夫」

「夜中に連絡が入りまして、急遽準備したものなのでお気に召すかどうか…」


クノお兄ちゃんが懐から取り出したのは、自分のよりたくさんの色が使われていて、自分のより細い紐だった。


「おおきに。急やったのに」

「たまたま持ってたから良かったけど、出来るだけ早めに連絡しろよ」

「はぁい。まあ、とにかく。これで完成や!」


そう言って、真お姉ちゃんは名札を首に掛けてくれた。

表にはヤゥトの紋章が、裏には自分の名前が。


「わぁ~。これ、すごく細かいですね!」

「真は昔から細かい作業が得意でしたからね」

「そうそう。細工にはめっちゃこだわってるで~」

「これ…ラズイン旅団と同じ紋章ですね。ほら、腕輪と同じ」

「ホントねぇ」

「不死鳥と契約したって聞いたからな。それがええやろ思て」

「へぇ~。ありがとうございます!」

「ありがと!真お姉ちゃん!」

「ええねんええねん。ほなな。ウチはもうちょっと仕事あるから」


手をヒラヒラと振ると、そのまま部屋を出て…いこうとした。

でも、お兄ちゃんに止められて。


「お前。クノに夜中に連絡したり、朝一番で来たり。昨日寝てへんねやろ」

「それがどないしたん。一日遅れたんやから、それくらいせなあかんやろ」

「アホか。それで身体壊したりしたら、ルウェと望はどうなんねん。自分の身体が自分だけのもんやと思うなよ」

「…分かってる。でも、はよルウェに届けたりたいって気持ちもほんもんや」

「真お姉ちゃん…」

「へへっ。だからウチは、自分の身体よりルウェを取ったんや」

「…ありがと、なんだぞ!」

「はぁ…。さっさと帰ってさっさと寝ろよ」

「分かってる分かってる」


そして、真お姉ちゃんはニッコリ笑って手を振ると今度こそ帰っていった。

…自分のことを一番に考えてくれて、とても嬉しい。

でもやっぱり、真お姉ちゃん自身の身体にも気を付けてほしいんだぞ。


無理は禁物。

自分の身体を大事にしてあげてください。

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