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「菊」
「クンショウモ」
「何それ」
「微生物だ」
「はぁ…。じゃあ、ユゥクさん。も、ですね」
「モウセンゴケ」
「…何ですか、それ」
「食虫植物だよ」
「えぇ…。まあ、け、ですね、桐華さん」
「毛糸かな。言ったっけ?」
「いえ。じゃあ、ナナヤ。と、だよ」
「灯籠流し」
「詩歌」
「シイカって何なノ?」
「ん?まあ、歌かなぁ。歌…詩?よう分からん」
「フゥン。まあいいヤ。じゃあ、亀」
「目方、なの」
「乙女は気になるね」
「ナナヤお姉ちゃんは乙女じゃないから大丈夫なの」
「えぇ…」
「次はルウェだよ」
「うん。玉ねぎ」
「ぎ…ぎ、ねぇ…。銀世界」
「一遺伝子一酵素説」
「えぇ…」
「生物用語だね。まあ、実は嘘なんだけど、入門って意味で、理解しやすいようにそういう説明をするんだね」
「意味が分からないよ…。なんで、そんな変な単語ばかりなの?」
「誰も言わないような単語を言っていけば、少なくとも、同じ言葉を言ったかどうかを考えることはないだろう」
「そのためだけに、変な単語を並べるのもどうかと思うけど…」
「作戦のうちだろう」
「それはそうだけど…」
「まあ、とにかく、つ、だね。んー、ツノケイソウ」
「また…。それも食虫植物ですか?」
「これは微生物だね」
「もう、この二人は、なんでこうなのかな…」
「あはは、いいじゃないか。知識も増えて、一石二鳥」
「要らない知識だと思いますけど…」
「そうかなぁ。まあ、う、だよ、桐華」
「う、う…。ウコン茶」
「茶柱」
「落花生」
「人生はいつでも、イチゴイチエ、だネ」
「縁」
「疾風迅雷」
「んー、板前」
「栄枯盛衰」
「伊能忠敬」
「えっ?何それ」
「桐華は、歴史の勉強をした方がいいね」
「歴史?偉い人?」
「まあ、そうだろうね」
「ふぅん…。まあ、か、だから…カミソリ」
「リス」
「雀」
「メイソー」
「迷う方?集中する方?」
「どっちでもいいじゃん。次、リュウだよ」
「馬」
「舞妓さん」
「米俵」
「ルウェ、ん、が付いてなかっタ?」
「さん、は敬称だし、舞妓でも単語として成り立つから大丈夫だよ」
「フゥン…。なるほどネ」
「じゃあ、澪。ら、からだよ」
「裸子植物。…しかし、いつまで続けるんだ?」
「もう飽きたの?」
「三十周目だぞ」
「まだ三十周目なんだ」
「お前な…」
「んー。でも、確かにぼくも飽きてきちゃった。喉も渇いたし」
「桐華はお茶を飲めばいい話だろ」
「そうだけどさぁ」
「うちは、別にどっちでもええで」
「私はやめとこうかなー。考えるのにも疲れたしさ」
「えぇ…。人数が減ったら、面白くないじゃない…」
「ナディアは、あんまり言葉を知らないから苦労したネ」
「割とスラスラ答えてたでしょ」
「そうだったかナ」
「もう…。やりたくないならやりたくないでいいけどさ…。じゃあ、みんなで話せるような、何か別の話題を出してよ」
「んー…。あ、そうだ。次の街の温泉ってさ、どんな泉質なの?」
「さあ?何だったっけ、ユゥくん」
「主に炭酸泉じゃないかな」
「ふぅん…」
「タンサンセンって何ダ?」
「炭酸が含まれてる温泉のことじゃないの?」
「タンサン?」
「二酸化炭素のことだよ」
「よく分からないナ」
「まあ、身体にいいんだよ、たぶん」
「炭酸泉は、高血圧とか動脈硬化によく効くとか言われてるね。あと、切り傷とか火傷とか。飲めば消化器系にいい効用があるらしいよ。個人差はあるし、経験則での話だから、必ずそれらに効くと証明されてるわけでもないし。でも、温泉が身体にいいってのは正しいと思うよ」
「フゥン」
「硫化水素泉なんかだと、換気が悪かったりすると硫化水素って気体が充満してたりするから、危ないんだけどね」
「リューカスイソ?ユゥクは難しい言葉を使うナ」
「まあ、立場上ね」
「ユゥくんは、もっと簡単な言葉を使うべきだよ。ぼくなんて、ちんぷんかんぷんだし」
「桐華は、もっと勉強すべきだね」
「うっ…」
「まあ、硫化水素ってのは、卵が腐ったような匂いがする気体で、吸い込んだりすると中毒を起こすんだ。最悪死んだりもするから、硫化水素泉に入るときは、充分に注意すること」
「分かっタ」
「まあ、硫化水素泉はないけどね」
「なぁんだ、よかった」
「安心して入りすぎて、逆上せないようにね、ナナヤ」
「大丈夫だよ、たぶん…」
「じゃあ、逆上せたら、僕が診てあげよっか?」
「逆上せないから大丈夫」
「あはは。まあ、本当にね」
「凛は、よく逆上せてたよね。あれは何だったんだろ。体質?」
「体質じゃないと思うの」
「えっ?リュウ、何か知ってたの?」
「知らないけど、だいたい分かるの」
「ふぅん…。そうなんだ。それで、なんであんなに逆上せてたの?」
「それは、内緒なの」
「えぇ…」
そういえば、望が原因かもしれないって、言ってた気がする。
だから、内緒なのかな。
…凛は、今、何してるんだろ。
歩く練習とかしてるのかな。
まあ、また今度、サンたちのと一緒に、お手紙を書いておこう。
「炭酸泉ってね、手を入れたりすると、二酸化炭素の泡が付いたりするんだ」
「へぇ」
「結構面白いよ。泡がどこまで大きくなれるか予想したり」
「…それはかなり地味だね」
「そうかな。僕は、いつもそうやって楽しんでるんだけど」
「たぶん、ユゥクだけだから安心しなよ」
「えぇ…。僕だけなの…?」
タンサンセン、ユゥクお兄ちゃんの説明では全然分からなかったけど。
でも、なんだか楽しそう。
早く、街に着かないかな。




