表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390/537

390

神社を出て振り返ると、もうそこは広場になっていた。

ナナヤと澪に連れられて、そのまま宿に戻る。

部屋にはまだ誰も帰ってなくて、明日香が相変わらず隅で日向ぼっこをしていた。


「ね、ルウェ。元気出してよ」

「………」

「今はいろいろ考えることがあるんだろう。放っておいてやれ」

「無理だよ、そんなの…」

「ふん。…難儀だな」

「そんな言い方ってないでしょ」

「ナナヤに対して言ったんだ」

「そうだよ、難儀だよ。でも、澪は心配じゃないの?可哀想だって思わないの?」

「心配はともかく、同情など何の役にも立たない」

「薄情だね、澪って。信じらんない」

「ふん。何を以て薄情と言うのかは知らないが、考え方の違いで相手を批判するなど、愚かだとは思わないか」

「それは…」

「私たちが喧嘩をすることこそ、全く意味がないことだろう。同情の是非など、どうでもいいことだ。ルウェのことを本当に心配しているのなら、私に突っ掛かってくるな」

「………」


澪はナナヤを睨み付けてから、部屋を出ていってしまった。

ナナヤも、なんだか居心地悪そうにしていて。


「あっ、私…。ちょっと散歩してくるね…」

「うん。行ってらっしゃい」

「行ってきます…」


結局、自分と明日香しか残らなかった。

部屋の中は、なんだか急に静かになったような気がして。


「何かあったの?」

「うん…。ちょっとね」

「そっか」


明日香は窓の外を見て、眩しさに目を細める。

それから、のっそりと立ち上がって、こっちに歩いてきて。


「だいじょーぶだよ。何があっても。みんなと一緒に乗り越えていける」

「うん…。でも、あの場所にはもう行けないし…」

「あの場所?」

「神社があったんだ…。チビが封印されてる…」

「封印?穏やかじゃないね」

「チビは強力な妖怪で、でも、神さまで…」

「ふぅん…。その場所、どこにあったの?」

「広場のところ…」

「じゃあ、ちょっと行ってみようよ」

「でも…。もう行けないし…」

「行けないかどうかは、行かないと分からない。違う?」

「………」

「じゃあ、行こう」


明日香が服の裾を引っ張るから、行くしかなかった。

行っても無駄だと思うけど…。

だけど、行ってみないと分からないってのも、合ってるとは思う。


「でも、なんでチビなの?」

「ちっちゃいから。ナナヤが付けたんだぞ」

「ふぅん…」


明日香は、何か妙に納得したような顔をして。

何に納得したのかは分からないけど。

…とにかく、部屋を出て、さっきの広場に向かうことにする。



広場にはリュウとナディアがいて、何か話しているみたいだった。

その二人に近付いていって。

…やっぱり、もうあの神社には行けないのかな。

チビは…。


「あ、ルウェ。こっち来て、一緒にお饅頭食べようヨ」

「たくさんあるの」

「うん…」

「元気ないネ。どうしたノ?」

「チビが…」

「チビ?」

「ここに神社があって、チビが封印されてたんだ…。それで、明日香と二人で、もう一回見に行こうってことになったんだけど…」

「神社は、街の隅っこの方にあったネ」

「うん。結構立派な神社だったの。ルロゥのには負けるけど」

「全然立派な神社じゃなくて、どこにでもあるような、普通なかんじ。でも、奥行きは結構あって、裏に温泉があるんだぞ」

「あの神社にも、裏に温泉があったネ。しかも、すごく広かったシ。神さまが入るお風呂だから、特別な日以外は入湯禁止とか言われたけド」

「ちょっと入ってみたかったの」

「そうだネ」

「でも、ルウェが探してる神社ってどんなのか知らないけど、行ってみてもいいと思うの。何か分かるかもしれないし」

「うん、いいネ。もう一回頼んだら、入れてくれるかもしれないネ」

「それは無理だと思うの」

「えぇ…。まあ、行こっカ」


二人は椅子から立ち上がると、ついてくるように合図をして。

…何か手掛かりがあるかもしれない。

同じ街の神社だし。


「望とエルは、どこに行ったのかナ」

「どこかの温泉に入ってると思うの」

「美人の湯かナ」

「美人の湯に入ったからといって、美人になれるわけじゃないの」

「お肌ツルツルだヨ」

「それは、皮膚の表面が溶けてるの」

「へぇ。溶けてるんダ」

「だから、入りすぎたり、擦り過ぎてもダメなの」

「まあ、ナディアは、美人の湯に頼らなくても、充分美人だけどネ」

「………」

「冗談だヨ、ジョーダン


「でも、ナディアは確かに、結構美人だと思うの」

「そう…かナ。なんか嬉しいネ」

「ホントだよ」

「ありがト、リュウ」

「お饅頭ばっかり食べてたら、太ると思うけどね」

「うっ…。男は、少しぽっちゃりしてるくらいが好きなんだヨ、たぶん」

「それは、太ってる人の言い訳なの」

「あぁ、これが飴と鞭なのネ…」


ナディアは、顔に手を当てて空を仰ぐ。

それでも、お饅頭を食べる手は止まらないけど。

…そのうち、本当に太っちゃうんだぞ。


「…ちょっとは元気出た?」

「えっ?」

「暗い顔、少し明るくなったと思うけどネ。ナディアの尊い犠牲によっテ」

「本当のことを言っただけなの」

「やっぱり、リュウってば辛辣ネ…」

「みんな、隙が多すぎるの」

「その隙を突いてくるあたり、リュウも恐ろしい子ネ…」

「そんなことないの」

「どの口が、そんなことを言っちゃうのかナ…」


自分を励まそうとして、やってくれてるのかな。

でも、そうでなくても、二人の姿を見てると元気になれる気がした。

…でも、今のチビには、こんな友達もいないんだと考えると、そっちは哀しかった。

二つがぶつかり合って、混ざり合って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ