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「美味しいネ。これは何なノ?」

「炒り大豆だよ。食べたことない?」

「イリダイズ?ンー、分かんないネ」

「節分のときとかに食べたりするんだよ」

「フゥン」


ナディアは適当に相槌を打ちながら、ポリポリと豆を食べている。

気に入ってくれたみたいだけど。

…外国では豆まきとかしないのかな。


「大豆には蛋白質が多く含まれていて、肉や魚を食べられないときは、こういうので補うことも出来るんだ。まあ、本当は、蛋白質は肉から摂る方がいいんだけど」

「へぇ、そうなんですか。ユゥクさんって、やっぱり薬師さんなんですね」

「どちらかと言うと、これは栄養学の知識だけど」

「じゃあ、肉をよく食べたらいいってことですか?」

「いや。どの栄養も、適量摂るようにしないとね。肉ばっかりじゃダメだよ」

「それはそうですけど」

「あと、女の子なら、鉄分をよく摂っておいた方がいいね。月のものがあると、鉄分…つまり、身体の中の血液の量が減るから。鉄分が減ると、血液の中の赤血球というものが酸素と結び付きにくくなったりして、身体中で酸素が不足する。すると、身体がダルくなったり、蒼白くなったり…つまり、貧血になってしまうんだ。普段から多く摂る必要はないけど、その時期になったら多く摂るように心掛けておいた方がいいよ」

「へぇ…。なんか、途中でよく分からないところがあったけど…」

「あと、澪も、鉄分を多く摂った方がいいかもね。月のものもだけど、あんな傷を負って、ずっと何も食べてなかったんだったら、血液の量が不足してないわけないし。そうやって普通にしてられてること自体が、僕にとっては不思議でならないよ」

「龍の身体は、人間よりかは頑丈に出来ている。少々傷を負ったり、血を失ったりといったところで、問題はないのだろう」

「いや、少々って程度でもなかったけどね…」

「ふむ」


澪は首を傾げて、また豆を食べる。

好きなのかな。

みんなより、ずっと多く食べてるけど。


「でもさ、月のものとか、ユゥクが言うと、あんまりやらしくないよね」

「そうかな?」

「まあ、薬師だしね」

「薬師であることは、何か関係あるのかな…」

「気持ちの問題ですよ」

「ねぇ、ツキノモノって何なノ?」

「えっ。そ、それは…」

「だいたい一ヶ月に一回来る、あれだよ」

「誰か来るノ?」

「誰かじゃないなぁ…。ユゥクさん、説明お願いします」

「卵巣から排出された卵が、卵管内で受精することなく子宮に到達すると、着床に備えて成熟していた子宮内膜が不要になって、また新しい基盤を作るために剥がれ落ちる。それが子宮から出てきて…」

「やっぱりいいです」

「えっ?」

「ユゥくんの説明は、意味が分からなさすぎるよ」

「というか、医学的すぎるんだな」

「僕が説明するとなると、こうなっちゃうんだけど…」

「最後だけ簡潔に言えないのかなぁ」

「それも露骨すぎる気がするけど…」

「より詳しい仕組みを知っておいた方が、理解もしやすいだろ?」

「余計に複雑怪奇になってるよ」

「そうかなぁ…」

「そうだよ」


…確かに、ランソーとかシキューとか、何の話をしてるのか、よく分からなかったんだぞ。

でも、なんでみんな言いたがらないのかな。

前に聞いたときも、望がこんなかんじだったけど。


「どうしたノ、みんな?」

「どう説明したものか、考えあぐねているんだろう」

「フゥン?」

「私が簡潔に言ってやってもいいが、また女の子らしくないとか、露骨すぎるだとか、文句を言われそうだからな」

「言いにくいことなノ?」

「さあな。しかし、あまり好まれる話題でもないだろう」

「そうなんダ」

「みんなが説明しにくいんだったら、やっぱり僕が最初から順を追って…」

「説明したいだけなんじゃないの、ユゥくんは」

「自分の身体のことを知るのは大切なことだよ。僕は、その手伝いをしたいってだけで」

「ユゥクの場合、余計なお世話まで入ってるよ」

「えぇ…」


桐華お姉ちゃんとナナヤに怒られて。

…怒られてって言うより、注意されてるかんじかな。

ユゥクお兄ちゃんの説明を聞くことは、もうなさそう。


「誰か、ちょうどいいかんじに説明出来る人はいないの?」

「ぼくは?」

「無理だと思う」

「えぇ…。即答…?」

「だけど、私たちじゃ、恥ずかしいのが勝っちゃってダメだし…」

「そうだね…」

「リュウはどうなんだ」

「わたしも、ちょっと恥ずかしいかな」

「そうだよね…」

「エルとルウェも無理そうだし…」

「せやねぇ」

「何の話かよく分からないんだぞ」

「そういえば、ルウェはまだ全然知らないんだったね…」

「うん」

「まあ、ナディアも、説明を聞けば分かると思うよ。言葉の問題ってだけでさ」

「フゥン。そうなんダ」

「お茶を濁してばかりだな」

「だってさぁ…」


望もナナヤも、複雑な顔をしている。

言いにくいんだったら、平気そうな澪とかに頼めばいいのに。

ロコツすぎたらダメなのかな。


「あ、そうだ、カイト」

「カイト?」

「カイトに頼もう」

「あぁ、なるほど。それなりにやんわりと、ぼやかすこともなく説明してくれそうだね」

「うん、そうしよう。ということで、街に着いたらカイトを呼ぶから、カイトから聞いてね」

「他力本願だな」

「仕方ないでしょ。私たちじゃ無理なんだもん」

「はぁ…。分かった分かった…」

「澪じゃ頼りにならないからね」

「頼りにならないんじゃなくて、露骨なことを言われるのが嫌なんだろ」

「だって、本当に言いかねないもん、そういうこと」

「他にどう説明するんだ」

「だから、それをカイトに任せようって言ってるんでしょ」

「まあまあ。みんな、喧嘩しちゃダメだヨ」

「喧嘩じゃないけどね…。とにかく、澪は何も言わないでよ」

「分かった分かった…」

「もう…」


何なのかな。

カイトなら、上手く説明出来るのかな。

よく分からないけど、街に着くまでは、もう考えない方がいいのかもしれない。


「で、話題を変えたいんだけど。澪、何かない?」

「それは自分で考えろ。そこまで他力本願なのか」

「うっ…。分かったよ…。じゃあ…しりとりしよう」

「子供の発想やな」

「まったく、子供の発想だね」

「う、五月蝿いなぁ…。そんなこと言うなら、エルかナナヤが考えればいいでしょ」

「んー。多数決に於ける、少数意見の扱い方とか?」

「人間はなんで争うんか、とか」

「それは、話というか、もはや議論じゃない…」

「まあ、そうだね」

「うちも、そんな話は別にしたないし」

「はぁ…」


望はため息をついて。

結局、いい話題が出なくて、しばらく黙ったきり。

…自分は、しりとりでもいいと思うけど。

ダメなのかな。

たぶん、ナナヤとエルが言ってたのは分からないし。

何の話がいいのかな。

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