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「美味しいわねぇ。さすがクノだわぁ」
「ありがとうございます」
「クノさんが作ったんですか?」
「ええ。お口に合いましたでしょうか」
「はい!とっても美味しいですよ」
「ま、オレの方が百倍上手いけどな」
「そうかな…」
「なんやなんや。美味い美味いゆうて涙ポロポロ流して食うてたくせに」
「それはない」
…大袈裟に言い過ぎなんだぞ。
お兄ちゃんのお料理も美味しいのは確かだけど。
「ちょっと!なんでそんなあんたらのんびりしてるん!?ルウェの大切な万金が盗まれたんやで!?」
「盗まれたもんはしゃーないやろ。慌てて盗品が戻るんやったら、いくらでも慌てるけど」
「ぐずぐずしてる間に、裏にでも売り飛ばされたらどないすんの!?」
「それはないわぁ」
「はぁ!?」
「今のところ、これまで盗まれたものが裏に流れているという報告はない。それに、たとえそうなっても私たちが必ず取り戻す。ラズイン旅団の名にかけて。そうだろ?」
「うぅ…」
真お姉ちゃんは机を一度叩くと、席に戻る。
そして、そのまま突っ伏して。
泣いてるみたいだった。
「さあ、それじゃあ、犯人のことだけど」
「現場ではヤーリェが目撃されてるのに、捕まえてみたら何も覚えてなかったんですよね?」
「うん…。何も覚えてない…」
「…嘘ついてるんとちゃうか」
「ヤーリェは嘘なんかつかないもん!」
「そんなん分からんやろ。狼の皮被った狸かもしれん」
「真」
「…ふん」
クノお兄ちゃんが睨むと、真お姉ちゃんは一瞬睨み返してそっぽを向く。
でも、ヤーリェはジッと明日香を見ていて。
なんだか、モヤモヤなんだぞ…。
「犯人の目星は付いてるわぁ。捕まえ方も」
「えっ、本当ですか?」
「犯人はたぶん聖獣。しかも、若い聖獣や。光りもんが好きとか、そんなことで集め回っとるんやろ。手近におる自分の属性に合ったやつに取り憑いて、盗みを繰り返しとるんやと思うで」
「ふふ、さすが斡旋者ねぇ」
「まあな」
「聖獣?犯人が?」
「たぶんねぇ。今回、捕まったのはヤーリェちゃんだけだから、どの属性かは分からないけど…。でも、だいたいの犯人像が分かれば、それなりの計画も立てられるわぁ」
「どんな計画なんですか?」
「それは、警察と一緒に相談しましょうか」
そして、お姉ちゃんはこっちを見てニッコリ笑った。
…何かあるのかな?
馬車の車輪がゆっくりと止まる。
前の窓から外を見てみると、何か石で出来た建物がそこにあって。
「クーア旅団です」
「はっ!どうぞ、中へ!」
「はい」
そして、また馬車が動き出す。
さっき見えていた建物も、どんどん近くなってくる。
「あぁ…警察なんて緊張しますね…」
「望はなんか悪いことしたんか?」
「あなたはしてますけどね」
「ワゥ」
「なんのことかなぁ」
「ふふ、そんなに緊張することもないと思うけど。楽しいところよぉ」
「ホントですか?」
「楽しいところではないですね」
「そうかしらぁ?」
「ええ」
クノお兄ちゃんがそう返事をしたところで馬車はゆっくりと左に曲がり、また止まった。
「さあ、着きましたよ」
「はぁ~。ここまで乗り心地のええ馬車なんか初めてやわ」
「連絡輸送はご利用になられたことはないですか?客員輸送用車輌は、全てこれと同程度の仕様になっておりますが」
「連絡輸送なんか金掛かるやん。使おうと思たこともないわ」
「そうですか」
「早く降りましょ?話はまたあとですればいいわ」
「おぉ、すまんの」
お兄ちゃんは少し残念そうに立ち上がると、馬車を降りた。
それに続いて、みんな降りていく。
「ルウェ」
「うん」
よく狙いを付けて。
望に向かって飛び降り、ギュッと抱きつく。
「ル、ルウェ…。重い…」
「えへへ」
もう一度ギュッと抱き締めて、少し後ろへ飛び降りる。
望はちょっと困ったように笑い、頭を撫でてくれた。
「じゃあ、行きましょう」
「うん!」
「ケ、ケイサツ…。ぼくも、なんだかドキドキしてきた…」
「なんや。ヤーリェも緊張しとるんかい。大丈夫やって」
「う、うん…」
「逆に堂々としてるあなたが不思議でなりません」
「オレはなんも悪いことしてへんし」
「ふぅん…」
「ヤーリェ」
「あ…うん…」
ヤーリェの手を握ってあげると、ちょっとぎこちないけど笑ってくれて。
(むぅ…)
どうしたの?
(…なんでもない)
ふぅん。
「い、行こっか…」
「うん」
ルウェはなんだか機嫌が悪いみたい。
なんで、ヤーリェのことが嫌いなのかな。
闇だから?
…聞いてみても返事はなかった。
ソウサホンブって、なんだか楽しいところ。
「おぅ、ボウズ!ちょっとこっち来い~!」
「何~?」
「おめぇさん、可愛いなぁ。俺の孫にならんかぃ」
「じゃあ、ショチョウは自分のおじいちゃん?」
「おぅ、そうだな。おっ、そっちのちっこいのもどうだ?」
「ぼく?」
「そうそう。ほれ、こっち来な」
「うん」
「署長!遊んでる場合じゃないでしょ!」
「遊んでないよ。な、ボウズども」
「うん!」「えぇ~、どうかなぁ」
「はぁい、静かに。会議、始めるわよ~」
「うぃ~っす」
お姉ちゃんが手を叩くと、みんな黙って。
そしてシンと静まりかえった中、作戦会議は始まった。




