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「あーあ、ちょっと予定より遅れてるねぇ」

「そんなに遅れてないでしょ。護送車もすぐに来たし」

「でもさぁ、お昼ごはんがおにぎりだけなんて…」

「おにぎりだけだから、遅れを最小限に出来るんじゃないか。あと半刻以内には、道の駅に着いておきたいし」

「お味噌汁とか飲みたかったなぁ…」

「桐華はお茶だけでいいじゃん」

「朝から沸かした分しかないから、今飲んだら夜まで足りるかどうか…」

「どれだけ沸かしてたんだよ。飲み過ぎて途中でおしっこなんて言っても、置いていくよ」

「えぇ…。ケチだなぁ…」

「いや、ケチの使い方間違ってるから」

「ふぅん」


とか言いながら、桐華お姉ちゃんは早速お茶を飲んでるみたいだった。

それから、ユゥクお兄ちゃんのため息が聞こえてきて。


「こういうことがあるから、朝に多めに炊いてたんだね」

「まあ、旅なんて、予想通りに進まんもんやし」

「そういったことを予見しておけるのも、人間ならではのものかもしれないな。まあ、そもそも、私たちは予定などは組んだりしないものだが」

「いつまでにどこへ行くとか決めないの?」

「行き先は決めることはあっても、期日を決めることはないな。遅れたら遅れたで、それなりの対応をするだけだ。急いだりということは滅多にない」

「ふぅん…」

「そういう意味では、人間は、限られた生の時間を最大限利用しようと努めていると言えるかもしれないな」

「そうだね」

「でもさ、桐華の言う通り、私も味噌汁くらいは飲みたかったかなー。おにぎりだけじゃ、味気ないじゃん」

「味なら充分あるじゃない。具も入ってるしさ」

「野草料理よりは、ずっと美味しいんだぞ」

「なんや、明らかに不味そうな名前やね」

「野草はあまり好かんな。薬として食べることはあるが」

「………」

「美味しいんだぞ、おにぎり」


望の方を見ると、ガックリと肩を落としていて。

内緒にしといた方がよかったかな。

でも、隣で寝ている明日香は、一回欠伸をしただけだった。


「ところで、さっきユゥクが言ってた道の駅って何なの?」

「旅人のために設置された、支援所みたいなかんじかなぁ。そこで泊まったり、馬車やったら馬交換してくれたり。お土産とかも売ってることあるな」

「ふぅん。宿泊出来るってことはさ、お風呂とかあるのかな」

「野宿よりはマシってくらいの部屋があるくらいやで。まあ、天然の温泉とか湧いてたら別かもしれんけど」

「湧いてないかな」

「次の街は温泉街やけど、この辺まで湧いてるかどうかは分からんなぁ」

「行ったことないの?」

「道の駅利用するんもお金掛かるからな。普段は、もうちょい日ぃ掛けて、馬休ませながら行くから。今回は、まあ、みんな乗ってるし、特別なんかな」

「ふぅん…」

「あったらええね」

「ホントだよ…。一日でもお風呂に入れないなんて、最悪だし…」


ナナヤはため息をついて、またおにぎりを齧る。

…中の具は梅干しみたいだった。


「それにしても、この馬車、窓とかないの?上の明かり取りと、御者台との間の窓だけってどういうことなのよ」

「ナナヤお姉ちゃんは、文句が多いの」

「だって、暇じゃん。窓があったら、みんなと話しながら、外でも見て過ごせるけどさ。上を見てても、木と空しか見えないし」

「これは、偉い人用の馬車やから。周りから見えんようにしてんねん」

「普通の馬車でよかったのに…」

「普通の馬車はよう使うけど、こういう馬車はあんまり使わんし、余ってんねん。この馬車しかなかったんちゃうかな」

「えぇ…」

「ユンディナ旅団は知らんけど、うちらやったら、犯人護送車、要人警護車、幌馬車、普通の馬車、貨物用って分かれてて、犯人護送車と要人警護車は、いつでも対応出来るように余らしてんねん。普通の馬車は、まあ、普通の馬車やな。馬二頭で引いて、護衛は御者ともう一人、一台最高六人乗り。幌馬車は、普通の馬車より高級で、料金もちょっと高い。馬はだいたい四頭くらいで引いて、護衛は御者含め四人、一台最高八人乗りで幌付き。貨物用は、人も乗れるけど、乗り心地は最悪やな。まあ、他は普通の馬車と変わらん」

「で、その三つは余ってないと」

「うん。数は多いけど、利用者も多いし。しかも、予約してたら別やろうけど、乗るのにも、自分の街に来るまで待たなあかんし。まあ、その辺は、他の旅団とも連携取って、あんまり隙間の日ぃが開かんようにしてるんやけどな」

「そうなんだ。管理とか大変だろうね」

「まあなぁ。でも、やらなしゃーないし。組合の方で運賃は固定されてるし、利益にもあんまり差は出んから、競争するだけ無駄やねん。便を増やしたところで、お客さんが分散するだけやしな。逆に、諸々の維持費とかも多なるし、お客さんへの対応の質も悪なる。欲張ったら、それだけ自分に返ってくんねん」

「へぇ…」

「上手い仕組みを考えたものだな」

「生き残っていくための知恵やね」

「ふむ」

「まあ、うちは遙さんに話聞いただけやし、複雑な日程管理とかも、旅団の偉いさんがやってはるし。まあ、単なる受け売りやね」

「受け売りでも、自分の所属してる組織の説明くらい出来ないとね。そういう意味では、エルはちゃんと天照の団員なんだよ」

「…言われてるよ、桐華」

「ん?なんか言われた?」

「自分の所属してる組織の説明くらい出来ないと、旅団員とは言えないんだってさ」

「えー」

「まあ、桐華さんはいいんじゃないですか?護衛だけ、ちゃんとしてくれれば」

「ぼくの立ち位置って、そんなものなの?」

「あとは、お茶汲み係なの」

「うん、まあ、それはそうだけど」

「桐華。皮肉だよ、皮肉」

「えぇー。リュウはそんなこと言う子じゃないよ」

「結構胸に突き刺さるようなことを言う子だと思うけど」

「ユゥくんが悪いんじゃないの?」

「まあ、そういうことにしておきますか…」

「でも、リュウって結構皮肉屋だよね」

「そんなことないの」

「私も、胸にグサッと突き刺さるようなこと、何回も言われたことあるし」

「言われたことに思い当たる節があるから、胸に突き刺さるのだろう。欠点を言い当てられ、自覚出来たのなら、次は言われないように改善していけばいい話だ」

「…澪も、リュウに似てるよねー」

「そうか?」

「澪に似てるんだったら、嬉しいかな。澪、格好いいもん」

「ふむ。格好いい?」

「うん」


リュウは、澪の手を取って、ニコニコと笑う。

そしたら、澪は困ったような表情を浮かべて。

…照れてるのかな。

分かんないけど。


「まあ、リュウに皮肉を言われないように注意しようってことだね」

「だから、わたしは皮肉なんて言ってないの」

「そうだね。胸にグサッと突き刺さる、私たちの至らないところに対するご忠告だね」

「…バカにされてる気分なの」

「あはは、冗談冗談」

「冗談でそんなことを言うようなナナヤお姉ちゃんなんて大嫌いなの」

「えぇ。ごめんって、リュウ」

「ふん」


リュウがすっかり拗ねちゃったんだぞ。

澪の手を引っ張って、ナナヤとの間に座らせる。

…まあ、自分たちには関係ないんだけど、間に座らされた澪は、すごく居心地が悪いと思う。

さっきよりずっと困った顔をしていて。

望とエルと自分は、苦笑いして見てるしかなかった。

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