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「そういえば、その中には何が入ってるの?」

「自警団の額当てと籠手、あとは警棒とお金」

「ふぅん。じゃあ、警棒だけはすぐに使えるようにしときなよ」

「なんで?」

「うん。まあ、ルウェがそれを使わないといけない状況になることはないと思うけどね…」

「……?」


なんだかよく分からないけど、言う通りにしておくんだぞ。

袋から警棒を取り出して、腰に差しておく。

…せっかくだから、額当てと籠手も。


「ちょっと大きいんだぞ…」

「あはは。でも、思ったより似合ってるよ」

「そ、そうかな」

「それに、これ…。ヤゥトの紋章だね…」

「そうなのか?」

「うん。…ルクエンの危機に、ユヌトの地に降り立った白き獣。獣は千の里を走り、千の人を助け、千の獣を統べた。獣のお陰でルクエンの危機は去り、平和が訪れた。しかし、白き獣は誰に感謝をされることもなく、ルクエンを去った。なぜならば、獣は人の目に止まることはなかったから。獣の高潔な姿を誰も知ることがなかったから。ただ、ユヌトの人を除いては。だから、ユヌトは獣の地として、獣の功績を讃え、世に広めた。紋章に刻み、この物語を語り継ぐことによって」

「白き獣…」


ふと、なぜか狼の姉さまが思い浮かんだ。

狼の姉さまは、白き獣じゃなくて銀の狼なのに。


「ワゥ」

「うーん…どうだろうね…。明日香は関係ないと思うけど…」

「………」

「あ、拗ねた?」


明日香はそっぽを向いて、こっちに寄ってきた。


「わわっ!」


腰紐を強く引かれて、よろけてしまう。

倒れそうになったところに明日香が割り込んできて、自然と背に乗るような形になる。


「………」

「あ、明日香?」

「………」

「いいなぁ。私も乗せてよ~」

「ウゥ…」

「なにさ~。見せつけなくても良いじゃない」

「………」

「ふふふ。でも、ルウェのこと、相当気に入ったんだね」

「そうなのか?」

「………」


明日香は何も言わずに、ひたすら歩いていた。

ちゃんと座り直すと、意外に乗り心地は良くて。


「明日香、優しいんだな」

「うん。普段はツンケンしてるけどね」

「………」

「ふふ、照れてる照れてる」

「ウゥ…」

「おぉ怖い」


望は、大袈裟に驚いたふりをする。

それがまた面白くて。


「あ、ルウェ。龍紋、出てるね」

「リュウモン?」

「うん」

「リュウモンって、何なんだ?」

「あれ?知らない?」

「うん」

「へぇ…。えっとね、龍の心が大きく動いたときに出る、隈取りみたいな模様のことだよ」

「……?」

「うーん…。鏡でもあれば良いんだけど…」


望は袋の中を探るけど、鏡はなくて。


「残念。なかったよ」

「むぅ…」

「また次の街で買ってあげるから。落ち込まないで」

「ホント?」

「うん。約束」

「約束…だな!」


望との約束。

次の街で、鏡を買ってもらう!



森を抜けると、正面に何かが見えた。


「望、あれは?」

「ユールオ。ルクレィの中心の都市だよ」

「ふぅん…?」

「まあ、行ってみれば分かるよ」


望が歩き始める。

明日香も望に合わせて。


「そうだ。お金、いくらくらい持ってるの?」

「うーん…。はい、これ」


袋から銀貨を取り出して、望に渡す。


「…え?」

「どうしたんだ?」

「嘘…」

「望?」

「銀貨…初めて見た…」

「……?」

「綺麗…って、ダメだよ、ルウェ!こんな大金持ってるなら、先に教えてくれなきゃ!」

「え?どういうこと?」

「…あのね、この銀貨一枚で、普通の生活をしていれば半年は暮らせるの」

「え?え?よく分からないんだぞ?」

「はぁ…。とにかく、これは大切にしまっておきなさい」

「うん…」


銀貨を袋に入れる。

この銀貨、そんなにすごいものだったのか?

風華やセトが大切そうにしまってるのは見たことあるけど…。


「見て、ルウェ。これがルクレィで一般的に普及してるお金」

「何これ…?」

「粗貨と鉄貨と銅貨。銀貨は、この銅貨なら百枚、鉄貨なら五百枚集めないといけないの」

「ふぅん…?」

「…もういいや。とりあえず、銀貨のこと、誰にも言っちゃダメだからね」

「うん。約束」

「さて…気を取り直して、ユールオに向かうとしますか」


だんだん近付いてくる街。

…約束、また増えた。

セトの銀貨のことは、誰にも言わない。

望との約束。



ユールオは本当に大きな街で。


「見て見て!美味しそうなお魚がいっぱい並んでるんだぞ!」

「お、坊主。なかなか良いこと言うねぇ。どうだい、姉ちゃん。一尾だけでも」

「すみません。今はちょっと急いでるので」

「そうかい…。残念だが、俺に引き止める権利はねえからな」

「ホント、すみません」

「良いってことよ」


望は、本当に急いでるみたいだった。

ユールオに着いてから、何かずっとソワソワしている。


「望、どうしたんだ?」

「え、あ…いや…」

「……?」


速度を緩めることはなく、どこかに向かって真っ直ぐ歩いていた。

お店とお店の間の狭い道を通ったり、右に曲がったり左に曲がったり。

…明日香に乗せてもらってなかったら、追い付けなかっただろうな。

そして、誰かの家の前で立ち止まって、勢いよく戸を開いた。


「美希お姉ちゃん!」

「…あ、望ちゃん。久しぶりね」

「お久しぶりです。おばさん。美希お姉ちゃんは?」

「ふふ、早速ね。でも、ごめんなさい。一ヶ月くらい前に、また出て行っちゃったわ」

「あ…そうですか…」


望はガックリとうなだれてしまう。

…美希お姉ちゃんって、誰?


「まあ、ゆっくりしていきなさい」

「ありがとうございます…」

「あら?そっちの子は?」

「ルウェなんだぞ!」

「あらら。また可愛らしい子ねぇ」

「はい。昨日から一緒に旅を」

「そう。ルウェちゃんも大変ねぇ」

「望と明日香がいるから大丈夫なんだぞ!」

「ふふふ。そうかもね。さ、いつまでもそんなところにいないで。上がりなさい」

「はい」


優しいおばちゃん。

美希お姉ちゃんとかいう人と、何か関係があるのかな…?

望との関係は…?

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